なんぞこれ? 作:シバ・ティレアス
本を拾ってからまた数日たったある日、珍しくインターホンが鳴った。戸を開けて見ると、二十代の女性が一人、ニコニコと立っていた。
「ドウモ、ホウモンハンバイデス」
——アイエエエ! ホウモンハンバイ!? ホウモンハンバイナンデ!?
「いやー、いい反応いただきました!」
——そうですか、それでは
と言い、戸を閉め
「ってあー! ちょっとちょっと! 待って下さいよ!」
ギリギリでドアに手と足を挟まれた。なら警察に連絡をする準備をしようか。押し売りほど面倒な者はないからな。
すると、訪問販売に来た女性は少し焦ったようにした。
——じゃあ、足を退けて下さいよ。あと手も。
「分かりました! 分かりましたから話だけでもさせて下さいよ! ここに来るの大変だったんですよ! 車で四時間って何ですか⁉︎ 気楽に行けると思ったら遠いし! もう疲れたんですよ〜」
本当に疲れているようだ。
——まあ、お茶くらいは出しますよ。
パァっとキラキラした笑顔になった。笑顔が眩しいですな。まあ、お茶だけでこんなに喜んでもらえるなら、こっちもうれしいし、美人なら尚更だ。
戸を開け、中へ入るように促し、座布団を渡して座ってもらった。
「にしてもこの家大きいですね。どのくらいの広さなんですか?」
——どのくらいって言っても、うーん
「ほらー、ゲロっちゃってくださいよー」
——んー、2000くらいかな?
「へー、2000平方メートルですか」
——いや、違うよ?
「へっ? で、では、2000坪ですか?」
——うーん、もう一声ですね
「・・・2000㎢?」
——はい、そうですよ。まあ、家だけだとせいぜい10万㎡なんだけどね
訪問販売の人が固まった。
ここまで広大な土地に住んでる人はいないだろう。俺も聞いた時はびっくりしたし。
確か、香川県とほぼ同じ規模らしいし。
昔、先祖様達が色々と商売やったりとにかく色々やった結果、莫大な資産と莫大な土地が残り、跡取りもバカスカ残すことなく、引き継がれてきたのだ。
「か、管理のほうは?」
——大半がメイドや執事、秘書ですね。有能な人材ばかりで、とても助けられていますよ。
そう、とても優秀なのだ。全員が全員、もはや記憶を共有しているのではないかと思うほどで、何があっても安心できる。
敷地前には警備員の方々もいて、山や道、川が荒らされたことも無いのだ。優秀すぎる。
——あ、言ってたら来ましたね
てけりりと足音が聞こえ、着物を着たメイドさんが入ってきて、俺と女性を見た後、お茶を置き、俺に何か渡してきた。
水晶のネックレスのようだ。凄く綺麗で、中に何か掘られていて、まるで魔法道具のようなものだ。
「これはお守りです。いつものお礼です」
——そっか。ありがとう
「はい。それでは、ごゆっくり」
女性に目を向けた後、ゆっくりと出ていった。
もらったネックレスをチラリと見て、首にかけた。
ちょうど胸辺りまで垂れていて、けど邪魔になるような大きさでも長さでもないし、とても綺麗だ。
——で、何を売りに来たんですか?
お茶を飲み、落ち着いた女性に尋ねた。
「気を取り直せ自分! こいつなら目的を果たせるから!コホン。今日は、こちらをお持ちしました!」
手に持っていた鞄から、5×5×5のキューブを取り出した。
「こちら、停滞のキューブと呼んでいるものでしてね、ここを押してみてください」
そう言って、キューブに付いたボタンをこちらに近づけてきたので、ポチッと押すと、大きく広がり、高さ2.5m、幅1m、奥行き1mの箱になった。
「なんとこれ、持ち運び便利な冷蔵庫なんですよ! しかも、ほら!」
そう言い、冷蔵庫の中へと腕を突っ込ん、だ? あれ?長さおかしくない?
