今回は更新が大幅に遅れてしまい、誠に申し訳ありませんでした。
諸事情等があったわけではなくただただ書けなかったと言うだけです。本当にすいません。
急いで書いたので誤字脱字等あるかと思われます。
アンケートにご協力ありがとうございました、十章以降に時々挟んでいきたいと思っています。
アンケート結果。一番-アイリ
二番-クルルシファー
三番-三和音&シーナとなりました。
ちなみにですが、シーナはシオンの女装()です。
それでは本編をどうぞ。
「助けて!! お兄ちゃん!!」
誰かの声が聞こえる。俺は夢を見ているのだろう。
薄紫髪の少女が叫んでいる、その後ろにはズボンをおろした銀髪に灰色の目をした男が二人いた。
そしてその男達は少女を見て嗜虐的に笑みを浮かべて覆い被さり、少女の濁った悲鳴をあげる、がすぐにその声は消える。
俺は銀髪の男をどかそうと手をのばすが俺は今いる場所から動けない。そして男は立ち上がると剣を振り上げ少女に向かって振り下ろす。
少女は既に事切れていたのか、それとも即死だったのか、ピクリとも動かず血だけが溢れ出す。
俺はその少女を殺した男を見る、その顔は俺のよく見慣れた幼い頃からの友人と瓜二つだった。
*
「ルクス! 介護用の機竜を作ったぞ! これでお風呂だったりも入れるようになるぞ! 多分...」
「ルクス君で作った機竜を使わなくてもいいんじゃないかしら?」
先日の
「お前らも暇だな、いやルクスに会いに来たのか。俺は邪魔かな?」
俺は医務室にほとんどいて、ルクスの世話役になっている。
ちなみに俺の今の見た目は良くできそうなメイドだ。ウィッグもいつもの薄紫ではなく黒髪で、極東の島国の女性が着ると言う『浴衣』を着ている。
まあ、見た目は極東の少女にしか見えないが口調は基本的にこっちだ。
「そんな姿なんだから口調をどうにかしたらどうだ?」
「くまを浮かべたリーシャには言われたくないな」
「なっ!? シオンっ!?」
俺が言った言葉にリーシャは恨めがましそうに睨み付けて来るが受け流し、椅子に優雅に座る。
「まあ、ルクスで遊ぶのは勝手にしな、俺は世話意外はしない」
「それって見捨てるのと同じだよっ!?」
ルクスのツッコミはいつでも冴え渡っている。
「あー、はいはい。と言うわけで悪いが静かにしてくれ」
「ええ、それに私達はもう時間だし」
「お、そうだな。それじゃあルクス、早く良くなれよ」
二人はそう言うと医務室を出ていった。そしてその入れ替わりで入って来たのは、
「おはよールクっち、もう体は大丈夫かな?」
「おはようルクス君。もう大丈夫そうだね」
「yes.リーシャ様達とイチャイチャできるぐらいには元気になったのでしょう」
「なんかノクトちゃんの言い方に棘が!?」
「まあ、本当のことだから仕方ないだろ」
「シオンまでっ!?」
「はいはい、騒がない。ここ医務室だぞ?」
俺がそう言うと皆が静かになる。
「さてと、それで三人は何か言いたいことは無いのか?」
「あ、それならルクっちにあるよ三つ! いい知らせが二つと普通の知らせがあるんだ、どっちから聞きたい?」
ティルファーがそう悪戯っぽく言う。
「え、ええとじゃあいい情報から」
「それなら、はい」
ドンッ! と音を立ててどこに持っていたのか紙が飛び出した箱が机の上に置かれる。
「え?」
「いやー、これでもシオっちが頑張って減らした上で三分の一まで厳選したんだけどねー」
「え? いや、でもこれは多すぎない?あふれでてるんだけど」
ルクスは困惑しているようだが、俺も手伝ったから本当なんだよなー。
まあ、これだけルクスが必要とされてるって言う裏返しなんだけど、この鈍感皇子が気付くかなー。
「えっと、それで二つ目のいい知らせは私の胸囲が増えたことかな」
「応、それで最後の知らせは」
「ちょっとこれ言うの恥ずかしいんだよっ!?」
「なら言わなければ良いじゃないか。好きでもない人に対してそんなことは言わない方がいいぞ?」
俺がそう言うとティルファーはむむむ、と頬を膨らませ、俺を睨んで来るがかわいくて怖くない。
「むむ、私だって......」
「ん?」
「何もないっ!」
「何か怒らせたか?」
「怒ってないっ!」
むう、何故だか怒らせてしまったらしい。
「で、最後の知らせは王国のトーナメントで起きたんだけど」
ティルファーはぶすっとしたまま言葉を続ける。
「十位から一位が全員倒されたんだって、それも同じ少女に連戦で」
「え? でもトーナメントの十位から一位って
「うん、でも負けたらしいよ。極東の伝統的な露出度の高い衣装を着た少女だったんだって」
ティルファーの言う特徴が彼女に似ているが果たしてどうか、
「さてと、そろそろ他の生徒達も会いたいだろうから私達はおいとまするとするよ」
「yes.それではルクスさん速く良くなることを願っています」
「じゃ、またねルクっちにシオっち」
そう言ってティルファー達は医務室から出ていった。そして次の生徒達がすぐに来るわけではなく少しの間三人だけの時間が増えた。
「十二分です」
そして数分もしないうちにアイリちゃんがポツリと言った。
「兄さんが全竜戦で〈バハムート〉を使える時間です」
「そんなに少ないの?」
ルクスの不用意な発言に反応したアイリちゃんは読んでいた本をバタンッ、と大きな音を立てて閉じ、
「あのですね、本来なら全竜戦を全て棄権するクラスの疲労だったんですよ!? これは最大限の譲歩なんですからね!」
「ご、ごめんアイリ。でも......」
「ルクス、俺もいるんだ。そこまで一人で背負おうとするなよ」
俺が言った言葉にハッとしたように俺を見る。俺はそれに笑って返す。端から見ればかわいらしい少女と咎人の恋話のようにも見えるが、
「ちなみに、兄さんといまだに同じ適性数値であればシオン兄さんが〈ジャバウォッグ〉を使える時間はもっと短いですよ?」
「そうなのか? まあ、でも〈ドレイク〉を使えば大丈夫だろう?」
「はい、それでしたらまだ使える時間は伸びます」
「だそうだ、ルクス、と言うわけで頼ってくれよ?」
「う、うん」
ルクスはゆっくりとうなずき、何かを言おうとしたとき、
「ルクス君ー! 大丈夫ー?」
医務室の扉が開き、同じクラスの少女がやって来た。それを見たアイリちゃんは本を持って立ち上がると医務室の扉に手をかける。
「兄さん、お昼の食事の時に中庭に来てください。お話ししたいことがあります、シオン兄さんも来てください」
そう言って医務室から出ていく。俺は椅子に座って優雅にお茶を飲み、同じクラスの少女達と話しているルクスを見てクスリと笑う。
久しぶりの和やかな時間に俺の頬は自然と緩み、和やかな雰囲気が医務室の中に充満した。
*
「ふう、もうお昼か」
「ですね、それでは中庭に行きましょうか」
「うん、そうだね......って、キャラ変わり過ぎじゃない!?」
「嫌でしたら元に戻しますけど?」
ルクスのツッコミに俺は意地の悪い笑みを浮かべて返す。それにルクスはなんとも言えない表情を浮かべ、そのまま歩き出す。
俺はその後ろを従者のようにして柔らかい笑みを浮かべながらついては行く。
「ルクスさんここにいましたか。中庭でアイリが待っています行きましょう」
「あ、ノクト。うんわかった」
「了解ですわ」
