艦これの世界に引きこもりの青年がやってくるそうですよ?   作:因幡凛空

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18話 夜の戦場 後編

飛行型海異鬼「フシャアアアァ!!!」

 

甲高い鳴き声を上げながら、こちらに向かって高速回転しながら突撃してくる複数の飛行型海異鬼。どうやらそれが基本的な攻撃みたいだが、直線的で避けるのは容易い。

 

リク「単調だな、そんな攻撃で俺たちを倒せると思うなよ」

プリンツ・潮「お返しです!」

飛行型海異鬼「シュゥ……」

 

すかさず反撃に転じて奴らを撃墜。数は多いものの耐久が脆いおかげで倒すのに苦労はしない。

奴らの攻撃が突進だけなら特に苦戦することもなくあの戦力を撲滅できるのだが、さっきの水中型海異鬼のように口の中に主砲を隠し持っている可能性も0ではないため警戒しておくのに越したことはない。

 

飛行型海異鬼「カパッ!」

プリンツ「リク君!あいつらが口を開きましたよ!」

潮「見てください!」

リク「あの猪突猛進を助長するような突進攻撃だけじゃなかったか」

 

奴はカパッと口を開き、そこから砲撃を放ってきた。先ほどの水中型と違い、口そのものが主砲となっていた。形状は嘴型で、普段は旋回しながら突撃することでドリルのような突き攻撃を行い、それが通用しないことが分かると今度は口を開きそこから砲撃を放つという戦法を得意としているようだ。

しかも奴のそれは威嚇射撃だったようで、その直後とある一体が仲間に指示らしきものを出し一箇所に纏まっていたのがバラバラに分散した。奴ら、広範囲にバラけて一斉に砲撃を放つことでこちらを確実に仕留めようとしているっぽいな……。それにしても俺のやっていたことを真似していたあたり学習能力も高いみたいだな。

 

リク「考えてるなぁ……」

プリンツ「腐っても海異鬼ですから、理性も何もないただの脳筋ではありませんからね……」

潮「来ます!」

 

攻撃準備に入った奴らは一斉に砲撃を放ってきた。これは一箇所に集まっていたらまとめてやられる可能性がある。

 

リク「二人とも、ここは俺たちもバラけよう」

プリンツ「どういうことですか?」

リク「一箇所に集まっていたら一気にやられる可能性がある。ここは俺たちもバラバラに散るんだ」

プリンツ「回避に専念しつつ攻撃して数を減らすという手もありますが、今はそんなこと考えてる場合ではありませんね」

潮「分かりました!」

 

二人とも俺の考えに承諾したようだ。奴らの砲撃の嵐を掻い潜りながら俺たちも奴らと同様の戦法をとることにした。

 

 

 

 

秋月「今のところ上空に敵影は確認できないね」

照月「私たちも他の方の加勢に行こうよ」

秋月「ええ」

 

秋月達のサイドには今現在、上空において敵影の存在は確認できない。照月の提案で他の面々の加勢に向かおうとしたその時……。

 

ジャバン

 

秋月「何!?」

照月「どこからか水しぶきの音が……」

 

ヒュルル~

 

秋月・照月「うわっ!」

 

突然二人の横を2本の魚雷が通過しそのまま海の中に不時着する。

 

秋月・照月「な……なんだったんだろう……って」

 

二人が魚雷が飛んできた方向に振り向くと、そこに1体のヒトデの姿をした水中型海異鬼の姿が……。

 

照月「あれ……海異鬼でいいよね……?」

秋月「やるしかないね!」

照月「でも空中警戒は?」

秋月「う~ん……」

ヒトデ型海異鬼「シャシャァ!」

 

彼女たちがそう考えている間に、ヒトデ型が身体の裏側から無数の魚雷をミサイルの如く射出してきた。

 

秋月「きゃあ!」

照月「うわ!」

ヒトデ型海異鬼「シャシャァ!」

 

難なくかわすものの、今度は海面に半分浸かり高速回転しながら突っ込んできた。それはまるでカッターのように鋭利な刃となって海水を切り裂きながら秋月達に襲い掛かってくる。しかもそれだけに止まらず、回転してくるのと同時に魚雷も放って来ていた……。

 

秋月「もう何なの!?」

照月「一方的過ぎるよ!」

 

その後も敵の猛攻が続く……。

 

秋月「次から次へと……」

照月「回避に徹してるままじゃあいつの思う壺だよ!私たちも攻撃しないと!」

秋月「そ、そうね!」

 

回転攻撃及び魚雷をかわしながら、標準を動き回りながら猛攻を続けるヒトデ型に合わせて砲撃を放つが……。

 

ヒトデ型海異鬼「シャシャァ!」

秋月・照月「砲撃が!」

 

秋月達の攻撃は、回転中で砲撃を受け付けないためなのかそれとも表面の装甲が硬くダメージにならないのかは不明だが通用しなかった。そればかりか二人が被弾してしまう。

 

秋月「どう対処すればいいの!?」

照月「表面が硬いなら裏側は弱いはずだよ!」

秋月「それが本当だとしても、あの猛攻を止めない限りは……」

ヒトデ型海異鬼「シィ……」

 

成す術ないかと思われたが、先ほどの猛攻のせいで疲労したのか敵の動きが止まってしまった……。

 

照月「動きが止まったよ!」

秋月「あれだけ派手に動き回ってればさすがのあいつでも疲れちゃうわよね……」

照月「でもこれあいつを仕留める大チャンスだよ!」

秋月「確かに……でも……」

ヒトデ型海異鬼「シィー……」

 

確かに倒すチャンスではあるのだが、ヒトデ型は身体の裏側を海に浸かるようにぴったりと海面に張り付いたまま動かないため、倒そうにもそのまま攻撃を当てても無駄となるのだ。なんとかして裏側を攻撃する必要があるのだが……。

