もしモンストの堕天使が銀さんみたいな感じだったら 作:ネルゲル
ルシファーはサンダルフォンを担いで飛んでいくメタトロンを見送ると
「さて…」
この場から逃げる前に、ウリエルから奪い返したオーブを懐から取り出した。
「………」
虹色に光るオーブに何かの想いを込めるかのように暫く見つめるとまた閉まった。
「ガブを見捨てる…か」
あの二人の他にも妹的な存在はいた。
いつも自分を気にかけて常に心配して離れようとはしないガブリエルの姿が目に浮かぶ。
もちろん、ウリエルもミカエルもラファエルも大切だ。
それでも三人より近くにいたのはガブリエルだった。
一瞬、彼女だけをこっちに引き込むかと思ったが
自分とは違って挫折を知らない彼女を巻き込む訳にはいかない。
本当はあの二人をも巻き込ませたくなかったが、何言っても言う事が聞かなかった。
サンダルフォンは兎も角、聞き分けの良いメタトロンでさえもルシファーに怒りを表して反論していた事を思い出して苦笑した。
そして、ゆっくり歩き出したルシファーは
「……何してんだかなぁ…私は。だが、もう後戻りは出来ない。私には前に進むしかないんだ、やり遂げなきゃいけない事があるんだ。だから…すまないな、ガブ」
大切な妹分を見捨ててでも遂行する決意をした。
歩き出した彼女の目先にあるものは……
“すまないな、ガブ”
不意にガブリエルの耳にそう聞こえた気がして辺りを見渡した。
「ルシさん……?」
ガブリエルはもしかしてルシファーが近くにいるのでは、と確認しているが、どこにもいない。
「ガブ君、どうしたんだい?」
キョロキョロと見渡している彼女にミカエルは首を傾げた。
「今、ルシさんの声が聞こえたような…」
「ルシ君の…?」
今ガブリエル達が居るのは、飛空船格納庫の近くの建物の中にいる。
その近くでルシファーの姿が目撃したとの情報が入った為に、ここで集まっていた。だが、部屋はここだけで天使達しかこの場にいない。
ルシファーがこの中に居るはずがないのだ。
「ルシ君を心配しずきて幻聴でも聞こえたんじゃないか?」
ミカエルは冗談まじりに訪ねるがガブリエルは不安げな表情で
「……嫌な予感しかしないんです」
そう言って口を閉ざした。
流石のミカエルも真面目な顔になって天使達に命を下す。
「ここらへんにいるって事は船で逃げるかもしれない。直ちにルシファーを捜すんだ!」
天使達に捜索の他に、ルートの包囲網を固めるように伝えて自分達も出ようとすると
ドゴォオオオオオン!!!と飛空船格納庫から爆発音が聞こえた。
「何っ!?」
「…っ!!ルシさんっ!!!」
「ガブ君!待てっ!!」
ミカエルが驚いている隙にガブリエルが爆発した方向へ飛び出した。
それに続いてその後を追う。
「何事ですか!?」
着いたガブリエルはそこに居た天使達に聞く。
「オルゴールが鳴ったと思ったら、いきなり爆発しまして…」
ゲホゲホと煙が漂う中で咳き込みながら答えているとミカエルも到着した。
「ったく!君も誰かさんみたいに人の話を聞く前に動かないでくれよっ!」
ルシファーそっくりだと言われ、あははと苦笑するガブリエルだが、
キュイーンとここにあるほぼ全部の船からエンジンが掛かり、無人で次々と発進していく光景に驚愕した。
「無人に紛れて逃げる気かっ!?」
天使達が慌てて追いかけて行こうとしているのを見て我に返って続こうとしたが
「まぁ、待て。ガブ君」
腕を掴まれて阻止された。
「ミ、ミカさん?」
「そう慌てる必要はないさ。“急がばわくリン取り逃がす”って言うだろ?」
「は、はぁ…?」
今一、落ち着いているミカエルの行動が読めなかった。
「…そこにいるんだろ?」
そんなガブリエルを他所に、ある物陰を見つめる。
そこから出てきたのは
「……やれやれ。やっぱりお前が見つけるんだな。ミカエル」
ルシファーだった。ミカエルの観察力に流石だと言ったような表情で二人の前に現れた。
