作:歌猫

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 最初の方に年齢制限違反している描写がありますが、決して薦めているわけではありません。
 このお話はフィクションです。皆さんはきちんとCEROを守ってゲームをプレイして下さい。


プロローグ

 とある家のリビングにて、兄が大学の期末勉強に勤しむ傍らで、AO試験で一足早く大学に合格した彼女は何も気にすること無くゲームで遊んでいた。プレイソフトは俗に言うギャルゲ・エロゲというものであり、一般的に女性がするような内容では無い。しかし彼女は楽しんでいる様子であり、また同空間内にいる兄も当然のように受け取っている始末だ。

 無事にエンディングを終えた彼女は、次なるソフトに手を伸ばした。

 

「お、今度はサモン4か」

「最近のは粗方終えたし、ギャルゲ・エロゲ以外をするのも良いかと思って」

「それでもキャラ好感度ありのゲームに走る所が何とも」

「失礼な、今回は召喚獣に癒されたいから選んだだけだ」

 

 兄の物言いに憤慨している彼女であったが、兄自身はそんな彼女の様子を気にすることなく話を続ける。

 

「んで、今回の攻略対象者は?」

「ポムニットさん一択」

「……お前、アカネが好きじゃなかったか?」

「キャラはね。でもアカネにはトウヤがいるし、ライの相手はポムニットさんでしょ」

「相変わらずマイナー厨だな、お前」

「マイナーとは失敬な! 不特定多数がこのカップリングの奥深さに気付いていないだけだ!!」

「それを世間一般ではマイナーと言うことをいい加減認めろ愚妹」

「中二の時に堂々とエロゲ買ってきてまだ小学生だった私がいる前でプレイするという暴挙を犯した愚兄に『愚妹』とか言われたくないんだけど」

「それはそれ、これはこれだ」

「んなこと言うのはこの口か?」

 

 兄のあまりの物言いに、彼女は勉強の手を止めていない兄へと近付きその頬を引っ張った。そんな暴挙をかまされているのにも拘わらず、兄は気にすることなく手を動かし続けている。その様子に彼女は、呆れたような何とも言えない表情で手を離した。

 

「…………こんだけされて、良く勉強出来るね?」

 

 彼女が見ている限りでは兄が今勉強しているのは、似た組成式の多い有機化学である。進学校で上位をキープしていた彼女ですら覚えることの多さに匙を投げた科目だ。その上過去の期末試験問題を解いているらしく、手元に何の資料も無い状態で手が止まることなく記述されていく。ふと見えないように伏せてあった模範解答の用紙を手に取り兄が書いた答えと見比べてみると、正答率が九割以上を超えていた。普段はアレだが勉強運動その他諸々をそつなくこなせる兄に、一体何をどうしたらこれだけのハイスペックな人間が出来あがるのかと思いながら、彼女は兄に言った。

 

「そりゃお前マルチタクスで鍛えたからに決まってんだろ」

「いや、マルチタクスは人間には出来ないものだから」

 

 兄の言葉を彼女は一蹴する。

 実際、彼の自由大国の運輸安全委員会が『運転中に何かを書くことは、法廷制限の三倍の血中アルコールレベルで車を運転することに、機能的には等しい』と報告されたように、別々のことを同時にやるのは不可能に近いレベルのことだ。

 

「や、分割思考はトレーニングを積めば簡単に出来――あれ? お前『リリなの』知らなかったっけ?」

「『リリなの』…………ああ、『リリカルなのは』のこと? 確か『とらハ3』のファンディスクについている奴だよね。なのちゃんとクロノ君の恋物語。『とらハ』関係はやったことないから詳しいことは知らないけど、二次創作である程度の知識はあるよ」

 

 彼女の返答に、兄は勉強の手を止めて彼女を見る。その表情は、まるで喉に魚の骨が引っ掛かって取れないといった風のものだ。そんな兄の様子に、彼女は怪訝そうな顔を浮かべた。

 

「何さ、変な顔をして?」

「いや、お前が『リリなの』を見ていなかったどころか、『とらハ』をプレイしていなかったことに意外性を感じている。確か俺持っていたはずなんだけど「寄越せ! 今すぐ寄越せ!!」――へいへい」

 

 言葉を遮って要求を突き出した彼女に対し、兄はただ呆れた声で立ち上がった。彼女の望み通りの品を取りに自分の部屋へと行ったのだろう。そんな兄の背中を見送った彼女は、期待感満載の表情から一転して怪訝そうに首を傾げた。

 

「…………何で私、兄貴が『とらハ』持ってることに気付かなかったんだろ?」

 

 兄妹の家にあるゲームの所有権は全て兄にあるが、遊び終えた後きちんと元の場所に戻すことを条件に彼女も自由にプレイすることが出来た。そのため、兄が持っているゲームで、シナリオ性のあるものは片っ端から手をつけていた。だからこそ、自分が『とらいあんぐるハート』のソフトに気がつかなかったのかが不思議でならない。一瞬兄が意図的に隠していたのではないかと邪推したが、先程の兄の様子からその可能性はゼロだと彼女はその考えを一蹴した。

 

「…………まぁ良いや。それよりも準備しよっと」

 

 その言葉を発したと同時に、彼女は頭を切り替えた。今考えたところで過去の自分の行動は変えられないと思ったらしく、元の期待感の溢れる表情に戻し、ディスクの取り出しボタンに手を伸ばす。

 

 その瞬間、眩い光が彼女を襲い、彼女は意識を手放した。

 

 

          *   *   *

 

 

