艦これの世界に引きこもりの青年がやってくるそうですよ? 作:因幡凛空
22話 信頼
リク「くたばれ!」
総力戦から10日後、俺たちは深海棲艦との戦いといういつもの日課をこなしていた。対峙していた軽空母ヌ級率いる敵機動部隊を仕留め終わったため、これから鎮守府に帰還する所だ。
プリンツ「今回の任務は終わりですね」
リク「なかなか歯ごたえがあったな」
ビスマルク「まあ、所詮は無印の軽空母だからそんなに脅威ではないわ」
リク「海異鬼共と比べたら紙装甲だから楽だな」
陽炎「一般人にとっては脅威なんだけどねー」
そうだよな。俺も最初の頃は苦戦していたけど、今なら慣れてきた分楽だな。まあ、これまで対峙してきたのは重巡までの中級までだから、戦艦勢が出てきた場合苦戦は必死だろうが。一度だけその戦艦とにらみ合った事はあるが、あの時はあくまで邂逅しただけに過ぎない。感想としてはこれまでの奴らとは一線を画していたなほんと。
黒潮「リクはんは戦艦級と対峙したことがないからそんな事が言えるんやで」
不知火「今のあなたはまさに井の中の蛙ですね」
リク「分かってるよ……」
プリンツ「あはは……」
冷静に突っ込まれた……。今まさにそう考えていた事なのに予想通り突っ込まれたぜ……。でもプリンツちゃんとの連係プレイであの大型飛行海異鬼を倒したんだから大丈夫だとは思うけどな。
あっ、今慢心だろと思った人は正直に手を挙げなさい。
とまあそうこうしてるうちに鎮守府に帰還し、食堂に向かって昼食を取る。今日のメニューはカツ丼だ。やっぱり出撃から帰還した後の飯は格別にうまい。
その後、いつものように修行を始めた。まだ見ぬ強敵を相手にするのに、練度を上げるのは重要事項だ。命中精度も、反射反応速度も鍛えるため、さまざまな艦娘相手に演習も行う予定だ。
どうも、以前の総力戦以降、二大勢力の動きが活発になっているらしく、両者が争っている事も頻繁にあるという話を大淀さんから聞いた事がある。どっちから喧嘩をふっかけているのかは分からないが、十中八九海異鬼の方だろう。まあ深海勢を恨んでるのだから当然といえば当然か。海異鬼勢からすれば恨みを晴らすために深海勢に攻め入っているのだろうが、それによって周囲の海域が汚染されるため他の人たちからすればいい迷惑だ。海域が汚染されれば航路が遮断されて船乗りにとっては死活問題になりうるからな。演習の件もそのためだ。
もはや、そのための艦娘ってわけだな。
演習後……庭園にて俺達は息抜きをすることにした。
リク「相変わらずここの景色は綺麗だな……」
プリンツ「二大勢力との戦いの過酷さも忘れちゃうそうなくらい綺麗ですね♪」
静かな波の音が、俺達を癒してくれるかのようだ。いつも戦いなどで身も心も疲れ果てた者達はこの砂浜で波の音を聞きながら景色を眺めてるか、花畑でゆっくりと疲れを癒す事がほとんどだ。今、ここには他の子達の姿は見当たらない。陽炎達もなぜか着いてこなかった。
リク「なんで陽炎達は一緒に着いてこなかったんだ?」
プリンツ「う~ん……」
ここ最近、俺達の部屋にはいつものメンバーだけじゃなく秋月や照月、時雨や夕立とかも頻繁に部屋に遊びに来るんだ。だから二人っきりでいる事は意外にも少ない。先輩のような存在のビスマルクさんや空母勢も時々やってくる。まさかあいつら、俺とプリンツちゃんが二人っきりになれるように気遣ったのか?