「伊達に君と悪さしてないからね」
当然、と言った表情で笑うミカエルと
「ルシさん…っ」
困惑したような表情のガブリエル。
「ようガブ。そんな顔してどうした?」
そして、ニヤニヤと笑っているルシファー。
「……ルシ君、君が狙ってるのはあの船かな?」
ミカエルが指す方向には一隻の小型飛行船がある。ルシファーに答えを求めると「正解」と笑う。
「こちとら、急ぎなんでな。ちょいと行かせて貰えませんかね?」
行動がバレていてもヘラヘラしているし、余裕すら感じるルシファーの態度に不信感を抱く二人。
「君は部隊を率いる事から身を引いてからおかしくなってるのは、皆分かってる…だけどルシ君が意味もなく天界を敵に回してまでこんな事をする訳がない。何か僕達に隠してるんだろ?」
ミカエルもルシファーを見てきた一人だ。ルシファーという存在を充分に理解しているつもりだからこそ、彼女が何かを隠していると推測する。
「ルシさん…お願いです!話してくださいっ!!」
ガブリエルも同じ考えを持っていたのでルシファーに本当の事を話して貰いたいと願っている。
それを嘲笑うかのようにルシファーから告げられた言葉は
「ククっ。…揃いも揃って馬鹿だな、お前らは。理由?隠すも何も、私はただ、窮屈になった天界を壊してやろうと思っただけだ。飽きたんだよ…こんなつまらん世界にいるのは」
二人が思っているような答えではない、ただ自己満足でやっているという、身勝手なものだった。
ミカエルとガブリエルは酷く驚いていた。いつものような怠そうな表情で言ったルシファーに。
「……本気で言ってるのかい?」
「さぁーな。どうだろうな?」
ミカエルは真意を確かめるように睨みつけるが、ルシファーには効果がなく表情はまるで変わってない。
「ふざけるなよ!!ルシファー!!」
ミカエルは怒り、自分の武器である銃を現出させる。
「待って下さいミカさん!」
今にも撃ちそうな彼女をガブリエルは制止する。
「ルシさん、どうしてですか…?天界が飽きたなんて嘘ですよね。何でいつも、誰にも言わずに一人で抱え込むんですか!?そんなに私達は頼りないですかっ!?」
最初は冷静に話していたが、徐々に感情的になって声を上げる。
最後には泣いてしまっていた。
泣いているガブリエルを見たルシファーは困った表情になる。
妹のように接していたガブリエルには甘かった為に、泣いている姿を見るとめっぽう弱い。
ミカエルも銃を下ろし、彼女の様子を伺っている。
だが、ルシファーもここで折れる訳にはいかなかった。
「……死にたくなきゃ、そこを退け。ミカエル、ガブリエル」
声を低くし、殺気を放ちながら木刀を二人に向ける。
「なっ…!」
「……っ!」
急に尋常じゃない殺気が二人の動きを止める。
体が竦み、上手く動けない状況に戸惑いを隠せない。
ルシファーはそんな二人をよそに木刀を肩に担いで船へと歩く。
「そんなんで私を止める気だったのか?大天使長が揃いも揃って甘く見過ぎなんだよ」
二人を通り過ごし、彼女はそう言って船の前まで行く。
「なぁ」
ルシファーは船に乗る前に未だに動けない二人の方に振り返る。
「…お前達だけは変わってくれるなよ?」
ふんわりと笑い、そう言って乗り込んでエンジンをかける。
「待て!ルシ君!!」
「ルシさん!!行かないでっ!!」
漸く動けた時にはもう遅い。
二人の呼び止める悲痛な叫びはルシファーには届かない。
飛行船はそんな二人を無視して飛びたって行った。
「……見たか?ルシ君の顔を」
「はい…優しい笑顔でしたね」
去り際のルシファーの表情は優しかったと二人は確信する。
「天界を出るゲートは一つしかない。手は打ってある…けど」
「…?」
ミカエルは彼女ならやりかねない事を一つだけ思い浮かぶ。
「ルシ君なら…死ぬ覚悟で嵐の中を突き進んで行くかもしれない」
「…っ!?まさか!?」
ガブリエルはミカエルの言葉を理解して気付いてしまった。
