作:歌猫

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0-8:街案内

 出会ってからそう間を置かず、おれははやての先導の元イヌマルと共に街を歩いていた。ミッドチルダの住宅街と殆んど変わらない景色だが、どこか温かみと言うか懐かしさを覚えてつい上機嫌になる。

 

「――あ、あそこのコロッケやさんのコロッケはぜっぴんなんよ」

「ほぅ……そりゃあ食べてみなければなりませんなぁ」

 

 丁度昼時でもあるし、父さんから諭吉さん一枚分の金額を渡されたし、買い食いする分には問題ない。と言うか、幼児に渡す金額じゃ無いよねこれ。落とさないように気を付けよう。

 

「ほい」

「わ、えぇんか?」

「みちあんないのおれいだから」

「べつにそんなんえぇんやけど、ありがたくちょーだいするわ」

「イヌマルもほい」

「わっふ!」

 

 コロッケ一個を半分こにしてはやてに渡し、イヌマルにはメンチカツをあげてから自分の分を食べる。

 

「! おいしい!!」

 

 サクサクした食感の衣にほかほかのジャガイモ、所々にある人参とトウモロコシ、玉葱の甘味が絶妙なバランスで舌を刺激してくる。

 

「せやろ、せやろ! あまりにもおいしゅうて食べきれんのについいっこまるまるこうてしまうんよ」

 

 分かる! 分かるよその気持ち!! こりゃ確かに買いすぎてしまう魅力があるよ! イヌマルもメンチカツが気に入ったのか、まだ食べたそうにしてるし!

 あーもう何でおれまだ幼児なんだろう、早く成長期に差し掛かる年齢になってここのコロッケ沢山食べたい!

 

「あっはは、嬉しいことを言ってくれるねぇ。はい、おばちゃんがおまけに半分に切ったコロッケとメンチカツをあげよう」

「「ホント(ホンマ)!?」」

「勿論さ。その代わりまた買いに来とくれ」

「「うん!」」

 

 気の良いおばちゃんから貰ったコロッケも仲良く分け合って全部平らげた後、商店街を冷やかしながら回っていく。新鮮な野菜と魚が並べられた八百屋と魚屋を通り掛かった時、はやては車椅子のブレーキを掛けて止まった。

 

「あれ? きょうはやってへんの?」

「なにが?」

「いやな、このしょうてんがいのめーぶつとして、やおやさんのむすめさんとさかなやさんのむすこさんのバトルがあるんよ」

「『バトル』?」

「そ。まえ見たときは、だいこんとブリをえものにみたててくうちゅうせんくりひろげとったなー」

「なにそれすごく見たい」

「うん、せやから見せよ思って来たんやけど……おかしいなぁ」

 

 そう、はやては不思議そうに首を傾げた。ここ最近はこの時間帯にそのバトルがあっていたらしい。

 

「ああ、あいつらは学校が始まったんでいねぇぜ、八神の嬢ちゃん」

「あ、やおやのおじさん。そういやもうそんなじきやったねー、すっかりわすれとったわ」

「『忘れてた』って……嬢ちゃんもそろそろ小学生だろうに」

「まぁたしかにそやけど、こんな足やからがっこうにはかよえんて」

 

 八百屋の店主らしきおじさんと仲が良いらしいはやては、気軽な口調で笑う。その姿に、おじさんはやれやれと首を降り、はやてに対し軽くデコピンした。

 

「あいたっ」

「その年で諦めるんじゃねぇよ、ったく。いっぱい旨いもん食っていっぱい寝りゃひょんなことから治りもすりゃあ」

 

 額を押さえながら恨みがましく見ているはやての視線を気にもせず、八百屋のおじさんは商品の野菜を適当に袋に入れていく。

 

「ほれ、これでも食って元気に育ちやがれ」

「…………うん。ありがとな、おじさん!」

 

 明るく笑って野菜の入った袋を受けとるはやてに、今度は魚屋の店主らしきおじさんが似たようなことをし始めた。

 はやてがそっちにかかりきりになっていることをしっかりと確認し、おれは八百屋のおじさんにお金を渡す。

 

