作:歌猫

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0-11:芽生えた種はちゃくちゃくと

「どうですか?」

「まだもうちょっと…………うん、聞こえるようになった」

 

 目の前で行われている、護衛対象者である彼女とその義弟である彼のやり取りに、私は思わず溜息を吐きました。

 

 ここは護衛対象者である彼女の父君に与えられた、聖王教会の一室です。彼女の稀少技能(レアスキル)の関係で私たち二人は此方に待機せざるを得なかったのですが(義弟たる彼は私達と一緒にいたため巻き込まれただけ)、昼食もアフタヌーンティーも終え、他に暇を潰すことが出来ないせいで手持無沙汰になってしまいました。よって今、彼のレアスキルを利用して父君の会議を盗聴しています。

 本来なら私は彼らを注意しなければならない立場です。しかし、休日早々朝から此方に連れてこられて六時間以上放置されているだけに鬱憤が溜まっているため見て見ぬふりです。…………個人的に、これ程まで長引く会議の内容も気になっていたところですしね。

 

「それで、御父様方は一体どのような話を?」

「うーん何というか…………荒れてる?」

 

 

 

 …………はい?

 

 

 

「義姉さんの予言、最初の一節しか訳されてないみたいなんだけど……その内容のせいで、何か荒れてる」

 

 まだ一節しか訳されていないのに会議!? しかも荒れてるって一体どういう内容なんですか!!?

 

「それなら、会議の方は無視しましょう。その一節を確認次第、レアスキルを解いてください」

「うん、そのつもりだよ。術式は先生のお墨付きとは言え、まだそう長く維持できないからね」

 

 声色だけは普段通りですが、眉は寄せられ米神辺りから薄らと汗が滲み出ているため、事実限界は近いのでしょう。問題の一節を無事確認し終えたのか、そう時を経たずして彼は大きく息を吐いてソファーに凭れかかりました。私は労いの意味も込めて、彼の空になったカップに蒸らしたての紅茶を注ぐことにします。私の行動に「ありがとう」と礼を言った後、彼は紅茶を口に含みました。そして、一言。

 

「“長きに渡り封印されし闇、目覚め主の元へ転生する”」

「え?」

(くだん)の一節だよ。何か抽象的すぎるよね、いつものことだけど」

 

 再び彼は深く息を吐き、カップをソーサーに置きました。一方で彼女は何を思ったのかブラウザを立ち上げ、作業を始めました。

 

「『長期封印』『闇』『転生』……といったところかしら?」

「『主』も十分キーワードになると思うよ」

 

 よく分からないやり取りの後黙々と作業をし始めた彼女を不審に思い、私は立ち上がったブラウザを覗いてみま――……って!!

 

「何管理局のデータベースにアクセスしてるんですか、カリム!!」

「管理局ではなく、無限書庫の方ですよ」

「なお悪いですよ! バレたらどうするつもりですか!?」

「その辺りは平気だよ、ちゃんと許可は取ってるし」

「誰のです!!?」

 

「「先生を通して無限書庫の最高責任者に」」

 

 あ、それなら大丈夫――……いやいやいやいや、何納得しているんですか私は。まぁ確かに師匠が一枚噛んでいるのでしたら大丈夫でしょうけど、ですけど!!

 

「まぁ、調べた内容とその結果をレポートに纏めて提出する義務はありますけどね」

「ただ読むだけの時でもレポートを書かないといけないけど、理解は深まるし、二度読みしたい時はそれを読み返せば良いし一石二鳥だよね」

「それ教会(こっち)の情報を管理局(むこう)に流すことになりませんか!?」

 

 いくら協力状態にあるとはいえ、教会と管理局は全く別の組織です。にも拘らずそう容易く情報を流して、更にそのことがバレてしまえば、いくら教会重役の御子といえども処分されますよ!?

 ちょ……何ですかその「やれやれ、だから貴女は頭が固いんだ」と言いたげな素振りは!? 呆れたいのはこっちの方です!!

 

「組織という枠組みで考えているから、貴女は頭が固いと先生に言われるんですよ、シャッハ」

「そうそう、そうやって組織優先の考え方をしているから、いつだって対応は後手に回っちゃうんだ。それだったらこうして情報を流した方が良いじゃないか」

「それは相手が本当に信頼できる人間であることが前提条件ですよね!? 貴方がたは無限書庫の最高責任者の人となりを知っているのですか!?」

 

 私の問いかけに二人は全く同じタイミングで首を横に振った(尚、彼女の方は作業続行中)。

 

「知らないならば何故「まぁまぁ、落ち着きなよシャッハ」――ロッサ、貴方と言う人は……!!」

 

 私の言葉を遮った彼を思わず睨みつけました。私の怒りを察しているのにも拘らずにこやかかつ優雅に紅茶を飲んでいる姿が様になっていて、それが更に私の苛立ちを増長させます。

 

 しかし次の瞬間、その苛立ちは一気に嘆きに変わりました。

 

 

 

「大丈夫だよ、だって先生の友人だし」

「そうですよ、だって先生のご友人ですもの」

「根拠が全く無いのにそれで納得できてしまう自分が嫌だ!!」

 

 あああああもう何なんですかホント何なのですかあの人は!? 確かに尊敬できる騎士ですしあの人に師事してから実力の方はメキメキと上がっていっていることには感謝の念しか抱きませんが何故あんなにも理不尽なのですか!!?

 交友関係も影響力も組織という概念に捕らわれていませんし、この二十年強で打ち立てた数々の伝説のせいであの人を理由に持ち出されてしまえば根拠も無いのに納得してしまいますよホント何なんですかあの人!!!

 

「言いたいことは分かるけど、もう諦めた方が良いと思うよ、色々と」

「そうですね、先生のことはもう【種族:如月(とおる)】と認識した方が楽ですよ、色々と」

 

 分かってますよ! 分かってますよそのくらい!! ですがそれを認めてしまえば誰が貴方達を止めるというのですか!? 私一人だけでも常識的でないと向かう先は――――って何二人して呆れた表情で私を見るのですか!?

 

「あー……まぁ、気付いていないなら良いよ」

「そうですね、全く問題ありません。あ、そんなことよりも手伝ってくれません? 検索して大分絞り込めましたけど、少々量が多いもので」

「うわっ本当だ……これここにいる間に読み切れるか怪しいね。ほら、シャッハもそんなところに立っていないで手伝ってよ、情報収集」

 

 …………何か色々と言いたいことはありますが、これはもう言っても流されるだけみたいですね。もう良いですこれが終わり次第ストレス解消がてらに修練場で騎士百人切りに挑戦しに行ってケーキバイキング奢らせますから!!

 




「まだ中等部生なのに成り立てとは言えベルカの騎士達をあっさり屠れるシャッハにだけは言われたくないよ」
「ケーキを一遍に数十個食べられる上に全く太らないシャッハにだけは言われたくありません」

【結論】
 どっちもどっち。
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