作:歌猫

6 / 16
サモンナイトの世界観に関する説明回。
あと、リンカーコア関連についての独自解釈があります。


0-5:世界の成り立ちと召喚術

 召喚術のことを深く学ぶにはまず、異世界リィンバウムとそれを取り巻く四つの世界――機界ロレイラル、鬼妖界シルターン、霊界サプレス、幻獣界メイトルパ――の成り立ち、即ち『サモンナイト』の世界の成り立ちから知る必要がある。

 

 かつては高度な機械による文明を誇ったが、「機界大戦」と呼ばれる大規模な戦争によって荒廃してしまった廃墟の世界――機界ロレイラル。

 

 龍神や鬼神に見守られて、人間と妖怪達が共存している世界――鬼妖界シルターン。

 

 天使や悪魔といった霊的生命体達の暮らす世界――霊界サプレス。

 

 緑豊かな大自然の恵みの中で、様々な幻獣や亜人、妖精達が暮らす牧歌的な世界――幻獣界メイトルパ。

 

 四つの世界に隣接し、しかし輪廻の輪から外れているが故に「選ばれた魂が集う楽園」とも「転生の価値を失った魂のたまり場」とも呼ばれる世界――異世界リィンバウム。

 

 これら五つの世界にはそれぞれ界の意志(エルゴ)と呼ばれる、無限の力を持つ集合意識であり、世界に存在するもの全ての始まり――即ち創造主――が存在している。そのエルゴ達によって五つの世界は創られ、またこれらの世界における魂の輪廻――ロレイラルからシルターン、シルターンからサプレス、サプレスからメイトルパ、メイトルパからロレイラルといった風に、魂が循環する仕組み――も創られた。

 

 これら五つの世界の中心となる世界は勿論、同じエルゴに創られながら他の世界とは一線を画しているリィンバウムである。

 各々の世界に生命と文明が発展し、それぞれが周りを見渡せるほどの余裕を得た頃、リィンバウムに溢れている「魔力(マナ)」に目をつけた異界の住人達は、リィンバウムを我がものにすべく侵攻を始めた。この当時のリィンバウムの人々は他の世界の住人達とは異なり、高度な技術も、神秘の力を操る術も、自身の持つ魔力を別のものへと転換する能力も、強靭な身体能力も有していなかったが故に、外敵に脅かされ続けていた。

 このままではリィンバウムの世界そのものが消滅してしまうと悟ったエルゴは、人々へとある能力(ちから)を授けた。

 

 異界からの侵略者を元の世界に送り返す能力――送還術である。

 

 更に人々は、この術に創意工夫を重ねて全く新しい能力を生み出した。

 

 それが、異世界の存在を自らの力として自在に行使する能力――召喚術の始まりであった。

 

 この二つの術によって、人々は漸く異界の侵略者に対抗できるようになった。しかし、その力をもってしても戦いに終止符を打つことは叶わなかった。

 人々が戦いのない平穏な日々を過ごすのは、それから更に時を重ね、少し変わった召喚術を使う青年が現れた後のことである。

 

(まぁ、その辺りの話については一先ず横に置いておくとして、召喚術のことについて簡単に整理するか)

 

 先にも述べた様に、召喚術は異世界の存在を自らの力として自在に行使する能力である。もっと具体的に言うと、“サモナイト石”という特殊な鉱石に魔力を注ぎ込むことで、その異世界へと通じる門を開き、異世界の存在を呼び出して命令を与えて使役する術のことだ。

 “サモナイト石”には青・赤・紫・緑・白の五つの色がある。青はロレイラル、赤はシルターン、紫はサプレス、緑はメイトルパへ通じる門を開くことが可能であり、白は何処の世界に通じる門を開いているのかは不明である。

 

(……良く良く考えてみれば、おじさんに厳命されて身につけるようになった透明のバンクルについている宝石みたいな石、あれ色も見た目もまんまサモナイト石じゃねぇかど畜生)

 

