艦これの世界に引きこもりの青年がやってくるそうですよ?   作:因幡凛空

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約3週間ぶりの投稿です。


19話 総力戦 前編

真夜中の戦が繰り広げられた日の翌朝、アナウンスによって鎮守府の艦娘達が一堂に会し、これから作戦会議が行われようとしていた……。

 

リク「迂闊だった……俺たちがあそこで仕留めていればこんな手間をかけさせなかったんだが」

プリンツ「過ぎてしまった事を今更悔やんでも何も始まりません」

リク「そうだな……」

 

今回の戦いは今まで以上に厳しくなりそうだ……。何せ奴が逃亡した先に群れがいる可能性が高いからだ。それにゲームのボスマスの如く奴らのボスがいる可能性だってある。そのためこれからの作戦は鎮守府の全ての戦力を投入するだろう。

 

長門「皆集まったようだな」

 

と長門さんと陸奥さんがやって来て皆の前に立った。

 

長門「今回集まってもらったのは、前日の警戒において迎撃に向かった部隊と交戦した一体の海異鬼が逃亡を図り運悪く逃がしてしまった。それでそいつが逃げた先に敵の群れおよび親玉が存在する可能性があり、それを迎撃する作戦を決行したいためだ」

 

彼女がそう告げた瞬間、周囲にどよめきが上がる。もちろん、事の顛末を知っている者は冷静だ。無理もないだろう、敵を逃がした上、その先に群れがいるかもしれないのだから。

もちろん、昨日出撃した俺達はそれを知っているため、今更狼狽などしない。

 

長門「そのため、今回の作戦は全部隊での総出撃となる!諸君らにはこれから東方海域に向かってもらい、そこで敵の迎撃に向かってくれ!海異鬼の群れの殲滅作戦を決行する!」

 

まあ、そうなるな。

 

長門「では各自準備が出来次第配置につくように!」

一同「はい!」

 

その後、全員が配置につき出撃の準備が整った。これから前日逃がした個体及びその先にいると思われる群れの迎撃に向かうのだ。さらにボスがいる可能性も視野に入れ、鎮守府にいるほぼ全ての艦娘達の総出撃となる。これはさっき長門さんが説明したな。

 

リク「こう改めて大勢の部隊が周りにいるとは気合が入ってるなぁ……」

プリンツ「総出撃ですからね!」

リク「これは勝ったな!」

ビスマルク「コラ!早々フラグを立てないの!あの先にどれだけの数の敵がいるのかわからないんだから!」

リク「冗談ですよ……アハハ」

 

慢心ダメ絶対。

 

リク「それは置いといて、あいつが逃げた方角って東だったよな?」

潮「そうでしたね、これから私たちが向かう東方海域です」

プリンツ「そこは海異鬼の出没率が多すぎて深海棲艦がほとんどいない場所ですね」

 

ほとんど……ということは僅かならいるということか……。だが深海棲艦共は奴らに憎悪を抱かれてるんだし、いたとしてもそのまま沈められるか喰われるかしてお陀仏だろう。よってそこでの脅威は奴らに絞られるな。

 

プリンツ「もうそろそろ出発しますよ皆さん!私の後を着いてきてくださいね!」

 

そう言ってプリンツちゃんは先頭に出てその場にいる全員を統率し始めた。皆特に疑問を抱くような顔はしていないので鎮守府のリーダー的存在なのだろう。彼女自身も意気揚々と先頭に立ち統率をし始めるあたりリーダーシップが優れている事を窺わせる。

まあ、我らが第一水上打撃部隊の旗艦を務めるだけあるわな。

 

リク「俺も彼女みたいになりたいな……」

陽炎「リクー?置いていくわよー?」

リク「今行く」

 

まあ、そんな事を今頃抱いたところで気持ち悪いだけだな。俺は彼女に憧れるのではなく、彼女を守るナイトになりたいのだから……ってこれも気持ち悪いか。

 

