|剣士《The Fencer》だが、それだけじゃない   作:星の空

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おるくす大迷宮…………

メルドからステータスプレートを渡されてから丁度1ヶ月が経った。

今、召喚された全員が王宮の謁見の間におり、クラスメイト達は二手に分かれていた。

「荒鬮さんが言った1ヶ月の猶予。いかがでしたかな。今一度確認します。戦争に参戦する者は左手側へ。戦争に反対する者は右手へ移動してくだされ。」

イシュタルに促されてクラスメイト達は左右に別れた。

左手側の参戦する者は出席番号順に

天之河光輝、相川昇、岩泉翔、遠藤浩介、近藤礼一、斎藤良樹、坂上龍太郎、菅原妙子、園部優花、谷口鈴、玉井敦史、辻綾子、寺田一成、中村恵里、永山重吾、中野信治、七海征十郎、七樂上羅、仁村明人、野村健太郎、檜山大介、宮崎奈々、八重樫雫、吉野真央、良公早愛沙、林檎悠里、瑠維井治、怜爲鍍堕甕寅智、雷王荒鬮の29人が参戦し、

右手側の反対する者は出席番号順に

青田坊、飯田天哉、誘宵美九、犬塚孝士、鳳ちはや、金森羽片、加納慎一、神原駿河、粉雪氷麗、材木座義輝、紫呉涼愛千嗣、七之里呼吹、清水幸利、白井黒子、白崎香織、菅原妙子、鈴木燈、粒咲あんこ、塔城白音、南雲ハジメ、奴良リクオ、平野コータ、御坂美琴、山城由依、畑山愛子の25人が反対である。

雷王荒鬮に関しては引率として参戦側に行った。

「分かりました。明日から早速…………という訳にはいかないのですよこれが。実は最後、迷宮にて魔物を狩る訓練を全員でして貰いたい。そこでレベルを上げることと初めて魔物の命を奪うことを知って貰いたい。」

唐突に言われたことに雷王の先公が約束と違うことを指摘しようとしたが、理に叶っていることを言われて声が出せず、全員が行くこととなった。

その1日後、儂らはホルアドという宿場町にまで来ておった。

そういや言い忘れておったわ。この1ヶ月の間の出来事をな。

まず、参戦する気が召喚されたときからある天之河とそれについて行く坂上、天之河の勇姿を見たいと言って行った女子共やこの世界をゲームだと思い込んでおる馬鹿共が初日から訓練に参加して、それ以外はこの世界について詳しく知るために図書館で書物を漁ったり、既に解明されている1部の魔物の弱点等を調べたり、この世界の者に直接師事したりして情報やこの世界なりの常識を学び、そこから自己防衛だけでも出来るように訓練に参加している者もいた。

まぁ、最初から訓練をしている天之河らと明確な差があったので儂がちょくちょく手を加えることで追いつかせておった。

南雲に関してはオタク共が躍起になって対処しておった。あ、香織も一緒にの。

じゃがある時にそれは起こった。結果を言うと檜山らが懲りもせずに三度南雲を虐めたのである。しかも南雲は右の腕の皮膚が爛れるという重症を負わされた。

香織は檜山らが少しは懲りて南雲にちょっかいを出さぬと思っておったので香織は完全に檜山らを見限った。

香織と共に来ていた天之河が「訓練を怠けて───」などとほざいておったからこの世界の常識を問うたら地球の常識を出してきたので儂が纏めたこの世界の常識のレポートを天之河に叩きつけたわ。

そんなこともあって、今日になった。

話は戻るが、部屋決めがあり、

天之河と坂上、相川と清水、青田と奴良、飯田と犬塚、誘宵と鈴木、岩泉と平野、遠藤と野村、鳳と金森、加納と材木座、神原と粉雪、近藤と檜山、斎藤と中野、儂と山城、七之里と塔城、白井と御坂、白崎と八重樫、菅原と園部、谷口と中村、玉井と寺田、辻と良公、粒咲とみ宮崎、永山と仁村、七海と七樂、吉野と怜爲鍍、林檎と瑠維、メルドと雷王、愛ちゃんは1人と決まった。

あ、ほんとに今更なのじゃが…儂、性別男子なのに何故か制服はブレザーだし(改造したが)、ここの王宮ですら女子物の衣類しか渡されておらんのじゃよ。

儂は気落ちしながらも指定された部屋に入る。どうやら山城は儂よか先に入っていたようじゃ。

「おぉ!!私と同室なのは涼愛ちゃん(・・・)かぁ!!今更だけどあたしは山城由依、よろしく!!」

「あ、あぁ。儂は知っておるであろうが紫呉涼愛千嗣。このような形ではあるがれっきとした男子じゃ。ったく、何故に王宮の者らは女子物の衣類しか持って来ぬのだ。」

「なんと!!リアルガチな男の娘(・・)だとは!あ、あたしのことは由依って呼んで。それとちょっといい?」

由依は椅子から立ち上がり儂の背後に立つ。そしたら、

「えいっ!!」

両腕を広げて抱きついてきた。が、相手は儂。極地を使って回避して天井に張り付く。

そうなると抱きつこうとして飛びかかっておった由依はコケる。

「ぬわぁッ!?!?ててて。なんで躱すのさぁ?」

「儂は抱くのは出来るが…抱かれるのは……なんと申すか…とらうま?なのじゃよ。」

少女趣味な騎士王が儂を着せ替え人形にした挙句着ぐるみ型のパジャマを着せられたら飛び付いてきて、全身をまさぐられたのは忘れたいもんじゃ。

「ふぅん。ならいっそう抱き────」

 

ゴンゴンゴンッ!!!