 召喚術を行使するためには、誓約の儀式を行う必要がある。誓約とは、召喚した者を真の名――万物の全てにその本質を定める名前――を探し出して命名する儀式のことだ。これは術者に敵意を持つ召喚獣を服従させるために必要なことであり、膨大な知識と下準備、そして召喚師の集中力が必要とされている。そのため非常に失敗しやすいものであるが、一度成功すれば誓約の強制力が高まり、少ない魔力で強力な召喚獣を従わせることが可能になる。逆に失敗してしまえば魔力の逆流や召喚獣の反逆を引き起こすこともあり、命にも係わる重大な事故を招くことになる。

 具体的な召喚事故の内容は、儀式行使者に【サモンマテリアル】が確実に当たる程度の軽いものや儀式行使者の死亡及び周辺地域の崩壊といった重いもの、武器や防具を手に入れられる様なちょっと得するものと多岐にわたる。

 簡単な儀式で失敗した場合の召喚事故は軽いものや得するものであるため、わざと儀式を失敗して性能の良い武器や防具を手に入れようとする術者もいたりする。とは言え、儀式の失敗はそのまま召喚師としての実力の低さを表すため、わざと儀式を失敗しようとする人はプライドを持っている人の中にはまずおらず、極々少数派だ。

 

 閑話休題。

 

 この誓約を成功しさえすれば、それ以降その誓約を結んだ召喚獣を呼び出す際に失敗することは無く、例え召喚術を学んでいない者であっても“サモナイト石”に魔力を注ぎさえすれば気軽に召喚することが可能となる。但し、召喚する者に合った属性で無ければ、どんなに魔力を注ぎ込んだとしても召喚術は発動しない。

 属性とは機属性・鬼妖属性・霊属性・幻獣属性・無属性の五つに分類される。術者と属性の相性が必要となるのは前者四属性であり、無属性は本当の意味で全ての者が気軽に行使できる召喚術だ。

 属性の相性というのは生まれた時から決まっている。ロレイラル出身の者は機属性と無属性、シルターン出身の者は鬼妖属性と無属性、サプレス出身の者は霊属性と無属性、メイトルパ出身の者は幻獣属性と無属性、そしてリィンバウム出身の者は四属性のどれか一つと無属性というのが一般的だ。偶に四属性の内二つの属性と相性が合う者が現れたりもするのだが、その様な稀有な才能を持つ者は極々僅かである。

 

(おれが識っている限りじゃ、全シリーズの中で――厳密に言えば違うけど――二人しかいないしね)

 

 なお、例外中の例外として四属性全てと相性が良い者が存在する。リィンバウムとそれを取り巻く四つの世界とは全く異なる世界――名も無き世界出身の者やその血を引く者と、誓約者(リンカー)調律者(ロウラー)抜剣者(セイバー)と呼ばれる特別な力を持つ存在だ。

 名も無き世界を出身とする者は、四つの世界出身の者とは違い召喚事故でしか呼ばれることが無い。そのため前例が少なく、さらに召喚師の修練を積んだ者を識らないため何とも言えないが、相性が良くとも全属性とも最高位の召喚獣は呼べないという器用貧乏タイプとなる。

 だが、特別な存在である誓約者・調律者・抜剣者は違う。

 

 誓約者――界の狭間を繋ぎ、エルゴと誓約を交わす資格を持つ者。またの名をエルゴの王という。

 誓約によって強制的に召喚獣を従わせる通常の召喚術とは異なり、召喚獣と心を通わせ信頼によって彼らの助力を得るという召喚術を使う。世界の成り立ちのところで最後に出た少し変わった召喚術を使う青年とは初代誓約者のことである。彼はエルゴと誓約を交わした後異界からの侵入者を元の世界へ還し、リィンバウムとそれを取り巻く四界の間――界の狭間に強力な結界を張り巡らせ、リィンバウムに平穏を取り戻した伝説の英雄。

 エルゴの王という異名に相応しく、全属性とも最高位の召喚獣を、信頼を持って呼び出すことが出来る、召喚師の中で別格中の別格である最上位の召喚師だ。

 

 調律者――初代エルゴの王が出現する以前に最強とされた召喚師の家系・クレスメント家の尊称。その魔力は運命すら自在に律するとされ、故に調律者の異名がついたと言われている。

 彼らは誓約者の様に万能型では無いが、それでもその有する魔力量と最も相性の良い召喚術の実力は誓約者に並ぶものがあった。だが彼らは異世界の侵略者との長引く戦争によりある過ちを犯してしまい、衰退の一途を辿ってしまうこととなる。

