とある不良神官の話   作:キササギ

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7話 とある不良神官と、とある冒険者の結末

――よくある話だ。

 

 開拓村近くの洞窟に、ゴブリンが住み着いたことも。

新米の冒険者が、初めての冒険としてゴブリン退治に赴いたことも。

それがゴブリンによって追い詰められ、全滅してしまったことも。

助け出された娘達が、慰み者にされたことを儚んで神殿に入ったことも。

何もかも……この世界ではよくある話なのだ。

 

 

 季節はいよいよ秋に入り、肌寒い日も増えてきた。

町は目前に迫った収穫祭の準備で大いに賑わっている。

大通りには既に屋台が運び込まれ、商店には色鮮やかな飾り布が施されている。

 

 あの若頭にとっても、収穫祭は書き入れ時だ。

屋台の設営、配置、材料の準備、さらに警備のローテーション等々、運営側は考えることが大変だ。

 

 あとは、そうだ。収穫祭で行われる地母神様への奉納の演舞。

その担当に、お嬢が選ばれた。

信仰する神に舞を踊り、祝詞を捧げる――それは本当に名誉なこと。

やはり、彼女は自分とは違い、期待をされているのだなぁ、とそう思う。

 

 それに比べれば、自分はいつも通りだ。

冒険者ギルドに顔を出し、いつものように掲示板を確認する。

自分に対する依頼は……今日もなし。

悲しくなってくるが、これも含めていつも通りだ。

 

――いや、正確に言えば、変わった部分も少しはある。

 

 自分の張った依頼書から目を離し、その他の依頼を目で追っていく。

目当てのモノはアイテムの調達依頼。

 

――えっと……『蒸留水』、『燃える水』、『火の秘薬』は請けても良い、と。

 

手元のメモと依頼書を見比べながら、間違いがないことを確認し、依頼書をギルドの受付に持って行く。

 

「監督官さん、手続きを頼む。あと前回の報酬も」

 

「はいはい。ちょっと待ってね」

 

 受付の監督官もいつも通りだ。

彼女は慣れた手つきで書類と、報酬を用意する。

 

「……それで、彼女の調子はどう?」

 

「んー……まあ、ぼちぼちと言ったところかな」

 

 彼女、というのは、以前ゴブリン退治で救出した冒険者の一人。

赤い髪の女性の魔術師のことだ。

ちなみに、彼女と一緒に救出した他の2人はまだ地母神の神殿で療養中。

彼女達の身体の傷は癒えている。しかし、心の傷はまだ癒えていない。

地母神の教えは、『守り、癒し、救え』。

だから、傷が癒えるまで、ゆっくりと治していけば良い。

 

――そう、まだ休んでいれば良かったのだ。

しかし、件の女魔術師は『私はもう大丈夫だ』と、地母神の神殿から出てきてしまった。

 

 神殿としても、そう言われてしまうと仕方がない。

実際、身体の傷はもう治っている。心の傷は外からは分からない。

ベッドの数にだって限りはある。リソースはいつだって有限だ。

そうして彼女は、1人で冒険者ギルドに来て……ギルドの扉を開けたところで一歩も動けなくなってしまった。

彼女曰く、周りの人間全てが自分のことを『ゴブリンに負けた女』だと笑っているように見えるのだと言う。

 

 実際に、笑われたのかは分からない。

等級が上の冒険者は心の中で思ったとしても、口には出さないだろう。

しかし、下の等級の冒険者はならず者とそう変わらない。

そう言って笑う者もいるかもしれない。

 

 しかし、言っては悪いが新人の冒険者なんて腐るほどいるのだ。

一々、誰が何の依頼を請けて、成功したとか失敗したとか気にしていられない。

だから結局のところ、真相は分からない。

 

 分かっていることは、ちょうどギルドに居合わせた自分が彼女を保護した、ということだけだ。

その後、よく話を聞いてみると、彼女は都にある賢者の学院を優秀な成績で卒業したという。

それならと言うことで、薬品などの調合の依頼を請けるように勧めたのだ。

 

 ただ、彼女はあの一件以来、冒険者ギルドどころか、家の外にすら出られなくなってしまったので、

こうして自分が変わりに依頼を請けに来ている、という訳だ。

まあ、仲介料として銀貨1枚を貰ってるし、彼女のことがなくてもギルドには通っているのだ。

大した手間ではない。

 