「......シオンさん、いいえシーナさんでしたね。シーナさんも同伴をよろしくお願いします」
ノクトちゃんが中庭では待っていて、俺達を連れてアイリちゃんがいる場所まで案内してくれる。
その道中、辺りを見ていたときふと目に入った異国風の衣装。俺は再度見る。
白磁のような肌、黒く艶のある長い髪をたなびかせ、妖艶に微笑みながらこちらを見る青と紫の瞳を持つ異国の少女。
それに気付いたルクスもその少女を見る。その少女はルクスに向かって微笑む。そしてその少女はルクスに近付く。
「兄さん! 気を付けてくださいっ!! その少女は兄さんを狙う帝国の刺客です!!」
アイリちゃんがそう叫び、ルクスが硬直する。そしてその少女がルクスの前まで来ると膝をつき、
「ようやく会えましたわ主様、私は切姫夜架と言います」
恍惚の表情を浮かべて恭しく頭を下げる。その姿を見てルクスが固まっているが、そのままその少女、夜架は言葉を続ける。
「私は主様の道具、この身の血も骨も一滴残らず使い潰して頂いて構いません、何でしたら欲望の捌け口にでも」
「いやいやいやいやっ!!?? なんで最後にそうなるの!?」
夜架の最後の言葉にツッコむ。まあ、ルクスはへたれだからそんなこと出来ないだろうし、
「少し落ち着いてくださいルクスさん。ルクスさんにそう言うことが出来るなら私達は全員その毒牙にかかってますよ」
「え? シーナまでっ!?」
ルクスが俺の言動にもツッコミを入れる。それを見ていたアイリちゃんがハッ、と我に帰ったようで俺達の元まで走って来ると、
「いえ、それよりもっ! 貴女は帝国の暗殺者なのでは?」
そうアイリちゃんが問いかけた、するとそれに対して夜架はクスクスと妖艶に笑い、俺にチラリと視線をよこすと、
「
「私は?」
アイリちゃんがさらに問いかけようとするが、
「何者だ! そこの異国の少女!」
ガチャガチャと音を立てながら衛兵達が走って来る。
それを見た夜架は腰に差していた刀型の機攻殻剣に手を伸ばす。
「ふふふ、主様、それでは最初の命令を頂けますか? 邪魔者を排除しろ、と」
そう言って笑う夜架に不安な何かを覚えたのかルクスは、
「待って、誰も傷付けずに衛兵を撒いてくれる? 話は後でしよう」
「ふふふ、お優しいですね。わかりましたわ」
ルクスの言葉に笑って答えた夜架は、それではまた、とだけ言って異国風の衣装をヒラヒラとさせながら人混みに紛れ衛兵を撒いていった。
「よく捕まりませんね、あんなにヒラヒラした服なのに」
「うん、でも彼女が帝国の暗殺者なの?」
「はい、彼女、切姫夜架は『帝国の凶刃』と呼ばれた帝国最強の機竜使いと言われる少女です」
アイリちゃんがそう言うとルクスは驚いた表情で、
「さっきの彼女が、『帝国の凶刃』」
そう呟く、俺は腰に差した機攻殻剣に軽く手を乗せながらそれに肯定の意味でうなずく。
「さて、一先ずはリーシャ達にこの事を伝えるべきだろうし、食堂に行こうか」
「そう、ですね。昼食を取るのと一緒にリーシャ様達にこの事を伝えましょう」
アイリちゃんも同意し、それに納得したルクス達と四人で食堂に行き昼食を食べながらどうするかを話し合った。
*
そして午後、今後の全竜戦の為などの理由から自習となったのだが、
「あら、主様。珍しいお仕事をされていられますね」
「これは数学の勉強で、機竜の重力からどう動くかを計算できるものなんだよ。ってなんで夜架さんがいるのっ!?」
「あの衛兵はクビにした方がよろしいかと、これから主様のものとなるここには不要な人材ですわ」
「いきなり出てきてルクス達を困らせない」
「っ!? ......酷いですわね、シオンお兄様?」
俺は夜架の後ろから頭にチョップを落とす、チョップをもらった夜架は少し反応するが少し火照ったような顔で俺を見る。
「あのな、せめて自習ぐらいさせてやれ、他の全員も気になって集中できてない。姫様とか特に酷いぞ?少しは考えてやってくれ」
「私のことかっ!?」
俺はリーシャの叫びを完璧に受け流し、クラス内の状態を確認する。
夜架は午後の授業が始まった瞬間に押し寄せて来て、何処からか持ってきた椅子と机をおき、ルクスの護衛。という名目でルクスにピッタリと密着している。そのせいでルクスは勉強に集中できず、リーシャはすぐに寝るのが当たり前の自習の時間なのにずっと起きて夜架を睨み付けている。クルルシファーは普通そうにしているが課題であるはずの紙がぐしゃぐしゃになってまるまっている。
フィーアはマイペースにぼーっとしているが、フィーアが本気でどうにかしようとしてきたら止められるかどうかはギリギリだろう。
そんなわけで空気は痛々しく、それを全く理解していない夜架の行動に上手くあわせて俺もアクションを起こさないと行けない、それがなかなかにきつい。
そんなわけで上手く空気を悪くしないように苦労していると授業の終わりを知らせる鐘がなった。
「主様、これからどこに行かれるのですか?」
「ああ、それだったら俺と一緒に雑用だな、ほらいくぞルクス」
「え? あ、うん」
そうやって俺は強引に連れて行ったのだが、いつの間にか夜架はついてきていて、図書室の本の整理をしていたときはいきなり本を燃やそうとし始めるし、
庭の手入れをしようとしたら機攻殻剣でところ構わず草を斬ろうとしたりとして抑えるだけでも難しく、結果として二人いるのに普通の倍の時間はかかった。
そして夜架と別れた俺達は他の寮内での雑用をこなし、時間もちょうどよくなったので久しぶりの風呂に入っていた。
「ふぅ、湯に浸かれるっていいな」
「うん、そうだね」
ルクスと湯船に浸かり、夜空を眺めながら体をほぐす。
「さて、それでなんだ? ルクスの体を洗いたいのか? 夜架」
俺が不意に近くの藪に声をかけると、藪が、がさがさと音を立てて揺れタオルを巻いた夜架が出てきた。準備よすぎだろ、どれだけルクスと一緒に居たいんだよ。
「じゃあ俺は上がるよ......ぉっ!?」
「待ってくださいシオンお兄様? 私はシオンお兄様も労いたいのです」
むにゅっ、と見た目以上にあるそれが俺の腕を包み込み、俺は平然を装うが心臓がバクバクとうるさいほど音をたてている。
「あー、えっと、じゃあシオンも一緒にね?」
ルクスは諦めたような笑いを浮かべ、俺はそれにつられて乾いた笑みを浮かべる。唯一夜架だけが嬉しそうに笑みを浮かべていた。
そして夜の風呂場で一悶着があったのは俺達三人しかしらない。
*
街が寝静まり、虫が静かに鳴き夜空の星がきらめく中、ルクスが歩いて行くのを後ろからつけていく。
「ねぇ、夜架、居るんでしょ?」
ルクスがそう言うと何処からか夜架が現れる。
夜架は嬉しそうに笑いながらルクスと話を始める、内容はルクスの質問から始まり、今は夜架の望み、帝国の復興をして欲しいといったものだ。しかしルクスはその願いを叶えられないと答える。
「そう、ですか......風が出てきましたわね」
残念そうにうつむき、少し空を見ると夜架がそう呟く。それにつられてルクスも空を見ようと上を向こうとした時、夜架の腰にさしてある機攻殻剣の光が見え、
俺の機攻殻剣と交差し、大きな音を立てて弾かれる。
「馬鹿かルクス、誰も居なかったら死んでたぞ?」
油断なく夜架を見ながらルクスに言う。