 

 

しばらく進んだ頃だろうか……やがて一帯の空に暗雲が立ち込め始めた。

 

リク「な……なんだ!?」

プリンツ「昨日は夜だったから判りづらかったですけど、海異鬼が出没するテリトリーの空はまるで嵐が巻き起こるかのような雲に覆われるんです」

リク「てことは……」

プリンツ「近いです!」

 

奴らの縄張りに突入したということか……。心なしか四方から視線を感じる……。

とその時……。

 

ヒュルル

 

何かが発射されたような音が聞こえてくると共に俺たちの目の前でそれが着弾し、その衝撃で引き起こされた水しぶきに視界を奪われてしまう。

 

リク「砲撃!?」

プリンツ「あそこの空……から放たれたってことは……」

黒潮「見てや!」

 

黒潮の言うとおりに空を見上げると、暗雲から赤い目を光らせた無数の飛行型海異鬼の姿があった。やっぱり長門さんの見立ては正しかったのだ。あちらも殺る気みたいだ。

 

浜風「何よあの数……」

秋月「何体いるの!?」

照月「ひいふうみい……」

 

数は低く見積もっても1000体ほどはいそうだぞ……。

 

鹿島「あれを全滅させるのは厳しいかしら……」

浦風「何を今更弱音を吐いておるんじゃ……」

赤城「もう後戻りなど出来ません。例え敵がどれほどの群れを成そうが、私達のやることはただ一つです」

加賀「覚悟を決めるのです、皆優秀な子達ですから絶対任務をやり遂げられます。新人のあなた含めて……ね」

リク「は……はい!」

 

なんか期待されちゃうとやりづらいな……。だが俺だってこの世界に来た以上は戦い抜く覚悟だぜ。

 

リク「行くぞ皆!暁の水平線に勝利を刻むぞ!」

プリンツ「ちょっとそれ私の台詞ですよ!?」

 

さあ、開戦だ!

 

赤城「まずは先制攻撃で敵の数を減らしましょう!」

加賀「空母機動部隊、行きます」

蒼龍「敵は上空、艦載機……」

飛龍「発進!」

 

上空の群れ目掛けて、空母機動部隊の4人が戦闘攻撃機を発射する。それは複数の海異鬼を打ち沈める事に成功した。

 

プリンツ「各部隊!4人に続いてください!分かってると思いますがあの海異鬼は低空飛行になった時に砲撃しないとうまく撃墜できないですよ!」

 

空母が用いる艦載機による攻撃はその性質上敵が遠くにいても威力が落ちることなく倒せるが、通常の砲撃だと敵の距離が離れすぎている場合、威力がガタ落ちしてうまく倒せなくなるのだ。

よって奴らが低い位置に移動したのを見計らって倒すというわけだな。

 

リク「燃えてきたァ!!」

陽炎「リク!あまり敵陣の真ん中に突っ込まないようにね!」

リク「分かってるって!」

 

ただでさえ実戦経験に乏しい俺が敵のど真ん中に突っ込んだらどうなるのかなんてお察しだぜ……。適度に奴らに接近して、打ち落とす!

 

リク「かかってこいや悪霊共!」

敵軍「フシャアアアァ!!!」

 

ちょろいな。適当に挑発してやっただけで、奴ら血相を変えてこっちに突っ込んできやがった。どうも敵共は直情的らしい。少なくともあの飛行型海意鬼共は……の話だが。

 

リク「撃つ!」

 

まずもっとも接近した敵を撃墜し、今度は右、その次は左、真ん中、再び左、次に右、真ん中と言う感じで敵を次々と打ち沈めていく。

 

プリンツ「リク君すごいです!」

黒潮「安定の撃破率の高さやなぁ」

不知火「私のご指導ご鞭撻のおかげですね」

陽炎「あんた何もやってないわよね……」

潮「私も頑張らないと……」

浜風「はいはい無駄話をしない」

鹿島「次来ますよ!」

 