「…………おい坊主、何だこれは」

「はやてにわたしたやさいのおかね」

「いらねぇよそんなん。俺ゃ好きで渡してんだ」

「でも」

「そもそも坊主は誰だ? ここらじゃ見ねぇ顔だが」

 

 訝しげに素性を尋ねてきたおじさんに、おれは一先ずお辞儀する。

 

「きょう、はやてのうちのとなりにひっこしてきました。きさらぎわたるです。こっちは、家族のイヌマル」

「『如月』? おお、アイツの息子か! それにしちゃあ随分しっかりしてやがんなぁ!」

「わわわっ」

 

 ガシガシと頭を強く撫でられ、思わず鑪を踏む。その間におじさんが商店街の人達に「徹の息子だとよー!」と発言したことで色んな人達に囲まれてしまった。

 

「へぇ、確かに見た目はガキん頃のアイツにそっくりだな」

「でも性格は違うみたいねぇ」

「多分母親似なんだよ」

「良かったわ~性格まであの子に似なくて」

「あれはあれで面白かったが、確かにそれには同意するわ」

「違いねぇ!」

「つかアイツ所帯持てたんだなぁ」

「それを言うなら八神のヤツもだろ。あんな器量良しのはんなり美人さんを引っ掛けやがって」

「あー確かにあんときばかりはやっかんだぜ」

 

 商店街の人達の掛け合いは、聞いてみたいようなそうでないような話でいっぱいだったが、思わずといった体でおれは叫んだ。

 

「なんでもいいけど、どうでもいいけど、かこまないでぇええ!!」

 

 いくら中身が大人目前だったとしても、周りの人達が良い人達だって分かっていても、自分よりもうんと背の高い人達に囲まれるのは恐怖以外の何物でもないんだよ!!

 

 

 

 

 

 あれから少しの時間を取って、おれとはやてとイヌマルは商店街を後にした。現在おれは、迷惑料と称されたお土産が詰まった荷車を押して歩いており、イルマルはそれに着いてきている。はやては相変わらず車椅子をゆっくりなスピードで走らせてはいるが、息も絶え絶えといった様子で笑っていまくっていた。それに思わずジト目になってしまう。

 

「はやて、わらいすぎ」

「せ、せやかて……あの、わっ君の、ひめいが…………あかん、くるしっぐぼほぉ!」

「…………わらいすぎてなにかにぶつかってもしらないよー」

 

 と言うか、笑い方が女捨ててるから、気を付けた方が良いよ、はやて。

 

「ごほっごほっ…………あーおもろかった。せやけど、いい人たちやろ?」

「…………まぁね」

 

 それには激しく同意する。気前も気風も良い、明るくて優しい感じが印象的な商店街だった。

 

「でも、さすがにこれはもらいすぎな気がする」

「…………まぁそれは、これからあそこをひいきにすればいいだけのはなしや」

「おいこらなに目をそらしてるのさ」

「いやぁなんでもあらへん。なんのかんのいいくるめられて、まいかいおまけもらってしまうなんて、いえへんよー」

「いってる、いってるから」

「まぁでも、それでたすかっとるんもじじつなんよ」

 

 はやての独り言染みた呟きに込められた感情を察し、おれは口を閉じた。

 

「わたしがちぃさいときおかあさんがいなくなって、ついこのあいだはおとうさんもそうなった。いちおう、おとうさんの友だちのグレアムおじさんがいさんかんりしてくれてるし、その子どもさんのアリアさんやロッテさんもできるかぎりわたしのそばにいようと、しごとをやりくりしてうちに泊まってくれとる。こんどのはるからは、いちども会うたことのない兄ちゃんが、うみなり大学にかようために、わざわざうちに来てくれる」

 

 そこに込められているのは、多くの罪悪感と小さな苛立ち。

 