俺は夜架を見ながら、もうひとつの機攻殻剣に手をかける。
「こい、〈ドレイク〉」
装甲腕に希少武装である〈激竜槍牙〉を持ち、夜架に突きつける。
「俺はルクスの従者として居るんでな、ルクスに仇なすのであれば容赦しない」
「ふふふ、シオンお兄様が、ですか」
含みのある言い方にルクスが眉を潜めるが次の瞬間俺の槍と夜架の呼び出し即座に接続、操作した神装機竜の刀型のブレードが交わる。俺は即座に槍を振り抜き、夜架との距離を開かせる。
しかし夜架がそれを許す訳もなく再度突っ込んで来るが、俺は少し後ろに下がり、槍を高速で繰り出す。
二、三度繰り出された槍は夜架の操る神装機竜の装甲腕にかすり、夜架は踏みとどまり後ろに下がる。
そして俺の顔を見て夜架の余裕の表情が大きく曇る。
「シオンお兄様? その左目は?」
それは妖しく光る緋黒い左目を見て困惑したのだろう。俺はそれに答えずに槍を構えるが、俺の横を水色の弾丸が通り過ぎていき意味がなくなった。
「悪いわね、恋人を一人危険な目にあわせる訳には行かないの」
エインが蒼い機竜、〈ファフニール〉を纏い特殊武装のフリージングカノンを構えながらそう呟き、俺を見て微笑む。俺の左目のことは気付いていないらしい。
しかし即座に俺とエインは夜架の方を向き、油断なく構え夜架の強襲を俺が槍で弾く、そしてエインが攻撃を加えようとライフルの引き金に指をかけ、引こうとしたとき、赤い飛行物体が俺とエインの脇をすり抜け夜架を襲う。
「私も来たぞ! ルクスを守るためにな!」
そう言いながら赤い機竜〈ティアマト〉を纏い現れる。レギオンを操るために機攻殻剣を振るいながら夜架を追い詰めていくが夜架に弾かれたレギオンが追撃を決めようと飛んできたセリス先輩に向かう。
「っ!? リーズシャルテ! しっかりしてください!」
「私ではない! 恐らくその半裸女に操作権を奪われている!」
セリス先輩はギリギリでかわし、リーシャに叱咤するがリーシャ曰く夜架に操作されているらしい。
俺は夜架と鍔迫り合いを繰り広げながら激しく場所を入れ替わり、立ち回る。
その間にエインの弾丸が支援として飛んできたり、レギオンで撹乱したり、セリス先輩と共に戦ったりと激しく立ち回る中、不意に真横から太い先端に大きな鍵爪のついたワイヤーが夜架の操る神装機竜の装甲腕に食らいつく。
「捕まえた」
ワイヤーの根本には紫色の巨大な装甲腕を持つ機竜を纏ったフィーアが左回り装甲腕を引き下げていた。
ワイヤーが恐ろしい速度で巻き込まれ、夜架が高速でフィーアに引き寄せられて行く、が途中でワイヤーの先輩の鍵爪が不意に外れる。
夜架はそのまま慣性の法則にしたがいフィーアに接近、刀型のブレードで斬りつける。
フィーアはギリギリで左装甲腕を間に挟み込むが、斬りつけられたところにゆっくりと赤い文字のような何かが浮かぶ。
すると不意にフィーアの神装機竜の左装甲腕が空中に滞空していたエインとリーシャに向いて動き、ワイヤーが射出される。
咄嗟に体をひねりかわすが、大きく体勢を崩す。
「おい天然娘! 私達を打ち落とす気か!」
リーシャが怒鳴るが、フィーアは「違う」、と小さく呟く。
しかしこれで夜架の操る神装機竜の神装の効果がわかった。
「皆っ! 夜架の神装機竜の神装は恐らく触れた機竜の武装だったりの操作権を奪うものだ! 触れられたら即座に離れろ!」
俺がそう叫び、リーシャ達は距離を取るが、夜架は不敵に笑い警戒していると、
ガツンっ! と大きな音が響き、後ろを向くとエインとリーシャが操る神装機竜にリーシャのレギオンが後ろから激突し、背翼の推進装置の機能を停止させていた。
大きく体制を崩したリーシャとエインに夜架は補助脚から火を噴き出し空中を蹴るようにして加速し、ブレードを薙ぐ。
俺は間に入り槍を盾にして防ぐが、大きく弾き飛ばされ、追加の突きが〈ドレイク〉の右装甲腕を掠め、掠めた部分に赤い文字が浮かび、夜架の後ろから強襲しようとしたセリスに高速で槍を突きだす。
それを唐突であったにも関わらず、騎槍でギリギリ防ぐ。しかし、槍が当たった部分が淡く光り、セリスが吹き飛ばされる。
「っ! すまんっ!」
セリスに謝りながら〈ドレイク〉の補助脚を起動、夜架から一気に距離を取る。
俺が槍を構えて動きを止め、キャノンを夜架に合わせているリーシャとライフルを構え、中空に浮いていたエインも着地し、セリスも宙に浮いてはいるがすぐさま攻勢には移らない。夜架も妖艶な笑みを浮かべたまま刀型のブレードを構えこちらの動きを探っているようだ。
両者共動きを止め、緊張が高まり空地の空気が軋み悲鳴を上げているような雰囲気を醸し出し始めた時、近くの民家の窓から明かりが漏れ出る。そして同時に男の、恐らくは民家の住人だろう男の声が聞こえてきた。
「なんだ? 騒がしいな」
「衛兵はなにしてるんだ? 仕方ない、俺が呼びにいくか」
「しっかし、騒がしいな、あっちは空地のはずだが」
聞こえて来る声に夜架は笑みを深めながら、機攻殻剣を腰の剣帯に戻し、神装機竜との接続を解除して背を向けて闇に歩いて行く。
「おい! そこの半裸女! 逃がすと思うか!? ......ってシオン?」
リーシャが夜架が闇に歩いて行く後ろ姿に向けて機攻殻剣を突き付け、そう言うが、俺はリーシャの前を遮るようにして手を上げ制止する。
「ダメだ、行ったら巻き込まれる」
「っ!!」
夜架は恐らく、いや、確実に一般市民を巻き込んで戦うだろう。そうなれば戦いどころではなく大惨事となるだろう。
リーシャは俺の少ない言葉からそれを理解したのだろう。悔しそうに唇を噛みながらも機攻殻剣を剣帯に納める。
夜架はすでに闇に紛れて空地からは姿を消している。それを確認したエイン達は神装機竜をそれぞれ解除し、機攻殻剣を直している。
俺は夜架が消えて行った闇のある方向に一瞥をくれ歩き出す。
『
帝都、いまだに帝国を取り戻そうとする夜架の狂信的なその思考。俺の失っていた記憶のことも考えるとわからない訳でもない。
前にいる銀髪の彼のことを殺したくてたまらない、早く殺せと急かす
だからこそ迷い続ける俺は何処かで踏ん切りを付けなければいけない。そうわかっているにもかかわらず決意を決めきれない
王都で起こるだろう今後のことに思考を回すように意識を変え、ルクス達を追い、寮に戻る。
俺達の見ている範疇意外でゆっくりと物事は進んでいるのだが、それを俺達はまだ知らない。王都で起こる事件もまだ。
*
夜架との戦闘の翌日、王都に向かって馬車に乗り込んだ俺達選抜メンバー。
「おいっ! 天然娘! ルクスにくっつき過ぎだ!」
リーシャがルクスの右腕を掴んで密着させながら左腕に腕を絡めて体を密着しているフィーアに怒鳴る。しかしフィーアがそれを聞くわけもなく、両脇に美少女がいて、さらに密着してくるのだ。それぞれ有るわけだからルクスの顔は真っ赤で少し可哀想に思ったので助け船を出すことにした。
「ルクスが困ってるだろ? 自注しろよ?」
リーシャとフィーアに向かってニヤリと笑いながら言うと、むむむ、と対抗心は燃やし続けながらも密着はやめる。腕は絡めたままだが。
「んで、何でエインはそんなにくっついて来るんだ? て言うかアイリちゃんも」
俺の左右にはエインとアイリちゃんが座っているんだが、エインは左腕に腕を絡め、アイリちゃんはそれに対抗するように右腕に腕を絡めている。
