|剣士《The Fencer》だが、それだけじゃない   作:星の空

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大英雄………………

先手は、天之河だった。

「万翔羽ばたき天へと至れ“天翔閃”!」

曲線状の光の斬撃がベヒモスに轟音を響かせながら直撃した。前は“天翔閃”の上位技“神威”を以てしてもカスリ傷さえ付けることができなかったのじゃが、何時までもあの頃のままではないという天之河の宣言は、結果を以て証明された。

「グゥルガァアア!?」

悲鳴を上げ地面を削りながら後退するベヒモスの胸にはくっきりと斜めの剣線が走り、赤黒い血を滴らせていたのだ。

「いける!俺達は確実に強くなってる!永山達は左側から、檜山達は背後を、涼愛達は右側から!メルド団長達は僕達の援護をお願いします!後衛は魔法準備!上級を頼む!」

天之河が矢継ぎ早に指示を出す。メルド直々の指揮官訓練の賜物だ。

「ほぅ、迷いなくいい指示をする。聞いたな?総員、光輝の指揮で行くぞ!」

メルドが叫び騎士団員達はベヒモスの攻撃に出た天之河らの元にそれぞれ走り出した。

が、

ベヒモスと儂らの間に大きな何かが落ちてきた。

それを一言で表すなら、鉛色の巨人(・・・・・)であった。

「なんだ!?!?」

「あれは……………………サイクロプス………………なのか?……だが、サイクロプスは単眼のはず……奴はなんなのだ。」

いきなり現れた存在に天之河らは無論、騎士達でさえ、足を止めてしまった。

鉛色の巨人は落下した状態から立ち上がり、傍にあった岩を削ったような荒い巨剣を手に取る。

そして、10メートルはあった距離を一瞬で詰めた。その時には剣を振りかぶっていた。

最初に狙われたのは……………………香織である。

「ッ………………香織!?!?」

彼らの中でいち早く反応したのは雫であるが圧倒的に間に合わない。

遅れて天之河やメルドも反応する。

 

────切られる

 

誰もがそう思った。しかし、ここには準英霊である存在が1人いることを忘れてはならない。

鉛色の巨人が振り下ろした巨剣を紅く輝く宝石の様な剣が塞き止めた挙句、弾いた(・・・)

「可可可可可ッ!!!!!!!まさかこのような地でお主と合間見えようとは…………何故に貴様がこの世界におる!?!?!?!?」

準英霊…………紫呉涼愛千嗣が破滅の黎明(グラム)で弾いたのだ。

『驚くんかい!?』

涼愛が知っている様なことを叫んで、この世界の何処かで会ったのかと思えば違うらしく、涼愛の驚愕した表情を見て、天之河らは挙って突っ込む。

鉛色の巨人が再び攻撃にでるが、涼愛がもう片方の手に持つ近未来的な虹色の剣の刃を鞭の様にしならせて鉛色の巨人にぶつけて後方に押し飛ばした。

「曰く、ヘラクレス(・・・・・)は12の難業を乗り越えその末に神の座へ迎え入れられたと言われる。」

「え、ヘラクレスって…………」

「のう、香織よ、ようく見ておけ。汝に託した力は扱いによってはこの領域に至る。あぁ、天之河よ、ベヒモスが今か今かと待っておるので相手をしてやったらどうじゃ?無論その他もじゃ。」

指した方向にはベヒモスがうずうずと待ち構えていた。しかし、ヘラクレスの方を強く警戒しているのが分かる。

涼愛はそう言い残してヘラクレスと同等の速さでヘラクレスの目前に移動し、背中を蹴りつけて天之河らの後ろ嘗てとらうむそるじゃーが跋扈していた場所に飛ばす。そして、そちらに向かうために天之河らとすれ違う。

「千嗣!!!あの巨人を知っているのか!?!?」

見たことが無い存在にメルドは……経験則から分かる。あれはベヒモスの比ではないと。ベヒモスより厄介な存在を容易く相手取る涼愛に尋ねた。

「知っておるが、それはまたいずれ。今は目の前の敵に集中せい。」

涼愛にそう言われた天之河らは渋々と戦闘を開始する。

 

®▪®▪®▪®▪®▪®

 

戦闘を開始してから10分20分或いはそれ以上が経っていた。

「後衛は後退しろ!」

天之河の指示に後衛組が一気に下がり、前衛組が再び取り囲んだ。ヒット&アウェイでベヒモスを翻弄し続け、遂に待ちに待った後衛の詠唱が完了する。

「下がって!」

後衛代表の中村から合図がでる。天之河達は、渾身の一撃をベヒモスに放ちつつ、その反動も利用して一気に距離をとった。

その直後、炎系上級攻撃魔法のトリガーが引かれた。

「「「「「“炎天”」」」」」

術者五人による上級魔法。超高温の炎が球体となり、さながら太陽のように周囲一帯を焼き尽くす。ベヒモスの直上に創られた“炎天”は一瞬で直径八メートルに膨らみ、直後、ベヒモスへと落下した。

