作:歌猫

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0-10:始まりは闇の中で

「さて、泣いてもわらっても今日がさいしゅう日や」

「もういちど分たんかくにんしとこうぜ、おれがふろばとしょこで」

「わたしがだいどころとしんしつやな。あ、ロッテさんはわたしといっしょで」

「んじゃアリアさんはおれについてよ」

 

 そう、おれとはやては珍しく揃った双子姉妹へと顔を向けると、ロッテさんは頭を抱え、アリアさんは眉間を揉んでいた。

 

「だから何で貴方達は……いや、何でもない。分かったよ、はやて」

「もう驚かないわ……行きましょうか、済」

 

 今日はまだ始めてすらいないというのに既に疲れたように息を吐く二人に、おれもはやてももうツッコムことは無かった。

 

 

 

 今日は十二月三十日。大晦日はおせちの準備で潰れるため、年内最後の大掃除最終日である。作業するのがおれとはやて、後偶にリーゼ姉妹のどちらかしかいなかったため、結構な時間を要すると思っていたのだが、叡智とその友達の合作であるお掃除ロボの試作品である『埃ホイホイ』の助けもあり、僅か一週間でここまで辿り着けた。

 おれは風呂掃除用の洗剤をつけた使い古したタオルで、床の角を真剣に拭いていた。毎日掃除をしているとはいえ、こういった箇所には水垢やカビが溜まりやすい。現に、おれが持っているタオルの所々にピンク色や黒色の染みが出来ていた。

 

「済、終わった?」

「もう、少し…………っし、これでふろはおわり!」

「じゃあ、後は書庫だけね。私は風呂掃除で使った物を処分して行くわ」

「おねがい。んじゃおれ先にしょこ行ってるから」

 

 使用したタオルを渡しアリアさんと一時別れ、綺麗に手を洗った後、おれはハタキと『埃ホイホイ』を手に早速この家の奥にある書庫へと向かった。

 

 

 

「うっへー、さすがにホコリっぽいなー」

 

 おれの家の書庫も大概だったが、はやての家の書庫もまた凄い。偶にしか入らないとはいえ掃除はしていたんだがと思いつつ、手に持っていた物を机の上に置き、おれは書庫の窓を開ける。

 

「うー……さむっ。こりゃあ早いとこすませないとカゼひきそうだ」

 

 外から入ってくる空っ風に体を震わせつつ、おれは踏み台を抱える。先ずは本棚の上の埃を取るのが一番だ。ちょっと危ないかもしれないが、アリアさんが来たら交代するし問題はない。

 そう思ってハタキを手に踏み台を上ろうとした時だった。

 

「あいたっ!」

 

 上から何かが落ちてきたみたいで、頭に思い切り当たった。この痛みは、前世で上から落ちてきた広辞苑を頭で受け止めた時のものに近い。頭を押さえてしゃがみ込み、痛みに耐える。まだ掃除していない床に転がり回って痛みを誤魔化すことは流石にしたくなかった。

 

「う~いたた……って、なんだこの本?」

 

 頭の痛みも大分和らぎ、原因とも言える本へと目を向け、思わず訝しげな声を出した。

 それは、ハードカバーのそこそこ分厚い本だった。それは良い。表紙にちょっとした装飾が施された十字架が施されていた。まぁそれも許容範囲内だ。その本の問題は、ただひとつ。

 

「なんだってクサリがまかれてあるんだ?」

 

 そう、その本には厳重に鎖が巻かれてあった。手に取って裏側を確認しても鍵どころか繋ぎ目ひとつ見付からない。一体どんな内容が書かれてあるのだろうと気にはなったが、それは掃除の後での方が良いだろう。ペンチを使えば切れる程度の太さだし、万が一切れなかったらマサに渡してみるのも良い。あいつならきっとやってのけるはずだ。

 

(まぁその前にはやての許可が必要だろうけど)

 

 きっとはやても好奇心の赴くままに賛成してくれるはずだと思い、笑みが漏れる。

 

 そんな時だった。

 

 

 

『Kollation wurde vervollständigt. Eine Funktion wird in Teil veröffentlicht.(照合完了。一部機能を解放します)』

 

 

 

 機械音声と共に、本から突如発せられた魔力がおれの体に纏わりつく。

 

「――っなんだこれ!?」

 

 思わず本を離そうとしたが、何らかの力が作用しているのかそうすることが出来ない。そうこうする内に未知の魔力はおれの体内へと潜っていき、リンカーコアへと干渉してきた。

 不味いと思ったところで後の祭。大した抵抗も出来ずに多くのモノが流れてくる。

 

 

 

          *   *   *

 

 

 

『私は、魔法を使えるようになりたいんです』

 

『あれは直ぐに無茶をするからな、気にかけておいてくれ』

 

 それは、優しくて穏やかな日々だった。

 

 

 

『ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなぁぁあああああああ!!!』

 

『我は、一国の王として、貴様らを止めねばならぬ。何より……あやつの子たるうぬらに、これ以上手を汚してほしくない。――すまん』

 

 それは、果てしない絶望の幕開けだった。

 

 

 

『ふむ、私は学が無いので難しいことは判りませんが…………それは本当に、貴女方を造った人が望んだことなのでしょうか?』

 

『幸いにもここは、外と隔絶しています。次が来るまで、休まれてはどうでしょう?』

 

 それは、一時の安らぎだった。

 

 

 

『なぁ……あたし達、いつまでこんなことすれば良いのかな…………』

 

『何が……騎士だ……っ!』

 

 それは、初めて溢した本音だった。

 

 

 

『僕の能力(チカラ)で君達を止めるよ』

 

『――なさい……護れなくて、ごめんなさい……!!』

 

 それは、ただ一人遺された者の後悔だった。

 

 