エインとアイリちゃんはどちらとも笑顔だがその間にはバチバチと火花が起こっているような雰囲気だ。挟まれている俺のことも考えて欲しいものだ。え? 無理? 無理かー。
「ふふふ、青春ねぇー」
「これから全竜戦に向かうとは思えないですけど」
レリィさんは俺とルクスを見て面白そうに笑いながら、セリス先輩は顔を少し赤らめながらも生真面目にそう言う。
「まあ、大丈夫ですよ......たぶん」
苦笑しながらそういったのだが、確信を持てていない辺り少し不安ではあるが、リーシャ達は真剣なときは真剣だからな、大丈夫だろう。
「ふふふ、それならシオン君が頑張らないといけないわね」
「いやエイン!? お前も頑張るんだぞ!?」
「あら、そうなの?」
「いやそうだぞ!?」
エインの放つ言葉につっこむと面白そうに笑いながらエインは俺に体を密着させて、
「なら、ご褒美をもらいたいわ」
顔を近付けキスでもするのかと言われる程の距離まで迫ったエインは俺にしか聞き取れないような小さな声で囁く。
「ふふふ、検討してもらえるかしら?」
微笑を浮かべ、俺から離れると持っていた本に視線を落とす。
「何を言われたんですか? シオン兄さん」
ジト目で俺を見てくるアイリちゃんに苦笑しながら誤魔化して左側に座るエインを見る。その表情はいつもどうりの静かな微笑を浮かべながら本に視線を落としているが、俺の視線に気付いていたのだろう、不意にこちらを向いて笑みを浮かべる。
「ふふふ、青春ねぇー。それでも、そろそろ切り替えてもらうわよ? ほらあれが王都ロードガリアよ」
レリィさんが声音を少し真剣なものに変え馬車の窓の外を指す。
窓の外を俺達が覗くとそこには距離があるにも関わらず大きな城と広い城下町が窓いっぱいに広がっていた。
「やっぱりでかいな」
「そう、ね。かなり広いみたいだけど」
五ヶ月ぶりに王都に来た俺だが、やはりその広さには毎回圧倒される。
「さて、そろそろ着くわけだし大丈夫かしら?」
レリィさんが言った言葉に全員が頷く、それに反応したかのように馬車の速度が上がって行く。俺達は窓から近付く王都を見ながら剣帯に差した機攻殻剣に触れる、馬車は王都に向かって更に速度を上げた。
*
王都ロードガリアは
それらが規則正しくならび、広大な城下町として活気に溢れている。
俺達はそのなかを馬車で移動し、高級宿にチェックインをする。
「ふぅ、疲れたな」
どっかりと宿のエントランス部分にあるソファーに座り、大きく息を吐いているリーシャに俺はハチミツを入れたレモンティーを注いだティーカップを、ソファーの前の机に置く。
「大丈夫ですか? ハチミツ入りのレモンティーです、それと、肩でも揉みましょうか?」
「お、応。ありがとうな......ってお前いつの間にっ!?」
レモンティーのカップをとって飲もうとしたリーシャが俺を見て驚く。
「いつの間にってこの宿にチェックインしてすぐだが?」
「それにしては女装も終わってこんな紅茶まで作り終わって、準備良すぎじゃないか!?」
「まあ、少し張り切ったせいだろ。で? 肩は揉んだ方がいいのか?」
「お、応。頼む」
リーシャは何故頬を赤らめながらレモンティーをすすり、ふぅ。と息を漏らす。
俺はそのリーシャの後ろにまわり、華奢な肩に手を乗せ、筋肉を解すために優しく揉んで行く。
ひゃうっ! だったり、あうっ!? だったりと声が出ているが気にせずに揉む。え? 気にしろって? 仕方ない、俺はこれより優しく揉むこと出来ないから。地味に凝ってて少し力入れないと上手く出来ないんだよ。だから仕方ない。
ちなみに今エントランス部分にいる学園の関係者は俺とリーシャ、それとレリィさんにエイン、ルクスとアイリちゃん。セリス先輩と三和音の三人だ。他の生徒達は長旅の疲れからか、すぐに割り当てられた部屋に入って行った。三和音のティルファーも長旅で体調を崩していたが薬が上手く効いたのか今は復活している。
「お、おい。もういいぞ?」
「ん、了解した」
俺は過多を揉むのを止め、レモンティーを入れたティーポットから新たに八個のカップに注ぎ、それぞれの前の机に置く。
「あら、ありがとう。そうそう、それと学園の生徒の中には王都にある実家に帰省している子もいるから会えるかも知れないわね」
レリィさんがレモンティーをすすり、少し疲れた様子ながらも俺達に向かって言う。それを聞いていたアイリちゃんは複雑な表情を浮かべながら、
「それにしても執行院はよく解放してくれましたね」
「ああ、それはいろいろあったんだけどね。全竜戦間近だと言うこともあってとりあえずは厳重注意と罰金ですんだわ」
複雑な笑みを浮かべる。レリィさんは疲れきっているようなので、お疲れ様でした。と労っておく。
「今、私がここにいるのは今の立場とお金のお陰ね」
「わりと洒落になっていませんよ?」
ルクスがつっこむとなんとも言えない空気になる。
「まあ、とりあえず大丈夫だったならいいだろ?」
俺がその空気を変えるためにそう言うと、
「あはは、ありがとねシオン君。そうそうもうそろそろお祭りも始まるのよ?」
上手くレリィさんがのっかかって来て話を反らした。
「そうですね、建国記念祭。この頃は祭りの意味も形式も変わってきましたが」
紅茶を飲み干していたセリス先輩がそう呟く、貴族だからこそそこら辺のことには詳しいのだろう。
「と言っても明後日からだが、今日から人は多いだろうけど」
俺の言うとおり既に多くの人が王都に訪れている。建国記念祭当日はより多くの人が来るだろう、勿論それを狙った盗賊だったりも出るだろうが。
「あら、それだったらシオン君にエスコートでも頼もうかしら」
「うん? 俺にか? ルクスじゃなくて?」
俺が思わず返すがエインは少し不満げな表情を浮かべる。
「あらあら面白い展開ね。まあ、それはそうと戦いの前の休息と言うことで街に出て遊んできたらどうかしら?」
レリィさんの言った言葉に反応する俺とルクス以外の面々。
「なら私はシオン君にエスコートを頼もうかしら」
「ル、ルクス! 私のエスコートを頼むぞ!」
俺とルクスを除いて和気藹々と会話を弾ませる。
「よし! 決まったぞ!」
リーシャがそう言いレリィさんに何かを渡しに行く。
あ、俺達には話を通さない訳ね、残念。
「よし! それじゃルクスは私達と、シオンはクルルシファー達とだ!」
「お、応?」
俺は言われた通りにクルルシファー達が集まっている、エントランス部分の右側、バーになっている場所に向かう。
「やっほーシオっち、シオっちは私達と一緒に回ってもらうよー」
「私とクルルシファーさん、ティルファーさんとノクトと回って貰います。よろしくお願いしますね」
「Yes.話し合いの結果こうなりました。どうぞよろしくお願いします」
なんだか俺達が知らない間に勝手にそんな事が決められていたらしい。
「決まったわね。本来なら引率者である私が連れていかないといけないのだけども少し疲れちゃってね。と言うわけで、元気のある子達は街で遊んで来なさい!」
そう言ってレリィさんが鞄から取り出したのはなかなかの厚みのある札束だった。
「いや札束はおかしいでしょう」
思わず俺はつっこんだ。いや札束はおかしいでしょうだって札束よ?
