とある不良神官の話   作:キササギ

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今まで時系列を書いていませんでしたが、この話は原作では2巻終了後、3巻開始前。
アニメでいうと最終話終了後、しばらくしてからの話になります。




3話 とある不良神官とゴブリンスレイヤー

――ゴブリンスレイヤーに助力を頼む。

 

 そう決めたは良いが、1つ大きな問題がある。

俺と彼は、別に友達でも仲間でもない。

それでもゴブリン退治を断られる、という心配はしていないが……

そもそもの問題として、彼が今何処にいるのか分からないのだ。

 

 ギルドの掲示板には、ゴブリン退治の依頼がなかった。

もし既に冒険に出た後だったらお手上げだ。

別の手段を考える必要がある。

 

「ふーむ……いや、考えても仕方がないか。

『分からないことは人に聞く』、至言だな」

 

 それが出来ずに死んでいく冒険者は多い。

もちろん、聞けば答えて貰えるとは限らないのだが。

まあ、とにもかくにも行動しないことには始まらない。

席を立つと、酒場からギルドの受付に移動する。

 

「おや不良神官くん、どうしたんだい?」

 

「ちょいと確認したいことがある」

 

懐から手紙を取り出し、受付嬢に渡す。

 

「何々……ゴブリン退治ね。

依頼を請けるように言った私が言うのも何だけど……

君、この依頼を請けるつもり?」

 

 そう問いかける彼女の表情は、険しい。

ゴブリン。それは最弱の怪物(モンスター)

だが、最弱でも怪物なのだ。

白磁の冒険者が全滅してしまうことも、ままある。

 

――いや、まだ全滅と決まったわけではないはずだ。

 

 だが、仮に生きていたとしても『無事』ではないだろう。

今回自分が請けようとしている依頼は、そういう類の依頼だ。

だからこそ、決意を込めて頷き返す。

 

「ああ」

 

単独(ソロ)で?」

 

「まさか。いくらゴブリン相手でも一人でやれると思うほど、自惚れてはいない。

ゴブリンスレイヤーに助力を頼もうと思っている。

彼が何処にいるか知らないか?」

 

その問いかけに、思いがけない方向から返答が来る。

 

「ゴブリンスレイヤーさんですか!

あ! いえ、そのぅ……」

 

 もごもごと恥ずかしそうに縮こまっているのは、ギルドのもう1人の受付嬢。

栗色の髪を丁寧に編んだ髪と、きちんと化粧をされた顔。

そういった細やかな身だしなみは、彼女の魅力を十分に引き出している。

清潔感のある制服を着こなした彼女は大人の女性の魅力にあふれている……

 

……はずなのだが、今の彼女は羞恥で顔を赤くしており、見ているこちらの方が申し訳なくなってくる。

 

「ふふ、お気に入りだものねぇ。

不良神官くん。彼のことについてなら、この娘の方が私よりも詳しいよ」

 

そう言うと、彼女の肩をポンポンと叩く。

 

「いえ、詳しいだなんて。そんな……」

 

 彼女はますます縮こまってしまうが、確かに彼女はよくゴブリンスレイヤーと話していたように思う。

ならば彼女に聞けば良さそうだ。彼女に向き直り、改めて問いかける。

 

「聞いていたかもしれないが、ゴブリンスレイヤーにゴブリン退治を手伝ってもらいたいと考えている。

彼がどこにいるか知らないだろうか?」

 

「今日はまだギルドには居らしていないですね」

 

「ね、詳しいでしょ?」

 

「もう、からかわないで下さいてっば!

たまたま、今日はまだ来てないなって思っただけですから!」

 

彼女は耳まで赤くして、隣の同僚に抗議する。

 

「ふーむ……まだ来てないってことは、待っていれば良いのか?」

 

 まあ、そもそも約束もしていないのだから、仕方がない。

既に冒険に出ていたというよりは、大分マシな状況だ。

ひとまず一服しようと愛用のキセルを取り出す。

 

「そろそろだとは思うんですけど……あ!」

 

 そう言うと、彼女の顔がパッと明るくなる。

その顔につられる様にギルドの扉の方に顔を向ける。

 

 そこに彼は居た。

安っぽい鉄兜、薄汚れた皮鎧、腕に小振りな円盾、腰には中途半端な剣を差した冒険者。

自分が知る限り5年間、ゴブリン退治ばかりをしている変わり者。

 

――ゴブリンスレイヤー。

 

 

 彼はずかずかと無遠慮な足取りで、ギルドの受付に真っ直ぐ歩いてくる。

そして、一言。

 

「ゴブリンだ」

 

「お、おう」

 

 その一切迷いのない言葉に気圧される。

言葉を失う自分とは異なり、受付嬢はむしろ嬉しそうに対応する。

 

「ゴブリンスレイヤーさん、おはようございます!