 

          *   *   *

 

 

 

 膨大な記録と想いの奔流に呑まれ、どうにか耐えた時には、いつの間にかおれは、闇の中にいた。上も下も当たり一面を見渡しても何も見ることが叶わない暗闇だ。自分の姿だけは見えるのが、不幸中の幸いだろう。

 

「ここは……「ふっふっふ……よくぞ来た、五代目よ!! とうっ!」――っ!?」

 

 闇を切り裂く雷撃の様な明るい声に、おれは思わず身構え声がした方を向く。

 

「天が呼ぶ地が呼ぶ君が呼ぶ! 四代目誓約者ことレヴィ・ラッセル、ここに参・上!!」

「いや、よんでないんで」

 

 カッコよくポーズまで決めた全身黒ずくめの――声は中性的なため分かりづらいが、記録を鑑みるに――女性に反射的にツッコムと、彼女は崩れ落ちた。

 

「うああぁぁ……いくら必要な情報とはいえ酷い記憶見せちゃったから少しでも気に病まないようにって明るく振る舞ったのに何で君そんなに冷静なのかなぁ……」

「(アイリスさんによる)くんれんのたまものです」

「ううぅ……まぁ確かに精神制御と魔力制御から始めなくて良いのは此方としても有難いけどね」

 

 そう、深く息を吐いて彼女――レヴィさんは言った。

 

「じゃあ、君がここに招かれた理由を理解したと思っても良いかな?」

「そしつを持つおれが『エルゴのしれん』を受けてリンカーとなり、こわれた『やてんのまどうしょ』を直す」

「誓約者の力だけでは書を修復することは出来ないけど、今はまだその認識で良いよ」

 

 あれもこれもと手を出してたら結局間に合わずに終わっちゃうだろうしね、と自制するようにレヴィさんは首を振る。

 

「それに、君以外に誓約者になれる資格を持つ者は、この次元世界中の何処を探しても存在しない。例えそれが、元誓約者でもね」

「『もとリンカーでも』? それって……」

「ただの例えだよ。第一、誓約者は先代と当代が顔を会わせることは絶対にない」

「生きているじだいがちがうから、だよね」

「そう、本来なら僕等はこうして会うことはなかった」

 

 そこで一度、レヴィさんは言葉を切った。フードに隠れているためその表情は分からないが、申し訳なさそうな笑みを溢している気がする。

 

「…………本当なら、僕が終わらせるべきだったんだけどね。力が足りないばかりに次代の君に押し付けてしまう形になったこと、今ここで謝罪させてもらうよ……ごめん」

「あれは、しかたがなかったとおもう」

 

 彼女が『夜天の魔導書』に纏わる真実を知った時には、書の主の悪行は世界中に及んでいた。書を直すための準備時間が、圧倒的に足りなかったのは流された記録から読み取れる。こうして次に繋げることが出来たこと自体、奇跡に等しかった。

 

「書の中に確保できたエルゴの欠片は一回分――つまり、チャンスは一度しかない。それに誓約者になってしまえば、君は望まぬ争いに巻き込まれる。それでも…………誓約者を受け継ぐ?」

「そうしないとはやても、おれの住むせかいもほろびるんだ。せんたくしなんて、あってないようなもんじゃん」

 

 正直に言うと、恐い。元々おれは喧嘩や戦闘といった争い事は嫌いだし、避けれるものなら避けたいと思っている。それにおれが失敗すればいくつもの次元世界が滅び、そこに住んでいる人が皆死んでしまうような役目なんて投げたして遠くに逃げたしたいくらいだ。

 だけど、

 

「おれははやてを――――大せつなかぞくを見ごろしにして生きるなんてできない」

 

 多くの人を、いくつもの世界を、そして何より大切な人を見殺しにして生き残ったとしても、罪悪感にかられて狂ってしまうのがオチだ。例え生き延びたとしても、自分が自分じゃなくなるのは御免だった。

 

「…………うん、合格」

 

 フードの奥で、レヴィさんが優しく微笑んだ気がした。

 

「いやぁ、君が慎重な子で良かった良かった」

「え?」

「失敗した時のことを想像して自身の役目に恐怖しながらも、大切な誰かのために行動しようとする…………自身が得るだろう力を過信して世界を救ってみせるだなんて子供に有りがちな、非現実的な英雄願望を持っていなくて助かったよ」

 

 嬉しそうに何度も頷きながら、彼女は言葉を続ける。

 

「もし君がそんな子供だったら、書に触れた直後からの記憶を全部無かったことにして、次の誓約者候補が現れるまで待つところだった」

「ちょっとまって」

「そんな恐い顔しないしない。もうそんなことしないから…………はい」

 

 彼女の掛け声と共に、彼女の手から白く光輝く珠みたいなのが現れた。その珠は彼女の手から離れると、おれの周りを舞うように回り、左胸に吸い込まれるように消えていった。それと同時に体に感じる、優しくて強い力。

 

「これは……」

「リィンバウムのエルゴの欠片だよ。君は、僕からの試練にちゃんと合格できたからね。…………これでもう、僕も君も後戻りは出来ないよ。覚悟は良いかい?」

 

 挑発の混じった先代の台詞に、おれは不敵な笑みを浮かべた。

 

 

 

「じょうとうだよ!」

 




 レヴィの性格が違うのは態とです。キャラ設定色々弄ってます。ご了承ください。

 闇の書の発言にドイツ語翻訳(エキサイト翻訳)を利用しました。
 なので、これが正しいドイツ語の使い方じゃないと思ってもそっとしておくか、指摘して下さると助かります。
 因みに、舞台がミッドチルダになるまでは、デバイス達の台詞は英語やドイツ語にするつもりです。ミッドチルダに移ってからは、日本語で通すことにします。
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