「あら、そうかしら? 余ったら返してくれたらいいわよ?」
さすがアイングラム財閥の子息。金銭感覚がおかしいな、とか思いながら札束を受け取り、半分に分けてルクスにも手渡す。
いや待てよ。これだけの金を持ってた方が危なくないか? まあ、考えてても仕方ないか。
「それじゃあ楽しんでらっしゃい」
「勿論楽しんで来ますよ」
レリィさんに見送られながら俺達は宿を出る。すぐに俺達とルクス達は別れ、俺達のグループは俺がエスコートすることになった。
*
数時後、予想以上に様々なところを見て回った俺達は途中でルクス達と合流し、俺の知り合いが経営している酒場に行くことになった。
酒場の戸を俺が開けると戸に付いた鈴が音を鳴らす。
「いらっしゃい! 席は適当にしてくれ! ......ってシオンじゃねぇか!?」
「あ、わかりました? バッケスさん。まだまだ現役でしたか」
酒場のカウンターの奥で料理作ったり、客に出すために酒注いだり、酒に酔った客を追い出したり起こしたり、あわただしく動いているものの疲れている素振りは見せていない。
俺達は十人程が座れる机が空いていたのでそこに座ることにしたんだが、何故か俺の両脇をアイリちゃんとエインが占領し、腕を取ってきた。飯食えねぇだろ。
まあ、俺だけじゃなくルクスも両脇をリーシャとフィーアに詰められ、腕を取られているから何となくましな感じはする。するだけで何もましじゃ無いんだけどなー。
「おうおう! 両手に花どころか花畑じゃないか?」
「からかうのはいいのでとりあえず、さっぱりとしたものをください」
「わぁったぜ、ちょっと待っときな!」
そう言ってカウンターの奥に行くと十分程で両手になかなかの量の料理を持ってくるとそれをテーブルに並べ始める。
俺達はテーブルに並んだ料理をゆっくりと食べ進め、一時間程して料理を食べ終わり、ゆっくりしているとバッケスさんの困った声が聞こえてくる。
「おいおい兄ちゃん、寝るんだったら部屋貸してやるからそこで寝てくれよ」
「まだまだ寝ねぇよぉ、俺のモットーは無謀な挑戦だからなぁ、限界を、越えねぇとぉ......ぅっ!?」
「おい兄ちゃん!? もう限界越えちまってるぞ!?」
カウンター席のひとつに座るくすんだ金髪の少年にバッケスさんは手を焼いていた。
カウンターに寝ている少年は酒を自身のコップについでは飲み干しを繰り返す。その行動やけだるげな言動は不良そのものだが童顔のお陰か全く不快感を感じさせない。
「つーか、金あんのかい?」
「勿論だろぉ? ほらこの通り......」
カウンターに置かれた少年の財布、それを隣に座っていた男がひったくり店を走って出ていく。
「ありゃ、やられちまったな。あれは祭りに臨場して盗みを働きに来た奴等だな」
バッケスさんが残念そうに少年に言っているのを見ながらゆっくりと席を立つ。俺がルクスの方を見るとルクスも席を立っていた。
「行くか」
「うん」
バッケスさんの店をでて男が逃げていった裏路地に走って向かう。少し走ると件の男は見つかったのだが、
「っ!?」
男は俺達に気付くと〈ワイバーン〉を呼び出し纏った。
ただの盗賊が機竜を持っているわけがない、俺達は一気に緊張を高める。
盗賊は機竜を纏い、ブレードを俺に向かって振り下ろして来る。
「人に機竜を使うのはおかしいだろ」
腰に差した機攻殻剣を抜いて振り下ろして来たブレードの腹を叩き反らしながら、生まれた安全地帯に体をねじりこみ、機竜を斬りつける。容易く障壁を切り裂いた機攻殻剣は装甲に直撃し、衝撃を相手に与える。
衝撃を受けた盗賊は体勢を崩す。その上から〈ワイバーン〉を纏ったルクスが追撃を決め、ブレードを砕く。
俺が盗賊に投降するよう言おうとしたとき、不意に湾曲した機竜のブレードがルクスを、正確にはルクスの奥にいた盗賊を襲う。それを何とか弾き、俺とルクスはブレードが伸びてきた方向を見る。
「お優しいねぇ、あの極悪非道と恐れられた帝国の皇子様とは思えねぇな」
そこにいたのは酒場で飲んだくれていたくすんだ金髪の少年だった。
少年は複数の鱗が重なったような装甲の機竜を身に纏い、奇妙な形状のブレードを俺達に向けながら中空に浮いていた。
「君はさっきの? なんで僕のことを?」
俺は油断なく腰の〈ドレイク〉の機攻殻剣に触れる。
「帝国の皇子が新王国に恩赦を受けているってのはいい加減な奴でも知ってるぜ?」
俺とルクス以外の数少ない神装機竜使いである少年はいまだにブレードをこちらに向けながらルクスの問いに答える。
「てめぇさっき盗賊に何しようとした?」
俺は少年に対して敵意を放ちながら問いを投げ掛ける。すると少年はさも普通のように、
「俺に盗みを働こうとしたんだ、命までは取らねぇが腕ぐらいは持っていくつもりだったんだよ」
そんなことを言った。思わず俺は耳を疑ったがルクスも同じような表情をしているから本当に言ったのだろう。
「そんなことさせるわけねぇだろ。俺達で衛兵に突き出す。それでいいな」
有無言わせずその場を去ろうとするが、少年が奇妙な形状のブレードを振るうのが見え、素早く盗賊を伏せさせながら機攻殻剣でブレードを反らしながら〈ドレイク〉を呼び出し、即座に纏う。
一触即発の雰囲気が漂うが、
「グライファー! なにやってるんだい!」
少し高めの、ソプラノ声が響く。
俺はグライファーと呼ばれた少年に注意を向けながらも周りを見ると、近くの路地からライトグリーンの髪を後ろで三つ編みにした
それを見たグライファーはチッ、と舌打ちをした後に神装機竜との接続を解除して、その
「グライファー! 君はこんな時間まで何をしてたんだ! ってお酒の匂い? まさかグライファー、君......この事は教官には報告するからね」
「ちょっ!? お前!」
グライファーと少年が話している間にリーシャ達が来たようでルクスと話しているのを後ろ目に見ながら、機攻殻剣を鞘に入れる、警戒はしたままだが。
「すいません、家のリーダーが迷惑を掛けました。ボクはコーラル、こちらはグライファー」
「あっ、えっと僕達は新王国の代表なんですけど......」
ルクスがおどおどとしているので俺が変わりに前に出る。
「そちらは他の国の代表でしょうか?」
「え? う、うんボク達はヴァンハイム公国の代表でグライファーがリーダーでボクが副リーダーを勤めています」
ふむふむ、よくよく記憶を掘り返して見ると前にレリィさんからもらった資料に書いてあった気がする。
「あ、えーとそれじゃあまた?」
少し考えているといつの間にか話は終わっていたらしく、ルクスがそう言うとコーラルは頭を下げてまたね、と言うとグライファーを連れて行った。
「さて、それじゃあ門限まで後少しだしさっさと戻るか」
そう言って帰っていた途中、不意に視線を感じた。
「どうしたのかしら? そんなに周りを見て」
「ん、無いでもない。と言いたいが少し離れてもいいか?門限には間に合うか、わからないが」
「あら、珍しいわね。そんなに大切な事なのかしら」
「ああ、そうだな......皆に頼めるか?」
「ええ、大丈夫よ」
「ありがとう
礼を言うと何故か驚いた表情をされた、少し問いただしたいところだが今はそれよりも
俺は走り、少し外れた人の寄り付かない空き地に来た。
「一人だけだ、シミシス」
そこまで大きくない、しかし響くその声に反応した誰かは俺が思っていた通りの人物で、
「久しぶりだなシミシス」
「はい、そうですねシオン様」
侍女姿の彼女はその表情を柔らかく変え笑みを見せてくれた。俺は彼女と今後起こす行動について詳しく聞いた。
*
クルルシファーはシオンが少し離れると言う事をルクス達に伝え、宿に戻っていたのだがその思考はシオンにかけられたとある言葉によって埋め尽くされていた。
『ありがとう
いつもは家名を短縮した渾名で呼ばれているのだがシオンに初めて呼ばれた時はなんだか嫌で渾名で呼んでもらっていたのだが、久しぶりに呼ばれた自身の名前は思った以上に心を揺さぶるもので、クルルシファーの思考は全く働いていなかった。
(何故かしらここまで心が揺さぶられるなんて思ってもいなかったのに)
ゆっくりと歩いていると宿についたらしくギリギリ門限には間に合っていたとのこと。
レリィさんがルクス君とシオン君の二人が揃うまでは各自で休んでおくようにと全員に指示を出した結果ほぼ大半の生徒が自分に割り当てられた部屋に戻っている。
「うーんどこに行ったんだろう、クルルシファーさんは知ってる?」
エントランスにいた私にそう声をかけるルクス君に知らない、と答えカップに注いだ紅茶をすする。久しぶりに自分で注いだ紅茶はシオンの作る紅茶より劣る事に苦笑し、手に持つ本に視線を落とした時、宿の戸が開く音がする。
「すいません、遅くなりました」
「はいはい、特に何も言わないわ」
レリィ学園長がシオン君を迎え入れ、何かを伝えると何だか嫌そうにしながらも少し考える素振りをしているとルクス君と何かを話始める。
私はそれが少し気になったのでレリィ学園長に聞こうと思ったのだけどはぐらかされ、少し不満だったものの持ってきていた文学書を呼んでいたときレリィ学園長が部屋に戻っていた生徒達を連れて来ると、シオン君達を呼び、
「さあ! それじゃあシオン君達からご褒美を貰える子を発表してもらうわ」
ニコニコと笑みを浮かべ爆弾を投下した。
「ぼ、僕達からですか?」
「おいおいさっき言っただろ? そんじゃ俺から言うぜ......っと、その前に」
シオン君が発表の前に一旦話を止めるとレリィ学園長に何かを聞いている。そして話がまとまったのかこちらを再度向くと、
「それじゃ改めて、俺からな......」
彼が言う言葉にその場にいた生徒全員が耳を傾けた。
*
シオっち達からのご褒美を誰にあげるかと言う話が終わって大半の生徒は自分に割り当てられた部屋に戻った。そんななか私とシャリス、ノクトのいつもの面々でエントランスにいた。
「ふむ、夜になると言うのにルクス君達はなぜ呼ばれたのだろうか、執行院から呼び出されたようだが」
「Yes.ですがシオンさんもいるわけですし大丈夫でしょう」
ノクトとシャリスが話しているがとても話に加われる気にならない。
「ははは、ティルファーはずっとその調子だね。まあ、相当嬉しいのだろうけど」
「そんなに嬉しそう?」
「Yes.顔がずっとにやけています。まあ、ティルファーらしいと言えばそうですがそこまでですか?」
ノクトとシャリスにそう言われるぐらいだから目に見えて嬉しいのがわかるんだろうけどそれでもやっぱり嬉しさが溢れて来て笑みが止まらない。
「あー、これは重症だな」
重症とは失礼な、でもそれでもいいや、何を頼もっかなー。あー楽しみだー!