 

「千嗣殿はいるか!!明日の策を弄じたいので連盟メンバー総長として来て頂きたい!」

義輝から急に呼ばれたので

「およ?この口調から何かあったな。スマンが由依よ、儂はしばし出ておる。気になるならついてこれば良い。女子にはあまり関係ないのでな。」

由依にそう言い残してこの部屋を出る。由依は気になったのかついてきている。

加納と材木座の部屋に連盟メンバーは集合した。連盟メンバー総員が1つの部屋に集ってはかなりきつい。

なので、最近見つけて構築したこの世界で言う空間魔法とやらを使って広くした。

『おぉ、広がった。』

「儂らをこの世界に招いた召喚陣を解析して見つけた1部の魔術じゃ。いや、この世界では空間魔法と言えば良いかの。と、そんなことより、策を弄じたいと申しておったが何かあったのかえ?」

「檜山が動いたから警戒して追跡したのだが…途中白崎さんを見つけてから角に隠れてな。」

儂が問うたら檜山の隣室の平野が何処かで拾ったであろう枝と石で現場を現し始めた。

石が4つあり、1つは部屋の中、1つは女子側の部屋の辺りに1つ、廊下の角曲がり道に1つ曲がり道の先にある階段の近くに1つ置き、部屋の中にあった羽根ペンで部屋の中に南、女子側に白、廊下の角に檜、階段近くに平と書いた。

平野は言葉を続ける。

「こんな感じで白崎さんは南雲の部屋に向かい、それを檜山が白崎さんにバレないように凝視。最後に白崎さんが南雲の部屋に入る時には殺さんばかりの殺気を発していた。俺はここからオタクの知識を活かしてこう考えた。明日の迷宮攻略にて檜山は南雲を何かしらの要因で殺すないしは孤立させるかもしれんと。これは白崎恋の成就連盟にとって由々しき事態だ。檜山が南雲にアクシデントを起こさせない策を考えた方がいいと思ったのだ。」

「確かにそうだね。」

万能オタクである加納が同意した。

「だって、こういった迷宮攻略の時大体アクシデントが発生するのが付き物だもん。」

「だが、アクシデントが何か分からないからどうしようもねぇんじゃねぇか?」

七海が適切な指摘をする。アクシデントによっては南雲と檜山以外が合うことだってあるのだから。

「アクシデントに付き物なのは天井落下や落とし穴、矢が飛んで来るトラップもあったら、毒ガスを放出されたり目的地外に転移したりする。そういったものが多い。マイナーな物は壁が迫るものやモンスタートラップという魔物の巣窟という部屋に閉じ込められて全ての魔物を倒さない限り部屋から出れないなんてことがあったりするね。1番厄介なのは今現在敵と仮定している魔人族と遭遇することかな。」

加納から言われたトラップの種類や厄介なことを言われて黙る連盟メンバー。

「ふむ、分からぬのがネックか。ちょいと待っておれ。擬似的な未来予知は出来る故に調べて観よう。」

そう言って、久々に未来観測をする。

結果は、

「こりゃあ厄介以上に呆れ果てるわな。」

「な、何見たのよ。」

「一言で告げれば、魔物がル〇ンダイブして女子共はビックリして勇者(笑)が怖がったと勘違いして聖剣ブッパからの壁崩壊で鉱石出現香織見蕩れ檜山メルドの忠告無視して鉱石触れて転移からの幻獣1匹と骸骨ワラワラじゃ。」

『何やってんだ勇者。』

連盟メンバー総員の心の声が零れた挙句に一致した。

「これでアクシデントの予想は着いた。なら、件の天之河と檜山を要警戒。場合によっては無理やり止める。そして、南雲と白崎さんが離れ離れにならないように頑張ろう!」

『あぁ!!!!!!!』

儂は皆に伝えてない事がある。それは、南雲が奈落の底に落とされることは勿論。…………儂や連盟メンバー、雷王荒鬮というイレギュラーが居ないことである。

まぁ、観測したのは正史であるので平行世界のうち1つであるこの世界は何かが正史とズレていることがある筈だ。

 

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昨日、策?を弄してからこの日、オルクス大迷宮の20層まで行く事となり、今はオルクス大迷宮の入口前にいる。

オルクス大迷宮の入口はまるで博物館の入場ゲートのようなしっかりした入口があり、受付窓口まであった。制服を着たお姉さんが笑顔で迷宮への出入りをチェックしている。

なんでも、ここですてーたすぷれーとをちぇっくし出入りを記録することで死亡者数を正確に把握するのだとか。戦争を控え、多大な死者を出さない措置だろう。 

入口付近の広場には露店なども所狭しと並び建っており、それぞれの店の店主がしのぎを削っている。まるでお祭り騒ぎだ。

浅い階層の迷宮は良い稼ぎ場所として人気があるようで人も自然と集まる。馬鹿騒ぎした者が勢いで迷宮に挑み命を散らしたり、裏路地宜しく迷宮を犯罪の拠点とする人間も多くいたようで、戦争を控えながら国内に問題を抱えたくないと冒険者ギルドと協力して王国が設立したのだとか。入場ゲート脇の窓口でも素材の売買はしてくれるので、迷宮に潜る者は重宝しているらしい。

儂は全く意に介してないが、クラスメイト達は、お上りさん丸出しでキョロキョロしながらメルドの後をカルガモのヒナのように付いていった。

早速迷宮に入ったのだが、迷宮の中は、外の賑やかさとは無縁であった。

縦横五メートル以上ある通路は明かりもないのに薄ぼんやり発光しており、松明や明かりの魔法具がなくてもある程度視認が可能。緑光石という特殊な鉱物が多数埋まっているらしく、【オルクス大迷宮】は、この巨大な緑光石の鉱脈を掘って出来ているらしい。

一行は隊列を組みながらゾロゾロと進む。しばらく何事もなく進んでいると広間に出た。ドーム状の大きな場所で天井の高さは七、八メートル位ありそうだ。

と、その時、物珍しげに辺りを見渡している一行の前に、壁の隙間という隙間から灰色の毛玉が湧き出てきた。

「よし、光輝達が前に出ろ。他は下がれ!交代で前に出てもらうからな、準備しておけ!あれはラットマンという魔物だ。すばしっこいが、たいした敵じゃない。冷静に行け!」

本当に大したことがない魔物が出てきて、一行に飛びかかってきた。

灰色の体毛に赤黒い目が不気味に光る。ラットマンという名称に相応しく外見はねずみっぽいが……二足歩行で上半身がムキムキだった。八つに割れた腹筋と膨れあがった胸筋の部分だけ毛がない。まるで見せびらかすように。

