どうやら俺の黒歴史を美少女達に握られたらしい 作:as☆know
「またなんかわかんなくなったら、話くらい聞きますから! また会える日までー!」
そう言ってここを飛び出した彼に向けて手を伸ばした時には、もう彼は影すらも置いていかずに行ってしまった。
……バイト、行かなきゃな。ふと思い出したはいいものの、孤独感に少し身が震える。さっきまで、あんなに落ち着けてたのに。
幸い、というべきか。ドラムとキーボードがほぼほぼ使われていない状態だった為、スタッフの人のご厚意もあり、後片付けはしていただけることになった。バイトもあるし、本当に助かる。今度、ちゃんお礼しなきゃ。
忘れ物が無いかだけ確認して……今から行けば、まだ全然間に合う……あっ。
「ベース、忘れてる……」
アンプの横で、暖かい色をしたボディの5弦ベースが、何とも言えないような雰囲気でこっちを見ていた。
軽快な電子音がスマホから鳴る。あぁ、なんか来たなぁ……見たくねぇ……聞きたくもねぇ……
ただ、確認しないかもどうかという言うのがあるので、のそりのそりとスマホに手を伸ばす。
「来週の練習は無し……」
まぁ、そりゃーそうだろうなー。反射的に通知された部分をスワイプして削除。画面を落として、見なかったことにするように枕に顔面パタン。
送信されたのはRoseliaのグループ。送り主は友希那さん。
スタジオを出た後、俺は勢いそのままに逃げるみたいに家に帰ってきた。
とにかく、気分を一新したくてシャワーを浴びたが、得られたものはベースをスタジオに忘れたという記憶だけ。シャワーを浴びた後の今の俺には、スタジオにもう一回戻るなんて選択肢はない。もう家から出たくない。
忘れたベースに関しては仕方がない。いつまでもベッドでうじうじとしていたって、ベースが歩いて帰ってくるわけではない。
さっきまで、あんなに威勢よく、偉そうにしていたのに。一人になると、御横は弱いんだ。
いつもより重たい体を起こし、パソコンがセットされた席に座って、スタンドに置いたままのギターに手を伸ばす。
パソコンの電源を入れ、立ち上がるのを待ち時間にギターのチューニングを済ます。そっちが終わるころには、パソコンも準備完了している。これが、いつもの流れ。
慣れた手つきで動画サイトに飛ぶと、ホーム画面におすすめの動画が流れてくる。その中には、勿論、曲のMVもあるわけで。
「命に嫌われている……良い……」
寂しさを何とか紛らわせようと、ポツリと独り言をつぶやいたって、むなしさしか残らない。
空いた心の隙間を埋める様に、俺はギターを鳴らした。曲を聴いて、ギターを弾いて、曲を弾いて、ギターを聴いて。その繰り返し。
スマホの画面の点滅が、新着メッセージの存在を知らせてくるけど、見ないふりをした。着信音も、聞こえないふり。今、そっちの画面は見たくないから。聞きたくもないから。
メンタルブレイクした時には、とにかく自分の殻に籠ること。そんな時でも、ギターと音楽だけは俺の味方だから。涙の数だけ強くなれるよ。メンヘラになった僕の様に
無心で手癖と理想に赴くがままにギターを鳴らして、ただただ音楽に貪っていればあっという間に時間も過ぎる。2時間くらい、秒で済む……腹は減ってるけど、今日はご飯食べたくないなぁ……
この曲が終わったら、次は少し静かな、オシャレな曲を弾こう。久しぶりにアコギでも握ってみようか。なんだかそういう気分だ。エモい曲は、こういう時に覚えるもんなんだ。
数々のバンドマンが、生々しい失恋ソングとかで大ヒットした理由も少しわかる。こういう気分で書いてたら。そりゃあ、同じ経験をしたことがある人にはウケるよな。
「……ん」
時計の針は、午後21時を刺している。そんな時間に、インターホンが鳴った。
こんにゃろう。このぴーんぽーんって音だけでもムカつく(病み)
今の俺はセンチメンタルな気分なんだ。気分的に、今だけファミ〇ーマートの入店音だけにしてやろうか。ファ〇チキ以外の肉を食えない体にしてやるぞ。ケン〇ッキーもな〇チキもだからな。プレミアムのファ〇チキだけは許してやる。
滅茶苦茶行儀の良いご家庭のガキならもうぐっすり寝てる時間だぞ。こんな時間に人の家を訪ねるだなんて、なんて非常識な輩なんだ。親の顔には興味がないので、そいつのかが見て見たいよ。ま、うちのドアには覗き穴があるから、そこから見れるんですけど。
幽霊パターンだけはやめてくれな。フリじゃねぇぞ。本当だからな。
「わー……ここであってるのかな……」
…………なんで?