 それは、バイトが終了した時のことである。先程まで快晴であったはずの空が急に曇りはじめ、突然雨が降り始めた。天気予報でも降水確率が0%だっただけに何の雨具も用意していなかったため、苦肉の策として店に補充されていた大きな透明ビニール袋を使用することにした。バイト先の店長や同僚からは、「お前相変わらず運が無いなぁ」と苦笑しながら「道中気をつけろよ」とも声を投げかけられて、彼はバイト先を後にした。

 

 バイト先の人達は彼のことを『不運』だと称しているが、彼は自身の運の無さを『巻き込まれ体質』のせいだと思っている。自動車衝突事故に巻き込まれるのは日常茶飯事、迷子騒動から果ては銀行強盗事件まで、幼少期の頃から数多くのものに巻き込まれ続けていただけに間違いないと確信していた。

 

 しかしその日は彼にしては珍しく、何一つとして巻き込まれたものが無かった。バイト先へ向かう道中で事故に遭わず、バイト先で働いている最中におっちょこちょいで良くミスをする後輩のドジに巻き込まれることも無かった。

 常人であれば「今日は運が良いな」と思う程度であるが、彼はそうは思わない。家へ帰る道中に必ず何かに巻き込まれるのだろうなと諦めが混じった気持ちで客観的に考える。

 年がら年中何かしらのものに巻き込まれ続けた彼にとって、最早何かに巻き込まれることは日常の一部に組み込まれていた。

 

 それでも金銭面の問題から、怪我や入院に繋がる様な出来事に巻き込まれたくないというのが本音なのだが……。

 

「――――しっかし、また随分と酷い雨だな……」

 

 信号で立ち止まった彼は、ポツリと呟いた。今はもう土砂降りで、周辺がとても見え辛くなっている。道行く人どころか通う車でさえ見当たらないといったところから、どれ程のものなのかは理解できるだろう。

 それ程の雨量だ。本来ならばどこかの店に入って雨が止むのを待つのが正解なのだろうが、彼にはその考えが全く思い浮かばない。自身の体質故に、どうしてもせざるを得ない場面――バイト、食料調達等――を除いて、他人と関わり合いを持ちたくないからであった。

 故に彼は、彼以外に誰もいない道中を帰っていた。早々に家へ帰って、雨で冷えた体を風呂に入ることで温めたいと思っていた。風邪をひいて出費が嵩むのは御免らしい。

 そんな取り留めのないことを考えながら、彼は信号が青になったことを確認し、周辺を念入りに見渡して車が来ていないことを確認すると、横断歩道を渡るために一歩を踏み出した。

 

 その瞬間彼が感じたのは、眩い光と耳を劈く轟音だった。

 

 

          *   *   *

 

 

 衛星軌道拘置所という場所がある。そこは、犯罪者、特に凶悪と呼ばれる部類の人間が行き付く最終地点であり、読んで字の如く人生の墓場たり得る所である。その衛星軌道拘置所の一つ、第九無人世界の衛星軌道拘置所の第一監房に、彼は収容されていた。

 『無限の欲望』とも呼ばれるこの男は、第一管理世界及び時空管理局を震撼させた大事件を引き起こした次元犯罪者である。彼は犯罪者でさえなければ歴史に名を遺した稀代の科学者であっただろうと言われているだけあって、正しく天才だった。それは、彼が手がけた人造魔導士、及び人間と機械の融合体である戦闘機人を実現させただけで明らかな事実であろう。

 

 しかしながら、その天才科学者であり次元犯罪者として長い間広域指名手配を受けていた彼は、こうして投獄されている。それは、『歩くロストロギア』『最後の闇の書の主』の異名を持つ少女が率いる奇跡の部隊の活躍の結果であった。

 隊長格三人が全員S+ランク以上、副隊長もそれぞれS-とAAA+と明らかな戦力を保有していたこの部隊は、表向きあるロストロギアに関係する事件専門の部隊として活動していた。尤も、その実態は聖王教会のある騎士の稀少技能により予言された時空管理局の壊滅を防ぐために設立されたものであったが。

 

 そのロストロギアは彼が欲していたものであり、また、管理局の壊滅も彼が計画していたことから必然的にその部隊とは衝突関係にあったが、それでも彼は自身の勝利を確信していたし、その部隊は研究対象が多く集っているという意味での興味対象でしかなく、彼にとっては障害たり得る存在では無かった。

 だがしかし、その取るに足らないと思っていた存在によって計画が失敗に終えたことで、彼は別の意味でその部隊に興味を持つことになる。

 何故一度完全敗北を帰しても、彼の切り札たる戦艦級のロストロギアを前にしても、彼我の戦力差を把握していても決して諦めずに在れ、そして実際に勝利を手に掴んで見せたのか。計算だけでは理解不能なその現象に対して彼が興味を持つのも無理からぬ話であろう。

 本来ならばその欲求に抗う事無く従って、近くで観察したいと思う彼であったが、それをするには管理局に長く奉仕活動を行わなければならないし、それが終了したとしてもこちらに良い感情を持っていない彼女達が自身を寄せ付ける訳が無いと思い直し、窮屈で暇ではあるが他人に良いように使われることは無い今の生活を享受しようと目を閉じた。

 

 

          *   *   *

 

 

 それは、ひとつの始まりだった。

 異なる場所、異なる時間、更には異なる世界。

 普段通りの日常を過ごしていた彼らは、この後予想し得なかった状況と出くわすこととなる。

 そこで彼らがどう動くのか、それは彼らにしか分からない。

 ただ、その彼らの行動こそが、正史とはまた違った歴史を紡ぎ出す。

 

 これは、新たな絆が生んだ、軌跡の物語――――

 

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