正面に立つ光輝達――特に前衛である雫の頬が引き攣っている。やはり、気持ち悪いらしい。

間合いに入ったラットマンを光輝、雫、龍太郎の三人で迎撃する。その間に、香織と特に親しい女子二人、メガネっ娘の中村恵里とロリ元気っ子の谷口鈴が詠唱を開始。魔法を発動する準備に入る。訓練通りの堅実なフォーメーションだ。

天之河は純白に輝くバスタードソードを赤ん坊の反応速度より遅い速度で振るって数体をまとめて葬っている。

※涼愛以外のクラスメイトには視認出来ない程の速さです。

彼の持つその剣はハイリヒ王国が管理するアーティファクトの一つで、お約束に漏れず名称は〝聖剣〟である。光属性の性質が付与されており、光源に入る敵を弱体化させると同時に自身の身体能力を自動で強化してくれるという“聖なる”というにはそこまで聖属性が強くない剣である。

儂はあれを聖剣と言われて噴き出したくらいじゃ。

坂上は、空手部らしく天職が〝拳士〟であることから籠手と脛当てを付けている。これもアーティファクトで衝撃波を出すことができ、また決して壊れないのだという。龍太郎はどっしりと構え、見事な拳撃と脚撃で敵を後ろに通さない。無手でありながら、その姿は盾役の重戦士のようだ。

雫は、サムライガールらしくまた、儂と同じ(準英霊と人間では差がある)〝剣士〟の天職持ちで刀とシャムシールの中間のような剣を抜刀術の要領で抜き放ち、一瞬で敵を切り裂いていく。その動きは洗練されていて、騎士団員をして感嘆させるほどである。本来の刀であればもっとキレがあったじゃろうがな。

クラスメイト達が光輝達の戦いぶりに見蕩れていると、詠唱が響き渡った。

「「「暗き炎渦巻いて、敵の尽く焼き払わん、灰となりて大地へ帰れ――〝螺炎〟」」」

三人同時に発動した螺旋状に渦巻く炎がラットマン達を吸い上げるように巻き込み燃やし尽くしていく。「キィイイッ」という断末魔の悲鳴を上げながらパラパラと降り注ぐ灰へと変わり果て絶命する。

気がつけば、広間のラットマンは全滅していた。他の生徒の出番はなしである。どうやら、儂ら達召喚組の戦力では一階層の敵は弱すぎるらしい。

「ああ~、うん、よくやったぞ! 次はお前等にもやってもらうからな、気を緩めるなよ!」

生徒の優秀さに苦笑いしながら気を抜かないよう注意するメルド。

しかし、初めての迷宮の魔物討伐にテンションが上がるのは止められない。頬が緩む生徒達に「しょうがねぇな」とメルドは肩を竦めた。

「それとな……今回は訓練だからいいが、魔石の回収も念頭に置いておけよ。明らかにオーバーキルだからな?」

メルドの言葉に香織達魔法支援組は、やりすぎを自覚して思わず頬を赤らめるのだった。

そこからは特に問題もなく交代しながら戦闘を繰り返し、順調よく階層を下げて行った。

そして、一流の冒険者か否かを分けると言われている二十階層にたどり着いた。

現在の迷宮最高到達階層は六十五階層らしいのじゃが、それは百年以上前の冒険者がなした偉業であり、今では超一流で四十階層越え、二十階層を越えれば十分に一流扱いだという。

儂からしてみればすてーたすや有用性のある武具防具でどーぴんぐじみたことをするクラスメイト達より、15層辺りにおる地道に鍛えてきた冒険者達の方が倍強いと思うのじゃがな。

もっとも、迷宮で一番恐いのはトラップである。場合によっては致死性のトラップも数多くあるのだ。

その点はトラップ対策として〝フェアスコープ〟というものがあるそうで、魔力の流れを感知してトラップを発見することができるという優れものだそうだ。迷宮のトラップはほとんどが魔法を用いたものであるらしく八割以上はフェアスコープで発見できるとの事。ただし欠点もあり、索敵範囲がかなり狭いのでスムーズに進もうと思えば使用者の経験による索敵範囲の選別が必要だ。

その点、儂が直感であることと範囲を言うことで埋めている。

まぁ、儂らが素早く階層を降りれたのは、ひとえに騎士団員達の誘導があったからだと言える。メルドからも、トラップの確認をしていない場所へは絶対に勝手に行ってはいけないと強く言われているのだ。

「よし、お前達。ここから先は一種類の魔物だけでなく複数種類の魔物が混在したり連携を組んで襲ってくる。今までが楽勝だったからと言ってくれぐれも油断するなよ!今日はこの二十階層で訓練して終了だ!気合入れろ!」

メルドのかけ声がよく響く。

因みに儂が組むチームには、儂と平野、白音、呼吹、瑠維である。

儂が剣士(セイバー)、白音が拳闘士、瑠維が冒険家という前衛組で

呼吹が暗殺者という天職で短剣二刀流で遊撃、平野は狙撃手という弓使いなのだが百発百中なので後衛は彼1人だ。今度矢が無限に出る矢筒をあげよう。

瑠維の戦い方が某土管を潜り冒険する兄弟の弟分の様な戦い方なのに噴き出した。服も緑色のあれで、しかもそれがあーてぃふぁくととのことである。

暫くして休息に入った。連盟メンバーは誰にも悟られないように連携して香織と南雲が向き合えるようにしてその他が介入出来ないようにする。

だが、そのせいで誰も、涼愛さえも気がつかなかった。檜山が憎悪の感情を込めた視線で南雲の方を向いていた事に。

休息をやめて一行は二十階層を探索する。

迷宮の各階層は数キロ四方に及び、未知の階層では全てを探索しマッピングするのに数十人規模で半月から一ヶ月はかかるというのが普通らしい。儂は儂でオルクス大迷宮の最下層までをほぼ把握していたりする。

現在、四十七階層までは確実なマッピングがなされているそうなので迷うことはない。トラップに引っかかる心配もないはず……だった。

二十階層の一番奥の部屋はまるで鍾乳洞のようにツララ状の壁が飛び出していたり、溶けたりしたような複雑な地形をしていた。この先を進むと二十一階層への階段があるらしい。

そこまで行けば今日の実戦訓練は終わりだ。儂が構築した空間魔法の枠に入る転移魔法は現代にはないらしく、また地道に帰らなければならない。一行は、若干、弛緩した空気の中、せり出す壁のせいで横列を組めないので縦列で進む。