覗き穴の向こうには、クッソ怖いババアでも非常識なおじさんでもない、正真正銘のとんでもなく可愛いギャルがいた。僕、何故か名前知ってるですよ。この方、今井リサって言うんです。ストーカーしてるわけじゃないよ。偶々、名前だけ知ってるだけなので。
「いやー、間違ってるかと心配しちゃった☆」
「……あの、なんでお俺の家、知ってるんすかね」
「ひまりちゃんに聞いたんだよね!」
その回答を聞いただけで、反射的に左手で頭を抱えてしまった。リサさんとひまりに交友関係があったって事すら、俺は初めて知ったんだけど。
あの野郎、どういう個人情報管理能力してやがるんだ。このご時世、そんな意識で個人情報をを扱っていいはずがないだろう。
こんな遅くの時間に訪ねてきた女性を外にほっぽりだしたままにするわけもいかず、なし崩し的に部屋に上げてしまった。食事をする机で、対面に女性がいる違和感が半端ではない。
男一人暮らしの部屋に上げてしまったけど、大丈夫だろうか。あとでまとめて殺されたりしないだろうか。やっぱり、上げるべきじゃなかったのかもしれん。
「そうそう! ほら、これ。君のベースだよね?」
「あ! ほんま!」
「ケースの時点で気付いてたでしょ」
「はい」
仰る通りで。ドアを開けた瞬間に、いつものリサさんと違うベースケースを背負ってるなーって思って一瞬で察した。というか、見た目でもちょっと怪しんでた。リサさん、そんな地味な趣味してないもんね。
わざわざ家にまで届けてくれるなんて、宇宙領域まで届きそうな優しさ。こういう嫁さんが欲しい。マジで俺の事を支えてほしい。
ケースの中には、正真正銘、俺の5弦ベースが入ってた。忘れてごめんよぉ! 可愛い子やねぇ! よしよしよしよし……あれ、なんか機嫌悪い? 当たり前か。忘れられたんだもんな。マジですまん。
「楽器、好きなんだね」
「……え? そりゃあ、勿論」
暫くベースを撫でていたら、両手で顎を支える様に若干前かがみになったリサさんが、やけに嬉しそうな顔をしてて。
流石にきしょかったかな。いや、過剰なリアクションをしたつもりではなかったんだけども。
「……そういえばさ。晩御飯、もう食べた?」
「あー……今日は、別に良いかなって」
言えない。今日は気分的にメンヘラなので、ご飯いらないですなんて言えない。目を逸らしちゃう。
だって、男がメンヘラって恥ずかしいだもの。少なくとも、大々的に言えるようなものなんかでは、絶対ないわけですし。
「ね。ちょっとだけ、冷蔵庫の中見てもいいかな」
良いですけど、って言い終わる前には、もうリサさんは立ち上がってキッチンの方に向かっていた。
「おー、男の子の一人暮らしなのに、結構綺麗にしてるんだ……冷凍のご飯あるじゃん! ね、たまごってこれ、期限とか大丈夫だよね?」
「先週の金曜に買った奴なので……」
「さっすが☆」
すんごい手際よく、人の家の冷蔵庫を漁っておられるのですが。たまごの消費期限まで気にしておられる徹底ぶり。
慣れた手つきで、冷蔵庫から色々取り出して……あっ、ちゃんと手も洗ってる。
「あのリサさん? 俺、あんまり食欲無くて……」
「まーまー。お姉さんに任せてきなさいって。ちゃんと三食食べないと! 成長期の男の子なんだから! アタシも食べるんだから、文句言わせないよ~?」
あらあら、なんてできた娘さんなのかしら。母性溢れるばかりか、こちらの体調も気遣ってくれるだなんて……挙句には、一緒にご飯も食べてくれるだなんてアフターサービス付きだなんて神かなにか?