 

 抜剣者――世界に存在する全ての事象とエルゴを繋げていると言われる不可視の魔力の繋がりである共界線(クリプス)を人為的に制御することで世界の全てを支配し、エルゴ成り代わろうとするための制御機構の中核をなす人物である核識の力と意識の断片を封印した、サモナイト鉱石から鍛えられた二振りの魔剣碧の賢帝(シャルトス)紅の暴君(キルスレス)に、核識となりうる魂の資質と強い意志によって所有者として選ばれた者。またの名を適格者という。

 魔剣本来の意思の強さでその力を増す性質に加えて、共界線から強大な力を引き出し、それを行使することが出来るが、その代償として封印された核識の意識が使用者の精神を蝕んでいくという弊害がある。後に、碧の賢帝は果てしなき蒼(ウィスタリアス)、紅の暴君は不滅の炎(フォイアルディア)へと生まれ変わり、封印された核識の意識に代わり使用者の意志の強さで力が増すようになったため、その弊害は無くなった。

 これらのことから抜剣者は、召喚師というよりも劣化版エルゴと見なした方が良いのかもしれない。

 

(一応四属性とも反応したけど……ま、名も無き世界(父さん)の血が入ってるから当然と言えば当然か)

 

 それでも納得がいかないこともある。

 召喚術はリィンバウムにいなければ使えない能力だ。けれど、今おれがいるのはミッドチルダであって、リィンバウムでは無い。それなのにも拘らず、おれは召喚術が使えてしまった。

 

(もしかして、召喚術は魔力とサモナイト石があれば使えることが出来るのか……?)

 

 或いは、このミッドチルダがかつてリィンバウムであったか、だ。

 可能性を考えれば後者の方が高いけど、それならエルゴ・リィンバウム・召喚術という単語どころか、それに相応する存在が描かれた伝説・伝承が何故存在しないのだろうか。

 

(…………初期ミッドチルダの為政者にとって、邪魔だった?)

 

 この世界がいつからミッドチルダと呼ばれているのかなんて分からないけれど、そう考えたら納得がいく。歴史なんて所詮当時の為政者にとって都合の良いように創られたものにすぎないのだから。

 

 

 

 

 

「あら? ワタルちゃんもしかしてそれ、好きじゃ無かった?」

 

 思わず零れた溜息に反応したのか、アイリスさんが食事を止めておれの方を見、そんな言葉をかけてきた。おじさんや姉さんもこちらを心配した様に窺う様子に「なんでもないよ」と笑みを返し、おれは食事を再開する。

 

 

 

 あの後、父さんの叫びを聞きつけた看護師さんが主治医を連れてやって来て、いくつかの質問や検査をするために面会は一先ず謝絶という形となり、家に帰ることとなった。一ヶ月間意識不明だった人が目を覚ましたのだからその処置は当然のことだと思うし、おれはおれで召喚術を使えるという事実が発覚したせいで酷く狼狽えていたので、素直に有難いと思ってアイリスさんと病院を後にした。

 

 

 

 そして今は夕食の時間である。やっぱりまだ混乱が収まって無いのか考え込んでしまって食事の手が止まり、余計な心配をかけてしまったようだ。おれがいつも通りに食事を再開しても三人ともおれを見続けているところから、余程おれが挙動不審だったのだろうと予想する。

 この気まずい空気をどう払拭したものかと、アイリスさん特製のカニクリームコロッケを頬張りながら考えていると、アイリスさんが何かを思い出したかのように声を上げた。

 

「そうそう、ワタルちゃんに言わなくちゃいけないことがあったわ」

「え……? なに?」

 

 口調はいつも通りだが真剣な表情をしたアイリスさんに、何か悪いことをしてしまったんじゃないかと自然と体が硬くなる。

 

「ワタルちゃん、明日から魔力制御の訓練をするわよ」

「『まりょくせいぎょ』?」

 

 『まりょくせいぎょ』って……魔力制御のことで良いよね? でもあれ、魔導師がより効率よく魔法を使えるようになるための訓練のはず。ならなんで、魔導師になる気の無いおれがそんな訓練をしなくちゃいけないんだろう?