すると、先頭を行く天之河達やメルドが立ち止まった。訝しそうなクラスメイト達を尻目に戦闘態勢に入る。どうやら魔物のと遭遇したようだ。

「擬態しているぞ!周りをよ~く注意しておけ!」

メルドの忠告が飛ぶ。

その直後、前方でせり出していた壁が突如変色しながら起き上がったのだ。

壁と同化していた体は、今は褐色となり、二本足で立ち上がる。そして胸を叩きドラミングを始めた。どうやらカメレオンのような擬態能力を持ったゴリラの魔物のようだ。

「ロックマウントだ!二本の腕に注意しろ!豪腕だぞ!」

豪腕だからなんだと言うのだ?儂はそう思うのだが腕力が強く、クラスメイト達では危ないのだろうと予測した。

メルドの声が響く。天之河達が相手をするようだ。飛びかかってきたロックマウントの豪腕を坂上が拳で弾き返し、天之河と雫が取り囲もうとするも足場が悪く思うように囲むことができない。動きからしてそう感じとれる。

ロックマウントはロックマウントで坂上の人壁を抜けられないと感じたのか、そのロックマウントは後ろに下がり仰け反りながら大きく息を吸った。

儂は極地を使い、その場と天之河らの前を点と点で繋いで移動する。瞬間移動である。直後、

「グゥガガガァァァァアアアアーーーー!!」

部屋全体を震動させるような強烈な咆哮が発せられた。

「ぐっ!?」

「うわっ!?」

「きゃあ!?」

体にビリビリと衝撃が走り、ダメージ自体はないものの硬直してしまう天之河達。ロックマウントの固有魔法“威圧の咆哮”だ。魔力を乗せた咆哮で一時的に相手を麻痺させる。

まんまと食らってしまった光輝達前衛組が一瞬硬直してしまった。

「喝ッ!!!!!!!!!!!!!!」

がしかし、儂が一喝することで魔力による咆哮による麻痺を魔力攻撃無効により解除してロックマウントを聖剣無毀なる湖光(アロンダイト)で切り刻む。因みに防具は不貞隠しの鎧(シークレット・オブ・ペディグリー)である。

ロックマウントの背後にいたロックマウントが岩を掴んで投げてきた。その岩は儂を超えて行く。それを見た儂はアイコンタクトで連盟メンバーに勇者(笑)がやらかす旨を伝える。連盟メンバーは身構えた。

咄嗟に動けない前衛組の頭上を更に越えて岩が香織達へと迫る。

香織達が、準備していた魔法で迎撃せんと魔法陣が施された杖を向けた。避けるスペースが心もとないからだ。

しかし、発動しようとした瞬間、香織達は衝撃的光景に思わず硬直してしまう。

儂が観測した未来通り、投げられた岩もロックマウントであり、空中で見事な一回転を決めると両腕をいっぱいに広げて香織達へと迫る。その姿は正しくル○ンダイブだ。「か・お・り・ちゃ~ん!」という声が聞こえてきそうである。儂は見えず、後で教えられたのじゃが、妙に目が血走り鼻息が荒かったそうだ。香織も恵里も鈴も「ヒィ!」と思わず悲鳴を上げて魔法の発動を中断してしまった。

「こらこら、戦闘中に何やってる!」

慌ててメルドがダイブ中のロックマウントを切り捨てる。

香織達は、「す、すいません!」と謝るものの相当気持ち悪かったらしく、まだ、顔が青褪めていた。

そんな様子を見てキレる若者が一人。正義感とご都合主義思考の我らが勇者(笑)天之河光輝である。

「貴様……よくも香織達を……許さない!」

どうやら気持ち悪さで青褪めているのを死の恐怖を感じたせいだと勘違いしたらしい。天之河の脳内はどうなっているのか解剖して調べてみたいわ。

彼女達を怯えさせるなんて!と、なんとも微妙な点で怒りをあらわにする天之河。それに呼応してか彼の聖剣(ただの光剣)が輝き出す。

「万翔羽ばたき、天へと至れ――〝天翔閃〟!」

「あっ、こら、馬鹿者!」

「ぬっ!?」

メルドの声を無視して、光輝は大上段に振りかぶった聖剣を一気に振り下ろした。

その瞬間、詠唱により強烈な光を纏っていた聖剣から、その光自体が斬撃となって放たれた。

逃げ場などない。曲線を描く極太の輝く斬撃が僅かな抵抗も許さずロックマウントを涼愛ごと攻撃し、更に奥の壁を破壊し尽くしてようやく止まった。

パラパラと部屋の壁から破片が落ちる。「ふぅ~」と息を吐きイケメンスマイルで香織達へ振り返った天之河。香織達を怯えさせた魔物は自分が倒した。もう大丈夫だ!と声を掛けようとして、メルドにゲンコツをされた。

「へぶぅ!?」

「この馬鹿者が!!こんな狭いところで使う技じゃないだろうが!崩落でもしたらどうすんだ!前方にはまだ千嗣がいたのだぞ!!」

メルドが破壊された壁に指を指しながら怒鳴る。

その先には破壊された壁の瓦礫の中から出てくる無傷の紫涼愛とその拍子に涼愛の後方にいた他のロックマウントらが涼愛に首チョンパされるところであった。

天之河がメルドに謝罪しながらメルドに指された所を見ると確かに涼愛がおり、自分の懇親の一撃を受けて無傷であることに驚いた。

途端、首にチリっと痛みがしたので目を向けると自分の首革1枚の所に涼愛が持っていた剣があり、目の前に涼愛がいた。

「な、何をす「ちっ、腕が鈍ったか。……何をするんだなどとほざくなよこの餓鬼!!!!!!!貴様は何用で儂に刃を向けた!?返答次第ではその首刈り取ったるわ!!!!!!!」

流石の儂も頭に来た。儂の後方に投げられたロックマウントはメルドが対処するだろうからいいとして、此方に残っていたロックマウントを警戒していたら天之河による儂の認識外からの攻撃。まさか味方から攻撃されるとは思っておらんかったので技能の魔力攻撃無効を発動する前に攻撃を受けてロックマウントごと壁に追いやられてしまった。どうやらあの聖剣(光剣)は感情によって攻撃力が変わるようだ。

