白き英雄   作:蕾琉&昇華

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また一ヶ月を過ぎてしまった......
すいません、昇華です。
作者はグラブルの古戦場で忙しいのです。すぐの更新はできません。
今回は後日談的な、という名目の主人公とヒロインのイチャイチャ話です。
私の趣味が入っているので嫌いな方もいるかと思われますが楽しんでいただければ幸いです。

それでは本編をどうぞ


12.十一章

 重い瞼を持ち上げ、ゆっくりと体を起こす。やけに重たい肩に違和感を覚えつつも部屋に設置してある姿見の前に行く。そこで俺は自身の変化に気づく。

 

「んなっ!? これって......」

 

 姿見にはいつもの紫がかった白髪ではなく薄紫色に変わっていて、()と共になった証である紫水晶(アメジスト)色の瞳は右目になっていて、左目は鮮やかな鮮血のような緋色に変わっていた。

 身体も女性に似ながらも引き締まった身体ではなく、ほんのりと脂肪がつき、膨らんだ胸は己の手からはみ出る程大きく、下着(ブラジャー)をつけていないにも関わらず張りがあり、形を保っている。腰は括れて細くなりその下にある臀部は丸く膨らんでいて、全体的に女性特有の丸みを帯びた体つきになっていた。

 

「......いやどうするんだこれ。完全に女体化してるし、今日の晩餐会にこれで行くのか?」

 

 なぜだか女体化した自分の身体を見ても思うところが無く、姿見の前で何一つ身に付けないまま唸っているとコンコン、とノック音が聞こえ、その後に続けて少年の声が届いた。

 

『おーい、シオン! もう起きてる? 入るよー!』

 

 主に一方的にしている少年の声はいつもなら大丈夫だったのだが、今はこの姿だ、止めようとするがすでに遅く、扉が開く。

 

「シオ......っ!? ごめんなさいぃっ!?」

 

「いや待てっ!? とりあえず向こう向いてこっち見るなっ!」

 

「は、はいぃっ!?」

 

 胸と秘部を隠してルクスに背を向けつつ、こっちを見るなと言い、ベッドのシーツを取って裸体を隠す。

 

「いいぞ、全く、返答を待たずに入ってくるとは。ルクスはそう言うところがあるからハプニングに巻き込まれるんだよ」

 

「え、ええっと。君は?」

 

 唐突に入ってこられたことに本当の女子のように反応し、説教していることに赤面しつつ、どう説明するか迷う。

 

「あー、えっとだなー」

 

 どう説明するか迷っていたとき、バンッ! と扉が激しく開き、金髪の少女と蒼髪の少女が入って来る。

 

「シオンー! 起きているかー! っ!? どういうことだっ!? ルクス!」

 

「シオン君......は、いないのかしら? それに貴女は?」

 

 リーズシャルテとクルルシファーは俺を見て首を傾げる。リーズシャルテにいたっては唸り声を上げ威嚇してくる始末だ。

 

「リーシャ様っ!? その、誤解ですよっ!?」

 

 ルクスが慌てて弁解をするがリーシャに部屋を出される。

 

「それで、貴女は何者なのかしら? シオン君の部屋にいたってことはまさか......」

 

 そこまで言って途端にクルルシファーの目が虚ろになる。ちょっと怖い、こう言うのを『ハイライトが消えてる』って言うんだよな。

 

「いや、シオンなんだが......」

 

「? 何を言っている。シオンは男だぞ? それも知らずに忍び込んだのか?」

 

「いや、忍び込んだんじゃなくて朝起きたらこうなってたんだ」

 

 俺はそう言うがリーシャ達から向けられるのは懐疑の視線のままで、

 

「とりあえず貴女、服を着たらどうかしら?」

 

 クルルシファーの言葉でシーツだけを纏っていると言うことを思いだし、赤面しながら女装用に貰った制服を着用した。

 

「普通に彼のを使うのね......」

 

「だから俺がシオンって言ってるだろ?エイン(・・・)