奴らは直情的っぽいが、自分が不利と見ると逃げるもとい撤退していく位の知能はあるようだからな。隙を見せたらそこを付け込まれるかもしれない。それに攻撃手段は例の突進だけじゃなく口の中にある主砲による遠距離攻撃もあるから、一斉にそれに切り替えられたらちょっと厳しくなるかな。

まあ、その際は空母の皆さんに任せればいいけど。

 

 

 

秋月「発射します!」

照月「ガンガン撃てぇ!」

 

 

 

島風「おっそーい!」

朝潮「出て行け!この海域から!」

 

 

 

夕立「これがソロモンの悪夢よ!」

時雨「残念だったね。君達の単純さには失望したよ」

 

 

 

浜風「沈みなさい!」

鹿島「許しません!」

陽炎「砲撃よ!てやあ!」

黒潮「そんな速度じゃうちらは倒せへんでぇ!」

不知火「はあ!」

浦風「おんどりゃあ!」

潮「沈んでください!」

磯風「なめないでもらおうか!」

谷風「とりゃあ!」

 

 

 

リク「次々!」

プリンツ「フォーイヤー!」

ビスマルク「ファイヤー!」

 

 

 

その後は全員の頑張りで順調に敵の数を減らして行き、650体くらいまで減らしていったのだが……。

 

磯風「それにしても、ボスらしき奴の姿が全く見えないな」

谷風「どうせ気づかれない位置で静観していて御山の大将で満足してるんじゃないの?」

 

二人の指摘通り、上空周囲を一瞥してみてもボス海異鬼の姿が見当たらない。これだけ無数の海異鬼がまるで黒い絨毯が敷かれているかのように空に群れているのだから、どこかに奴らを指揮していると思しきボスがいても不思議ではないはず。

 

リク「まあ、出なかったら出なかったでこいつらを全滅させればそれでよしだ」

磯風「端からそのつもりだ!」

谷風「それが理想!」

 

もしかしてボスは奇襲を仕掛けるため海中に潜んでそこから砲撃を放って俺たちを一網打尽にする気なのでは?と最悪な方向に考えてしまったが、んなわけないよな……。俺っていつも最悪な方向に考えてしまう性質なんだよな……マイナス思考っていうか。

 

敵軍「……」

プリンツ「皆さん!飛行型海異鬼が砲撃体勢に入りました!」

一同「ッ!?」

 

不幸か、確実に追い詰められつつある海異鬼共が遠距離攻撃に移り出す。あんな数で一斉に砲撃されたら……。

 

プリンツ「避けてください!回避準備を!」

浜風「でも避けきれないと思うけど!?」

プリンツ「いいから!」

リク「このまま奴らの遠距離攻撃の餌食になるか、それとも多少の被弾は諦めて回避に専念して少しでも被害を減らすかどっちがいい?」

浜風「それは……」

 

ここは戦場、いつどこで死者が出ても不思議ではない。ましてやこのような状況下で無傷でやり過ごせる程甘くはないのだ。まだ戦闘経験が乏しい俺が言うのもなんだがな。

 

プリンツ「リク君の言うとおりです!」

敵軍「カパッ」

リク「ほらほら、敵さんはいつまでも待ってはくれないぞ!」

浜風「分かった!」

赤城「待って!」

 

回避しようとする俺たちだが、その直後に赤城さんの声が俺たちを遮る。

 

リク「赤城さん!?」

赤城「ここは私たち空母機動部隊に任せてもらえない?」

リク「早くしないと攻撃が飛んできますよ!?」

赤城「大丈夫、ね?」

加賀・二航戦「はい」

 

まるで俺達を制止しようとしてる様な止め方だったな……。

 

リク「大丈夫かなぁ……」

プリンツ「あの4人なら大丈夫だと思いますが……」

ビスマルク「彼女たちの本気はあんなものじゃないわよ」

 