「速く建国記念日にならないかなー!」
「子供かい君は、まあ、でも応援してるよ」
「Yes.頑張ってください。私も応援しています、相手は強敵ですが」
ノクトとシャリスにそう言われながら私はシオっちに建国記念日、何を頼むのかを考えていた。
*
寮の一室、クルルシファーの部屋で、彼女は文学書を読んでいた。
彼女の頬は少し緩んでいて、ほんのりと赤く染まっている。文学書に栞を挟み、ふぅ、と息を吐く。
「私も変わったわね、こんなことがないと何も彼に言えないなんて」
自虐気味に笑う彼女は窓を空け、風を受けるために窓際による。
夜の柔らかく涼しい風が部屋に入り、彼女の髪を靡かせその容姿を際立たせる。
「シオン君達は大丈夫かしら、執行院に呼ばれていたけども」
風に当たりながら王都の中心にある城を見る。人工的な明かりが当たりを照らす街の中央に鎮座するその城を見ながら彼女は溜め息をつく。
「こんな気持ちを持つことになるなんてね」
言葉にしたそれは自虐的なものだが、表情はとても嬉しそうなものだった。
「ふふふ、頼むことは決まっているのにそれを言うと思うと少し恥ずかしいわね」
クルルシファーは自虐気味に笑いながら一人の少年に想いを馳せていた。
*
シオンがご褒美をあげる相手の三人の内の二人が宿で想い馳せていた同時刻、最後の一人、アイリ・アーカディアは兄達と共に執行院に呼ばれ、夜の街を歩いていた。
「すいませんシオン兄さん、私達の事なのに一緒に来てもらう事になって」
「なに、大丈夫だよ。俺も今の執行院は気になる事もあるし」
少し含みのある言い方といつもとは違う雰囲気に私は思わず、シオン兄さんを見るがいつもと同じ表情に雰囲気で、先ほどの鋭い雰囲気は霧散していた。
その後も特に何かを話すわけでもなくゆっくりと歩いて行った私達は城の前についた。
門をくぐり執行院の者につれられ、城の一室に連れていかれる。
そこには四大貴族と複数の大物貴族、そして他の大量の貴族がいた。他にもこの国の重要人物であるナルフ宰相とラフィ女王も見える。
私達は中心まで行くと貴族の一人が立ち上がり、
「よくぞ遠路からはるばるやって来た。そしてオルバート殿もここに来てくださったこと感謝する」
そう言うとすぐに座り代わりに一人の老いた貴族が立ち上がる。名前はゾクァ・シャルトスト、帝国時代の時から貴族として名を馳せていたため発言力が高く、そのやり方は帝国の時と変わっていない。
「ここに来てもらったのは防御に長けた機竜使いが貴殿しか知らないものでな、さてそれでだが早速本題に移ろう」
一瞬にしてシオン兄さん達の雰囲気ががらりと変わる。
「ここより南のとある廃村の跡にヘイブルグ共和国の操る幻神獣が百体ほど潜んでいると言う情報を密偵がもって帰ってきた」
百体、その数に思わず息を飲む。そしてこのあとに言われるだろう言葉にも、
「それでだ、貴殿らには幻神獣百体を引き付ける囮役を引き受けてもらいたい。全竜戦の中休みの夜からその役をしてもらいたいのだよ」
「待ってください! 兄さん達と言えど百体の幻神獣を相手取るのは危険過ぎますっ!」
予想通りの言葉に私は声をあげる。大切な家族を失いたくないからだ。
しかし、そんな私を見る目は冷たく非難するものばかりだった。二つを除いて。
「ありがとうアイリ、でも大丈夫だよ」
「そうだぞ? 一人にしないって誓ったろ?」
優しく頭を撫でてくれる二人の兄の背中はとても大きく優しいもので、
「じゃあ僕が引き付けるとして、どこまで引き付ければいいんですか?」
「ほほぅ、そこまでわかっておられるとは。さすがはルクス殿。元皇族だからでしょうかな?」
笑う貴族達、少しして別の貴族、ディスト・ラルグリス。セリスティア先輩の父で四大貴族の一人で、新王国の軍にも精通している。
「ここからは私から、それで何処までかと言う話だったが、それは北に隠し要塞を作ってある。そこに幻神獣どもを引き付けてくれれば私の部下達が幻神獣を討伐する、と言ったものだが?」
「はい、わかりました。僕は囮になりますけど、シオンは......どうする?」
「俺か? ......そうだな、隠し要塞で幻神獣を討伐するのを手伝うよ」
そう言ってラルグリス卿の方をシオン兄さんは見る。ラルグリス卿はそれに頷き決定する。
「決定いたしましたな、それでは後
不意に放たれたゾクァ卿の言葉に耳を疑う、それは兄さん達も同じらしくゾクァ卿をの続く言葉に集中していた。
するとゾクァ卿は指を四本上げ、告げる。
「四勝、今回の全竜戦で四勝を上げていただければ前回の無断調査にも目をつむりましょうぞ」
二段階に注文を押し付けどちらかが出来なければそれを足掛かりに更なる難題を押し付けてくるだろう。
「ゾクァ卿! それはあまりにも横暴では!? 兄さん達は全竜戦の初日しか出ることが出来ません! それなのに四勝はっ!」
私が抗議をしていると頭に手がのせられた、優しく柔らかい手、上を見ると背がやはり伸びているシオン兄さんの柔らかい笑みがあった。
「いいよ、やればいいんだろ? ならやるだけだ」
その声は優しく、しかし激しい怒りが込められている感じがした。
「それでしたら頼みますぞ、ルクス殿、シオン殿」
そうして執行院との対峙は幕を引いた。
*
執行院との対峙が終わり、肌寒い風がふき、夜の帳が降りていた王都をゆっくりと歩く俺とルクス、そしてアイリちゃんは気まずい無言のまま宿に戻っていた。
無言なのは俺とルクスが執行院からの難題を引き受けたことについて、アイリちゃんがご立腹なせいだ。いや、まあ、それは悪いとは思ってるが、むう、
「寒い? アイリちゃん、一応コート持ってきたんだけど、いる?」
俺は空気を変えようと話をふるが、
「いいえ要りません」
と、突っぱねられるが、
「くちゅんっ!」
かわいらしいくしゃみに苦笑しながらアイリちゃんにコートをかける。
コートをかけられたアイリちゃんは少し嬉しそうな表情を見せたがすぐに引っ込む。
俺はルクスに声をかけようとしたとき、不意に殺気を感じ、すぐ近くで全く気付いていないアイリちゃんを抱きかかる形で押し倒す。
「きゃっ!? シオン兄さん!? いきなり何をっ!?」
アイリちゃんが抗議の声をあげるが、ついさっきまで俺たちがいた場所を巨大な刃が通ったことで押し黙る。
素早く立ち上がった俺は機攻殻剣を腰の剣帯から抜き放つ。
「わりぃな、デートの邪魔しちまってよ。最強小国の王子様と旧帝国の皇子様よぉ?」
一部が逆立ちくすんだ金髪に鋭い三白眼、がらのわるそうな声。そして身に纏う複数の鱗が重なったような装甲の神装機竜。
「グライファーっ! 俺達に何かあるのかっ!」
俺はグライファーに向かってそう叫ぶとグライファーは嘲笑を浮かべながら俺達に向かって機攻殻剣を向ける。
「俺達の仲間が一人な、機竜を纏った男に撃たれてな。幸い直撃じゃなく衝撃波を受けただけだったから死にはしなかったが、両足を骨折だとよ」
明らかな怒気を滲ませながらグライファーは俺に向かって話す。
「だからって俺達を狙う理由になるか!」
「ああそうだろ? 何せ俺達が宿泊している場所を知っているのは開催国の新王国だけだからな」
「っ! ......」
反論できない、実際そうだからだ。俺達も詳しいことは知らないが新王国が場所を指定しているはず。
「だからよ、面倒になるから殺しはしねぇが。あいつと同じ目ぐらいにはなってもらうぜ!」
「っ!?」
いきなり斬りかかって来るグライファー。俺は未だ機竜を纏っておらず身を屈めて奇妙な形状のブレードを回避し、一端距離を取りつつ、〈ドレイク〉を思念で呼び出しそのまま接続する。
返す刃で繰り出される斬撃を予備のブレードで弾き、そのまま投擲する。
投擲したブレードは易々と避けられるがその間に希少武装の〈激竜槍牙〉を取り出すことができ、投げられたダガーを叩き落とす。が、接近したグライファーのブレードを避けれずに受け止めることになる。
「うっぐぅ!」
しかし、グライファーの繰り出す斬撃の重さに思わず声が漏れる。
機竜の性能の差からそのまま押し切られ吹き飛ばされる俺に追撃を仕掛けてくる。ダガーとリーチの伸びるブレードを巧みに使い追い込まれて行くが、ゆっくりと記憶に叩き込んだ地形から、より戦いやすい場所へと誘導していく。
「ほぅ、逃げているふりをして実際は戦っても安全な場所まで誘導してたわけか」
グライファーの感心したような声を無視して油断なく〈激竜槍牙〉を構え相手の出方を伺う。
こちらから向かっていったところで機竜の性能の差によって押し負けるのは目に見えている。狙うはカウンターによる肩の装甲破壊し、フォースコアへの打撃を与えること。というかそれしかこの状況を切り抜ける方法がない。
投擲されるダガーを〈激竜槍牙〉を回しながら脅威となる物だけを叩き落とし、接近してきたグライファーの振るう奇妙な形状のブレードを体を反らして避け、カウンターに槍を繰り出そうとするが、絶妙なタイミングで投擲されたダガーがそれを躊躇わせる。
攻撃に切れ目と言える切れ目がなく、攻めきれない。だが!