 そのあたりの事情は目の前の監督官も知っている。

彼女もまた至高神の神官として、気にかけてはくれている。

 

「そっか。ゆっくりで良いからさ。

また外に出られるようになったら、ギルドに顔を出してね」

 

「ああ、分かってる。その辺は焦らず、地道にやっていくさ」

 

 監督官に一礼すると、今度は酒場に向かい、獣人の女給に食料を頼む。

2日分の食料と、林檎酒(シードル)。それと自分用に葡萄酒とチーズを購入する。

 

「毎度あり!

最近はたくさん買ってくれるから、あたし様がおまけをしてやろう!」

 

 そう言うと彼女は、馬鈴薯を幾つか袋に詰めてくれる。

それに礼を言い、酒場を後にする。

 

「さて……行くか」

 

 

 冒険者ギルドから外に出て、町のはずれへ。

その先にあったのは、古い造りの小さな家。

町の中を流れる小川の傍に立てられたその小屋には、水車と煙突が備え付けられている。

見る人が見れば、それがただの小屋ではなく工房(アトリエ)だと分かるだろう。

 

 これが彼女――女魔術師、改め女錬金術師の工房だ。

ドアの前に立ち、備え付けられた真鍮製のノッカーを叩く。

 

「おーい、俺だ。開けてくれ」

 

 しかし、反応はない。

小屋の煙突からは白い煙が出ているし、地面にも自分以外の足跡はない。

そもそも今の彼女は一人では出歩けないのだから、間違いなく居る。

 

「……まったく、居留守とはいい度胸だ。入るぞ」

 

 彼女の返事を待たず、ポケットから鍵を取り出すと、鍵穴に突っ込む。

この工房は元々はヤクザの若頭の持ち物で、今は彼女が借りている物件だ。

当然、合鍵は持っている。ガチャリと鍵が回り、扉が開く。

 

 家の中に踏み込むと、何かの薬品だろうか、独特の匂いがする。

実際、部屋の床には薬品やら、何かの鉱石、さらに空のビンや脱ぎ散らかした彼女の衣服が散らばっていた。

 

 家は外から見た通り、それほど広くはない。

大雑把に部屋の左側に炉や作業台などの作業スペースがあり、

右側にはテーブルやベッドなどが置かれ、生活用のスペースとなっている。

 

「……なんで勝手に入ってきてるのよ」

 

 その声のほうに目を向ける。

部屋の右奥、ベッドの上でごそごそと毛布を身体に巻きつけ、顔だけをこちらに向けた彼女の姿があった。

毛布に包まり、じぃーとこちらを眺めているその様子は、なんとなく猫を思わせる。

 

「何でって、返事がないし、俺は合鍵を持ってるからな。

それに食料と酒、あと依頼書を持ってきたぞ。もちろん、報酬もな」

 

愛用の鞄から品物を取り出し、テーブルに並べる。

 

「………………ありがと」

 

彼女は自分が勝手に入ってきた事など、色々と言いたい事はあったようだが、それらを飲み込み小さく感謝の言葉を述べる。

 

「おう、お礼なら地母神様に言うと良い」

 

「……あなたに、言ってるんだけど」

 

「それなら、お嬢とゴブリンスレイヤーにも言っておくと良い。

俺は治療をしただけで、ゴブリン退治の功績は主にあの2人だ。

それと、ヤクザの若頭にもな」

 

「はぁ……あなたって馬鹿よね」

 

「俺の頭が良かったら、俺は『不良神官』などと呼ばれていない。

……さて、その様子じゃ飯はまだだろ?

