●アリサとすずかの誘拐事件に巻き込まれた回数
『何度か』→『それぞれ一度ずつ』
●叡智(逆行スカさん)の達(不憫主)に対する認識の変化
『ただの幼馴染→観察対象兼親友』→『隣の家の子供→観察対象兼幼馴染』
目の前にあるは丸々太ったあんちくしょう。手にした刃物で真っ二つにし、面を下に向け拙い手付きで切り刻んでいく。視界が次第に滲んでいくが、それに構わず一心不乱に刃物を振るう。この敵を倒さない限り、おれ達に未来はないのだ。だからこそ、震える手を抑えてひたすらに動かす。
「…………なぁ、わっ君」
少し離れた所で別のことを終わらせたはやてが、おれの名を心配そうに呼んだ。
「さぎょう、こうたいしよか?」
「ほうちょうつかうの、うまれてはじめてだかられんしゅうさせて!」
「はじめてで玉ねぎのみじん切りはなんいどたかすぎやろ。ほら、みそ汁つくろうとしとるわたしとこうたいするで」
「玉ねぎぃいいい!!」
包丁捌きにおいて、戦力外通知を出されました。
「なるほどねぇ……」
小ぶりに切ったハンバーグを口に入れ、ご飯を一口。閉じ込められていた肉汁が口いっぱいに広がるのを味わって、また同じ動作を行う。
「済が拗ねてるのはそういう理由か」
「すねるひつようあらへんゆーたんやけどなぁ」
そう言っている、アリアさん――ロッテさんの双子の姉で髪の長さがセミロングの人――やはやての言葉を無視して、おれは味噌汁を啜った。
おれがはやての隣の家に引っ越して早一ヶ月。ここが海鳴だと初めて知った時にまず行ったのは、翠屋と言う名前の喫茶店の有無を確認することだった。イヌマルの散歩がてら街を散策・発見し、持ち帰ったシュークリームを病院から帰ってきたはやてと一緒に堪能したのは記憶に新しい。因みにそれから週に一回の頻度で翠屋に通っている。
なお、クソ親父の行方は未だ知れない。
「……どーせおれはほうちょうあつかうのヘタですよーだ」
「その代わりほうちょうつかわんのはわたしよりじょうずやろーが」
「というか、五歳児がこれだけの料理作れることの方が驚きなんだけど」
「「なれてるんで」」
「慣れること自体おかしいの分からないかなぁ……」
深く息を吐きながら、アリアさんはおれ作のオムレツを口に運ぶ。アリアさんの言葉に食事の手を止め、料理が出来るようになった理由を思い出しながら口を開いた。
「おれはしごとばっかのとうさんに代わっておじさんちでめんどう見てもらってたから、少しでもおんがえししようと思ってアイリスさんからおしえてもらった。ほうちょうはまだあぶないからってつかわせてもらえなかったけど」
「わたしは、おとーさんのあじつけとひのあつかいかたがヘタクソでなー。このままやとしにそうやったからがんばっておぼえた。ほうちょうさばきとしょくざいの見わけかたはいろいろおしえてもろうたけど」
「うんごめん、何かホントごめん。謝るからそれ以上は言わないで美味しい料理が塩っ辛くなるから」
先程とはうって代わっての切羽詰まったアリアさんの様子に、おれとはやては互いに顔を見やって首を傾げるのだった。
翌日、仕事へ向かったアリアさんを見送って、家の戸締まりをしっかりと確認した後、おれとはやてとイヌマルは散歩に出掛けた。空は快晴、季節も随分と秋らしくなり快適だ。
「こういうとき、もみじがりとかくりひろい、かきとりなんかしたくなるなぁ」
「まえ二つはともかく、かきとりはあぶないからダメやろ」
言われてみて、確かにそうだと思い直す。流石に五歳児が木に上って柿をもぐのは危ない。栗拾いにしたって、小回りが利かない車椅子に乗ったはやてがいるのだ。下に気を取られてまともに楽しむことは出来ないだろう。
なら、選択肢は自ずと一つに決まってしまう。
「ここらへんでもみじがきれいなばしょない? こんどべんとーでもつくって行こうよ」
「おーそらええわ。あさって来るロッテさんにいっしょにもみじがりに行けるかきいてみよ」
楽しい予定を立てながら、角を曲がる。
「でも、このじきはまだもみじまっ赤やないから、早くて二しゅうかんごやろーな」
「二しゅうかんごと言えばおつきみじゃん。はやて、だんごつくろうぜだんご」
「お、ええなそれ。あんこ、きなこ、みたらしの三しゅるいちょうせんしてみよか」
「おれだんごによもぎまぜてみたい。ムリそうだったらまっちゃかココア」
「おつきみにココアだんごはないやろ」
確かに。いくら昨今で和洋が統合されたようなお菓子が増えているとはいえ、お月見という日本ならではの行事にココア団子は合わない気がした。
「それじゃあこんばんのデザートにしてみない? ココアだんご」
「さんせい。上からハチミツかけてみようや」
「いいねーそれ」