 

秋月「そうだ!」

照月「何かいい方法思いついた!?」

秋月「照月、あいつの周りの海面に連鎖的に砲撃を当ててみて!私はあいつの背後に回るわ!」

照月「分かった!」

 

秋月は敵の背後に回りこむ。これで準備は万全だ。

 

秋月「いいわよ!」

照月「それぇ!」

ヒトデ型海異鬼「ッ!?」

 

姉の指示通りに照月が敵の周囲の海面に砲撃を打ち込んだことで、その拍子に驚いたヒトデ型が起き上がり装甲が薄い裏側を秋月に晒したのだった。

 

秋月「今だ!えいえーい!」

 

その隙を突いて秋月が裏側に連撃を叩き込んだことで、ヒトデ型はそれを耐え切れず力尽き沈んでいった。二人の勝利である。

 

秋月「これが私たち秋月型の力!」

照月「じゃあ他の方の加勢に……」

秋月「皆なら大丈夫!私たちは上空の警戒に専念しましょう!またさっきの奴が現れないとも限らないから周囲の警戒もね!」

照月「そうだね!」

 

 

 

 

ビスマルク・陽炎型トリオ・浜風・鹿島・浦風「ハァ……ハァ……」

 

一方その頃、ビスマルク達はロッカクの群れを全滅寸前まで追い込んでいた。

 

ビスマルク「最後はあなたよ……」

浦風「もう降参したほうがええぞ……」

ロッカク「ギィ……」

 

彼女たちは疲れの色を見せ、ロッカクは残り一体となったことで追い詰められ苦渋に満ちた表情をしていた……。

 

 

 

 

リク・プリンツ・潮「そりゃあ!」

飛行型海異鬼「シュゥ……」

 

なんとか残り1体までは追い詰めたものの、あのバラけてからの連鎖的な砲撃のせいで俺達は結構被弾してしまった……。とはいえ後は奴を仕留めれば終わりだ。

 

リク「これで最後だ……」

プリンツ「さよならです!」

潮「おとなしく倒されてください!」

 

俺たちが砲口を奴に向けた次の瞬間……!

 

飛行型海異鬼「フシャアアアァ!」

3人「あっ!」

 

奴が突然俺たちへ……ではなく、真正面に直進して海の向こうへ飛んで行った……。どこに行くんだあいつ……!

 

リク「待て!」

プリンツ「リク君!ここは深追い禁物です!」

リク「だけどよ……!」

潮「そうですよ!もしあの個体が直進した先に海異鬼の群れがいたら今の私たちでは返り討ちに会っちゃいます!」

リク「……それもそうだな。だがもしあいつが助けを呼びに行ったとしたら……?このまま放置しておいていいのか……?」

プリンツ「それは……」

潮「確かに放っておくのは危険かもしれませんけど、無闇に追いかけて群れと鉢合わせて死んでしまったら元も子もありませんよ」

 

それも一理あるな……。

 

リク「分かった。その件については帰還したら考えることにして、一旦皆と合流しよう」

プリンツ・潮「はい!」

 

深追いは禁物とはよく言ったものだ。この負傷した身で海異鬼の群れに突っ込めばどれほど取り返しのつかないことになるのかは安易に想像できるな。俺も反省しないと。

もう他の皆の戦いは終わってる頃だと思うので、ここは皆と合流することにした。だが一つ気がかりなのは、さっき一体の海異鬼を逃がしてしまった以上、奴が助けを呼んでこちらを撲滅しようと群れを率いてまた現れるかもしれないという事だ。そうなれば今現在の俺たちの状況下での生存確率は限りなく低い……。

それに夢の中での出来事……いや、今は考えないようにしておこう……。

 

その後、ビスマルクさん達と秋月型の二人と合流した俺たちは1体の海異鬼を逃がしてしまったことを伝える。残り一体となった後にすぐさま止めを刺せばこんなことにはならなかったため俺たちの責任なのだが、皆特に咎める事はしなかった。優しいな……。

まあ、逃がした以上どうしようもないためそう判断しただけかもしれないが……。

 

一方、鎮守府守護部隊は周辺で警戒を強めていたが、どうやら海異鬼が接近していたのは俺達が迎撃に向かった正面海域だけのようで、現在は艦娘達は鎮守府の中に戻っていたようだ。

出撃から俺たちが帰還し、入渠してから長門さんに報告した後に部屋に戻り眠りにつくまでには特に何事もなく、その後も夜が明けるまでの間、海異鬼が再び襲ってくることはなかった。

 

 

 

 

そしてその日の深夜……他の艦娘達が寝静まった頃……。

 

長門「リク達が敵の逃亡を許してしまうとは……」

陸奥「ちょっと面倒なことになったわね」

 

司令室では、手の甲を顎に当てて複雑な表情を浮かべている長門と、腕を組んで苦虫を潰したような表情の陸奥の姿があった。

 

長門「あいつの報告から察するに、奴の逃亡先は東方海域だろう」

陸奥「そこって深海棲艦の出没例が少ないいわくつきの海よね……」

長門「正確には、海異鬼の目撃情報が絶えないためか深海棲艦が近づこうとしない海だが」

陸奥「そいつがそこに逃げ込んだって事は……」

長門「……群れ、もしくは親玉がいるってことだ」

陸奥「……」

 

長門の的を得たその発言に、陸奥は黙り込んでしまった。

 

長門「明日、早朝に作戦会議を行う。一刻の猶予もない」

陸奥「それらを放っておいたら何をしでかすか分からないものね……」

長門「だから、朝6時になったらアナウンスを流して全員をホール……会議室に集めるんだ!」

陸奥「わ……分かったわ!」


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