 

「!? 本当に貴女がシオンなの?」

 

 前に呼んでいたようにさらりと言えばクルルシファーが反応を示す。それに頷いて机に立て掛けていた純白の機攻殻剣(ソードデバイス)を取り、制服のベルトの剣帯に差す。そして腰に右手を置き、左手でピースを作りおでこに持ってくる。

 

「どうだ? 体も女子になったからな。完璧だろ?」

 

 きらりーんと擬音が聞こえそうなキメポーズを決めておどける俺に対してリーシャは、少し呆れたような表情をしていた。

 

「シオンだと言うのは、その女装を見て信じるが......そのテンションはどうしたんだ?」

 

「女装するとテンション上がるんだよ。まあ、時と場所は考えるが」

 

 すぐにキメポーズを解き、椅子に座ってコロコロと笑う。

 

「さてと。それじゃあルクスを呼ぶか」

 

「その必要はありません」

 

 凛とした声が部屋に響く、俺達三人が部屋の入り口を見てみればそこには金髪を腰まで伸ばし、翡翠色の瞳を少し困ったように伏せながら入ってくるセリスの姿とその後ろから入ってくるルクスがいた。

 

「えっと、シオン、なの?」

 

「そうだぜ? なんだ、信じられないか?」

 

 疑問形で問いかけてきたルクスに寄り、胸を腕に押し当てる。

 

「うわぁっ!? シオンっ!?」

 

「なんだぁ? 男の俺に興奮してんのか?」

 

 うりうりと胸だけでなく体を密着させると、顔を真っ赤にしたルクスが硬直する。

 

「なんだ? そんなに俺が可愛く見えるか?」

 

「えっと......うん、可愛いよ?」

 

「なっ!?」

 

 ルクスが苦笑しながらも放った言葉に俺は反射的に飛び退く、何故だか顔が熱い。なんだこれ! 言われるの凄く恥ずかしい!?

 

「ふふふ、シオン君も可愛いところがあるのね?」

 

「うわっ!? クルルシファー!?」

 

 俺が悶絶しているとクルルシファーにさわさわと髪を手でとかしながら耳元でそう呟かれた。

 

「はぁ、何故朝からこんなに騒がしいのですか......」

 

 俺の部屋にセリスの声が響き渡り、すぐに埋もれていった。

 

 

「......それで、シオン君はシオンちゃんになったのね」

 

 今朝の軽い騒動から長らくして、夕暮れ時、新王国の王城の一室で銀色のドレスを着た少女と眼鏡をかけた女性が話していた。

 

「まあ、そう言うことですね。晩餐会ではシオンの従者と言う設定で行きます」

 

 銀色のドレスを着た少女は柔らかい表情を浮かべたまま女性と向き合い、少し男のような立ち振舞いながらも、それがまた映える不思議な雰囲気を身に纏い、談笑していた。

 

「ふふふ、そう、面白そうね......それにしても似合っているわよ、そのドレス」

 

「ふふ、そうですか? ありがとうございます」

 

 少女と向き合うピンク髪の女性は微笑を浮かべながら少女の身に付ける銀色のドレスを褒め、褒められた少女は頬を朱に染めながら感謝を伝える。

 時計を見た少女は薄紫色の髪を艶のある漆黒のヘアピンで左にまとめ、席を立つ。

 

「レリィさん、そろそろ行きますね」

 

「ええ、いってらっしゃい」

 

 部屋の扉に手をかけ、レリィと呼ばれた女性に振り返りペコリと頭を下げる。

 その少女に手を振る女性は扉が閉まった後にふぅ、とため息を吐く。

 

「これまた面倒なことになりそうね......頑張って、シオン君」

 

 肘をついて悩ましそうに再度ため息をついたレリィは先程部屋を出た少女を気にかける姉のような、年上の彼女のような悩みを抱えながら手元にある書類に目を通し始める。

 窓から見える空の色はオレンジ色から藍色へと代わり始めていた。

 

 