絶大な熱量がベヒモスを襲う。あまりの威力の大きさに味方までダメージを負いそうになり、慌てて結界を張っていく。“炎天”は、ベヒモスに逃げる暇すら与えずに、その堅固な外殻を融解していった。

「グゥルァガァアアアア!!!!」

ベヒモスの断末魔が広間に響き渡る。いつか聞いたあの絶叫だ。鼓膜が破れそうなほどのその叫びは少しずつ細くなり、やがて、その叫びすら燃やし尽くされたかのように消えていった。

そして、後には黒ずんだ広間の壁と、ベヒモスの物と思しき僅かな残骸だけが残った。

「か、勝ったのか?」

「勝ったんだろ……」

「勝っちまったよ……」

「マジか?」

「マジで?」

皆が皆、呆然とベヒモスがいた場所を眺め、ポツリポツリと勝利を確認するように呟く。同じく、呆然としていた天之河が、我を取り戻したのかスっと背筋を伸ばし聖剣を頭上へ真っ直ぐに掲げた。

「そうだ! 俺達の勝ちだ!」

キラリと輝く聖剣を掲げながら勝鬨を上げる天之河。その声に漸く勝利を実感したのか、一斉に歓声が沸きあがった。男子連中は肩を叩き合い、女子達はお互いに抱き合って喜びを表にしている。メルド達も感慨深そうだ。

そんな中、未だにボーとベヒモスのいた場所を眺めている香織に雫が声を掛けた。

「香織?どうしたの?」

「えっ、ああ、雫ちゃん。……ううん、何でもないの。ただ、ここまで来たんだなってちょっと思っただけ」

苦笑いしながら雫に答える香織。かつての悪夢を倒すことができるくらい強くなったことに対し感慨に浸っていたらしい。

「そうね。私達は確実に強くなってるわ」

「うん……雫ちゃん、もっと先へ行けば南雲くんも……」

「それを確かめに行くんでしょ?そのために頑張っているんじゃない」

「えへへ、そうだね」

先へ進める。それは南雲の安否を確かめる具体的な可能性があることを示している。答えが出てしまう恐怖に、つい弱気がでたのだろう。それを察して、雫がグッと力を込めて香織の手を握った。

その力強さに香織も弱気を払ったのか、笑みを見せる。

そんな二人の所へ天之河達も集まってきた。

「二人共、無事か? 香織、最高の治癒魔法だったよ。香織がいれば何も怖くないな!」

爽やかな笑みを浮かべながら香織と雫を労う天之河。

「ええ、大丈夫よ。光輝は……まぁ、大丈夫よね」

「うん、平気だよ、天之河くん。皆の役に立ててよかったよ」

同じく微笑をもって返す二人。しかし、次ぐ天之河の言葉に心に影が差した。

「これで、南雲も浮かばれるな。自分を突き落とした魔物を自分が守ったクラスメイトが討伐したんだから」

「「……」」

天之河は感慨にふけった表情で雫と香織の表情には気がついていない。どうやら、天之河の中で南雲を奈落に落としたのはベヒモスのみ(・・)という事にしているらしい。それは全く違う。すぐそこにいる檜山が南雲に火球を当てて奈落に落としたのだ。

だが、天之河はその事実を忘れてしまったのか意識していないのかベヒモスさえ倒せば南雲は浮かばれると思っているようだ。基本、人の善意を無条件で信じる天之河にとって、過失というものは何時までも責めるものではないのだろう。

なかった事にしている天之河の言葉にショックを受ける香織。

雫が溜息を吐く。思わず文句を言いたくなったが、天之河に悪気がないのは何時ものことだ。むしろ精一杯、南雲の事も香織のことも思っての発言である。ある意味、だからこそタチが悪いのだが。それに、周りには喜びに沸くクラスメイトがいる。このタイミングで、あの時の話をするほど雫は空気が読めない女ではなかった。

