とある不良神官の話   作:キササギ

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7話 とある不良神官と、とある冒険者の結末

――よくある話だ。

 

 開拓村近くの洞窟に、ゴブリンが住み着いたことも。

新米の冒険者が、初めての冒険としてゴブリン退治に赴いたことも。

それがゴブリンによって追い詰められ、全滅してしまったことも。

助け出された娘達が、慰み者にされたことを儚んで神殿に入ったことも。

何もかも……この世界ではよくある話なのだ。

 

■

 

 季節はいよいよ秋に入り、肌寒い日も増えてきた。

町は目前に迫った収穫祭の準備で大いに賑わっている。

大通りには既に屋台が運び込まれ、商店には色鮮やかな飾り布が施されている。

 

 あの若頭にとっても、収穫祭は書き入れ時だ。

屋台の設営、配置、材料の準備、さらに警備のローテーション等々、運営側は考えることが大変だ。

 

 あとは、そうだ。収穫祭で行われる地母神様への奉納の演舞。

その担当に、お嬢が選ばれた。

信仰する神に舞を踊り、祝詞を捧げる――それは本当に名誉なこと。

やはり、彼女は自分とは違い、期待をされているのだなぁ、とそう思う。

 

 それに比べれば、自分はいつも通りだ。

冒険者ギルドに顔を出し、いつものように掲示板を確認する。

自分に対する依頼は……今日もなし。

悲しくなってくるが、これも含めていつも通りだ。

 

――いや、正確に言えば、変わった部分も少しはある。

 

 自分の張った依頼書から目を離し、その他の依頼を目で追っていく。

目当てのモノはアイテムの調達依頼。

 

――えっと……『蒸留水』、『燃える水』、『火の秘薬』は請けても良い、と。

 

手元のメモと依頼書を見比べながら、間違いがないことを確認し、依頼書をギルドの受付に持って行く。

 

「監督官さん、手続きを頼む。あと前回の報酬も」

 

「はいはい。ちょっと待ってね」

 

 受付の監督官もいつも通りだ。

彼女は慣れた手つきで書類と、報酬を用意する。

 

「……それで、彼女の調子はどう?」

 

「んー……まあ、ぼちぼちと言ったところかな」

 

 彼女、というのは、以前ゴブリン退治で救出した冒険者の一人。

赤い髪の女性の魔術師のことだ。

ちなみに、彼女と一緒に救出した他の2人はまだ地母神の神殿で療養中。

彼女達の身体の傷は癒えている。しかし、心の傷はまだ癒えていない。

地母神の教えは、『守り、癒し、救え』。

だから、傷が癒えるまで、ゆっくりと治していけば良い。

 

――そう、まだ休んでいれば良かったのだ。

しかし、件の女魔術師は『私はもう大丈夫だ』と、地母神の神殿から出てきてしまった。

 

 神殿としても、そう言われてしまうと仕方がない。

実際、身体の傷はもう治っている。心の傷は外からは分からない。

ベッドの数にだって限りはある。リソースはいつだって有限だ。

そうして彼女は、1人で冒険者ギルドに来て……ギルドの扉を開けたところで一歩も動けなくなってしまった。

彼女曰く、周りの人間全てが自分のことを『ゴブリンに負けた女』だと笑っているように見えるのだと言う。

 

 実際に、笑われたのかは分からない。

等級が上の冒険者は心の中で思ったとしても、口には出さないだろう。

しかし、下の等級の冒険者はならず者とそう変わらない。

そう言って笑う者もいるかもしれない。

 

 しかし、言っては悪いが新人の冒険者なんて腐るほどいるのだ。

一々、誰が何の依頼を請けて、成功したとか失敗したとか気にしていられない。

だから結局のところ、真相は分からない。

 

 分かっていることは、ちょうどギルドに居合わせた自分が彼女を保護した、ということだけだ。

その後、よく話を聞いてみると、彼女は都にある賢者の学院を優秀な成績で卒業したという。

それならと言うことで、薬品などの調合の依頼を請けるように勧めたのだ。

 

 ただ、彼女はあの一件以来、冒険者ギルドどころか、家の外にすら出られなくなってしまったので、

こうして自分が変わりに依頼を請けに来ている、という訳だ。

まあ、仲介料として銀貨1枚を貰ってるし、彼女のことがなくてもギルドには通っているのだ。

大した手間ではない。

 