蜂蜜をかけるとなると、団子に混ぜるのは純ココア(カカオ100%)が良いだろう。確か家には無かったため、早速本日の買い物リストに加える。
「わんわん!!」
「うん? どうしたんだイヌマ――うわっ!?」
「きゃっ!?」
そんな感じで話ながら公園の道を歩いていると、イヌマルが突然吠え出した。次の瞬間そう離れていない場所で起こった突風に、おれとはやては思わず声を上げた。
「…………なんやったんやろ、さっきのかぜ?」
「さ、さぁ? とつぜん吹いてきたよね……?」
「てんきよほうじゃ、こんないきおいあるかぜが吹くなんて言うとらんかったよなぁ……」
そりゃそうだ、と冷や汗を掻きつつ内心で頷く。おれの記憶と感覚が正しければ、さっきの風はイヌマルが起こしたものだ。
【遠距離攻撃・風刃】。
魔力を消費することで、自分から少し離れた敵へと風の刃を向ける、イヌマルの遠距離攻撃技だ。
いきなり何でそんなことをしたのかと疑問に思ってイヌマルを見ていると、イヌマルは若干警戒した様子で、林の奥を見ていた。何があるのだろうかと意識を向けてみると、草を掻き分ける音と共に、魔力を持つ何かが近付いて来るのが分かった。感じる魔力の小ささと足音を立てている様子から父さん関係でおれを誘拐しようとしている魔導士や騎士じゃないことは分かるが、ならば一体何なのだろうか。
場合によってははやてへの魔法バレを覚悟しつつ、何時でも【サモンマテリアル】が撃てるよう心構えをしておく。
「ここら辺にも無いとなると…………マズイね、道に出てしまうではないか。つうこう人がいなければ良いのだが…………うん?」
視線の先から現れたのは、おれ達と同い年位の、少し癖のある髪質をした黒髪の少年だった。
「キミたちと出くわしたときはまきこまれたんじゃないかとしんぱいしたのだが……いやはや、とくに何ごともなかったようで何よりだよ」
そう、少年はどこか芝居がかった口調で言った。
彼の名前は田中叡智。有りとあらゆる知識と技術をこよなく愛する研究者らしい。最初は随分とマセている子供だなとか、周りの大人の真似をしているのかなとか思っていたが、彼と話している内に、あ、こいつ天才だわと考えを改めた。
『対変質者撃退ロボットver1.2』の説明を聞き、試運転時の様子を見た限り、ロボットの性能を完璧に理解しているようだった。仮にこのロボットを作った人が別人だったとしても、その時点で頭が良いのは確定だった。加えて、発想や考え方、言葉の使い方が明らかに五歳児のそれを逸脱してる。けれど、おれみたいに変に大人びているかと言えばそうじゃない。
彼は無邪気だ。自分が好きな分野だからかもしれないが、おれとはやてに自信満々といった様子で説明している姿は、実に子供らしい。
「ちなみにこのロボットにとうさいしているとりもちはとくべつせいでね、一どひっついてしまえば、ボクが作ったせんようのやく品を使わないかぎり、一しゅうかんは決して取りのぞくことはできないんだ」
「そのとりもちをたまにしたじゅうつくれない?」
「うん? ……………………ふむ、できないことはないな。むしろそちらの方がふきゅうしやすいか……?」
「ぜひ作ってくれ言いねでかう」
「あんしんしたまえ、アイデアりょうとしてし作品でよければタダでゆずろうではないか!」
「サンキュー、マサ! おんにきる!!」
「…………ちょいまちわっ君、そのとりもちじゅうなにに使うきや」
「ほうろうぐせのあるとうさんのほかくに」
「……あかん、目がマジや」
思わずといった様子ではやては頭を抱えたが、おれは考えを改める気は無い。あの育児放棄野郎は一回痛い目見れば良いんだ。
そう勢い良く頷いていると、黒い目を若干丸くして固まっている叡智が目に入った。
「? どうした?」
「え、あ、いや……その、『マサ』とはいったい?」
「あ、きぃわるくしたか? ごめん、あやまる。ついフレンドリーによんだ」
「いや、それはべつにかまわないのだが……」
何処か歯切れの悪い様子で頷くマサの服の裾を、はやてが軽く引っ張る。
「なぁなぁ、まー君ってよんでええ?」
「あ、ああ……かまわないよ」
「よっしゃ、これでともだち二人目や」
控え目だが嬉しそうに拳を握ったはやての言葉に、マサは益々目を丸くする。
「…………『ともだち』?」
「え、ともだちやないん?」
「いや、そもそもともだちというものが何なのか分からない。いちおうていぎは知っているのだが……」
マサの言葉に、おれとはやては互いに顔を見合わせ、再びマサへと顔を向けた。
「え、もしかしてどうせだいとはなすの、おれらがはじめてだったりする?」
「いや、二人いるのだが……あの二人はおさななじみと、どうこうのしだし…………」