では拝見させてもらおう。空母機動部隊の皆さんの本気を。

 

一航戦・二航戦「では、行きます!」

敵軍「ッ!?」

 

彼女たちの放った爆撃機によって攻撃に転じようとした飛行型海異鬼を計630体もの数を仕留める事に成功、撃墜されなかった方の奴らも多くの仲間達を一瞬で喪失したためか驚愕して攻撃をやめてしまった。

 

リク「すげぇ……瞬く間に数を減らしやがった……」

ビスマルク「ね?言ったでしょ?」

リク「あれ敵の本拠地に投下すれば戦い終わるんじゃね?」

プリンツ「思考が単調すぎます……」

 

んなわけねぇか。それだけで終わったら最早苦労はしない。

 

陽炎「何はともあれ、これで敵戦力を大きく減らしたわ!」

黒潮「はよ終わらせるでー!」

 

海戦直後は1000体もいた海異鬼の軍勢も、残るは20体を残すのみとなった。後はあいつらを全滅させれば……。

 

時雨「皆!一気にしとめるよ!」

夕立「ソロモンの悪夢、見せてあげるっぽい!」

 

「ガァァァ……」

 

潮「待ってください!」

 

とここで潮が二人を遮るように声を上げた。

 

陽炎「どうしたの?もう敵は残り少ないのに……」

潮「どこかから甲高い鳴き声が聞こえてきた気がします」

浦風「聞こえてこなかったぞ?」

潮「……気のせいかなぁ」

 

「ガァァァ……」

 

いや、気のせいなんかじゃない。確かに前方から微かに生物の咆哮らしきものが聞こえてきている。少なくとも俺の耳にそれは聞こえた。

 

リク「警戒はしといたほうがいいぞ」

浜風「リクまで何を言って……」

プリンツ「……皆さん、まだ帰還するには早いようです」

鹿島「どういうこと?」

プリンツ「どうやら……先ほどの海異鬼の親玉があそこに居るみたいです!」

一同「ッ!?」

 

プリンツちゃんのその言葉により、全員一斉に前方の上空を見上げた。

 

??「ガァァァ……」

磯風「あれは……!?」

プリンツ「飛行型海異鬼の親玉、ヴァルチャーです!」

リク「で……でけぇ……」

 

そこに居たのは、俺達が先ほどまで対峙していた飛行型海異鬼の親玉であろう巨大飛行型海異鬼だった。そのヴァルチャーと呼ばれる個体は大型帆船が怪物化したような姿をしており、マストと帆のような翼を生やし胴体から二つの錨をぶら下げ、頭頂部に船首旗らしき物を付けている。その大きさは左右の奴らの約5倍はありそうなデカさで、見るものを圧倒させる。脚は存在せず、さらに両翼の中心部分に大口径主砲らしきものが存在しているなど、さながら空を翔る空中戦艦のようだ。

 

プリンツ「当然先ほどの海異鬼とは強さが段違いです!」

リク「……倒せるのか?あんなデカブツ……」

プリンツ「やるしかないです!それにあんなのを放っておいたら大変なことに……」

ビスマルク「それ以上に市民が暮らす市街地に侵入でもしたら……」

 

間違いなく多くの死人が出るな……。それどころか街が壊滅する恐れも……。

 

リク「なんとしてでもここで仕留めなければならないな……」

不知火「そうですね……!」

陽炎「ただでさえ深海棲艦の脅威にさらされてるのに、さらにこんな奴がのさばっているなんてほんとこの世界がいつ滅びるか分かったもんじゃない……」

浦風「まったくじゃな……」

プリンツ「行きますよ皆さん!彼を倒すのです!」

 

早くも、この世界の情勢が分かった気がする……。深海棲艦のみならず、こんな奴まで跋扈してるなんてハードにもほどがあるぜ……。


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