今から作るから、その間に着替えておけ」

 

 ベッドの上に毛布に包まっただけの裸の女性、というのは目の毒だ。

だというのに、彼女はふてくされたように言う。

 

「別に……このままで良いわよ。

私の裸なんて見慣れてるでしょ」

 

「見慣れているというほど、見てはいない。

それと、親しき仲にも礼儀ありだ。

俺は恥じらいがある女性の方が好きだぞ」

 

「……今更、何を恥らえっていうのよ……私は、ゴブリンに……」

 

彼女の態度は一瞬で変わり、まるで迷子の子供のように震えていた。

 

「あー……」

 

 彼女との会話は気を使う。

普段の彼女は気が強く、気位も高いので、同情をされるのは好まない。

だから、内心は気を使いつつも、普通に接しているのだが……

こうして、何気ない会話で落ち込んでしまう。

 

台所に行こうとしていた身体を彼女の方に向け、視線を合わせる。

 

「良いか。ここに、ゴブリンはいない。

ここにいるのは俺だけで、俺に対して恥らえと言ってるんだ」

 

「……なに、あなた、もしかして私に対して、欲情するの?

あなたも知ってるでしょ?私は処女じゃないのよ」

 

「君は綺麗で素敵な女性で、俺は処女かどうかは気にしない」

 

「え……?」

 

「というか、そういうことを気にしてて、娼館に通えるかってんだ」

 

一瞬、顔を赤くした彼女であったが、心底呆れたように言う。

 

「…………そこで娼婦の話を出すのが、あなたの駄目なところよ」

 

「おう、俺は不良神官だからな。駄目な奴だとも」

 

「何か話をはぐらかされた気がする……

もういいわ。着替えるから覗かないでよ」

 

 彼女はそういうと、ベッドの脇にかけられていたローブを手繰り寄せる。

まあ、何はともあれ、少しは気分が戻ったようで良かった。

彼女から目線を外し、台所に移動する。

背後で衣擦れの音を聞きつつ、かまどに火を付け、鍋に豆と馬鈴薯を入れて煮込む。

 

 それにしても、と鍋の調子を見つつ思う。

彼女は言葉や態度こそアレだが、わりと露骨に誘ってくる。

そうでなければ、俺が来るのを分かって上で、裸で居るなんてことはしない。

 

 おそらく、彼女は自分に好意を持っているのだろうと思う。

あるいは、そうでなくても自分を繋ぎ止めようとしているのだろう。

その気持ちは分からないでもない。今の彼女が頼れるのは自分だけ。

俺が彼女を見捨てた時点で、彼女の一生は間違いなく終わる。

それが純粋な好意にしろ、打算にしろ、俺との繋がりを強化しようとする行動をしない手はない。

 

 その辺りは自分も分かっているし、悪くも思わない。

別に自分だって、全て純粋な善意でやってる訳じゃない。

善意もなく、優しさもない神官はクソだが、その心意気だけで務まるほど神官は甘くない。

世界には悪意があり、理不尽がある。

そこで善意を貫くには、金だったり、コネだったり、色々と手を尽くす必要があるのだ。

 

 個人的には打算で誘ってくる方が良い。

そういった強かな女性は好みだし、後腐れがない。

 

――ただ、彼女の場合は打算じゃない気がするんだよなぁ……

 

 男女の仲はそんなに甘くない。

それこそ夫婦ともなれば、一生を付き合っていくことになる。

たった一回、命を救った程度でどうにかなる訳ではないのだ。

 

――まあ、何にしても彼女の傷が癒えてからだな。

 

 今の自分にとって、彼女はやはり女性である前に患者だ。

だから、今どうこう考えても仕方がない。

それよりも、まずは目の前の鍋に意識を戻す。

味を確認し、まずまずの出来に満足する。

 

――まず飯を食う。後のことはそれから考えれば良いのだ。

 

 

 そうして二人で食事をして、一息入れたところで、彼女はローブの上から白衣を身に纏い、眼鏡をかけると作業を開始する。

ガラスで出来た容器に水を入れ、アルコールランプに火を灯す。

コポコポと沸騰する水に、何やら粉末を入れると透明な水が、ぱっと紫色に変わる。

真剣な目で秤に粉末を乗せ、調合を行っていく様子は、さすがは魔術師と言ったところか。

 

 実際、作業に集中している間はゴブリンのことも忘れているのか。

普段の不貞腐れたり、どこか投げやりな態度は消えてなくなる。

おそらく、こうして真剣に作業に向き合う姿が、本来の彼女の姿なのだろう。

その姿には調合に失敗するかもしれないという不安などなく、自信に満ち溢れており、凛々しさすらある。

それが、ああなってしまうのだから、本当に難儀なものだ。

 

