ダークソウル 悪霊編
不死人は最下層の回廊隅で息を整える。右手の武器を確認する、混沌の刃は切っ先の下部分に数ヶ所歯こぼれがあったがまだまだ使えそうだ。
不死人は囁く。
「ごめんな苦労させてばかりで、次篝火に行ったら直すね」
不死人の手の中の混沌の刃の柄が微かに震え、不死人は『構わん』と答えてくれた様に感じる。
さて、少し落ち着いてきた所で状況を確認してみよう。
いつもの如く蜘蛛姫に捧げる人間性をセコセコと集めていた。が、不意に感じる閉塞感、ヌルリとした悪寒に全身を包まれる。
以前にもあった別世界からの侵入者だ。不死人は思わず唾を吐き捨ててしまう。
もし神様のような存在が有るとしたら、よっぽど怠惰で下界のことに見向きもしていないか、クレイジーな思考の持ち主だろう、不死人は決めつける。
救いの無い世界過ぎる。
なんだって、わざわざ人の世界まで来て、殺し合いを始める?どこか別の場所で勝手にやってくれ。
突然目の前の通路脇から刃物を振り下ろされた。
不死人はローリングでかわそうとしたものの、ギンと鎧の背中辺りを削られ火花を散らす。焦げ臭い臭いが辺りに漂う。
大丈夫、身体には届いていない。ミルドレッド装備でなくてよかった。
赤く不気味に輝き、表情など欠片も分からない侵入者が不死人の目の前に立っていた。
いいさ、わざわざ人の世界にまで侵入して殺し合いに来る奴だ、クソみたいな顔に決まっている、見るまでもない。
ブンブンと薙刀の様な刃物を振り回しながら不死人との距離を詰めてくる侵入者。
よく見るとその刃は炎に包まれて揺らめいていた。
炎系統に強化か?わざわざそんなもん持って来るんじゃねーよ。
「一人でやってろ馬鹿」
不死人は直ぐに脇の通路に飛び込んで一目散に逃げ駆ける。
後方から侵入者が追ってくる気配がする。
殺し合いがしたけりゃてめぇの身体を刺して自害しとけっ!
階段を駆け昇った不死人は振り返り様火炎壺を侵入者に向かって投げる。
ゴウッと立ち昇る炎を侵入者はバックステップでかわそうとしていたが、不死人は直ぐ様逃げたので分からない。
分かれ道が入り組んだ地形が幸いし不死人は侵入者からひとまず身を隠す事が出来た。
「あーあ、どっかの落とし穴に落ちて死なないかなぁ」
不死人は嘆きながらも装備を整える。どうせ、殺し合いが大好きな気×××のサイコ野郎だから諦めなどしないのは分かってる、とどめを刺してお帰り願うしかない。
どうも人間性を篝火に捧げて生者になると侵入者を呼び込んでしまう様である。
だったら生者にならなきゃ良いのにと不死人は他人事の様に考えるが、あの蜘蛛姫の姿が思い浮かぶ。
うーん、これは意地なのか、見栄なのか、あいつには不死人のままの姿をあまり見せたくはない気がする。
生者になる人間性まで自分に捧げているかも、とか思わせたくない。逆に『生者に戻る分の人間性も捧げなさいよ』頭の中にいつもの声が響きもする、あいつなら言いかねん。こちらに気を使った様な寂しげな表情も浮かんでしまう。
うむ、駄目だ分からん。
不死人は周囲に気を配りながら動かず考える。侵入者なんかこちらを探し回らせてイライラさせるに限る。皆がてめぇみたいな殺人狂だと思うな、反社会勢力め。
仮に殺られたとしても十中八九、不死人として篝火に戻るだけなのだが、気に食わない、全くもって気に食わない、侵入者になんか殺られてたまるか。
という訳で生き延びる方策を考える。まずは落ち着こう。オーケー?
正面から対峙するのは?見たところ魔法系統は使わなさそうだが。
「いや、あの長物は厄介だ、こちらが飛び込む前に畳み込まれそうだ、却下」
飛び道具で勝負するか?