「お、来たかシオン、うん、なかなか似合っているぞ」

 

 夜の帳が空を覆い、家に明かりが灯り。外灯が城下町を明るく照らすのを窓から眺めていた騎士団の皆がリーシャの声に反応してこちらを向く。

 俺が君からちゃんに変わったのは騎士団全員が知っていることで、晩餐会ではシーナ呼びをしようと騎士団全体で決まった--とティルファーがニヤニヤしながら報告してきた--らしく、リーシャと同じように俺が身に纏う銀色のドレスを見ては似合っていると言ってくれる。

 彼女達もそれぞれで華やかなパーティードレスを着て、いつもの彼女達とは違う艶やかさがあった。

 しかし、そんな彼女達が霞んでしまうほどリーシャ達は綺麗だった。

 

 リーシャは鮮烈な赤色のエンパイアドレスに金色のネックレス。

 

 クルルシファーは薄い水色のタイトドレスと白いフォーマルロング。

 

 セリスは黄色のXラインドレスの上から鈍色のカーディガン。

 

 フィルフィは紫色のバルーンドレスと桃色のイヤリング。

 

 個性を際立たせるドレスとアクセサリーを身に付け、和やかに談笑するその姿はともすれば神話の一場面のような、そんな神々しさすら感じさせる程だった。

 

「似合っているわよ、シオンちゃん?」

 

「ちゃんは止めろ、ちゃんは......でもありがとう」

 

「えぇ、私も貴女の可愛い姿が見れて嬉しいわ」

 

 からかってくるクルルシファーに苦笑しながらも嬉しそうに笑うクルルシファーを見ると自然と笑ってしまう。

 学園に来る前だったら想像すら出来ない幸せな日々を過ごせていると今さらながらに理解する。

 

「もうそろそろ始まるらしいわ」

 

「ん、わかった」

 

「ふふふ、それじゃあ、行きましょ?」

 

 少し物思いにふけていた俺はクルルシファーの言葉で現実に引き戻される。

 クルルシファーは俺と手を繋ぎ、晩餐会が行われる王城の中央ホールに向かって歩き出す。

 

「ほら、行きましょ? シーナちゃん」

 

「はいはい......よろしくね? クルルシファー」

 

「ふふっ、ええ、任せて」

 

 嬉しそうに笑うクルルシファーに引っ張られる形で晩餐会に俺は参加した。

 

 

「そこのご令嬢、私と少しどうですか?」

 

「いやいや、私とお茶でもどうでしょう?」

 

「あはは......えっとその、ちょっと......」

 

 晩餐会が始まり、開始直後まではクルルシファーと共に回っていたのだが、途中で離れてしまい、一人で座って白ワインを飲んでいたところに若い、いかにもって雰囲気の貴族と、中年のおそらく商人の二人から声をかけられた。

 やんわりと断るがそんなことは知らないと、どちらが俺を誘うのかの話になっていた。

 

「あ、あのぉ......」

 

 俺も俺で今は女でしかも『シオン』の従者としてきている。下手なことは出来ず貴族と商人の話も熱を帯びてきたとき、そっと手を引かれる。

 

「シーナちゃん? 大丈夫かしら? あっちに行きましょう?」

 

 手を引いたのはクルルシファーで、返答する間もなく貴族と商人の間から連れ出され中央ホールから離れ、コテージに出る。

 

「ごめん、助かった」

 

「良かったわ、困ってそうだったから」

 

 横で微笑を浮かべながら城下町を眺めるクルルシファーの横顔に思わずドキッとしてしまう。

 

「あら? どうしたのかしら、そんなにジッと見て」

 

「あ、わる、んむっ!?」

 

 悪い、と言おうとした俺にクルルシファーは細く綺麗な指を押し当て俺の言葉を塞ぐ。

 

「悪いだなんて思わなくていいわ。私は貴方に見られて嫌だなんて思わないもの」

 

 頬を若干赤くしながらも俺に笑いかける。

 

