今年もまたこの日がやってきてしまったと、男は一人頭を抱えた。
明日は男の一家が育て親代わりを務めている、友人の子の誕生日である。本来ならば目出度い日であるし、男もまた子供の成長を心から祝う日でもあったのだが、手放しには喜べない理由があった。
「あいつめ……今度はどんなプレゼントを用意するつもりだ……っ!!」
あいつ、とは、男の友人の親友であり、仕事の都合上顔を合わせる科学者である。科学者は一身上の都合により友人の子供と顔合わせをしたことが無いのだが子供を非常に可愛がっており、子供の誕生日には必ず自らの技術の粋を集めて作製した品を、クリスマスのサンタさながら夜中の内に子供の枕元に置きに来るという溺愛っぷりである。
子供を溺愛するのは別に構わないし、常人とは感性が違うマッドサイエンティストとは言え、子供に与える品は全て子供の為になるものばかりであるため問題では無い。あの状況下に置かれていながらどうして誰にも気付かれずにプレゼントを渡しに来られるか等といった疑問もあるのだが、正直それも問題では無かった。
男が問題視しているのは、唯一つ。
子供の誕生日プレゼントの製作費として、仕事の予算を注ぎ込むという科学者の暴挙だけだ。前回、即ち昨年時は特に酷く、研究予算の八割方を子供のプレゼント製作費に充ててしまい、その皺寄せが男に押し寄せてしまっただけに今年はどれ程の金額を使ってしまったのかと考えると気が気でない。
毎日々々時間を開けて通信を入れてはいるが、あの天上天下唯我独尊の友人の親友をやっているだけに自分本意な性格をしているためこちらの諌言を聞かないことは予め分かっていた。
だからこそ事前対策として色々と行動しているものの、これで丸く納まるとは到底思えず、慢性的になっている胃痛と頭痛を供に様々な問題に対して戦う日々である。
正直自分とは何も関係が無いと言わんばかりに放り投げれば良いのだが、男の地位と元来の真面目で実直な性格ゆえに結局抱え込んでしまう。
そんな苦労性である男は、自分しかいない室内で、幸せが裸足で逃げるような重苦しい溜息を吐くのだった。
* * *
転生して早四年、ミッド文字もきちんと覚えて本が読めるようになって喜ぶのも束の間。
「…………どうするのさ、これ」
相変わらず枕元に置かれてある差出人不明の誕生日プレゼントを開けてみて、思わず頭を抱えたくなったのは仕方が無いことだと思う。
青・赤・紫・緑・白の色に染まっている、五つの宝石みたいな半透明の石。それらが無色透明のバンクルに白を中心として、青・赤・紫・緑の順に時計回りに均等に配置され埋め込まれている品は、添えられた手紙によると五つのストレージデバイスと、一つのアームドデバイスを組み合わせた超特殊複合型デバイスらしい。
去年は去年で大概だったが、今年のプレゼントもとんでもない代物だと思う。インテリジェントデバイスよりも安価とはいえ、六つのデバイスを複合したのだから性能も値段も規格外なのだろう。
普段から愛用している去年の誕生日プレゼントのパーカー――見た目普通、でも中身は色々とおかしい季節に関係無く着ることができ、それを羽織ってさえいれば風邪をひくことも熱中症になることも無い優れ物――の金額を偶然盗み聞きしてしまっただけに、おじさんが発狂するのが目に浮かぶ。もしくは、胃潰瘍が悪化して吐血して入院するか。
まぁおじさんが逝きつく先の想像は精神衛生上悪いからこれ位にしておいて、取り敢えずバンクルを腕に装着してみることにした。
今の身に大きい筈のソレは、瞬く間に丁度良いサイズになった。
「……………………」
取り敢えず外して黙々と簡易包装を施した後、宝箱の隅っこに眠らせる事にしました。
いや、無い。これは無い。デバイス六つ分だけでも値段嵩むはずなのに、それに加えて伸縮大小自在効果付とか無い。どんだけ金使ってしまったかなんて想像したくも見たくも聞きたくも無い。
大体デバイスって、魔法を使うためのプログラムをインストールする他、魔法を使用する際の補助の役割を持った機械的な魔法の杖のはずだ。正直そんな物を渡されても困るっつーの!! 一年前、直に見せられた『父さんvsゼストさん』の非殺傷? んなもんねーよって言いたくなるレベルの血みどろガチバトルを繰り広げた模擬戦のせいで魔法に対してトラウマ持っているこっちとしてみては、宝の持ち腐れ以上の何物でもないわ畜生!!