今日はゴブリン退治の依頼はないのですが――」

 

 その言葉を聞くと、彼は来た時と同様に迷いなく踵を返す。

そんな彼を受付嬢は慌てて引き止める。

 

「って、帰らないで下さい!」

 

「……だが、ゴブリン退治の依頼はないのだろう?」

 

 ゴブリンスレイヤーは振り向き、足を止めたが、彼の動きは迷いがなく決断的だ。

とにかく要件を切り出さないと本気でこのまま帰りかねない。

 

「ああ、すまない。ゴブリンスレイヤー。

少し時間をもらえるだろうか?あんたにゴブリン退治の協力を頼みたいんだ。

もちろん、報酬も――」

 

「分かった。引き受けよう。

ゴブリンの巣はどこにある?規模は?

シャーマンやホブは確認しているか?」

 

 ガッと、こちらに兜を向けると、凄まじい勢いで詰め寄ってくる。

完全武装のフルフェイスで詰め寄られるのは、さすがに圧力が強い。

そして改めて納得する。こいつは『変なやつ』だ。

 

「待て、ちょっと待ってくれ。

ゆっくり、1つずつ説明させてくれ」

 

「そうですよ。

ゴブリンスレイヤーさん、困っていらっしゃるじゃないですか」

 

 困惑する自分に対して、助けは意外な所から来た。

声のする方に顔を向けると、自分と同じ地母神の神官衣を纏った少女が居た。

 

 輝くような金色の髪に澄んだ青色の瞳。

顔つきはまだ幼く、恐らく成人したてだろう。

線が細く、折れてしまいそうな華奢な体であるが、首には自分と同じ黒曜の身分証を下げている。

それはつまり、彼女もまた冒険者だということだ。

 

――確か彼と一党を組んでいるのだったか。

 

 自分と同じ地母神の神官といえど、全員が知り合いというわけではない。

特に自分と彼女は世代が異なるため、挨拶ぐらいは交わしたことはあるが、話をしたことはない。

 

 彼女が自分とゴブリンスレイヤーの間に割って入ると、さすがの彼も勢いが弱まる。

そのことに感謝を伝えると、改めて本題を切り出す。

 

「俺の故郷の近くにゴブリンが住み着いた。

お二人に協力を依頼したい」

 

 

 ひとまず事情を説明すると、まず口を開いたのは受付嬢だった。

彼女は書類をパラパラとめくり、手紙の内容と依頼の確認を行う。

 

「はい、確かに彼の故郷の村からゴブリン退治の依頼が出されています。

この依頼に対して、3日前に白磁等級の冒険者の一党が請け負いました。

……彼らはまだ帰還していません」

 

その言葉を補足するように、情報を付け加える。

 

「ここから村までは徒歩で1日程度。

ゴブリンが住み着いたという洞窟も、昔は子供の遊び場だった。そう大きなものではなかったはずだ。

そして、相手はゴブリン。

依頼を達成するにしろ、苦戦して撤退するにしろ3日もかけるような相手ではないだろう?」

 

その説明にゴブリンスレイヤーは淡々と答える。

 

「状況による。白磁の一党の編成はどうだ?」

 

「4人の一党で、種族はすべて只人(ヒューム)で構成されています。

職業は男性の戦士1、あとは女性で武道家1、神官1、魔術師1となります」

 

「……ッ!」

 

受付嬢の言葉に後輩の神官は、目に見えて顔を青くし、息を呑む。

 

「『お嬢』、大丈夫か?」

 

「……いえ、何でもありません。

あの……それよりも、お嬢というのは?」

 

「神官のお嬢さんだから、お嬢だろ?」

 