「私は一方的に得をするのは嫌なの、だから私は貴方為になにかをしたいの」

 

 押し当てられたままの指はそっと離され俺の頬に手が置かれる。俺は唐突の事で何も出来ないまま唇が重ねられる。

 優しく重ねるだけのキスではなく、舌を差し込んで俺の口内の粘液を味わうようにして長いキスで、一方的にされるがままにされ一分にも満たないにも関わらず何十分にも感じた幸せな時間は唐突に終わりを告げる。

 

「私は貴方のことが好きなの、貴方と共にずっと居たいの......まだ答えなくていいわ、でもちゃんと答えて」

 

 突然の告白に硬直していた俺を見てそう付け加えるクルルシファーは相当恥ずかしいらしく耳まで真っ赤になった顔を少し反らしていた。

 なんて俺も冷静に思考こそしているが正直ヤバい。告白されてただですら意識してしまう上にいつもはしないような行動にいつも以上に可愛らしく見える。

 お互いに気まずい沈黙が数分続いていた時、

 

「あれ? クルルシファーさんに......シーナさん? どうしたんです?」

 

 不意にアイリが声をかけてきた事で気まずい雰囲気は霧散し、クルルシファーは何処へといってしまった。

 

「邪魔でしたか?」

 

「ううん、大丈夫」

 

「そうですか......暇でしたら私と一緒に少し回りませんか?」

 

「え? あ、うん......じゃあお願い」

 

 アイリに手を引かれ中央ホールに戻る。クルルシファーに後ろ髪を引かれながらもアイリに引っ張られるようにして俺は中央ホールに入った。

 

 

 中央ホールで食事をとり、さまざまな貴族に声をかけられそれに答えて行く内にホールの端の人の少ない場所まで来た。

 

「......シオン兄さん。クルルシファーさんにはなんて答えるんですか?」

 

「っ!?」 

 

「どう答えるかはシオン兄さんの勝手ですが、この際だから言っておきますが、私もシオン兄さんが好きです」

 

「え......?」

 

 唐突の告白に言葉がつまり、言葉にしようとしたなにかが霧散する。

 

「家族として好きとかじゃなく、シオン兄さんを一人の男性として好きです......すぐに答えてとは言いません。ですけど覚えていてください、貴方の事を少なくとも二人は想っているってことを」

 

 途中から恥ずかしそうに頬を赤くしながらも俺の緋色と紫水晶(アメジスト)色の瞳から灰色の眼を反らさずに言い切る。

 その灰色の瞳は俺の左右非対称の瞳を正面からとらえ訴えてくる。

 

「まあ、どれだけ言っても無理をして私達を心配させるシオン兄さんはまた無理をするんでしょう」

 

 はぁ、とため息をつくアイリの表情はなんだか嬉しそうなもので、

 

「ですけどシオン兄さんは絶対戻ってくるって言いました、だから信じて待ちます」

 

 すると一歩俺に歩みより近くなっていた身長を背伸びをすることで縮め、俺の唇にアイリの唇を重ねる。

 柔らかなアイリの唇の感触と温かな体温が俺の唇に広がる。

 突然のことに硬直している俺を良いことに十数秒唇を重ねたままでいて、離れる時にペロッ舌で唇を舐めていく。

 

「ですけど心配ばかりしていたら体が持たなくなっちゃいます。だから、甘えさせてください、シオン兄さん」

 

 恥ずかしそうに頬を赤らめながらも笑顔でそう言うアイリに心臓が早鐘を打つ。

 

「ほら、あちらでダンスを踊るみたいですよ? 私達も行きましょうシーナさん(・・・・・)

 

 しかし、お互いに後一歩が踏み込めず一気に縮まった距離が離れていく。

 

「はい、わかりましたアイリさん(・・・・・)

 

 俺はあくまで従者として答える。

 手を繋ぐ事もなく中央ホールの中央で華やかな衣装に身を包んだ貴族の令嬢と嫡男が流れる曲にあわせて踊る。

 それを俺はアイリと共に見ていた。

 