 そのあたりの事情は目の前の監督官も知っている。

彼女もまた至高神の神官として、気にかけてはくれている。

 

「そっか。ゆっくりで良いからさ。

また外に出られるようになったら、ギルドに顔を出してね」

 

「ああ、分かってる。その辺は焦らず、地道にやっていくさ」

 

 監督官に一礼すると、今度は酒場に向かい、獣人の女給に食料を頼む。

2日分の食料と、林檎酒(シードル)。それと自分用に葡萄酒とチーズを購入する。

 

「毎度あり!

最近はたくさん買ってくれるから、あたし様がおまけをしてやろう!」

 

 そう言うと彼女は、馬鈴薯を幾つか袋に詰めてくれる。

それに礼を言い、酒場を後にする。

 

「さて……行くか」

 

■

 

 冒険者ギルドから外に出て、町のはずれへ。

その先にあったのは、古い造りの小さな家。

町の中を流れる小川の傍に立てられたその小屋には、水車と煙突が備え付けられている。

見る人が見れば、それがただの小屋ではなく工房(アトリエ)だと分かるだろう。

 

 これが彼女――女魔術師、改め女錬金術師の工房だ。

ドアの前に立ち、備え付けられた真鍮製のノッカーを叩く。

 

「おーい、俺だ。開けてくれ」

 

 しかし、反応はない。

小屋の煙突からは白い煙が出ているし、地面にも自分以外の足跡はない。

そもそも今の彼女は一人では出歩けないのだから、間違いなく居る。

 

「……まったく、居留守とはいい度胸だ。入るぞ」

 

 彼女の返事を待たず、ポケットから鍵を取り出すと、鍵穴に突っ込む。

この工房は元々はヤクザの若頭の持ち物で、今は彼女が借りている物件だ。

当然、合鍵は持っている。ガチャリと鍵が回り、扉が開く。

 

 家の中に踏み込むと、何かの薬品だろうか、独特の匂いがする。

実際、部屋の床には薬品やら、何かの鉱石、さらに空のビンや脱ぎ散らかした彼女の衣服が散らばっていた。

 

 家は外から見た通り、それほど広くはない。

大雑把に部屋の左側に炉や作業台などの作業スペースがあり、

右側にはテーブルやベッドなどが置かれ、生活用のスペースとなっている。

 

「……なんで勝手に入ってきてるのよ」

 

 その声のほうに目を向ける。

部屋の右奥、ベッドの上でごそごそと毛布を身体に巻きつけ、顔だけをこちらに向けた彼女の姿があった。

毛布に包まり、じぃーとこちらを眺めているその様子は、なんとなく猫を思わせる。

 

「何でって、返事がないし、俺は合鍵を持ってるからな。

それに食料と酒、あと依頼書を持ってきたぞ。もちろん、報酬もな」

 

愛用の鞄から品物を取り出し、テーブルに並べる。

 

「………………ありがと」

 

彼女は自分が勝手に入ってきた事など、色々と言いたい事はあったようだが、それらを飲み込み小さく感謝の言葉を述べる。

 

「おう、お礼なら地母神様に言うと良い」

 

「……あなたに、言ってるんだけど」

 

「それなら、お嬢とゴブリンスレイヤーにも言っておくと良い。

俺は治療をしただけで、ゴブリン退治の功績は主にあの2人だ。

それと、ヤクザの若頭にもな」

 

「はぁ……あなたって馬鹿よね」

 

「俺の頭が良かったら、俺は『不良神官』などと呼ばれていない。

……さて、その様子じゃ飯はまだだろ?