魔力放出をギリギリ抑え、理性を優先させて問う。

「そ、それは香織達に死の恐怖を与えたからで………」

「ほう…………そんなんじゃから貴様は自分の都合がいいようにしか考えておらんと言うておるのだ!!!!!!!香織らはロックマウントが変態の如き表情でル〇ンダイブをされて気持ち悪がった(・・・・・・・)というのに貴様は香織らが死に怯えた(・・・・・)と自己解釈して儂が前方にいることを知っていて(・・・・・・・・・・・・・)も尚、天翔閃を放ちおって!!斬し「あれ、何かな?……キラキラしてる……」ぬぅ。」

香織は天之河も見限ったのか、儂と天之河のやり取りを無視して先程破壊された壁に目を向けているので儂や天之河、儂と天之河のやり取りをヒヤヒヤとして見ていた騎士達やクラスメイトらも目を向ける。

そこには青白く発光する鉱物が花咲くように壁から生えていた。まるでインディコライトが内包された水晶のようである。香織を含め女子達は夢見るように、その美しい姿にうっとりした表情になった。

「ほぉ~、あれはグランツ鉱石だな。大きさも中々だ。珍しい」

グランツ鉱石とは宝石の原石みたいなもので、特に何か効能があるわけではないが、その涼やかで煌びやかな輝きが貴族のご婦人ご令嬢方に大人気であり、加工して指輪・イヤリング・ペンダントなどにして贈ると大変喜ばれるらしい。求婚の際に選ばれる宝石としてもトップ三に入るとか。

「…………辞めておけい。あれは転移系のトラップじゃ。触れたら何処かに飛ばされるぞ?」

儂は天之河に侮蔑の視線を1度向けてから首から無毀なる湖光を離し、香織の元による。

天之河に向けた視線は香織の天然な所に救われたな。という意味を込めた侮蔑の視線である。

「素敵……」

トラップであってもやはり美しいく、メルドの簡単な説明を聞いた香織は頬を染めながら更にうっとりとして一言零した。

そして、誰にも気づかれない程度にチラリとハジメに視線を向けた。もっとも、雫を含めた連盟メンバーとあと一人だけは気がついていたが……

「だったら俺らで回収しようぜ!」

そう言って唐突に動き出したのは檜山だった。グランツ鉱石に向けてヒョイヒョイと崩れた壁を登っていく。それに慌てたのはメルドと連盟メンバーだ。

「こら!勝手なことをするな!転移系のトラップだと言われたばかりだろう!」

「ッ!?総員檜山を抑えろ!」

しかし、檜山は聞こえないふりをしながら妨害をする連盟メンバーを蹴落としたり避けたりしてとうとう鉱石の場所に辿り着いてしまった。

メルドは、止めようと檜山を追いかける。儂も極地で檜山の横に瞬間移動をするも一歩遅かった。

檜山がグランツ鉱石に触れた瞬間、鉱石を中心に魔法陣が広がる。グランツ鉱石の輝きに魅せられて不用意に触れた者へのトラップだ。美味しい話には裏がある。世の常である。

魔法陣は瞬く間に部屋全体に広がり、輝きを増していった。まるで、召喚されたあの日の再現だ。

「ふむ、転移魔法はこのようなものか………なんて呑気なことを行っとる場合では無い!」

「くっ、撤退だ! 早くこの部屋から出ろ!」

メルドの言葉に生徒達が急いで部屋の外に向かうが……間に合わなかった。

部屋の中に光が満ち、儂らの視界を白一色に染めると同時に一瞬の浮遊感に包まれる。

儂らが転移した場所は、巨大な石造りの橋の上だった。ざっと百メートルしかなさそうじゃな。天井も高く二十メートルと低い。橋の下は川などなく、全く何も見えない深淵の如き闇が広がっていた。まさに落ちれば奈落の底といった様子だ。

橋の横幅は十メートル程と狭く、しかし、手すりどころか縁石すらなく、足を滑らせれば掴むものもなく真っ逆さまじゃな。儂らはその巨大な橋の中間にいた。橋の両サイドにはそれぞれ、奥へと続く通路と上階への階段が見える。

それを確認したメルドが、険しい表情をしながら指示を飛ばした。

「お前達、直ぐに立ち上がって、あの階段の場所まで行け。急げ!」

彼なりに早く大きく轟かせた号令に、わたわたと動き出す生徒達。

しかし、迷宮のトラップがこの程度で済むわけもなく、撤退は叶わなかった。階段側の橋の入口に現れた魔法陣から大量の魔物が出現しからだ。更に、通路側にも魔法陣は出現し、そちらからは一体の巨大な魔物が……

その時、現れた巨大な魔物を呆然と見つめるメルドの呻く様な呟きがやけに明瞭に響いた。

 

――まさか……ベヒモス……なのか……

 

と。

 

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橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数がおびただしい。

小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けているようだ。

儂は無毀なる湖光から幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)に変更しておく。

そして、十メートル級の魔法陣からは体長十メートル級の四足で頭部に兜のような物を取り付けた魔物が出現した。もっとも近い既存の生物に例えるならトリケラトプスであろう。じゃが、瞳は赤黒い光を放ち、鋭い爪と牙を打ち鳴らしながら、頭部の兜から生えた角から炎を放っているという付加要素が付いておるが……

メルドが呟いた〝ベヒモス〟という魔物は、大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。

「グルァァァァァアアアアア!!」

「ッ!?」

その咆哮で正気に戻ったのか、メルドが矢継ぎ早に指示を飛ばす。

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も……」

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

メルドの鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と踏み止まる天之河。

どうにか撤退させようと、再度メルドが天之河に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。

そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。

「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」

二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ!

衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。

トラウムソルジャーは三十八階層に現れる魔物だ。今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている。前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は半ばパニック状態だ。

隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。

その内、一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

「あ」

そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

死ぬ――女子生徒がそう感じた次の瞬間、トラウムソルジャーが弾け散った。

「あー、あー。よし!彼奴の口調に似せたが出来たかの?む?お主はそんな所で座っとらんではよ行かんか。南雲が策を弄じておる故に時間を稼がねばならん。」

南雲を指さし、女子生徒がそちらを向くと確かに南雲は顎に指を添えて思案していた。

そして、何かの確認をするように手を地面に付けて錬成し、何体かのとらうむそるじゃーを奈落のそこに流して頷き、天之河の元に駆け出した。

「お主も早う前へいけ。生き残りたくば理性を保つのじゃな。儂は、あの木偶の坊を狩る。」

女子生徒にそう告げてから駆け出して勢いを付ける。

 

®▪®▪®▪®▪®▪®

 

ベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。

障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルドも障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。

「ええい、くそ!もうもたんぞ!光輝、早く撤退しろ!お前達も早く行け!」

「嫌です!メルドさん達を置いていくわけには行きません!絶対、皆で生き残るんです!」

「くっ、こんな時にわがままを……」

メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。

この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。

しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の天之河達には難しい注文だ。

その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、天之河は〝置いていく〟ということがどうしても納得できないらしく、また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。

まだ、若いから仕方ないとは言え、少し自分の力を過信してしまっているようである。戦闘素人の天之河達に自信を持たせようと、まずは褒めて伸ばす方針が裏目に出たようだ。

「光輝!団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」

雫は状況がわかっているようで光輝を諌めようと腕を掴む。

「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」

「龍太郎……ありがとな」

しかし、龍太郎の言葉に更にやる気を見せる光輝。それに雫は舌打ちする。

「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」

「雫ちゃん……」

苛立つ雫に心配そうな香織。対処出来るのだが、それをすると人間で居られなくなる(・・・・・・・・・・)。故に迷っていた。

その時、一人の男子が天之河の前に飛び込んできた。

「天之河くん!」

「なっ、南雲!?」

「南雲くん!?」

驚く一同に南雲は必死の形相でまくし立てる。

「早く撤退を!皆のところに!君がいないと!早く!」

「いきなりなんだ?それより、なんでこんな所にいるんだ!ここは君がいていい場所じゃない!ここは俺達に任せて南雲は……」

「そんなこと言っている場合かっ!」

南雲を言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした天之河の言葉を遮って、南雲は今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。

いつも苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージとのギャップに思わず硬直する一同。

「あれが見えないの!?節穴なの!?!?みんながパニックになってる!リーダーがいないからだ!」

天之河の胸ぐらを掴みながら地味にディスって指を差す南雲。

その方向にはトラウムソルジャーに囲まれ右往左往しているクラスメイト達がいた。

訓練のことなど頭から抜け落ちたように誰も彼もが好き勝手に戦っている。効率的に倒せていないから敵の増援により未だ突破できないでいた。スペックの高さや割と冷静な連盟メンバーが命を守っているが、それも時間の問題だろう。

「一撃で切り抜ける力が必要なんだ!皆の恐怖を吹き飛ばす力が!それが出来るのはリーダーの天之河くんだけでしょ!前ばかり見てないで後ろもちゃんと見て!」

呆然と、混乱に陥り怒号と悲鳴を上げるクラスメイトを見る天之河は、ぶんぶんと頭を振ると南雲に頷いた。

「ああ、わかった。直ぐに行く! メルド団長! すいませ――」

「下がれぇーー!」

〝すいません、先に撤退します〟――そう言おうとしてメルド団長に振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。

暴風のように荒れ狂う衝撃波が南雲達を襲う。咄嗟に、南雲が前に出て錬成により石壁を作り出すがあっさり砕かれ吹き飛ばされる。多少は威力を殺せたようだが……

舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。

そこには、倒れ伏し呻き声を上げる団長と騎士が三人。衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。天之河達も倒れていたがすぐに起き上がる。メルド達の背後にいたことと、南雲の石壁が功を奏したようだ。

「ぐっ……龍太郎、雫、時間を稼げるか?」

天之河が問う。それに苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る二人。団長たちが倒れている以上自分達がなんとかする他ない。

「やるしかねぇだろ!」

「……なんとかしてみるわ!」

二人がベヒモスに突貫する。

「香織はメルドさん達の治癒を!」

「うん!でも白崎って呼んで!」

天之河の指示で香織が走り出す。南雲は既に団長達のもとだ。戦いの余波が届かないよう石壁を作り出している。気休めだが無いよりマシだろう。

天之河は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。

「神意よ!全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ!神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ!神の慈悲よ!この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――〝神威〟!」

詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。

先の天翔閃と同系統だが威力が段違いだ。橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。

坂上と雫は、詠唱の終わりと同時に既に離脱している。ギリギリだったようで二人共ボロボロだ。この短い時間だけで相当ダメージを受けたようだ。

放たれた光属性の砲撃は、轟音と共にベヒモスに直撃した。光が辺りを満たし白く塗りつぶす。激震する橋に大きく亀裂が入っていく。

「これなら……はぁはぁ」

「はぁはぁ、流石にやったよな?」

「だといいけど……」

坂上と雫が天之河の傍に戻ってくる。光輝は莫大な魔力を使用したようで肩で息をしている。

先ほどの攻撃は文字通り、天之河の切り札だ。残存魔力のほとんどが持っていかれた。背後では、治療が終わったのか、メルドが起き上がろうとしている。

そんな中、徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われる。

その先には……無傷のベヒモスがいた。

低い唸り声を上げ、光輝を射殺さんばかりに睨んでいる。と、思ったら、直後、スッと頭を掲げた。頭の角がキィーーーという甲高い音を立てながら赤熱化していく。そして、遂に頭部の兜全体がマグマのように燃えたぎった。

「ボケッとするな!逃げろ!」

メルドの叫びに、ようやく無傷というショックから正気に戻った天之河達が身構えた瞬間、ベヒモスが突進を始める。そして、光輝達のかなり手前で跳躍し、赤熱化した頭部を下に向けて隕石のように落下した。