「火炎壺はそんなに無い、そもそも距離があれば回復されてしまう、却下」
何処かで待ち伏せる?背後を取れれば有利だが。
「間違いないが、相手も警戒してるだろうから、そうそう楽に背後は取れんだろう、及第点」
不死人は自問自答を繰り返す。有利な戦況を得る為、自分でプレゼンし却下を繰り返す。
ここでネガティブな思考に陥らないのが不死人の強みなのだろう。最適解を手繰り寄せていく。
『不死人にも休息は必要だろう?』不意に男前な女騎士の声がした気がして不死人は体力を回復していないことに気が付く。
エール瓶を取り出し口にして体力を回復させていく。
多分、自分の勝手な思い込みと妄想の幻聴なのは分かっていたが励ましにはなった。
お陰様で1つの道筋が浮かんだ。
「うん、まずは場所を探すか」
不死人はゆっくりと音をたてない様に立ち上がると、無事に蜘蛛姫の所に戻るため、思い描く場所を求めて歩を進め始めた。
どれ程の時間が経過しただろうか、赤黒く揺らめく侵入者は不死人の姿を見つけ出せず、何度も同じ通路を通り過ぎる。
時折、目につく死角に踏み込んで薙刀を突き入れるが手応えなど無かった。
次第に侵入者の注意力は乱れて不死人の姿を探し出すことに重きを置き始める。
殺し合いを自ら始めた癖に。
と、侵入者は進む通路途中、上方から軽い衝撃を受け慌てて盾を構える。侵入者のいる通路の上にはもうひとつ上の階層があった。
ピュルルルルー・・・ペチョ
侵入者の兜に当たり潰れて付着するは『糞団子』、侵入者は汚物臭に包まれる。
侵入者の上の階層から行われる不死人の投擲、糞団子は虹の如く放物線を描き侵入者に当たり続ける。
「うんこーっ!」
意味をなさない不死人の雄叫びに侵入者は上の階層につながる階段めがけて駆け始める。その間もピュルルルペチョリ、ピュルルルペチョリと糞団子が侵入者の全身に当たり飛び散る。
不死人の糞団子投擲スキルは群を突き抜けた点元突破クラス!
恐らくは以前蜘蛛姫と勝負した『遠くに立てた棒に石ころを当てるだけの大会』の成果であろう。何がどう役に立つか分からない、何でもやってみるもんだなぁ・・・
「うんこうんこうんこうんこうんこーっ!」
不死人の叫びと共に投擲される糞団子で侵入者の姿が糞まみれになる。侵入者は構わずに駆け続ける。
恐らくは殺意しか無いであろう侵入者が薙刀の間合いに不死人を捉えた瞬間、侵入者の面前が炎に包まれ侵入者は仰け反る。
不死人、火炎壺を投擲。ヒット。
頭部を炎に包まれた侵入者の隙を不死人は逃さない。混沌の刃を両手に構えて飛び込むと侵入者の肩口から袈裟斬りに刃を振り下ろす。
不死人の両手には侵入者を切りつける手応えが全くなかった。
外した?!と不死人は愕然とするが目の前の侵入者の鎧は深々と引き裂かれた跡と血煙が舞っていた。
不死人は夢を見ている様に己の完璧な一筋に目をやる。
不死人は無意識に返す刀で横合いに刃を流すように撃ち、今度は鉄を削る手応えを感じながら混沌の刃を振り抜く。
侵入者は火炎壺からの連続撃に対応できずよろめく。
不死人、止めの一撃を侵入者の頭部に撃ち込むべく刃を上段に構え振り下ろす。
しかし、流石殺し合いだけを続ける侵入者、逆転手の盾での刀弾きを狙うべく手にする盾を不死人の剣筋に合わせ振る。パリィ。
うん、それ知ってる知ってる、ミルドレッド師匠にアホ程やられ続けた弾きだ。
不死人が侵入者の動きに合わせて、一歩下がりながら刃先を下げ引くと侵入者の盾が空を切り、結果侵入者は不死人の前で体躯を晒した。
不死人の混沌の刃がスルリと侵入者の喉元に吸い込まれ勝負は決した。
不死人「よう、あー、大変だったぁ・・・」
蜘蛛姫「お疲れ様ー、って・・・ん・・・あんた、臭い!」
不死人「・・・」
蜘蛛姫「え?なに?漏らしちゃったの?」
不死人「・・・」
蜘蛛姫「あんた、今いくつなの?もーしょうがない子ねー、ほらおいで着替えよう」
不死人「・・・」
蜘蛛姫「?」
不死人「・・・ぐすん」