今から作るから、その間に着替えておけ」

 

 ベッドの上に毛布に包まっただけの裸の女性、というのは目の毒だ。

だというのに、彼女はふてくされたように言う。

 

「別に……このままで良いわよ。

私の裸なんて見慣れてるでしょ」

 

「見慣れているというほど、見てはいない。

それと、親しき仲にも礼儀ありだ。

俺は恥じらいがある女性の方が好きだぞ」

 

「……今更、何を恥らえっていうのよ……私は、ゴブリンに……」

 

彼女の態度は一瞬で変わり、まるで迷子の子供のように震えていた。

 

「あー……」

 

 彼女との会話は気を使う。

普段の彼女は気が強く、気位も高いので、同情をされるのは好まない。

だから、内心は気を使いつつも、普通に接しているのだが……

こうして、何気ない会話で落ち込んでしまう。

 

台所に行こうとしていた身体を彼女の方に向け、視線を合わせる。

 

「良いか。ここに、ゴブリンはいない。

ここにいるのは俺だけで、俺に対して恥らえと言ってるんだ」

 

「……なに、あなた、もしかして私に対して、欲情するの?

あなたも知ってるでしょ?私は処女じゃないのよ」

 

「君は綺麗で素敵な女性で、俺は処女かどうかは気にしない」

 

「え……?」

 

「というか、そういうことを気にしてて、娼館に通えるかってんだ」

 

一瞬、顔を赤くした彼女であったが、心底呆れたように言う。

 

「…………そこで娼婦の話を出すのが、あなたの駄目なところよ」

 

「おう、俺は不良神官だからな。駄目な奴だとも」

 

「何か話をはぐらかされた気がする……

もういいわ。着替えるから覗かないでよ」

 

 彼女はそういうと、ベッドの脇にかけられていたローブを手繰り寄せる。

まあ、何はともあれ、少しは気分が戻ったようで良かった。

彼女から目線を外し、台所に移動する。

背後で衣擦れの音を聞きつつ、かまどに火を付け、鍋に豆と馬鈴薯を入れて煮込む。

 

 それにしても、と鍋の調子を見つつ思う。

彼女は言葉や態度こそアレだが、わりと露骨に誘ってくる。

そうでなければ、俺が来るのを分かって上で、裸で居るなんてことはしない。

 

 おそらく、彼女は自分に好意を持っているのだろうと思う。

あるいは、そうでなくても自分を繋ぎ止めようとしているのだろう。

その気持ちは分からないでもない。今の彼女が頼れるのは自分だけ。

俺が彼女を見捨てた時点で、彼女の一生は間違いなく終わる。

それが純粋な好意にしろ、打算にしろ、俺との繋がりを強化しようとする行動をしない手はない。

 

 その辺りは自分も分かっているし、悪くも思わない。

別に自分だって、全て純粋な善意でやってる訳じゃない。

善意もなく、優しさもない神官はクソだが、その心意気だけで務まるほど神官は甘くない。

世界には悪意があり、理不尽がある。

そこで善意を貫くには、金だったり、コネだったり、色々と手を尽くす必要があるのだ。

 

 個人的には打算で誘ってくる方が良い。

そういった強かな女性は好みだし、後腐れがない。

 

――ただ、彼女の場合は打算じゃない気がするんだよなぁ……

 

 男女の仲はそんなに甘くない。

それこそ夫婦ともなれば、一生を付き合っていくことになる。

たった一回、命を救った程度でどうにかなる訳ではないのだ。

 

――まあ、何にしても彼女の傷が癒えてからだな。

 

 今の自分にとって、彼女はやはり女性である前に患者だ。

だから、今どうこう考えても仕方がない。

それよりも、まずは目の前の鍋に意識を戻す。

味を確認し、まずまずの出来に満足する。

 

――まず飯を食う。後のことはそれから考えれば良いのだ。

 

■

 

 そうして二人で食事をして、一息入れたところで、彼女はローブの上から白衣を身に纏い、眼鏡をかけると作業を開始する。

ガラスで出来た容器に水を入れ、アルコールランプに火を灯す。

コポコポと沸騰する水に、何やら粉末を入れると透明な水が、ぱっと紫色に変わる。

真剣な目で秤に粉末を乗せ、調合を行っていく様子は、さすがは魔術師と言ったところか。

 

 実際、作業に集中している間はゴブリンのことも忘れているのか。

普段の不貞腐れたり、どこか投げやりな態度は消えてなくなる。

おそらく、こうして真剣に作業に向き合う姿が、本来の彼女の姿なのだろう。

その姿には調合に失敗するかもしれないという不安などなく、自信に満ち溢れており、凛々しさすらある。

それが、ああなってしまうのだから、本当に難儀なものだ。

 