……え、一緒にご飯食べるって? 本当に言った? 言ったか? 言ったっけ? わかんねぇけど、明らかにご飯の量は2人前くらいあるね。じゃあ、多分言ってるわー。
いやいやいやいや。自然な流れでご飯を作るみたいになっているが、流石に客人に作らせるのはヤバイ。
なんなら、リサさんわざわざベースも持ってきてくれてるんだし、これ以上おんぶにだっこに高校までエスカレーター式だなんて訳にはいかん。ここは家主である私が、責任を持って、おもてなしを……
「リサさん、俺やりm」
「愛斗はゆっくり座ってていーよー。こういう、女の腕の見せ所ってヤツなんだから☆」
ウインク交じりに、そうやって振り向く彼女は、とんでもなく美人でした。
惚れそう。てか惚れてるわこれ。理想の嫁さんすぎてマジで泣けて来そう。いや、既に俺は泣いているのかもしれない。
リサさんが自分の家のキッチンで料理をしている。
ゆっくり座ってて良いよ、なんて言われたはいいものの、内心はずっとそわそわしている。それでも、リサさんをガン見するのはなんか気持ち悪いし、内心ソワソワしているのを勘づかれるのも嫌だ。
結局、アコギを触りながらチラチラとリサさんの方を伺うことにした。やっていることとしては、中途半端で一番気持ちが悪い気がする。
「ね! おたまって、どこにあるかな」
「そこの引き出し……そう、そこです」
「ありがとっ! …………~♪」
綺麗な鼻歌交じりに、耳馴染みの良い調理音が奏でられる。
リズムよく包丁が落とされる音。コトコトと煮込む音。調味料の棚の開閉音。
何気なく日常的に自分が発しているはずなのに、人が、しかも女性がその音の発生源というだけで、こうも心躍ってしまう物なのか。
何というか、後ろ姿が様になるなぁ。普段から、料理に慣れている人の動き方だ。動きに無駄がないのに、余裕がある……あっ、こっち見てるのバレた。すっげぇニヤニヤされてる。バカ恥ずかしい。
「はーい、おまたせしましたっ。こちら、アタシ特性の雑炊でございまーす☆」
「おぉ……!」
「これなら食べやすいし、消化にも良いからね……雑炊って言うには、少し季節違いだけど」
「めっちゃ美味そうなんだけど……」
キラキラして見える。特別な食材なんかは一切入ってない。たまごとネギだけのシンプルなものなはずなのに、すっげぇ輝いてる。たまごか? たまごなのか? 先週、スーパーでおばちゃんと戦争して勝ち取ったのが今、ここで花咲いたのか?
「ほいっ、どうぞ」
「うおっ!? あ、あざっす……」
「火傷しないように、あったかいうちに食べちゃお! ……じゃあ、頂きます!」
「いただきます……」
当たり前のように俺の分までよそってくれててびっくりしちゃった。新婚生活ってこんな感じなのかな。俺も温かい家庭を持ちてぇよ。
取り皿に注がれた雑炊は、本当にキラキラ輝いて見える。たまごの半熟加減かのか、言えの照明が強いのか。多分、俺の目が濁ってて、そこに映る光パワーの雑炊が色々反応して輝いて見えてるんだろう。よくわかんないが、とりあえずありがたく頂きましょう。
「…………おいしい」
「本当? よかったー……!」
もうなんもないです。これが世界一の雑炊です。
優しいながらもちゃんと塩気の効いた雑炊が、五臓六腑にロックに染み渡っていくのがわかる。それどころか、メンヘラで闇鍋みたいになってたメンタルでさえ、この光パワー雑炊に浄化されていくようだ。
……こんなんでも、料理にはほんの少しだけ自身はあったんだけどね。完敗です。勝負なんてしてないけど。
女の子の料理って、こんなに優しい味がするんだな。すげぇよ。母ちゃんの料理、ちょっとだけ食べたくなってしんみりしちゃった……あ、おかわりください。
当たり前のように隣に並んで洗い物をしているの、何なんだろうね。この光景がもうありえないよ。
彼女、本当に凄いの。忘れたベースを家まで持ってきて貰い、美味しい料理まで作ってもらったのに、更には流れる様に洗い物まで手にかけ始めたんです。流石にこりゃあいかんと。
あ、僕の威厳的な意味でね。もう全部やって貰ってるから。しかも、色々あった件で一番の被害者って言えるような人にだから。
「ね、布巾ってどうすればいい?」
「洗ってますよね。だったら干しておくんで……あぁ、あざす」