ってああああああああああああ、思い出しただけでトラウマがががが。
「ワタル、起きてる? 朝ごはんの――――ってどうしたの!?」
「お、おおおおはようおねぇちゃん。なんでもないよなんでもあはははははとーさんとゼストさんがががが」
「ちょっ、朝からトラウマ再発してる!? お父さん!! お父さ――――――ん!!!」
やややヤバい、呼びに来てくれた姉さんに心配かけた上におじさんにも迷惑かけるからはははは早くトラウマから脱出ししししなきゃ。
ええええええっと、こういうとと時はあの愛らしい仔達を思い出して心落ち着けるしか無いよね!!
ライザーのあのつるっとした丸いフォルムにゴレムの動き方の可愛さにテレビーの愛嬌ある顔、ヴァルゼルドのおっちょこちょいな性格にでんちマンのあの何とも言えない見た目。
ミョージンが口を開いた時の怖可愛さにナガレ・クロ・ムジナの見た目の可愛さにシロトトのもふもふ感、オニビの短い手にカマイタチの可愛い見た目に垣間見える渋さ。
ポワソの帽子の中身の謎にリプシー・ペコ・ホーリーシープの愛くるしさ、そういえば『3』の涙目タケシーに人目も憚らずに悶えまくって兄貴に変な目で見られたこともあったっけ。
テテ・オヤカタ・フラップイヤー・プニム・クロックラビィ・テコ・エールキティ・コウギス君・ジュラフィム・ホロホロは言うまでも無く、スライムポッドのあのまぬけな表情に可愛いのに強いナックルキティ、そして可愛い顔した危険物のペン太君。
…………うん、大分落ち着いてきた。流石は『サモンナイト』の召喚獣達だ。中でもイヌマルは至高だ。
「イヌマル、めでたいなぁ……」
たれ耳みたいな帽子を額当てで固定して、スカーフを首に巻きクナイを銜えた可愛さとカッコよさを足して二倍したフォルム。見た目だけじゃ無くユニット化した時の隠密とダブルムーブコンボの使い勝手の良さ。
ホント、イヌマルってマジカッコ可愛い。あの小柄な体を抱っこしてもふりたい布団の中でぬくぬくしたい、縁側でひなたぼっこしたい、公園で遊びたい、あの可愛い鳴き声を直に聞きたいなぁ。
「……まぁ、ムリなんだろうけど」
元々召喚術は『サモンナイトシリーズ』の主要世界の一つであるリィンバウムでしか使えない。詳しいことは割愛するけど、他所の世界からの侵略に対抗することが出来なかったリィンバウムの人々に、
文字通り神様から授かった能力――こちらで言うところの
リィンバウムが次元世界として見つかれば可能だろうけど、リィンバウムは異世界から侵略されないように五界のエルゴの力で使った侵入不可結界があるため、万が一見つけられたとしても召喚術で招かれない限りは立ち入ることは出来ないだろう。勿論、結界を破れば可能だろうけど、世界そのものが張った結界がそう易々と破壊できるとは思えないし。
…………まぁ、次元世界一つを壊せる魔導砲(名前忘れた)レベルの攻撃だったら破壊できると思うけどね。
閑話休題。
さて、漸く落ち着いたことだし、おじさんが来る前にリビングに行こう。あまり心配掛けさせたくないし。
そう思って歩こうとすると、右足が地面に縫いつけられた感覚に陥る。一体何事かと思い顔をそちらの方へ向け、
「……………………」
思わず、絶句した。
普通のものよりも頑丈そうな黒いたれ耳帽子に、手裏剣のマークがついた額当て、オレンジ色のスカーフが巻かれてある、一匹の仔犬。
つい先程まで愛でたいと思っていた『サモンナイト4』で初登場する我が愛しのユニット召喚獣、イヌマルが右足側の寝巻の裾を銜えた姿で、そこにいた。