「……いつまでそうして見ているつもりかしら。

それとも、何かおかしいところでもある?」

 

作業が一段落したようで、額の汗を拭いながら彼女は言う。

 

「いや、御伽噺に出てくる魔女みたいだなぁって。

ほら、ウェヒヒヒって笑いながら、壷の中身をぐりぐりかき回している感じの」

 

「人を邪教徒みたいに言わないでちょうだい。

まったく、暇なら手伝いなさいよ」

 

彼女は顔を赤くしてプリプリと怒り出すと、すりこぎ棒と、すり鉢に入った白い塊を手渡してくる。

どうやら、この塊を削って、粉末状にすれば良いらしい。

言われた通りに、すりこぎ棒を握り、塊をゴリゴリと削っていく。

 

「気をつけてね。それ火の秘薬の材料だから、雑に扱うと爆発するわ」

 

「なにそれ、怖い」

 

思わず手を止めると、彼女はくすくすと笑っていた。

 

――ああ、もう、まったく、驚かせてくれる。まあ、彼女が笑えるなら、それで良いんだけど。

 

 ガタガタと震えているよりかは、笑っているほうがずっと良い。

そんな感じのやり取りをしつつ、彼女の調合を手伝った。

 

■

 

 それからしばらく作業を行い、依頼の分の調合は終わり。

台所で湯を沸かし、お茶を入れて、持って来る。

 

「これから……やっていけるかしら」

 

 彼女の方はテーブルに突っ伏して、何やら呻いている。

見ると、目から光が消えており、どんよりとした雰囲気。

先程の自信に満ちた雰囲気はどこへやら、目を離すと、すぐにこうなる。

 

――まあ、彼女の不安も良く分かるけどなぁ。

 

 この工房はヤクザの若頭が持っていた物件だ。

だが、彼が自分からこの工房を手に入れたとは考えられない。

なぜなら錬金術の工房なんて、若頭にとって必要ないモノだからだ。

おそらく、この工房は誰かの借金のカタに手に入れたに違いない。

 

 つまり、この工房の前の持ち主は破産している。

自分の店を持つというのは、ただそれだけで難しいのだ。

 

 さらに言えば、彼女はこの工房を始めるにあたって、実験器具や薬品などの初期投資であの若頭に借金をしている。

利息は常識的な範囲とは言え、簡単に返せる額ではない。

正直に言って、ゴブリンがどうこう以前に、胃が痛くなる状態だ。

だけど、彼女はやると決めて始めたのだ。

ならば、やることは一つだろう。

 

彼女の対面の椅子に腰掛けると、自分の分のお茶をすする。

 

「その質問の答えは、出来る、出来ないではなく、『やるしかない』だ。

失敗した時のことは考えなくて良い」

 

「……簡単に言ってくれるわね」

 

テーブルに突っ伏したまま、顔だけをこちらに向ける。

 

「でも、実際そうだろう。君は良くやってるよ。

それに、無理だというなら……地母神の神殿に戻るか。

なに、腐っても俺は地母神の神官だ。神官長様に頭を下げれば君一人ぐらいどうにかなる。

ヤクザの若頭についてもな」

 

どうする?という問いに、彼女はギリギリと奥歯をかみ締める。

 

「……このまま、終われる訳、ないじゃないの」

 

 彼女の夢は失われた魔術の秘密を解き明かすことだと言う。

曰く、スクロールの製法をはじめとして、現代においては失われた魔術は多い。

だから魔術の秘密に辿り着くためには、古代の遺跡に潜り、魔術の秘宝を見つけ出す必要がある。

彼女はそのために冒険者となり、最初のステップでつまずいた。

だけど、まだ何も終わってない、そのはずだ。

 

「そう言えるなら、何も終わってないのさ。

既に起きた過去はどうしようもない。

けれど、未来はいくらでも変えられる。

それに……これを見ろ」

 

 そう言って、彼女に報酬の入った袋と依頼書を見せる。

入っている金貨も、依頼書の報酬も、それほど多くはない。

それでも、それは彼女の仕事の成果だし、彼女の作る品を待っている人がいるという証明だ。

 

「君の過去がどうだろうと、今の君はこの工房の女店主だ。

やるべきことは、依頼人の求める品を、期限内に用意し、報酬を貰うこと。

それを繰り返せば、借金もなくなるし、また遺跡にも潜れる」

 