「や、それともだちやん。『どうこうのし』がどういういみなんかは知らんけど、おさななじみはまちがいなくそうやん」
「おさななじみはともかく、どうこうのしはまちがいなくともだちだろ。しゅみがおなじで良くかおをつきあわせてるんだろ?」
「ちょいまち何でおさななじみをおいとくんや」
「人によっておさななじみが何になるかはちがうからだよ。ともだち……しんゆうと思っている人もいれば、きょうだいだと思う人もいるし、ただのくされえんという人だっている。おれにとっては、はやてはかぞくみたいなもんだし」
お前はどうだ? という問いを乗せてマサを見やる。視線の意味をちゃんと察したのか深く考えた後、マサは首を振った。
「ボクはかれをきょうだいやかぞくだとはにんしきしてない。だからといってただのくされえんにしてはきょりがちかすぎる」
「じゃあともだちで良いだろ」
おれはそう思ったが、マサは納得がいかないらしい。眉を顰めて唸る様は、何とも言えない空気を醸し出していた。
「あーもぉ! そんなごちゃごちゃかんがえんでええやん!! まー君はその二人といっしょにおってたのしいんやろ?」
「まぁ、そうだが……」
「ならそれがともだちや! ともだちといっしょにおってたのしいんはあたりまえやからな!!」
あまりにも色々考えすぎているマサに業を煮やしたのか、自信満々に言って、はやては話を切り上げた。捲し立てた言葉に虚を突かれたのか眉間に寄っていた皺が無くなり目を丸くしたマサは、笑みを溢す。
「そうだね、うん、そうだ。…………これから、ともだちとして仲よくしていこうではないか、はやて君、わたる君!!」
大業な言い回しでそう宣ったマサに、はやては満足気に頷いた。
彼との出逢いが後に大きな助けになるなんて、おれはこの時思ってすらいなかった。
【おまけその1】
「さとる君、ぼくたちはともだちかい?」
「どうしたのさいきなり? というか、ぜんせふくめてともだちがいないボクにきく?」
「いや、きょう会ったともだちに、ぼくらのかんけいはともだちだと言われたから、そうなのかなと思ってね」
「…………そうなの?」
「ああ、そのともだちいわく、『いっしょにいてたのしければともだち』らしい。ぼくはさとる君といっしょにいるのがたのしいよ」
「…………まぁ、ボクもいっしょにいてたのしいと思う(時々疲れるけど)」
「じゃあ、ぼくらはともだちだね!! いやはや、こうしてともだちがふえるのもなかなかたのしいじゃないか!!」
(友達第一号が叡智か…………。二人目は普通の子が良いなぁ)
【おまけその2】
「それでね、ここをこうくふうしてみたんだ!」
「ほうほう、たしかにそれで使いやすさがたかまるね」
「でしょ! まえより使いやすくなったって、おとうさんがよころんでくれたの!!」
「それは良かったじゃないか。…………ところでなのは君」
「どうしたの? まさとも君?」
「その…………ぼくたちは、ともだちかい?」
「え、ちがうの?」
「ちがわない、ちがわないからそんな泣きそうなかおをしないでくれたまえ」
「よ、よかったぁ……。で、きゅうにどうしたの?」
「いや、このまえできたともだちに『いっしょにいてたのしいならそれがともだち』だとおしえられてね。なのは君といっしょにこうしていけんを出し合うのはたのしいから、ともだちなのかなと思っただけなんだ」
「………………それって、その子に言われるまではわたしのことともだちだって思ってなかったってことだよね?」
「まぁ、けつろんから言えば――――何でそんなにむくれてるんだい?」
「べ~つ~に~。今までまさとも君にともだちだと思われてなかったことにたいしておこってるわけじゃないもん」
「……それ、言ってるもどうぜんじゃないかい?」
「む~…………」
「う……すまない。このとおりだ、ゆるしてくれ」
「むぅ…………そうだ! 良いこと思いついた!!」
「『良いこと』?」
「うん! 今までわたしはまさとも君のこと『まさとも君』ってよんでたから、まさとも君はわたしのことともだちだと思ってなかったんだよね? なら、これから『まさ君』ってよぶことにするよ! 良いよね?」
「(いや、もうなのは君のことは観察対象兼友達だと思っているのだが……)まぁ、べつにかまわないよ」
「やったぁ! これからもよろしくね、まさ君!」
「(…………まぁ、喜んでいるみたいだから良いか。)ああ。よろしくたのむよ、なのは君」
台詞が凄い読み辛い。でも幼児の台詞にちゃんと漢字が使われているのは個人的に違和感がある。結論、結局このままで行きます。
零章の話は、今想定している限りでは、後3、4話程続きます。