 

 それから一回目が終わり、アイリはルクスのところに行くと言ってコテージに向かったアイリを俺は見送り、貴族達をうまくあしらいながら中央ホールを歩き回っていた俺はオレンジ色の髪の少女を見つけ、声をかけた。

 

「ティルファーさん、こんばんわ」

 

「あ、シオっち? こんばんは!」

 

 オレンジ色のパーティードレスを纏い、はつらつとした笑顔を見せながらこちらを振り向いた彼女、ティルファーは貴族から離れて俺の元に近寄ると腕を絡めてくる。

 

「どうどう? 似合ってる?」

 

「ええ、似合ってますよ」

 

 腕に感じる女性特有の柔らかさを極力意識しないようにしながらティルファーに返答する。その返答に満足したのか、頬を緩め、えへへーと心から嬉しそうに笑う彼女を見ると自然と笑顔になる。

 

「あ、そうだ! 次のダンス、一緒に踊らない?」

 

 彼女の笑顔につられて頬が緩んでいると不意にそう提案される。

 思わず緩んでいた頬を引き締め、彼女に返答する。

 

「私ですか? 私で良ければ」

 

「うん! まだ時間もあるし......ご飯食べよ?」

 

 小首をかしげ、可愛らしくそう俺に言うティルファーのお腹から、ぐぅ~と鳴る。それを恥じたのか顔を真っ赤にする。

 そのかわいらしい姿に思わず笑いが漏れる。

 

「ふふっ、ええ、食べましょう」

 

「ちょっと!? さっきの笑いって何!?」

 

「いえ、何でもないです、さぁ、食べましょう」

 

 ティルファーが顔をさらに赤くして俺に迫るが、俺は微笑をたたえたままティルファーの伸ばしてきた手に俺の手をあわせて繋ぐ。

 それに驚くティルファーを余所目に私は腕を引っ張り中央ホールから少し外れた立食パーティーの会場に向かう。

 

 

 きらびやかな装飾の目立つサイドホールには華やかな衣装を身に纏い、お互いの腹の探りあいをする貴族達の中に黒髪の少女と藍色の髪の女性が一際目立っていた。

 

「お、ティルファーにシーナちゃんじゃないか!」

 

「Yes.お二人ともやけに仲が良さそうですね」

 

 ノクトとシャリスの二人は立食用のパスタだったりを皿に盛り付けていたようでその途中でこちらに気付いたのか、その手を止めてこちらに振り向いた。

 

「仲が良さそうって、いつも通りだけど?」

 

「なら、ティルファーの手を離してあげてください。ティルファーが爆発します」

 

 え? と漏れ出た声は何故だったり、どういうこと、だったりの疑問からでたものだったがティルファーを見て理解できた。

 頭から湯気を出し、顔は過去見た中で最も赤く、耳まで真っ赤になっている。頬は上気し瞳の焦点はあっていない。

 

「ティルファー!? 大丈夫か!?」

 

 俺はその異常さに思わず彼女の肩を掴んで前後に揺さぶる。するとだんだんと焦点のあってきた瞳が俺の顔を映し出す。

 

「......ぇ? ......って、シオンっ!?」

 

 一度まばたきをしたティルファーは俺を見て慌てたようにして俺から離れ、息を整え始めた。

 

「|《目の前にシオンの顔があるからびっくりしたよ......》」

 

「ん? どうかしたか? 大丈夫か?」

 

「わっ!? な、なんでもないっ!」

 

 なにやら呟いたようだったがよく聞こえなかった。まあ、ティルファーもいつも通りに戻った訳だしいいか、

 

「はぁ、ティルファーも報われませんね」

 

「ああ、全くだ。なんと嘆かわしいことやら」

 

 そんな俺の耳にやけに平坦で抑揚の無いノクトとシャリスの会話が聞こえた、そちらを見れば俺を見てニヤニヤしながら棒読みの会話を続ける二人がいた。

 

「えっと......一体どういう意味で?」

 