「んなっ!?」
グライファーの驚く声が空き地に響く。何をしたかと言うと、〈激竜槍牙〉の効果、突いた箇所に一定時間か、思念で指示を出すことで再度突いた時と同じ威力の衝撃を与えるというものを使った、偏差攻撃を、前にセリス先輩の使っていた〈重撃〉の真似のようなものをしてみたのだが、なかなか上手くいった。
グライファーの投擲してきたダガーを回収してグライファーにそれを投げつけたのだ。名付けて、〈重牙〉。
投擲されたダガーは途中で一気に加速し、障壁を貫き、左肩の装甲を砕く。
フォースコアへの打撃とはならなかったが、衝撃は伝わったらしく、動きが少し鈍る。その間に接近し、装甲の無い左肩のフォースコアに向かって槍を突き出す!
「やるじゃねぇか、高々汎用機竜でよ」
グライファーの冷静な声が耳に届く、しかし、俺の繰り出す槍の刺突の方が速い!
その考えはすぐさま打ち砕かれた。
グライファーの纏う神装機竜が淡く発光したかと思うと槍の穂先が機竜に触れる。すると
「これが俺様の操る機竜の神装、効果は『無敵化』だ」
大きく隙をさらした俺に向かって上から奇妙な形状のブレードを振り下ろそうとするグライファー。
「高々汎用機竜で、ここまで耐えた褒美に拝ませてやるぜ。じゃあな新王国の代表」
弾かれ、動くことの出来ない俺に振り下ろされるブレード、その刃は障壁を容易く切り裂き、装甲を纏っていない体を斬る。
ことはなく、振り上げた形で止まっていた。いや、止められていた。
「そこまでだよグライファー!」
よく通るソプラノ声が空き地に届く。
声のする方向、空き家の上には〈エクス・ワイバーン〉を纏った、コーラルという少年がワイヤーテイルを手に持ち、立っていた。
「ちぃ、優等生サマかよ。これは正当な報復だぜ? ウチの仲間は新王国の連中にやられたんだぜ?」
「そうだという絶対の証拠は無いんだからボク達の一方的な逆恨みと同じだよ」
グライファーを説き伏せるコーラルは装甲を解除すると俺に向かって歩いてくる。
「すいません、ウチのリーダーが、この事は全竜戦の監査委員会には言わないで貰えますか?」
そういって頭を下げて来るコーラルに頭を上げるように頼み、コーラルの願いを受け入れる節の話をする。
グライファーは不機嫌そうにしていたがコーラルが黙らせ、話はまとまった。途中でリーシャ達新王国のメンバーが来たが話はまとまったと言うことを伝え事なきを得る。そして細々としたこと決め、お互いの宿に戻る。
夜は更に深まり、新王国全体が寝静まった。
*
「ようやく始まったな」
先日の一件は丸く収まり、翌日の全竜戦初日。まず俺たちが戦う国はユミル教国、ブリックンド王国、トルメキス連邦の三国だ。
俺達新王国の代表団はすでに待機室に集まり装衣を纏って待機している。
全竜戦は一対一で一試合、二対二のペア戦が一試合。そしてそこで勝敗がつかなかった場合に再度一対一の試合が最後にある。
試合は五分で男でも戦えるようになっている。勝利条件は相手の機竜を強制解除させるか相手の降参のどちらかで、今はユミル教国との試合前のミーティング中だ。
「さて、まずはユミル教国だが、神装機竜使いはシオン! お前が出る予定だ」
リーシャが俺を指差してそう言う。一斉に全員の注目が俺に集まる。
「了解、でもそれより前にティルファー達が勝ち越してくれるだろ?」
「もっちろん! 任せてよねシオっち!」
サムズアップするティルファーの頭をよしよし、と撫でる。えへへーと照れながら俺に撫でられていたティルファーは回りに見られていることに気付き、慌てて俺から離れる。
「......まあ、やる気があるなら大丈夫だろう」
「うん、全然倒しちゃってもいいんでしょ?」
「勿論です、全力を尽くしてください」
セリス先輩が締めくくり、俺達とティルファー達は別々に別れ、俺達は闘技場の観客席でティルファー達とユミル教国の代表との戦いをみる。
ティルファーと戦うのは〈ワイバーン〉を纏った同い年ぐらいであろう少女だ、しかし、ティルファーの操る〈ワイアーム〉の猛攻に防戦一方となっている。
ティルファーは両手に槌を持ち果敢に攻めながらもその攻めは一ヶ月ほど前の校内選抜戦とは全く違うものになっていた。
両手の槌の取り扱いも上手くなっているが、何より相手の武装を破壊しまくっている。
「あれが、彼女に与えた課題かしら? シオン君」
エインが俺のとなりからそう聞いて来る。それをティルファーの戦いから目をそらさないまま答える。
「ああそうだな。と言っても防御や回避を教えるよりかは武装破壊っていう、攻撃特化の技術を教えたんだが、思った以上にものにしてくれてな」
言い終わると同時に大きな歓声が新王国サイドから上がる。
闘技場のリングではすべての武装を破壊され、降参するユミル教国の少女とこちらに向けて手を振るティルファーの姿があった。
「んじゃ、俺は準備でもしてくるか」
次の二対二のペア戦が始まろうとしていた。選抜メンバーだから信用していないかと言われればそうでもないが、準備をしといて悪いことはない。
「シオン、頑張ってね」
「応、任せときなルクス」
ルクスに声をかけられ、それに答え、観客席を降り、控え室に向かう。
「あー! シオっち!」
「ん? ティルファーか。お疲れ様」
その途中でティルファーと出会い、労いの言葉をかける。
「うんっ! どうだった私の戦い!」
「ん、しっかりと教えた事が生きてたよ、さすがだな」
「えへへー」
ティルファーの可愛らしい笑みに頬が緩み、よしよしー、と頭を撫でる、くすぐったそうに体をよじらせ嬉しそうに喉をならす。
「ティルファーの勝ちを無駄にしないようにしないとな」
「うん、頑張ってねシオっち!」
ティルファーの激励を受けたタイミングでユミル教国の方から大きな歓声が沸き上がった。
「んじゃ、行くか」
腰の剣帯に指した〈ジャバウォッグ〉に触れる。
使わないけど、見といてくれよ?