 そう、過去にゴブリンに負けたなんてのは何の言い訳にもならない。

やるべき事をやる。仕事をして、報酬を貰い、信用を積み、技術を磨き、より大きな仕事をする。

冒険者も、工房の店主もやることに大差はない。

 

「……などと偉そうなことも語ってみても、現状の収支としてはトントン。

これじゃ借金が減らないなぁ……」

 

「……そうね」

 

がっくりと彼女はうなだれる。

 

「思うに調達依頼に頼っているだけでは駄目で、こちらから売りつけるぐらいの勢いが必要だと思う」

 

「新しい素材の購入……そのための実験器具の新調……うう、これ以上の借金はしたくないぃ……」

 

彼女は頭を抱え、足をばたつかせて呻く。

 

「借金を返すために、借金が必要とは……ううん、世の中、本当に世知辛い」

 

本当に世知辛い、そう思う。

 

■

 

あの後もしばらく駄弁っていたが、既に日は落ちて夜の時間となっている。

 

「さて……そろそろお暇するよ。

鍋の中にまだスープが残ってるから、食欲があるなら食べると良い」

 

「……普通に帰るのね。

ねえ、もし、さ。娼館に行くなら……私を……私は……ただでも、いいから……」

 

 不安そうな彼女の顔。

本当は付いてやった方が良いのではないかとも思う。

だけど……考えたが、それは良くないのだろう。

何でもかんでも俺が面倒を見たのでは、それは立ち直ったのではなく、依存しているだけだ。

彼女を見捨てるつもりはないが、俺がいなくなると立ち行かない、というのは健全ではない。

 

「今日はまっすぐ帰るし、君は娼婦でもないだろう。

そういう話は、デートにでも誘ってから言ってくれ。

知ってるか?男ってのは結構ロマンチストなんだぜ?」

 

「……私が外に出れないって、知ってるでしょ」

 

「だが、これからずっと、そうだという訳じゃない。

今日出来なくても、明日出来れば良いし、明日出来なければ、明後日でも良い。

実際、借金だって今日、明日、頑張ればどうにかなるもんでもないだろう?

それと同じだ。ゆっくりやっていこうぜ。

ほら、俺は明日も来るし、明後日も来るからさ」

 

そう言うと、彼女を抱き寄せ、口付けを行う。

 

「ん…………頑張る」

 

「ほどほどにな。それじゃ、また明日」

 

 ドアを閉めて、外に出る。

夜の風はもう秋とは思えない寒さがある。

外には赤い月と緑の月。

あのゴブリン退治の時と同じく、今日も夜の空に輝いている。

 

「……別に不安なのは、彼女だけじゃないのさ」

 

 自分だって、この先どうなるかは分からない。

俺一人が頑張ったところで、路地裏の環境が変わったかと言えば、大して変わってない。

よく知らない人から、あれこれ言われることもある。

それでも、自分の信仰に揺るぎはないが、心が傷つかない訳じゃない。

色々、悩みながらも生きている。

それは、自分だけじゃなくて、ゴブリンスレイヤーもそうだろうし、お嬢もそうだろう。

 

――だから、まあ、彼女だってどうにかなるだろ。

 

 少なくとも彼女は、『このままでは終わらない』と言った。

それなら、きっと大丈夫。

白い息を吐きつつ、下宿先の宿に帰る。

 

――自分にも、彼女にも、明日はあるのだから。




という訳で、不良神官さんのお話は以上で終わりです。

この作品のテーマ
・あの時、解毒の奇跡があれば結果は変わっていたのではないか。

では、なぜ最初の一党ではないのかと言えば、作者はあの失敗があってこその女神官さんだと思っているので。もちろん、原作で死亡した人間の生存を模索するのも2次創作の醍醐味なのですが。

その他に書きたかったこと
・原作では活躍の機会が少ない回復魔法をメインに据えたい。
・引退した冒険者はどうしているのか。
・原作で触れられている社会の闇を駆ける人々。四方世界のシャドウランナーに関係していそうな裏家業の人達。

そんな感じなので、だいたい書きたいことは書けたと思います。

それでは、ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。
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