 会話とシャリス達のニヤニヤしている意味がわからず問いかけるとシャリス達は笑みを深めながら、

 

「ふふふ、そのままだよ。私達の口から言うのはどうかと思うから言わないでおくよ」

 

「ティルファーがダンスの後に言いたい事があるそうです」

 

 とだけ言い頑張ってくれたまえ、と俺の肩軽くを叩きその場を去っていく。直前、耳元で、

 

「彼女の気持ちにしっかり答えてあげてくれ。すぐじゃなくても......ね」

 

 その呟かれた。いきなりのことで一瞬硬直したものの振り替えってその意味を聞こうとしたが、人混みに紛れて行った。俺は頭をかきながらティルファーがいた方向を向くが、そこにティルファーはいなかった。辺りを見回すが彼女のオレンジ色の髪を見つけることは出来ず、ここで待つことにした。

 

 --フム、主一人ニナッタヨウダナ。

 

 --どうした? ジャバウォッグ。そっちから話しかけて来るなんて。

 

 近くにあった椅子に座り、軽くお茶を啜りながらジャバウォッグと会話を続ける。

 

 --と言うかなんで片言なんだ?

 

 --ふふふ、時にはユーモアも必要だろ?

 

 --......まあ、いいや。それで? 何の用だ?

 

 ジャバウォッグとの会話は口で会話をするのではなく脳内で思った事がジャバウォッグに伝わるらしく、ジャバウォッグの言葉も脳に直接響くようにして聞こえる。

 

 --うむ、主の今の状態についてだ。

 

 --今の俺の状態について何か知っているのか?

 

 --ああ、シオンも同じ状態になっていたからな。

 

 ジャバウォッグは愉快そうな声音でそう告げる。

 俺はそれに思わず苦笑しそうになりながらもお茶を飲み干し、新たに注ぐ。

 周りに貴族達はいるが話しかけようとはしてこないのでちびちびと啜りながらジャバウォッグとの会話を続ける。

 

 --今の主は大聖域(アヴァロン)から得た力を体に馴染ませようとしている。

 

 --何故力を馴染ませるのに女体になる必要が?

 

 --女体を使って機竜を調整していたせいだな、その結果女の方が機竜適正が高かったりするわけだ。

 

 --女体の方が馴染みやすいってことか......彼は女体から戻れたのか?

 

 --ああ、主も数日もすれば戻るであろう。望めば女体になれるようにもなるぞ?

 

 最後の一言に思わず吹き出す。

 その時に飲んでいたお茶が変なところに入ってむせる。周りから奇怪の目を向けられるが、むせるのを見て興味を無くしたようにまた歩き出す。ごほごほと咳をしながら飲み終わったカップを机に置いて息を整える。

 

 --まあ、それは主の好きにするんだな。待ち人も来たようだな、ここいらで我は黙るとする。

 

 そう言い残してブツンと会話のパスが切れた感覚がして、ため息をついた。

 

「シオっち? どうしたの?」

 

「えっ!? あっ、なんてでもないよっ!?」

 

「焦りすぎじゃない? 大丈夫?」

 

「......そうだな、えっと、それでどこに行ってたんだ?」

 

 ティルファーに苦笑いされながらそう言われ恥ずかしさに頬を赤くしながら、その話題をこれ以上追求されないように別の話に変えようとする。

 

「んーとね、ちょっとご飯を取りに。シオっちもいるでしょ?」

 

「ん......もらう」

 

「わかった! はいどーぞ!」

 

 太陽のような笑顔を浮かべ、高めのテンションで渡された皿にはサラダとナポリタン、しっかりと火を通した魚介類をトマトソースで和えた物。それとパンが二つ。

 

「ありがとうティルファー。じゃあいただきます」

 

 合掌をした俺とティルファーは特にしゃべることも無く黙々と食事を取る。

 そして十数分して食べ終わった俺達は皿を片付け、中央ホールに向かう。

 

「そろそろ始まるのかな?」

 