ああ、了解した主よ。主の戦いを見せて貰おう
控え室を出て、〈ドレイク〉の機攻殻剣にも触れる。力の流れを感じることに少し思うところはあるが自分の持つ力は使えるだけ使えと、覚えのない記憶で言われている、ならルクス達に貢献するために使うべきか、誰も答えてくれない疑問を心の中で浮かべながら大一番に向かう。新王国の為ではなく、ルクスやリーシャ達の為に、
*
「ふーん、貴方が私の相手? 男なのね。私はメル・ギザルドよろしくね」
「よろしくなメル。俺はシオン・オルバート、実力はリーズシャルテ達と同じぐらいだよ」
俺の相手はメル・ギザルド。白金色の髪を持ち、すこし幼いながらも機竜の操縦は上手い。ユミル教国のエースで、機竜は〈エクス・ワイバーン〉。二対二のペア戦の時はサポートに回っていたが、おそらくまともに戦っても強いだろう。かといって〈ジャバウォッグ〉を使えるわけでも無いんだが、
『両者とも、機竜を呼び出し、接続しなさい』
拡声器によって大きくなった声で俺達に機竜の呼び出しと接続を急かす。
俺は剣帯から〈ドレイク〉の機攻殻剣を引き抜き、
「ーー来たれ、根源に至る幻想の竜。幾重にも瞬いて姿を為せ! 〈ドレイク〉!!」
声高らかに
「
強力な機竜の鎧は粒子となり、俺の体に集まる、そして体の各所を守る鎧と再びなる。
メルも〈エクス・ワイバーン〉を纏い臨戦態勢となる。
『試合ッ開始!!』
審判の合図と共に動き出す俺とメル。
「ッ!?」
メルが息を飲む音が聞こえる。
俺は特装型の-他の汎用機竜二種に性能で劣る-〈ドレイク〉を纏い、汎用機竜の上位互換で、性能も高い〈エクス・ワイバーン〉をメルは纏っている。そのため、
しかし、俺は違った。ゆえに一瞬の、俺からすれば十二分な隙が生まれる。
その間に繰り出されるは〈激竜槍牙〉の高速の突き。それは左肩のフォースコアを狙ったのだがギリギリ反応できたメルは体を反らし左装甲腕を貫く程度に被害を納めたが、続く連続攻撃に防御に回らざる得なくなる。
「っう! 〈ドレイク〉なのにっ!」
どうにかしてブレードを取り出したメルは俺の連撃をさばき、払い、反らすが一方的に押されこむ。
俺は〈激竜槍牙〉を大きく凪ぎ払い距離を取る。
メルも俺を警戒し、距離を取るため背翼の推進装置を全開で起動させ、大きく後ろに飛ぶ。
俺はその隙にダガーを取り出しすこし上に投げる。
そのダガーは回転しながら落ちてきて、それの尻を〈激竜槍牙〉が打つ。
後ろから力を受け、なかなかの速度で飛んでいく。しかし、それは恐ろしく速いわけではなくメルも余裕を持って避けれるはずだった......途中で加速することがなければ。
「っ!?」
唐突に加速したダガーにあわてて回避行動を取ろうとしたとき、最初に貫かれた左装甲腕の表面が淡く輝き、突然最初に貫かれた時と同じ衝撃が加わる。
「なぁっ!? ......あぁっ!?」
その衝撃により大きく体勢を崩し、回避の出来ないメルの纏う〈エクス・ワイバーン〉の左肩に加速したダガーが突き刺さり、貫通する。ダガーはフォースコアに打撃を与え、接続を強制的に解除させる。勝敗が決まるまでおよそ二分、審判が俺の勝利を宣言するなか、メルが十数メートルで接続が解除させられる。
「ヤバいっ! 忘れてたッ!」
それを見た俺は〈ドレイク〉の背中につけられた推進装置を急いで起動させ、メルの元まで高速で飛ぶ。
メルと地面との距離が五メートルを切る寸前に装甲腕にて受け止める。
十メートル程落下してきたメルの体が衝撃を受けないように衝撃を受け流しながら降りていく。
「わるい、接続を解除させられた後のこと考えてなかった」
「あ、う、うん、だいじょうぶ、だよ」
なぜだが顔をうつむけたどたどしく言葉を紡ぐ。そのメルの表情はよくわからないものの、耳まで真っ赤になった彼女を思わず心配してしまう。
「大丈夫か? 顔が真っ赤だし」
そう言って俺は素手でメルの額に触れる。
「ひゃっ!? い、いきなりっ!」
驚いたらしくこちらをキッと見てくるメルの顔は徐々に赤くなっていき、またもやうつむく。
ゆっくりと着地した俺はメルを優しく下ろし、〈ドレイク〉との接続を切る。
「お兄ちゃん、その、ありがと。助けてくれて」
メルが俺の方に向き直り、感謝を伝えて来るが、
「メルが大丈夫ならいいよ」
優しく白金色の髪の頭を撫でる。
「う、うん。じゃあねお兄ちゃん!」
「ああ、じゃあなメル」
俺の言ったことに嬉しそうに笑いながら、バイバイ。と手を振るメルに手を振り返しながら闘技場のリングを後にする。
これで二勝、新王国の勝利が決まり、新王国側の観客席から大きな声援が巻き起こる。
そんななかを俺はゆっくりとリングを降りていった。
*
それから二つの国と戦い、どちらともに新王国の勝利となった。特に何かがあったわけでも無いが、唯一リーシャが戦闘中にレギオンの操作を誤ったのか一機のレギオンが観客席に飛んでいった。まあ、障壁に阻まれてくれたお陰で注意を受けるだけですんだが、彼女を、神装で他の機竜を操ることの出来る彼女を思い出す。何かが引っ掛かる終わり方だったがその日は終わり。
そして翌日の朝、ご褒美として三人にあげた権利を三人が使おうとしてきたのだった。
いかがでしたか?
字数が多くなってしまいすいません。
ゆっくりとストーリーが進行していますが、今後どこまでいくのかはまだ決まっていません。アニメであったところまで行ってから決めようと思っています。
さて、それはそうと新王国だけでなく他の国まで出てきましたが、ヒロイン枠もどんどん増えてきました。さてどうしましょうか、メインヒロインはアイリですし......
〈コーラル〉「ねえ、ちょっといい?」
〈昇華〉「ん?コーラルじょ......君どうしたんだい?」
〈コーラル〉「盛大なネタバレをしようとしたよ!?どうして君は......」
〈昇華〉「むむ、仕方ないじゃないか。反省はするが。で?なんだい?」
〈コーラル〉「切り替えが早すぎないかい?まあいいけど。えっとね、ボクとシオン君のことなんだけど......」
〈昇華〉「......ガンバ!」(サムズアップ)
〈コーラル〉「ガンバ!じゃなくて君も頑張ってくれよー。ボクだってシオン君と関わりを持ちたいんだよー」
〈昇華〉「うーん、出したいのは山々なんだけど、もうヒロイン枠の空きが無いんだよねー。いやありはするけど」
〈コーラル〉「じゃ、じゃあ!」
〈昇華〉「ん、ワンチャンあるよ!」
〈コーラル〉「やったー!」
〈昇華〉「ほいほい、落ち着け落ち着け」(頭ナデナデー)
〈コーラル〉「うわわっ!?」(カオマッカー)
〈昇華〉「うん可愛い。これはあるな」
〈コーラル〉「えへへー、やった。これでシオン君とも......」(カオニヤニヤー)
ええーと、収拾つかなくなりそうなので一旦打ち切ります。さて、上であったようにコーラル君のヒロイン昇格があるかもしれません。(ネタバレー)
とまあ、メインヒロインこそアイリですけども他のヒロインもヒロインします。セリス先輩だったり、一部のキャラはヒロインしませんけど......
さて、それではこれぐらいで終わりたいと思います。
感想に評価もいただけたらありがたいです。と言うかくださいぃ!(懇願)
それではまた次の作品で!
〈コーラル〉「またねー!」