なんというか、本当に隅から隅まで気が利くんだな。この人って。きっと、将来この人と結婚する男は、幸せ者に違いないだろう。高校生の時点でこれなんだもん。ハッピーウェディング。
「……そういや、冷蔵庫にスイーツあるんですけど……食べます?」
「いいの? やった☆」
好きなの選んでいいですよ、って言っても、そんなに種類がある訳では無いけど。
本当にこの前、偶々テレビの特番に触発されて買ったスイーツに助けられるとは……これだけ色々とやって貰って、お礼がコンビニのスイーツなんて安すぎるけど。今度、無いお小遣いはたいてなんか奢らないとなぁ。
コンビニスイーツに、作り置きの緑茶でおもてなし。何とも言えなさすぎるけど、先に席に座ってそわそわしながらプリンアラモードを頬張っているリサさんは、とっても幸せそう。なんかめっちゃ部屋を見まわしてるけど。
甘い物って、やっぱり神なんだな。俺はシュークリームにしよ。
……よくよく考えたら、今って俺の部屋に二人きりだもんな。今まで、リサさんと二人きりだなんてなかった気もする。シュークリーム頬張りながら考えることじゃないんだろうけど、本当に不思議な状況だ。絶対に手は出さないけど、後日LI〇Eブロックされても文句は言えない。
「……送っていきますよ。もう夜遅いですし」
「あ……」
少し落ち着いたのも見計らって、会話を切り出す。これ以上ここに居させても、なんか申し訳ないしね。勿論、最寄りまで送ってくよ。本当に夜遅いし、こんなな綺麗な人を一人では行かせられないし。
「あのさ!」
「はいィ!?」
立ち上がって伸びをしてた所に、急にボリュームを上げて声をかけてきたもんだから、思わず飛び上がってしまった。恥ずかしい。脇腹攣った。声裏返った。
「その……今日はありがとう! あと、ごめん! 恥ずかしいとこ見せちゃって……」
振り返ると、いつの間にかリサさんは立ち上がってた。胸の前に手を当て、恥ずかしいのか、少し顔は赤い。多分、俺も赤い。内容が違うけど。
「いやいやいや! 俺は何にも見てないです! えぇ! 取っても良いなら目ん玉でも取って見せm」
「嬉しかった。アタシを受け入れてくれて……ずっと、不安で、寂しかったと思う、から」
ピタリと体が止まる。そっか、そりゃあ、そうだよな。当たり前だよな。
きっと、Roseliaって今まで自分との闘いばかりだったんだろう。友希那さんとリサさんも、お互いに自分と闘ってた。氷川さんだって、きっとそうだろう。
なんだ。思ったより、ちゃんと潤滑油やれてたのか。燃料油になってなくて本当に良かった。特徴のない潤滑油ばんざーい!
「アタシも、友希那も……これで前に進める。愛斗のおかげだよ」
「いや、俺は余計な事しか……」
「ううん。キミはアタシを救ってくれた。そんなこと言うけど、友希那と紗夜に手を差し伸べようとしてくれてたじゃん」
知らない間に、手を繋がれていた。この自然な流れに、違和感も何もなく、ただただ俺は押されるがまま。
リサさんの顔は真剣そのもので……スタジオの時と同じ様な距離なのに、あの時とは全然違う顔つきだ。
「アタシは……一足先に助けて貰っちゃったからさ」
流れる様に肩に手を添えられ、反射的に体が固まる。
「だからね……これはそのお礼!」
瞬間的に左肩が急に重くなり、思わずガクッと膝から倒れそうになる。
急に変わる景色に頭が混乱していたら、頬に柔らかいものがリップ音付きで落ちてきた。
思わず、飛び上がってパニックになって飛び上がる。いつの間にかリサさんはもう玄関に居て。まるで俺がそれに気が付くのを待っていたかのように、こっちを見ながら、あの小悪魔みたいな笑みで見て微笑んでた。ツンツンと、自分の唇を指で叩きながら。
「おやすみ! Roseliaで会おうね!」
あっけに取られているうちに、扉は勢いよく閉まる。
……荒らしか、それとも天使の落とし物か。どちらにせよ、感情の起伏が世界一激しいであろう。忘れられない夜になってしまった。
過去のお話の書き方が地雷なので、展開は変えずに描写とか加筆修正したいんです。
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今のが好きなので書き直しておk
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昔のが好きなので書き直したらアカン