「……いつまでそうして見ているつもりかしら。

それとも、何かおかしいところでもある?」

 

作業が一段落したようで、額の汗を拭いながら彼女は言う。

 

「いや、御伽噺に出てくる魔女みたいだなぁって。

ほら、ウェヒヒヒって笑いながら、壷の中身をぐりぐりかき回している感じの」

 

「人を邪教徒みたいに言わないでちょうだい。

まったく、暇なら手伝いなさいよ」

 

彼女は顔を赤くしてプリプリと怒り出すと、すりこぎ棒と、すり鉢に入った白い塊を手渡してくる。

どうやら、この塊を削って、粉末状にすれば良いらしい。

言われた通りに、すりこぎ棒を握り、塊をゴリゴリと削っていく。

 

「気をつけてね。それ火の秘薬の材料だから、雑に扱うと爆発するわ」

 

「なにそれ、怖い」

 

思わず手を止めると、彼女はくすくすと笑っていた。

 

――ああ、もう、まったく、驚かせてくれる。まあ、彼女が笑えるなら、それで良いんだけど。

 

 ガタガタと震えているよりかは、笑っているほうがずっと良い。

そんな感じのやり取りをしつつ、彼女の調合を手伝った。

 

 

 それからしばらく作業を行い、依頼の分の調合は終わり。

台所で湯を沸かし、お茶を入れて、持って来る。

 

「これから……やっていけるかしら」

 

 彼女の方はテーブルに突っ伏して、何やら呻いている。

見ると、目から光が消えており、どんよりとした雰囲気。

先程の自信に満ちた雰囲気はどこへやら、目を離すと、すぐにこうなる。

 

――まあ、彼女の不安も良く分かるけどなぁ。

 

 この工房はヤクザの若頭が持っていた物件だ。

だが、彼が自分からこの工房を手に入れたとは考えられない。

なぜなら錬金術の工房なんて、若頭にとって必要ないモノだからだ。

おそらく、この工房は誰かの借金のカタに手に入れたに違いない。

 

 つまり、この工房の前の持ち主は破産している。

自分の店を持つというのは、ただそれだけで難しいのだ。

 

 さらに言えば、彼女はこの工房を始めるにあたって、実験器具や薬品などの初期投資であの若頭に借金をしている。

利息は常識的な範囲とは言え、簡単に返せる額ではない。

正直に言って、ゴブリンがどうこう以前に、胃が痛くなる状態だ。

だけど、彼女はやると決めて始めたのだ。

ならば、やることは一つだろう。

 

彼女の対面の椅子に腰掛けると、自分の分のお茶をすする。

 

「その質問の答えは、出来る、出来ないではなく、『やるしかない』だ。

失敗した時のことは考えなくて良い」

 

「……簡単に言ってくれるわね」

 

テーブルに突っ伏したまま、顔だけをこちらに向ける。

 

「でも、実際そうだろう。君は良くやってるよ。

それに、無理だというなら……地母神の神殿に戻るか。

なに、腐っても俺は地母神の神官だ。神官長様に頭を下げれば君一人ぐらいどうにかなる。

ヤクザの若頭についてもな」

 

どうする?という問いに、彼女はギリギリと奥歯をかみ締める。

 

「……このまま、終われる訳、ないじゃないの」

 

 彼女の夢は失われた魔術の秘密を解き明かすことだと言う。

曰く、スクロールの製法をはじめとして、現代においては失われた魔術は多い。

だから魔術の秘密に辿り着くためには、古代の遺跡に潜り、魔術の秘宝を見つけ出す必要がある。

彼女はそのために冒険者となり、最初のステップでつまずいた。

だけど、まだ何も終わってない、そのはずだ。

 

「そう言えるなら、何も終わってないのさ。

既に起きた過去はどうしようもない。

けれど、未来はいくらでも変えられる。

それに……これを見ろ」

 

 そう言って、彼女に報酬の入った袋と依頼書を見せる。

入っている金貨も、依頼書の報酬も、それほど多くはない。

それでも、それは彼女の仕事の成果だし、彼女の作る品を待っている人がいるという証明だ。

 

「君の過去がどうだろうと、今の君はこの工房の女店主だ。

やるべきことは、依頼人の求める品を、期限内に用意し、報酬を貰うこと。

それを繰り返せば、借金もなくなるし、また遺跡にも潜れる」

 