若干、微妙な空気が漂う中、クラス一の元気っ子が飛び込んできた。

「カッオリ~ン!」

そんな奇怪な呼び声とともに谷口が香織にヒシッと抱きつく。

「ふわっ!?」

「えへへ、カオリン超愛してるよ~!カオリンが援護してくれなかったらペッシャンコになってるところだよ~」

「も、もう、鈴ちゃんったら。って何処触ってるの!」

「げへへ、ここがええのんか?ここがええんやっへぶぅ!?」

谷口の言葉に照れていると、谷口が調子に乗り変態オヤジの如く香織の体をまさぐる。それに雫が手刀で対応。些か激しいツッコミが谷口の脳天に炸裂した。

「いい加減にしなさい。誰が鈴のものなのよ……香織は私のよ?」

「雫ちゃん!?」

「ふっ、そうはさせないよ~、カオリンとピーでピーなことするのは鈴なんだよ!」

「鈴ちゃん!?一体何する気なの!?」

雫と谷口の香織を挟んでのジャレ合いに、香織が忙しそうにツッコミを入れる。いつしか微妙な空気は払拭されていた。

「あっ、涼愛ちゃんはどうなったの?」

『あっ』

が、谷口がふと呟いたことにベヒモスを討伐して感慨していた皆が思い出した。

「そうだった!急いで助けに行かなければ!!」

天之河がそう捲し立てて走っていく。

「あ、こら光輝!」

それにメルドが慌てて止めようと追いかけ、皆もそれに続く。

涼愛とヘラクレス?が戦っているであろう所に皆が来た。が、両者はいなかった。

「うへぇ、なんじゃこりゃぁ…………」

が、谷口が零した言葉に皆が同意した。なんせ、土地の面影が一切無いのだ。地面はボコボコでクレーターばかり、壁は幾つも崩壊しているのだ。

ベヒモス戦に集中していたお陰で(・・・)見てなかった。

「……それより……何処に行った?」

メルドの言葉に「はっ」となって周りを見渡すも両者の影1つない。

そう思っていた。そしたら、上から塵が落ちてきて振動が響く。

「な、なんだ?」

「こ、このパターンはもしかして!?」

ベヒモスの気を逸らすことしか出来なかった平野が驚愕した面持ちで天井を見る。それにつられて皆も見るが何も無い。

「なんだよ………何もねぇじゃねぇか。」

檜山が愚痴った。

途端、今までベヒモスと戦っていた橋上の天井が崩れ、そこからかなり傷ついた涼愛とヘラクレス?が現れた。

「えぇー……天井ぶち抜かれたんすけど…………」

騎士の1人であるアランが呆然としていた。

天之河が助けに行かなければ!!と駆け出そうとしたが、香織が手を出して止めた。

「香織!?のけてくれ!!このままだと彼が!!!」

「天之河くん、彼は私に見てろって言ったの…………この意味分かる?回復は要らないってこと。要するに援護は必要無いって言ってるんだよ。それに…………あの戦いの中に交じれるの?」

香織が指した方向には、涼愛とヘラクレス?両者の剣戟が残像を残し、それ以外は全て火花しか見えないのだ。

そこに進展があった。ヘラクレス?が岩の巨剣を下から上に袈裟懸けをして涼愛を天之河らの元まで弾いたのだ。それも、致命傷と言えるほどの大きな傷と致死量を上回る血を流してだ。

「いやぁぁぁぁぁ!?!?!?」

辻の悲鳴が上がる。

「んな!?彼奴!!!」

天之河が憤り、突貫するが白音に妨害された。

「何故止めるんだ!!!彼が死んでしまう!!!君は助けないのか!?」

「確かに止めたいです。ですが、まだ終わってません。私の本能がそう言っています。」

白音の動物?的な感性だと、涼愛はまだ何かを隠している気がしたのだ。

「何を言ってッ!?!?」

白音の感は当たっていた。なんと、涼愛の傷が塞がり始めたのだ。

そのまま全てが塞がると何事もなかったかのように立ち上がる。

「ふぅ、流石は彼の大英雄。理性が無くとも太刀筋は一切乱れんか。聞いておらんかったが、主は何用でこの世界に参った?」

ヘラクレスは問いの意味が分かったのか、巨剣で地面を掘りギリシア語でこう書いた。

[我が世界の愛し子、奪われた。阿頼耶とガイアに愛し子奪還と奪った奴に制裁する。派遣された。来たらそこの娘、人間違う。気になり攻撃した。貴殿と相対、分かった。貴殿と同じ擬似英霊。すまん。]

と書いてある。

これは言語理解の技能を持つ天之河らにも読めて、「阿頼耶?ガイア?」と困惑している。

とりあえず事情が分かった。彼がこちら側なのは僥倖だ。だが、そうなると、ややこしいことをメルドに言わぬとならんし、上に報告されては対策されてしまう。

とりあえずヘラクレスとはサーヴァント契約を結んで基本は霊体化して貰う。

そして、ここにいる皆には他言無用だときつく言っておいた。

 


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