「みたいだな、よろしくねティルファー」

 

「うん! よろしく! シオン!」

 

 手を繋ぎ、歩を進める。

 お互いの波長が合うように動きがシンクロする。

 曲が流れ始め、複数の組が一斉に踊り始める。ティルファーと目線が合い、彼女は恥ずかしそうに頬を赤くしながらも楽しそうに笑いステップを踏む。

 次に何をしようとしているのか、どちらに動きたいのかが目線を通して伝えられ、それにしたがってステップを踏み続ける。

 そして数分のダンスが終わり、止まった俺達に周りの見ていた貴族達から拍手が送られる。

 ティルファーは顔をうつむかせ耳まで真っ赤にして恥ずかしがっているので、その手を握り、貴族達の輪から抜け出す。

 

「ティルファー、楽しかった?」

 

「うん! 最後は少し恥ずかしかったけど......えへへ」

 

 嬉しそうに笑うティルファーを見てつられて笑う俺は不意にシャリス達から言われた言葉を思い出した。

 

「そう言えば......ティルファー、何か言いたい事があるのか?」

 

「えっ? 何か言いたい事? えーと......ッ!!」

 

 思い出すように少し唸っていたティルファーは突然頬を朱に染め、もじもじし始める。

 

「えーと?」

 

「あ、あのねっ! ......私さ、シオンの事が好きなのっ!」

 

 ティルファーの放った言葉は俺の耳に入り、理解するまでに十数秒を要した。

 俺の事が好き、好き、好き......好き!? 

 

「シオンも何かしたいことがあるって聞いたから......すぐとかじゃ無くていいの。だけど、私がシオンの事好きだって......わかって欲しくてさ?」

 

 恥ずかしそうに頬を赤く染め上げながら俺にそう告げるティルファーはいつも以上に可愛らしく見えて、

 

「だから、シオンが私に答えを出せるときに、答えて欲しいな」

 

 恥ずかしそうにそう言ったティルファーはどこかに走って行った。

 

 --ふむ、主を好いているのが三人もいるのか、人気じゃのぉ。

 

 --俺を好いてくれているのは嬉しいが、俺なんかと共にいてもいいことは無いさ。

 

 ジャバウォッグの茶々に苦笑を返し、ティルファーの走っていった方を見る。

 俺はため息を吐き、コテージに向かう。ステンドグラスから射す月光はより明るくなっていた。

 

 

 月光の下、俺は人のいないコテージで一人空を見上げていた。

 群青色に塗りつぶされた空にちりばめられた宝石のように星が煌めき、巨大な満月が城下町を照らしだし、影を白に塗っていく。

 

「あれ? シオン?」

 

 俺がボーッと城下町を見ていると、後ろから聞き慣れた友人の声が聞こえた。

 

「ルクス? なんだ? リーシャ達から逃げて来たのか?」

 

「えっと......その......」

 

「ふーん、じゃっ......」

 

 俺はおもむろにルクスの首の後ろに手を回すとグイッとルクスの頭を俺の胸元まで引き寄せ、その頭を押しつける。

 

「うわわっ!?」

 

「じっとして黙ってろ、くすぐったいだろ? 俺なりの慰め方だっての」

 

 ギュッとルクスの頭を抱きしめ、密着する。ルクスの体温と興奮しているのか少し荒くなった息を感じる。

 

「疲れたんなら、癒してやるよ。癒せてるかはわからないがな」

 

 コロコロと笑う俺に対してルクスは身動ぎこそするが、強引に離れようとはしない。

 頭を優しく撫で、諭すように自分でも驚くほど優しい声音でルクスに語りかける。

 

「お疲れ様、ルクス。何か相談したいことがあるなら、言ってくれよ? 少しでも力になりたいから」

 

「ん......ってそろそろ離し、んむぐっ!?」

 

「ふふふ、逃がさないぞ?」

 

 茶目っ気たっぷりに笑う俺に観念したのかルクスは軽くため息をつき、あまり動かなくなった。

 