プリンツ「なんだか、デートしている気分ですね♪」
リク「そ……そうだな……」
これまで前世で生きてきた人生の中で、女子とデートなんてする機会なんてまったくなかった。いやまあるほうがおかしいのだが。小学生時代に女子と会話したりとかした事はあるが、それも中学生以降はまったく女子との縁はなかった。
リク「なあ……」
プリンツ「はい?なんでしょう?」
リク「プリンツちゃんは俺の事どう思ってるんだ……?」
プリンツ「ほえ?」
リク「俺の事を優しいとかいろいろ言ってくれたよな……?」
プリンツ「はい」
リク「大学受験に躓いたからってその後の進路を諦めて引きこもり生活を送っていた俺のこと……どう思う……?しょうもないだろ……?」
プリンツ「……」
ふとここで引きこもる経由を話してしまった。これは内緒にしておくつもりだったのに。
プリンツ「あなたは元々死ぬ予定だった老人を助けて変わりに自分が命を落とすことになりました。しかもあなたにとってその人は赤の他人でその人がどうなろうが関係なかったはずです。それなのにああいう行動をするのってよっぽどの勇気がなければ出来ないです」
リク「それは……ただ……」
んなもん俺にも分からないよ。俺はただ……。
リク「自分の目の前で他人が死ぬ姿なんて見たくなかった。それに昼食を食べる前にそんな光景を目の当たりにしたら飯がまずくなると思っただけだ……」
プリンツ「……」
リク「ようは自分のためだ。俺が不快な思いをしたくなかったってだけで……」
プリンツ「でも実際に助けたんですよね?」
リク「助けたっつか、歩道に突き飛ばしただけだ……」
プリンツ「あなたはその人の命を救ったんですよ?それがそんなに不名誉なことなんですか?」
リク「うっ……」
正直、最初は彼女を信用していなかった。どうせ俺の事をいつか失望するだろうと……。俺を限界まで持ち上げておいて一気に落とすと、そんな感じがしていた。俺自身が今まで裏切られた事はないが、それがどんなに怖い事なのかは知っている。
プリンツ「私はあなたのその勇気を汲み取ったのです!あなたならこの世界を救ってくれる!私達の世界を、深海棲艦や海異鬼の脅威に震える市民を救ってくれると!」
リク「プリンツちゃん……」
でもそう啖呵を切ったプリンツちゃんの純粋な瞳を見て、本当に俺の事を信じている事に気がついた。嘘偽りない信頼を俺に寄せているんだ……。
プリンツ「陽炎型の皆さんも、ビスマルクお姉さまも、潮さんも皆あなたの事を信頼しているはずです!だから自分を卑下する必要はないですよ!」
リク「……」
プリンツ「だから自分に自信を持ちましょ?ね?」
リク「……ありがとう」
プリンツ「それでこそリク君です!」
リク「うわっ!」
すると突然ギュッと抱きつかれた。女子に抱き付かれるなんて初めての経験だ……。
プリンツ「私、あなたのことが大好きです!だから一緒に頑張りましょうね!」
リク「……おう!」
ここまで信頼されてちゃあ自分に自信を持たなきゃ男じゃねぇ。俺はこの世界から二大勢力を駆逐し、そしてプリンツちゃんを絶対に守る。たとえどんな脅威が立ちはだかろうと。
リク「誰も見てないよね?今の……」
プリンツ「別に見られてもいいじゃないですか?」
リク「チラッ」
ふと右から視線を感じた気がしたためそっちを振り返る。
リク「……お前ら……そこで何してんだ……?」
??「ビクッ!?」
リク「隠れてるつもりだろうが、バレてんぞ」
陽炎「不知火!黒潮!逃げるわよ!」
リク「あっ!こら!待ちやがれ!」
あいつら、そこの岩陰に隠れていたつもりだろうが、高さは数cm程しかないためあの身長で隠れられるスペースではない。あれで隠れていたつもりだったのかよ。身をかがめれば隠れられない事もないが……しかも3人ともカメラ持っていたな?まさか一部始終を撮影していた?だとしたらなんとしてでも止めねば!
陽炎「一部始終を撮らせてもらったわよ!」
リク「やっぱりかァ!んじゃあ尚更逃がすわけには行かないぞ!」
不知火「安心してください。これは私達だけの秘密にしておきますから」
黒潮「誰にも言わへんでぇー」
リク「そういう問題じゃねぇ!!!てか周りから聞かれてるわ!!!」
意味ねえじゃねぇか!待ちやがれェェェ!!!
プリンツ「……私、リク君と出会えてよかったです♪」