 彼女は見たところ、自分のような『はみ出しもの』ではなく、真っ当に皆のために頑張っている神官だろう。

自分が『不良』なら、彼女は『お嬢様』と言ったところか。だから『お嬢』。

 

「まあ、それはそれとしてだ。

どう見るゴブリンスレイヤー。彼らはまだ生きているだろうか?」

 

 正直に言えば自分は厳しいと思う。

自分もゴブリン退治は数回請けたこともあるし、ゴブリンロード討伐にも参加している。

だから、ゴブリンの特性ぐらいは知っているつもりだ。

男は餌として食われ、女はゴブリンに犯されてから殺される。

仮に生きていたとしても奴らの『孕み袋』か。

 

その問いかけに対し、ゴブリンスレイヤーは出された情報を吟味し、少し考えてから答える。

 

「……生存の可能性はある。しかし、『無事』ではあるまい」

 

 ビクリと、お嬢の肩が震える。

彼女もゴブリンスレイヤーと一緒に冒険をしているなら、ゴブリンに捕まった者の末路は当然知っているだろう。

 

――彼女はやれるだろうか?いや、それは俺が心配することではないな。

 

 彼女の一党の頭目はゴブリンスレイヤーだ。

そして、彼女は『黒曜』の冒険者で、新人(ニュービー)ではない。

勝手に彼女のことを判断するのは、彼女に対する侮辱だ。

 

 お嬢のことは一旦、脇に置き話を戻す。

ゴブリン退治の専門家である彼からの意見も聞いたのだ。

そろそろ今回の依頼を詰めなければならない。

 

「生きている可能性があるのなら……俺は彼らを助けたい」

 

懐から革袋を取り出し、中に入っていた宝石をカウンターの上に置く。

 

「この宝石は金貨に換算すれば、1袋分はあるはずだ。

受付さん、これを追加の報酬として、改めて依頼を出したい。

目的はゴブリン退治と白磁の冒険者の救出だ」

 

「それは構いませんが……よろしいのですか?」

 

「仮にも銀等級の冒険者を雇って、さらに依頼に注文をつけようと言うんだ。

追加の報酬ぐらいは出す、それが筋ってもんだろう」

 

 受付のカウンターに置かれた宝石を、不思議そうに眺めるゴブリンスレイヤーを見る。

彼はゴブリン退治のみで銀等級にまで上り詰めた冒険者だ。

きっと数え切れないほどのゴブリンを殺してきたに違いない。

そんな彼がゴブリン退治を断るとは思わない。

実際、彼はこちらが条件を言う前から受ける気でいた。

 

 ――まあ、察しはつく。彼にとってゴブリン退治は金のためじゃない。

あれだけゴブリンに拘るって事は、奴らに家族か仲間、あるいは恋人を嬲りものにされたんだろう。

でなければ、あそこまでゴブリンに執着など出来るはずがない。

 

 だから、仮に自分が追加の報酬など出さなくても、彼はゴブリン退治に付き合ってくれるだろう。

しかし、それは彼の復讐心を何の関係もない自分が利用するということだ。

一人の神官として、そんな事が出来るわけがない。

それに――

 

――俺とゴブリンスレイヤーは友達でも仲間でもない。同じ冒険者だ。

だったら、やはりこれはお願いではなく、報酬を払う依頼が相応なのだろう。

まあ、俺は神官の冒険者というよりも、神官が冒険もしているといった感じなのだが……

それはそれだ。

 

受付嬢に新たな依頼として依頼書を発行してもらい、二人の前に提示する。

 

「ゴブリンスレイヤー、それにお嬢。

この条件で依頼を請けて貰えないだろうか?」

 

「……ゴブリンスレイヤーさん」

 

「問題ない。元よりそのつもりだ。

生きているのなら救助する。

そして――ゴブリンは皆殺しだ」

 

「私も行きます。構いませんよね?」

 

「ああ、もちろんだ。協力に感謝する」

 

 頭を下げ、礼を述べる。

これで面子は揃った。ならば後はやるだけだ。

その後、ポーションの購入等の準備を整え、開拓村へ向けて出発した。

 

 




ちなみに不良神官の宝石の出処はヤクザの若頭から、
彼は冒険者としての収入よりも、ヤクザ絡みの収入の方が多いのです……

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