 意味も分からず首を傾げていると、おれの疑問に気付いたらしく、アイリスさんは言葉を続けた。

 

「ワタルちゃん、昨日のことは覚えてる?」

「うん。いつもどうりほんよんだり、イヌマルとあそんで、そしてテレビをみてとうさんのことをしって…………あれ?」

 

 父さんが意識不明の重体になってることを知ってから……おれ、どうしたんだっけ?

 何か嫌なことを思い出したことは覚えているけどそれが何だったのかは忘れたし、気が付けば自分の部屋で朝を迎えていたし……。

 深く首を傾げていると、そのことが分かっていたかの様にアイリスさんは溜息を吐いた。

 

「ワタルちゃんはね、自分の魔力を暴走させかけていたのよ」

「え…………?」

 

 

 

 魔力を暴走させかけていた? それって、まさか……。

 

 

 

 思い起こされるのは『サモン2』の主人公の過去。

 彼らは自身の膨大な魔力を何らかの拍子で暴発させ、町一つを滅ぼした。

 

 おれにはそんな魔力なんて無いと思うけど、それでも家一つが吹き飛ぶか、部屋が壊れるかしていたのかもしれない。

 

「まぁ、暴走させる前に帰ってきた私が、当て身をして事なきを得たけど」

「ちょっ……ワタルの首元に青痣付いてたのお母さんが原因だったの!?」

「暴走して家どころかここら一帯が更地になるよりは良いでしょ?」

「確かにその通りではあるが……それでもやりようというものが「何か言ったかしら?」――イエナンデモアリマセン」

 

 道理で首に違和感があるなーと思ったら当て身って……いや、アイリスさんのことだからしっかりと手加減してくれたんだろうけどさ、それ危険だから。幼児どころか一般的な大人にするのも危ないから。鞭打ちになってたらアイリスさんのせいだよちくせう……いやまぁここら一帯が更地になるよりは確かにマシだ――…………

 

 

 

 ――――更地……?

 

 

 

「…………アイリスさん」

「うん? どうしたの、ワタルちゃん」

「いま、さらちになるって……」

 

 部屋でも無く、家でも無く、ここら一帯。その言葉に、嫌な感じがした。

 『ここら一帯』というものがどれほどのものかは知らないけれど、それはまるでおれの魔力量がとんでもないもの(・・・・・・・・・・・・・・・)と言っているようなものじゃないか。

 

「あのさ、もしかして、おれのまりょくって……」

 

 おれの言いたいことが分かったのか、アイリスさんは神妙に頷いた。

 

「ええ、ワタルちゃんが思った通り、ワタルちゃんにはとんでもない魔力が宿っているわ」

「…………ランクで言うと、S-だ」

「……っ!? ちょっとまっておじさん! S-ってとうさんとおなじでしょ!?」

 

 まだ四歳で、しかも魔法に関する訓練なんてしていないのに、管理局のトップエースと名高い父さんと同じ魔力ランク。勿論魔力量だけではその人の魔導師としての実力を測ることは出来ないけど、それでも魔力が多ければ多いほど有利であることに変わりはない。

 

「………………ないわー」

 

 おれは思わず頭を抱えた。

 トラウマ(父さんとゼストさんの模擬戦)の一件で魔導師には絶対にならないと決めていたけど、魔力ランクS-とか周りの人が黙っていないどころか率先して進めてくる。正直、どんな悪夢だとしか言いようがない。

 なら、おれが取るべき方法はただ一つ。

 

「ねぇアイリスさん」

「なぁに? ワタルちゃん」

 

 抱えていた頭を上げ、おれはアイリスさんへと顔を向ける。

 そして、至極真面目に真剣に本気で尋ねた。

 

 

 

「リンカーコアってどうやったらこわせるの?」

「待ってワタルホント待って!!?」

「早まるなワタル!!!!」

「それはね、心「「お前(お母さん)も余計なこと言うな(言わないで)!!!」」――はぁい」

 

 そしておじさんと姉さんに必死に止められた。

 

 

 

 

 

 おじさんと姉さんの尽力もあり、どうにかこうにか落ち着いた。どうも、魔導師になりたくない気持ちが強くて思考が暴走してしまったようだ。テーブルに顔を伏せぐったりしている二人を見て、内心で深く反省する。