光輝達は、咄嗟に横っ飛びで回避するも、着弾時の衝撃波をモロに浴びて吹き飛ぶ。ゴロゴロと地面を転がりようやく止まった頃には、満身創痍の状態だった。

どうにか動けるようになったメルドが駆け寄ってくる。他の騎士団員は、まだ香織による治療の最中だ。ベヒモスはめり込んだ頭を抜き出そうと踏ん張っている。

「お前等、動けるか!」

メルドが叫ぶように尋ねるも返事は呻き声だ。先ほどの団長達と同じく衝撃波で体が麻痺しているのだろう。内臓へのダメージも相当のようだ。

メルドが香織を呼ぼうと振り返る。その視界に、駆け込んでくる南雲の姿を捉えた。

「坊主!香織を連れて、光輝を担いで下がれ!」

南雲にそう指示する団長。

天之河を、光輝だけを担いで下がれ。その指示は、すなわち、もう一人くらいしか逃げることも敵わないということなのだろう。

メルドは唇を噛み切るほど食いしばり盾を構えた。ここを死地と定め、命を賭けて食い止めるつもりだ。

そんな団長に、南雲は必死の形相でとある提案をする。それはこの場の全員が助かるかもしれない唯一の方法。ただしあまりに馬鹿げている上に成功の可能性も少なく、南雲が一番危険を請け負う方法だ。

メルドは逡巡するが、ベヒモスが既に戦闘態勢を整えている。再び頭部の兜が赤熱化を開始する。時間がない。

「……やれるんだな?」

「やります」

決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくる南雲に、メルド団長は「くっ」と笑みを浮かべる。

「まさか、お前さんに命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」

「はい!」

メルドはそう言うとベヒモスの前に出た。そして、簡易の魔法を放ち挑発する。ベヒモスは、先ほど天之河を狙ったように自分に歯向かう者を標的にする習性があるようだ。しっかりとその視線がメルドに向いている。

そして、赤熱化を果たした兜を掲げ、突撃、跳躍する。メルドは、ギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構えている。そして、小さく詠唱をした。

「吹き散らせ――〝風壁〟」

詠唱と共にバックステップで離脱する。

その直後、ベヒモスの頭部が一瞬前までメルドがいた場所に着弾……しなかった。

メルドの離脱と入れ替わるように何かがベヒモスと衝突してかなり後方まで下がらせたのだ。

何かはベヒモスがいた所に立ち、南雲はベヒモスの頭部が地面にめり込んだら錬成して動きを封じようとしてたが、あのような対処のされ方に毒気を抜かれ、メルドはベヒモスという巨体を押し飛ばすほどの余力を持ったものがいた事に驚愕していた。

が、ここがチャンスと思い

「坊主!走るぞ!!そこのお前もだ!!香織は光輝の回復だ!!」

香織に回復された騎士達が坂上や雫を抱えて走り出し、メルドが天之河を抱える。

「およ?この程度で逃げ切れるかえ?ならあと一撃放ったら下がろう。主らは先に走っておけい。」

メルドは走り出し、香織も天之河の回復のためについて走る。南雲は何か……涼愛の2メートル程前にベヒモスの脚の半分の高さの壁を作ってからメルドの後を追う。

「つまづかせるためか。」

メルド達は走る。未だ混乱している彼らの元へ。しかし、

 

─────邪悪なる竜は失墜し

 

己が感じたことがない程の莫大な魔力につい足を止めてしまう。が、先程の何かだと分かったら走り出す。

トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。

だが、ある意味それでよかったのかもしれない。もし、もっと隙間だらけだったなら、突貫した生徒が包囲され惨殺されていただろう。実際、最初の百体くらいの時に、それで窮地に陥っていた生徒は結構な数いたのだ。

それでも、未だ死人が出ていないのは、ひとえに騎士団員達や冷静な1部のクラスメイト達のおかげだろう。彼等の必死のカバーが生徒達を生かしていたといっても過言ではない。代償に、既に彼等は満身創痍だったが。

騎士団員達のサポートがなくなり、続々と増え続ける魔物にパニックを起こし、魔法を使いもせずに剣やら槍やら武器を振り回す生徒がほとんどである以上、もう数分もすれば完全に瓦解するだろう。

生徒達もそれをなんとなく悟っているのか表情には絶望が張り付いている。先ほど涼愛が助けた女子生徒の呼びかけで少ないながらも連携をとり奮戦していた者達も限界が近いようで泣きそうな表情だ。

「なぬー!?矢が切れたぁー!?!?!?」

 誰もが、もうダメかもしれない、そう思ったとき……

「――〝天翔閃〟!」

純白の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。

橋の両側にいたソルジャー達も押し出されて奈落へと落ちていく。斬撃の後は、直ぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、生徒達は確かに、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段を見た。今まで渇望し、どれだけ剣を振るっても見えなかった希望が見えたのだ。

「皆!諦めるな!道は俺が切り開く!」

そんなセリフと共に、再び〝天翔閃〟が敵を切り裂いていく。天之河が発するカリスマに生徒達が活気づく。

「お前達!今まで何をやってきた!訓練を思い出せ!さっさと連携をとらんか!馬鹿者共が!」

皆の頼れる団長が〝天翔閃〟に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。

いつも通りの頼もしい声に、沈んでいた気持ちが復活する。手足に力が漲り、頭がクリアになっていく。実は、香織の魔法の効果も加わっている。精神を鎮める魔法だ。リラックスできる程度の魔法だが、天之河達の活躍と相まって効果は抜群だ。

治癒魔法に適性のある者がこぞって負傷者を癒し、魔法適性の高い者が後衛に下がって強力な魔法の詠唱を開始する。前衛職はしっかり隊列を組み、倒すことより後衛の守りを重視し堅実な動きを心がける。

治癒が終わり復活した騎士団員達も加わり、反撃の狼煙が上がった。

 

──────世界は今、洛陽に至る

 

メルドが先程感じた莫大な魔力が更に膨れ上がり、クラスメイト達や騎士達は無論、トラウムソルジャーでさえ目が無いのに動きを止めてそちらをガン見している。

そこには一条の黄昏な閃光が伸びており、その一撃がベヒモスに振り下ろされた。

そして、ハッキリと聞き取った。

 

──────幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)

 

と。それは北欧神話に類する神話、ニーベルンゲンの歌にて出てくる邪竜を殺し邪竜の血を浴びて一部を除いて不死と化した竜殺しの英雄が担う魔剣の名である事をクラスメイト達はハッキリと認識した。

その一撃がベヒモスに届くと地が揺れ、この階層にいる全員が高く打ち上げられ、天之河やメルド達騎士達はちゃんと着地したが、クラスメイト達は天井にぶつかり尻もちを着くように落ち、南雲に至っては天井の無い場所だったのでクラスメイト達よりも更に高く打ち上げられトラウムソルジャーの壁の向こう側に飛ばされる。