「この中なんですけどね、まるで四次元ポ◯ットみたいにとても広いんですよ! しかも、食べ物の劣化はしません!」
——それは凄いですね。もはやオーバーテクノロジーですよねそれ。
確実にオーバーテクノロジーだ。しかも何十、何百年後にできるのか分からないほどの。
ニコニコと笑顔の女性を見、まあいいか。
——おいくらですか?
「はい! 一つ398億円です!」
——じゃあ40個ください。
「(・ω・)?・・・(*゚▽゚*)?
・・・((((;゚Д゚)))))))!??」
あ、女性が怯え出した。
まあいっか。今の間に、お、メイドさんもう小切手持ってきてたの。ありがとう。
小切手に1,592,000,000,000と書き、判子を押して女性へと渡した。
震える手でそれを受け取った女性は、それをカバン入れ、キューブ入りの箱を4個取り出し、机の上に置いた。
メイドさんが箱を持って行った後、女性はもうとても可哀想な顔色になっていた。
——大丈夫ですか?
放心して返事がない。ただの屍のようだ。
しばらくして女性は意識を取り戻し、もう時間が遅いからと泊めていくことにした。
===夜===
誰もが寝静まった時、彼女は動き出した。
足や腕など、移動に使う場所をもとの名状しがたい何かへと変え、屋敷の中を無音で、素早く移動した。
が、途中で、動きを止め、天井へと張り付いた。
そこには、玉虫色に輝く粘体が、無数にいた。一応、人型に近いものを取ってはいるが、足元は影に混ざるような黒い液体状になっており、音を出さず、無音で移動し、辺りを監視していた。
正面突破は無理。ならばと床下、天井裏へと意識を向けるが、そこにも奴らはいた。
無理かと思った時、戸の前に立つ者が移動を開始し、完全に姿を消した。
そして、一瞬、瞬きをする間よりも速く戸の中へと入り込んだ。
屋敷の主人は、これから起こることも知らず、だからスヤスヤと眠っていた。
仰向けに寝る屋敷の主人を見、名状しがたい形の腕を主人に向け
それは光り輝いた。
光の出所は主人がしているネックレス。その中心部が光り輝き、ネックレスに掘られていた印が影となり、部屋中、そして彼女へと映し出された。
その印は彼女にとっては忌々しく、自身の力を抑えようとする、不快感の塊だ。だが、耐えられると思っていた。
が、ジリジリと肌を焼かれるような感覚がし、驚いて光の中を凝視する。
その印を映し出す光源は、彼女の天敵とも呼ばれる、アイツの火が灯っていた。
それに気がつくと同時に、光の強さが増し、自らを弱らせながら殺そうとしてくる。
そんなのに耐えようと思うはずもなく、音を立てずに急いで撤退。部屋へと戻り、周りを偽るために仮の姿へと戻るのであった。
===朝===
酷く窶れた女性が起きてきた。
——枕が違うと眠れない感じですか?
女性はこちらに気がつくと、疲れた笑顔で「上司から電話がきまして、いつになったら帰ってくるんだと。それで少し怒られていまして」と。
ふーん。大変だなー。
朝ごはんを食べた後、帰ると言うので昼ご飯を持たせ、見送った。「またきます」と言っていたので、次は何を持ってくるのかとても楽しみだ。
後日談
「失礼いたします」
メイドの一人が部屋に入ってきた。ネックレスをくれた娘だ。
——どうしたの?
「昨日の夜は、グッスリとお眠りになられましたか?」
——うん。胸のあたりがポカポカして、とても気持ちよく眠れたよ。
「そうですか。それは良かったです」
そう言うと、メイドは「失礼しました」と言い、部屋から出ていった。結局、なんだったのだろうか?
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批評、好評、どちらも大歓迎です。
改善点があれば、ドシドシどうぞ。
神話生物、神、日本神話やギリシャ神話などの本当の神話に出てくる神々、scp、古龍種、なんでも構いません。感想で出して欲しいと名前を挙げてくだされば、自分で調べてそれを出せるようにします。