「まあ、なんだ。俺もルクスの力になりたいんだ。だから頼ってくれ」

 

 最後にギュッと強く抱きしめて、解放する。

 顔を真っ赤にしたルクスを見て苦笑しながら俺はルクスの手を取った。

 

「さてと、そろそろフィナーレだし。主役のお前がいなくちゃ締まらないだろ? 行くぞ!」

 

「えっ? ちょっとまっ!?」

 

 俺はルクスの手をグイグイと引っ張り、中央ホールの中央、リーシャ達の集まる場所に向かう。

 

 

「遅いぞ! ルクス! シオンは連れて来たんだろうな」

 

「え? 俺を待ってたの?」

 

 中央ホールでリーシャ達と合流した俺はその言葉に違和感を感じた。

 

「ええ、そうよ? やっぱり全員いないとね?」

 

「おにい、遅い」

 

「シオン、さあ速く!」

 

 集まった俺達はルクスの周りに並び、写真家の方に向く。

 

「周りは花畑だな、ルクス」

 

「アハハ......」

 

 苦笑いを浮かべるルクスの首もとに手をぶら下げるようにして肩口に頭を置く。

 写真家の合図で写真が取られ、並んだ列が崩れる。

 

「ふふふ、ルクス! これから私の騎士として活躍してもらうぞ!」

 

 やけに上機嫌のリーシャに絡まれるルクスを見て少し悪戯をしたくなった。

 

「なあ、ルクス......ちょっと耳をかしてくれ」

 

「え? いいけど......」

 

 疑問に思いながらも耳をこちらに向けるルクスの耳に手を当てて、少し耳から口を離して、周りに聞こえるようにわざと少し大きめの声で言葉を紡ぐ。

 

「ルクス。お前のこと、私も好きだぜ?(・・・・・・・)

 

「ッ!?!?!?」

 

 頬を真っ赤にしてこちらを振り向くルクスにわざとらしく頬を赤らめ、しおらしい態度をとる。

 

「おいっ! シオンっ! どういうことだっ!?」

 

「どうもこうも、俺は主が好きだって事だ! 敬愛(・・)している!」

 

 心のそこから楽しみ、嘘偽りない笑顔で悪戯のネタばらしをする。

 

「リーシャ、速くしないと誰かにとられるぞ?」

 

「ぐぬぬぬ......」

 

 悔しそうに唸るリーシャに思わず苦笑が漏れる。俺はそっとルクスに近寄り手を繋ぐ。

 突然の俺の行動に驚いた表情でルクスはこちらを見るが俺は特大の笑顔で返す。

 

「これからもよろしくな? ルクス」

 

「ぁ......うん、うんっ! よろしくね、シオン」

 

 お互いの花が咲いたような笑顔を見ながら笑う。久々に訪れた平穏が少しでも長く続くことを俺はこの時願った。




いかがでしたか?
主人公(女体化)とヒロイン達のイチャイチャとなりました。ええ、私の趣味です。すいません。
今回は一万とちょっととなり比較的少ない字数となりました。

《ルクス》「ねぇ、昇華さん。なんで僕とシオンを接近させたの?」

《昇華》「なんでって、趣味?」

《ルクス》「趣味!? え? じゃあまさか......」

《昇華》「お察しの通り、シオンが女体化したのも私の趣味だ」

《ルクス》「えぇ......」

《昇華》「まあ、次のお話ではあまりルクス君が出てこないし、今のうちに出しとこうかなって......」

《ルクス》「理由が酷いっ!?」

《昇華》「あはは......ごめん、オリジナルストーリーみたいになるから、原作主人公のルクス君の出番が基本的に少なくなるんだよ」

《ルクス》「えっと、事情があるんだね......」

《昇華》「ごめん、頑張って出すから」

《ルクス》「まぁ、無理しないでね......?」

《昇華》「大丈夫だよ~。それじゃあこれぐらいで、いくよ? せーのっ!」

《ルクス&昇華》「また次のお話で!」

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