ナランチャが緑谷出久と呼ばれる赤ん坊に転生を果たして1週間後…ナランチャは車の中でベビーシートに座りながら、外の景色を見渡していた
(スゲェー、日本にはビルがたくさんあるって聞いていたけどマジだったんだな。あ、イタリア語の看板。アツアツのピッツァが食いてえなァ…)
「えー、あー」
「ふふ。楽しそうね、出久」
「そうだな。病院では元気を有り余らせていたからな」
車の助手席に座っている今世の父親と母親がナランチャをチラッと見ながら嬉しそうに笑っていた
でも、ナランチャに分かるのは両親の態度と表情だけだった
(父さんと母さん、うれしそうだな。でも何言ってんのかサッパリわかんねー。オレを見ながらイズクって何度も言ってるからそれが今のオレの名前なのかな。イズク…イズク…変な名前だな)
「うー」
そう、生粋のイタリア生まれイタリア育ちであったナランチャには日本語が全く分からなかった。日本のあるアニメが好きではあるが、どちらかというと雰囲気や世界観を楽しんでたので日本語がわかるというわけではなかった
それでもこの国が日本だと分かったのはそのアニメのおかげでもあった
(……オレ、本当に生まれ変わったんだな……)
ナランチャは最初、自分の置かれた状況が全く理解できてなかった
緑谷出久として生まれ変わって次に目を覚ました時は、満足に動かせない体を無理やり動かしながらベッドから降りようとしたり、大声で叫んで(実際は泣いて)威嚇したりしたが、0歳児の肉体では脱出など不可能であった
1週間ほど経ってようやく冷静に考え出したナランチャだが、もともと何かを考えたりするのが苦手なナランチャは難しく考えるのをやめた。そのまま新しくできた家族と一緒に、車でどこかに向かっているのだった
そしてナランチャには、今3つの悩みがあった
1つは分かりやすく日本語が分からない。イタリア語なら当たり前のように話すことも聞くこともできるが、日本に住んでいる以上そんな機会はまずないだろう
2つ目は自分の能力
(…『エアロスミス』!)
「えあー!」
試しに能力の名前を心の中でつぶやいてみるが、1週間続けてできないことが簡単にできるわけがなかった
ナランチャが前世で住んでいたイタリアでは、人間の精神が具現化した超能力「スタンド能力」を持つ「スタンド使い」が多く住んでいた(例外として人間じゃないスタンド使いもいる)。当然ナランチャもスタンド使いの1人であり、ナランチャの精神がそのまま乗り移っているのだからスタンドもそのまま出ると思っていたのだが
(……やっぱり出てこねえ……)
「あえー…」
緑谷出久に生まれ変わってから1度もスタンド能力を出すことができなかった。1週間近くもスタンドが出せないという事実がナランチャの心を思いの外ネガティブにしていた
そしてナランチャが必死にスタンドを使えるようにしている3つ目にして最大の理由が…
とぅるるるる とぅるるるん
「ん?仕事の電話かな?インコ、すまないが取ってくれないか」
「分かったわ」
運転で手が離せない父親、
フワ────ッ
カバンが宙を浮いてインコの手まで引き寄せられた
(うおおおおおおッ!!!)
「うおーッ!」
「ん?どうしたの出久?」
ナランチャ(正確には出久)が突然声をあげたことにインコは疑問符を浮かべるが、ナランチャはそれどころではなかった
(また物を「引き寄せ」やがった!近くの物しか引き寄せてないし力も弱いみたいだけど、もしかしてブチャラティやジョルノみたいな近接パワータイプのスタンドなのか!?)
……そう、ナランチャはこの世界における人類の8割が持っている先天性の超能力“個性”をスタンド能力と勘違いしているのだった
病院の中でトカゲ人間や、氷みたいに冷たい息を吐くヤツや、体がゴムみたいに伸びてるヤツを見た時、ナランチャはそれはもう錯乱した。無理やり逃げようとしたのも、その光景を見てスタンド使いがいると思ったからである
とりあえず、ナランチャの現在の目標は日本語の習得、そしてスタンド能力を再び使えるようにすることである
(まだわけがわからねーがよォ〜、生きてるっつーんなら、トコトン生き抜いてやるぜ──!!!)
「うえ──!」
母音を叫びながら、この危機を脱するとナランチャは強く決意した