 

「そもそも、高ランクの魔力持ちだからと言って必ず魔導師にならなければいけないという訳ではないぞ」

 

 流石にリンカーコアを持っていない人が魔導師になることは出来ないが、そういった先天的に不可能とされた職種以外はどんな職業を選んでも良いという職業選択の自由が管理局法で制定されている。そのため、おれが魔導師になりたくないと言えば誰も魔導師に(そう)なることを強制することは出来ないらしい。

 では何故、魔力ランクの高い人達が魔導師をやっているのかと言えば、偏に待遇が良すぎるからだとか。

 

「魔法の実力が高ければ高いほど一人で出来ることが多いからな。万年人手不足の管理局を筆頭に、次元世界中に名を馳せている有名な企業からも高ランク魔導師というだけで引っ張りだこだ」

「人が生活していくためにはお金が必要だもの。仕事をするならより高給なものを選ぶのは当たり前でしょう?」

「それAAA+の魔力持ちだったのに魔導師にならなかったお母さんが言うセリフじゃない……」

「私は一般論を言っただけよ?」

 

 うんまぁ確かに、同じ時間だけ仕事をするならより待遇や給料が良い方を選ぶよなぁ。『私』の時も、そういった諸々のことを考慮してバイト先を選んでたし。

 

「…………とまぁ話の脱線はここまでにしておいて、魔導師にならなかった私でも魔力制御の訓練はしたわよ」

「なんで?」

「周りに迷惑をかけたくないのは勿論だけど、魔力を暴走させたら死んじゃう可能性が高いもの」

 

 魔力の源であるリンカーコアは、心臓や脊髄といった人が生きていく上で重要である器官に非常に近い所に存在しており、リンカーコアから生成された魔力は一旦心臓に送られ、それから血液と同様に体全身に送り出される形となっている。基本的にリンカーコアの通常魔力生成量に比べ心臓の許容魔力量は大きいため問題は無いのだが、魔力……もといリンカーコアを暴走させてしまった場合その限りではない。暴走状態におけるリンカーコアの魔力生成量は常時のソレの三倍は優に超えており、その分心臓にかかる負荷が段違いになるからだ。

 

「人間の体は意外に丈夫だから、許容範囲を超えてもある程度は持ち堪えられるけど……」

 

 それすらも過ぎれば空気を入れ過ぎた風船のごとく破裂してしまうらしい。なにそれこわい。

 

「だからこそ、どんな状況に置かれても魔力が暴走しないように魔力制御の訓練をするのだけれど……」

「したい、します、させてくださいおねがいします!!!!!!」

 

 即答だった。体感でコンマ一秒にも満たない即決だった。

 ていうか即決するよ当たり前だよ!! 誰も好き好んで自分の心臓をパァンしたくないよ!!

 

「良かった。それじゃあ早速明日から始めるから、しっかり食べてしっかり寝て体を休ませるのよ」

「イェスマム!!」

 

 アイリスさんに言われ、おれは食事を再開する。長々と話をしていたため冷めてしまっていたが、今まで話していた内容に対する恐怖と、明日のために栄養を補給しなくてはという意気込みから、必死に食べ物を詰め込んだ。

 

 だからこそ、ソレ(・・)に気付くのが遅れてしまった。

 

 

 

「お父さんしっかりして、お父さぁぁああああああああああん!!!」

 

 

 

 青褪めるのを通り過ぎて土気色の表情で撃沈しているおじさんと、そのおじさんの意識を戻すために必死におじさんの体を揺さぶっている姉さんの姿を、気付くことが出来なかった。

 

「……………………」

 

 食事を終え漸く気付けたおれは、その光景を見なかったことにしてアイリスさんを見る。鼻歌を歌いながら食べ終わった食器を下げている姿はいつも通りだった。どこからどう見ても普段と変わらずに行動していた。

 

 ここに至って漸く鳴り響いた警鐘に、おれは一つの結論を出す。

 

 

 

 ――――あ、おれオワタ。

 

 

 

 

 

 明日より約十一ヶ月間、地獄の日々の幕上げであった。

 




改訂前の投稿時も書いたけど、難産でした。
でも、改訂前よりは自分で納得できる形になったかも。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。