「……もし、突き抜けたとしても。流石のルシ君でも堪えるだろう。そこにつけ入るしかない」
ガブリエルは不安げな顔でルシファーが行った場所を見つめる。
「それに、やっぱり僕はルシ君を信じるよ。飽きたから壊すとか、ルシ君はそんな理由であそこまでしない。…天界で何かが起きている…それをルシ君は気づいてるんだろうね」
ミカエルは天界で不穏な動きがあると推測してルシファーはそれに気づいていると確信している。
「僕だけじゃない。きっとラファ君やウリ君だって同じ気持ちさ。ガブ君、君が一番近くに居たんだ…わかるだろ?」
ガブリエルはミカエルの言葉を聞いてルシファーとの思い出を振り返る。
「私も…何があっても絶対にルシさんを信じています!!」
ルシファーから妹のように可愛がってもらった自分が信じなくてどうするんだと心の中で叱咤し、決意を表した。
「…その意気だよ」
ミカエルはその表情に安心したところで
「……大天使長ミカエル、ガブリエル。貴方達にはルシ姉の所には行かせない」
フードを深く被って正体を隠している者が現れた。声からにして女性だとわかる。
「貴方は…?それにルシ姉って……」
ルシファーを姉として慕っているような言動にガブリエルは戸惑った。自分以外にもその存在がいた事に
「貴方達四人は…ルシ姉の計画には必要ないなの。特にガブリエル…貴方が一番、ルシ姉に支障が出てしまう」
「…え?」
「ガブリエル。今のルシ姉を知らない貴方はあの人には必要ない」
「!!そんなっ……!!」
ガブリエルは愕然とする。
「貴方の事をあの人は一番に気にかけてる。とても大事にされてるのはわかってるつもりなの。でも、ルシ姉の隣には私達がいる。今ルシ姉が頼ってるのは私達なの。貴方達じゃない」
少し殺気を込めて強く言った女性に更にガブリエルはますます戸惑い、ミカエルは不信感を露にする。
「君はルシ君が何をしようとしてるか知っていて一緒に行動している共犯者か。いつの間にルシ君と親しくなってるみたいだが…そこまで言われる筋合いはないと思うんだけど」
ミカエルは怒っているように睨みつけるが
「………もうルシ姉の邪魔しないで」
何ともないように忠告はしたから、と言って煙幕を張った。
二人は手で目を防ぎ、さきほどいた女性の場所を見るとすでにいなかった。
「ガブ君…僕はアイツの言うことは聞かないよ。ルシ君と直接会って見定める。…最悪は対峙するかもしれないけど」
「私もです。ちゃんとルシさんの声での真意が知りたい」
何と言われようと二人の決心は揺るがなかった。
『おう、どうしたお前ら?どっからかの襲撃にでも備えてんのか?』
天界の外に繋がるゲートには大きな飛行船が守るように立ちふさがっていた。
「る、ルシファー様!!どうしてこのような事を!?」
モニターに映る彼女を見て天使達は動揺している。
『ったくよォ、どいつもこいつも同じ事言いやがって』
彼女は勘弁してくれとでも言うような表情になった後
『面倒だから簡単に言うぞ。私は私の護りたいものを護る為に動いてるだけだ』
ニッコリと笑った。
「う、撃てぇええええ!」
その笑った表情にゾクリと悪寒が走ったのか一人が迎撃するように命令するとミサイルが発射された。
発射されたのを見て
「短気だねぇ」
向かって来たミサイルを避ける為に機体を動かす。
が、それに合わせてミサイルも追ってくる。
「追撃型か…」
ルシファーは少し考えた後、上空に機体を飛ばすと雲に向かって急降下した。
「こんなとこで死ぬわけにはいかないんでね。無理にでも突破するしか、ねぇよな!!」
自分もどうなるかわからない嵐に突っ込んでいく。
「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
雷が鳴り響き、機体からもアラームが鳴っている。
(頼むから…保ってくれよ…)
ルシファーは意識が薄れていく中、それしか頭になかった。