「しょうてんがいのおじさんおばちゃんもようしてくれるし、いしだせんせも気にかけてくれとる。…………わたしはホンマいろんな人に、めーわくかけてばかりや」

 

 そう、はやては自然と顔を俯かせる。視線の先がどうしてかはやて自身の足に向いている気がして、その雰囲気が自分に対して色々と諦めている様な気がして。

 

「――てい!」

「あいたぁ!?」

 

 思わず、無防備な頭頂部へとチョップした。

 

「な、なにするんやいたいやんかぁ!」

「べつに、いいんじゃない?」

「よぉないわ! これぜったいタンコブできとる!」

「めーわく、かけてもいいんじゃない?」

 

 頭の痛みに対する文句を捲し立てていたはやてが息を飲んだ。

 

「いいんだよ、べつに。おれらはまだ子どもなんだから。子どもはおとなにめーわくかけてなんぼだよ。まぁたしかに、はやてはあしにハンデがある。そのせいで、できないことがたくさんあるんだろうけど、そのていど、なんのもんだいもないよ」

 

 おれの言葉に固まっているはやてに、話を続ける。

 

「だってみんな、はやてがなにかいうまえに、いろいろしてくれてるんでしょ? じぶんから、はやてにかかわってるんでしょ?」

 

 はやての事を迷惑に思っているんなら、まず関わらないはずだ。だって、友人だったり、小さい時から付き合いがあるらしい近所だったりだからといって、その子供の面倒を見る義理も義務も無いんだから。

 なのにああやってはやてを可愛がっているということは、好意でそうしているということ。はやてに元気で明るく笑っていてほしいから、お節介を焼いているんだと、おれは思う。

 

「だからはやては、そうやっておちこむんじゃなくて、わらわないといけないよ」

「『わらう』?」

「そう。おじさんたちからおせわになったぶん、えがおでおれいをいうの。もうしわけないって思うんじゃなくて、かんしゃするの」

 

 きっとそっちの方が、おじさんたちも喜ぶよと言外に言ってやれば、はやては若干眉間に皺を寄せて考え始めた。そしてしばらくして、ゆっくりと口を開く。

 

「…………むつかしい」

「え?」

「今すぐ、そうかんがえるんは、わたしにはむつかしいわ」

「…………そっか」

「けどな、がんばってみる」

 

 そう言って、はやてはおれの方を見た。

 

「がんばって、しぜんに、わっ君がゆーたように、わらえるように、やってみる。ありがとな」

 

 そして、はやては笑う。その笑顔を見て、これなら自然に笑顔で感謝出来るようになるまでに時間は掛からないだろうなと思ってしまった。

 

「うん、でもムリしちゃダメだよ?」

「はーい」

 

 そうして、おれとはやては互いに笑いながら家路に着いた。夕日のオレンジ色が、どこか温かく感じた。

 

 

 

 

 

~おまけ~

 家に帰りつき、ロッテさんから受け取った手紙を一目見た瞬間、おれは思わず体を震わせた。イヌマルは、おれの足に猫のように顔を擦り付けておれを慰めており、ロッテさんは申し訳なそうに、そして同情の感情を多大に滲ませた目でおれを見ており、はやては訳が分からないと言わんばかりに首を傾げている。

 

 ありがとうイヌマル。お蔭で少し落ち着いた。

 うん、大丈夫だよロッテさん。あの人を止めることはおじさんすら出来なかったから。

 はやては今のまま、純粋な君のままでいてくれ。

 

 そして、今この場にいない父さんに告ぐ。

 

「かえってきたらおぼえてろよクソおやじぃぃぃいいいいいいいいいいいい!!!!」

 

 その手紙にはただ一言。

 

 『旅に出るわ。』

 

 本気で、どうしてこんな育児放棄野郎を今でも父親だと思えているのか。自分自身のことなのに分からなくなった一件だった。

 




 ちびちび書いてたのが完成したので更新。
 まだ、更新控え中宣言は撤回しません。申し訳ない。

 あ、商店街の正体が分かった人はお友達になりましょう。いや、ぜひなってください。
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