「南雲くん!?!?」

香織が急いで手を伸ばすもたわず。

「お主に言われた通りに戻って来たぞメルドよ。」

何か…………涼愛は幻想大剣・天魔失墜の余波がここまで大きいなどと認識しておらず、南雲が打ち上げられていることに気づいてなく。

「御師様!南雲が!?」

香織にそう言われて気づいた涼愛が南雲の落下予想地点に極地で移動。

このままだったら無事に全員帰還出来る。………………そう思っていた。

憎悪が南雲を襲いかかった。涼愛が南雲をキャッチする直前に威力の高い火球が南雲に直撃して涼愛の後方…………奈落の底に落ちていったのだ。

「んなッ!?!?」

涼愛が振り返り手を伸ばすも、振り返った拍子に当たった小石が橋の側面に当たる。それによって橋が崩壊し始めた。誰か1人でも乗ったら崩壊する程脆くなっていたのだ。

その間、火球がクラスメイト側から南雲目掛けて放たれたのを見てから直ぐに駆け出した香織。迷いもせずに手元に刀を取り、抜刀術で未だ動きを止めているトラウムソルジャーを全滅させて縮地(・・)で奈落の元まで来て飛び降りようとしたが、涼愛に羽交い締めにされて止められる。

「離して!南雲くんの所に行かないと!約束したのに!私がぁ、私が守るって!離してぇ!」

飛び出そうとする香織を涼愛が必死に羽交い締めにする。香織は、細い体のどこにそんな力があるのかと疑問に思うほど尋常ではない力で引き剥がそうとする。

このままでは香織の体の方が壊れるかもしれない。しかし、だからといって、断じて離すわけにはいかない。今の香織を離せば、そのまま崖を飛び降りるだろう。それくらい、普段の穏やかさが見る影もないほど必死の形相だった。いや、悲痛というべきかもしれない。

「香織っ、ダメよ!香織!」

飛び出した香織に追いついた雫も涼愛に協力して香織を止める。が、雫は香織の気持ちが分かっているからこそ、かけるべき言葉が見つからない。ただ必死に名前を呼ぶことしかできない。

「香織!君まで死ぬ気か!南雲はもう無「落ち着け香織!!儂がお主に説いたことを忘れたか!!物事で感情が理性より勝るならばそれ以上の理性で感情を抑え、常に冷静に物事を対処せよと!!それに………………お主の想い人はお主に護られぬとならん程ヤワじゃなかろう!!今この時代においては頂きに届く程の覚悟と忍耐を見せたあの時を思い出せ!!お主が南雲に惚れたあの時を!!!!!!!」

奈落の手前では暴走する香織を涼愛や雫が抑えている中、上層に続く階段では、

「檜山あぁぁぁぁぁぁぁ!?何故だ!?何故南雲を奈落に落としたぁぁぁ!!!!!嫉妬か!?!?嫉妬で南雲を奈落に落としたのかあぁぁぁぁぁぁぁ!?!?貴様も白崎さんを見ていたら直ぐに分かっていたはずだろう!?白崎香織が南雲ハジメに恋簿を抱いていたことに!?まさか南雲がお前より劣っているとでも思っていたのか!?」

火球を放ったであろうもの…………檜山を檜山より後方にいた材木座義輝が胸倉を掴んで壁に押し付けていた。

材木座は打ち上げられて直ぐに落ちて後方を確認したときに見たのだ。檜山が火球を放ち、それを操作して南雲にぶつけて奈落に落としたのを。

檜山は打ち上げられて落ちたときに南雲がトラウムソルジャーより向こう側に飛ばされたのを見たのだ。そして目測で火球を当てたら南雲という自分より劣っていながら香織と一緒にいた存在を消すことが出来ると確信し、背後に人がいることに気づかずに放ったのだ。

そして、この構図に至ったのだ。

「へへへ、これで白崎は…………」

件の檜山は脳内で何かを妄想をしているために材木座の言葉を聞いていない。

連盟メンバー総員(総長と副長を除く)は明らかな侮蔑の視線を送っていた。

そして、薄々と感じていた。白崎香織は人間を辞めたのだ(・・・・・・・・)と。

彼女は南雲との恋を成就させ、幸せになるためには手段を選ばなかった。が、個人だとたかが知れる。しかし、一目惚れから始まり、今では愚直なまでに想い続ける覚悟と気持ちを知った連盟メンバーは彼女のために、彼女の恋が成就するように、彼女が染めようとしたことを代わりに染めてでも協力した。そして、その頃から近づいた頃にこの始末だ。

彼女は南雲がこのような目に会わないように様々な観点からの視線とそれに乗せられた感情を読むために涼愛に師事して五感を鍛えたりもした。なら、涼愛という人外クラスの……世界トップクラスから、家庭の幸せを守るための最後の手段として何かしらの力を授かっているはずだと。そう予測していて、今も、この世界には無いはずの刀を何も無いところ(・・・・・・・)から取り出した(・・・・・・・)時点で人間で無いのは確かだ。

だが、それでも、彼女の幸せを願うのはいっぴとたりとも変わらない。

 

®▪®▪®▪®▪®▪®

 

メルドはこの亀裂が入った彼らの関係を気にしつつ地上に向かう。

光輝と千嗣の性格によるもの、大介による南雲殺害による千嗣曰く連盟メンバーの怒り、大介、南雲、香織三者の痴情のもつれ、その他勢が南雲の死と共にようやくここが現実であると受け止めて、死というものを感じたことによる精神的なショック、あげたらキリがない程の問題が浮上したことにため息を吐く。

あの後何があったかと言うと、メルドはまず暴走する香織を気絶させ、猛る材木座を1度宥めて、妄想に浸る檜山を現実に戻し、上層を登ってホルアドの宿に戻ったのだ。

宿に戻ったら檜山を部屋に入れて、監視にアランを付けておいた。近藤はアランのいた部屋に移動だ。

…………このお陰であるボクっ娘の陰謀が果たせず、運のいい方へ流れた。何がとは言わない。

後日王宮に帰還した。




なんかグダグダになりましたが気にしないでください。
次回は王宮に帰還してからです。

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