 そう、過去にゴブリンに負けたなんてのは何の言い訳にもならない。

やるべき事をやる。仕事をして、報酬を貰い、信用を積み、技術を磨き、より大きな仕事をする。

冒険者も、工房の店主もやることに大差はない。

 

「……などと偉そうなことも語ってみても、現状の収支としてはトントン。

これじゃ借金が減らないなぁ……」

 

「……そうね」

 

がっくりと彼女はうなだれる。

 

「思うに調達依頼に頼っているだけでは駄目で、こちらから売りつけるぐらいの勢いが必要だと思う」

 

「新しい素材の購入……そのための実験器具の新調……うう、これ以上の借金はしたくないぃ……」

 

彼女は頭を抱え、足をばたつかせて呻く。

 

「借金を返すために、借金が必要とは……ううん、世の中、本当に世知辛い」

 

本当に世知辛い、そう思う。

 

 

あの後もしばらく駄弁っていたが、既に日は落ちて夜の時間となっている。

 

「さて……そろそろお暇するよ。

鍋の中にまだスープが残ってるから、食欲があるなら食べると良い」

 

「……普通に帰るのね。

ねえ、もし、さ。娼館に行くなら……私を……私は……ただでも、いいから……」

 

 不安そうな彼女の顔。

本当は付いてやった方が良いのではないかとも思う。

だけど……考えたが、それは良くないのだろう。

何でもかんでも俺が面倒を見たのでは、それは立ち直ったのではなく、依存しているだけだ。

彼女を見捨てるつもりはないが、俺がいなくなると立ち行かない、というのは健全ではない。

 

「今日はまっすぐ帰るし、君は娼婦でもないだろう。

そういう話は、デートにでも誘ってから言ってくれ。

知ってるか?男ってのは結構ロマンチストなんだぜ?」

 

「……私が外に出れないって、知ってるでしょ」

 

「だが、これからずっと、そうだという訳じゃない。

今日出来なくても、明日出来れば良いし、明日出来なければ、明後日でも良い。

実際、借金だって今日、明日、頑張ればどうにかなるもんでもないだろう?

それと同じだ。ゆっくりやっていこうぜ。

ほら、俺は明日も来るし、明後日も来るからさ」

 

そう言うと、彼女を抱き寄せ、口付けを行う。

 

「ん…………頑張る」

 

「ほどほどにな。それじゃ、また明日」

 

 ドアを閉めて、外に出る。

夜の風はもう秋とは思えない寒さがある。

外には赤い月と緑の月。

あのゴブリン退治の時と同じく、今日も夜の空に輝いている。

 

「……別に不安なのは、彼女だけじゃないのさ」

 

 自分だって、この先どうなるかは分からない。

俺一人が頑張ったところで、路地裏の環境が変わったかと言えば、大して変わってない。

よく知らない人から、あれこれ言われることもある。

それでも、自分の信仰に揺るぎはないが、心が傷つかない訳じゃない。

色々、悩みながらも生きている。

それは、自分だけじゃなくて、ゴブリンスレイヤーもそうだろうし、お嬢もそうだろう。

 

――だから、まあ、彼女だってどうにかなるだろ。

 

 少なくとも彼女は、『このままでは終わらない』と言った。

それなら、きっと大丈夫。

白い息を吐きつつ、下宿先の宿に帰る。

 

――自分にも、彼女にも、明日はあるのだから。




という訳で、不良神官さんのお話は以上で終わりです。

この作品のテーマ
・あの時、解毒の奇跡があれば結果は変わっていたのではないか。

では、なぜ最初の一党ではないのかと言えば、作者はあの失敗があってこその女神官さんだと思っているので。もちろん、原作で死亡した人間の生存を模索するのも2次創作の醍醐味なのですが。

その他に書きたかったこと
・原作では活躍の機会が少ない回復魔法をメインに据えたい。
・引退した冒険者はどうしているのか。
・原作で触れられている社会の闇を駆ける人々。四方世界のシャドウランナーに関係していそうな裏家業の人達。

そんな感じなので、だいたい書きたいことは書けたと思います。

それでは、ここまでお付き合い下さり、ありがとうございました。
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