どうやら俺の黒歴史を美少女達に握られたらしい   作:as☆know

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人生の転機は割とあっさり来る

『僕は最上最愛の この世界に産み落とされたモンスター』

 

 

 天井と足元から俺を主人公にさせるべく、うっとおしいほどビカビカ煽る。

 

 

『そこは従順傀儡の 嫌な時代に振り落とされたもんだ』

 

 

 令和の二文字が刻まれたピックを指に挟み、両手をマイクに重ねる。

 

 

『赤い糸を放ったスパイダー 予想通り絡まるハンター』

 

 

 ドラムのキックに合わせて左足でビートを刻む。

 

 

『どうか一生淡々と 生きるだけの理由をくださいドクター』

 

 

 あぁ、頭痛い。

 クラっと来る。空気と熱気に酔いしれて。全てに気持ちがよくなる。

 

 I'm falling. 狂ってる? それ、誉め言葉ね。

 

 

 

『この速さで遠ざかる from upper』

『軋む心臓は条件反射』

『心拍数は自由落下』

『限界だ let me have the downer』

 

 

 勝手に鍛えられた活舌で軽快に言葉の異文化交流をこなしていく。

 言葉っての素晴らしい。美しい。

 

 

『鎮痛剤は愛 希望沸かし冷まし ただ未来がない』

『ドクター, where am I』

 

 

 握り変えたピックで小気味よく弦を切る。

 

 

『僕は新旧曖昧な この世界に 産み落とされたモンスター』

 

 

 無限に上がる口角、真反対に酷く歪む口元。

 

 

『そこは一見散漫な 手のひらから 振り落とされたようだ』

 

 

 全てを傷だらけにしそうな鋭いジャズマスターの声が背中を切りつける。

 不思議と痛くはない。むしろ心地良い。なんだったら、好きなくらい。

 

 

『外側に放ったスライダー 予想通り空振るバッター』

 

 

 一瞬、縦縞のユニフォームを着た顎ひげを蓄えた可愛らしい顔をしている、韓国リーグで活躍してそうな右打者が外スラを綺麗に空振り。それを見ていた全員がなぜかその光景に納得する映像が頭に流れた。

 

 今ライブ中だぞ? めっちゃ気持ち良く中二病モードになってたのにバカか?

 時を戻そう。

 

 

『ここは心痛最大のすまし顔だ 薬をくださいドクター』

 

 

 俺の心情じゃない。そういう歌詞だ。確かに今心痛最大のすまし顔をしているけどね? 記憶からロ〇リオの記憶を今だけ消せる薬をくださいドクターになってるけどね。

 

 

『だからちんぷんかんな呪文を唱えて 指を咥えて待っていたんだ』

 

 

 メンタルが迷子になったせいで目線をどこにやればいいかわからなくなっていると、少し奥の方に髪色は分からんけどなんかショートカットの顔がいい女の子が圧倒されている姿が目に入る。

 

 そうだったわ。今の俺はスーパースター。ここの主人公。アイアムアヒーロー。

 

 

『とんちんかんな名前呼ばれたんだ』

 

 

 この楽器隊全員が同じリズムに合わせる。この瞬間、超すっき。わからん? 俺はわかるからいいけど。

 打ち合わせとかリハとか合わせなくても曲を知ってたら合わせられるこの技術。

 お互いの腕を信頼してるからこそできる技。こういうときだけはマジでこいつらとバンドを組んでてよかったと心から思えるよな。

 

 

『嗚呼』

 

 

 左足を真後ろに蹴り飛ばして、反動でギターを跳ね上げる。

 そしてそれを地に向けて振り下ろして、体にアドレナリンを一周させる、0.数秒。

 

 

『人類最後に愛を持ったって 僕に居場所はないでしょうか』

 

 

 コードをかき鳴らしながら歌詞に身をゆだねる。

 今日は殴るんじゃなくて甘えたい気分だ。

 

 

『心中泣いて痛いから 思い出してよ』

 

 

 掠れ声で音程の線をなでる。震える声を膨らませ、太く、長く。

 

 

『人類最後に愛を持ったって それを知る日はないでしょう』

 

 

 声の高低差だけが歌じゃない。感情っていうのは声色で聞き手にも伝わりやすく、まっすぐ届く。

 

 

『なんて今日をくらった』

 

 

 身体を縛っていた空間から引きはがすように後ろに飛び跳ねる。

 まだまだ、まだまだ。俺の、俺たちの独り舞台はこれから。一瞬も目を離させやしない。

 

 勿論、そこのキミもね! キラッ☆

 

 

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「「ううう、すごかったー!」」

 

 

 圧倒されて飛んでしまった意識が横にいた二人の声で戻される。

 想像していたものの何倍も、何十倍も、何百倍も凄かった。語彙力がなくなってしまっているけど、本当に凄かった。

 

 

「パスパレの人たち可愛かった~! 本物のアイドル、あんなに近くで見ちゃったよ~!」

「Afterglowも超やばかった! マジ凄すぎ! カッコよすぎじゃね!?」

「あとRoseliaもだよ! クールでカッコいい! 出てきた途端空気変わったもん!」

「ハロハピもやばくね!? めっちゃ動いてたし、クマいたんだけど!」

「Black historyも凄かった! 楽器よくわかんないけど凄いかっこよかった!」

 

 

 確かに、どれも凄かった。

 パスパレもみんな可愛くて、AfterglowもRoseliaも凄くかっこよくて、ハロハピもとっても楽しそうで、Black historyも……ほんとにかっこよかった。思いっきりこっち見てたし……物理的に目が離せなくなっちゃった……。

 でもやっぱり、私の中で凄かったのは……。

 

 

「あとポピパも!」

 

 

 思わず胸の前で握りこぶしを作りながら、大きな声を上げてしまう。

 

 

「ポピパのステージ、すっごくキラキラしてた! 青空に星がたくさん光ってるみたいだった! なんか凄いことが始まりそうな気がしてドキドキした……!」

「青空に星……? 倉田さん面白いこと言うね! でも、ちょっとわかるかも!」

「? 青空じゃ星見えなくね?」

 

 

 あ、あぁ……ついつい興奮して早口で意味の分からないようなことを……でも、実際に今日のポピパの皆さんはとってもキラキラしてて、まるで星みたいで……。

 

 

「そ、そういう感じっていうか、イメージで……」

「あっ、ねぇねぇ、アレ何かな?」

 

 

 必死に伝えようと、誤魔化そうとあわあわしてると、つくしさんがどこかを指さす。

 指先の方向を振り向くと、何やら私たちと一緒だったお客さんたちが集まって何かをしている。……あれは、ノートに何か書いてるのかな?

 

 

「ライブの感想書いてるっぽいよ! あたしも書いとこーっと!」

「あ、待って! 私も書く!」

 

 

 何の躊躇もなくあの集団に突っ込んで行けるって……二人とも凄い。

 とは思いつつも、私だってこの気持ちを何かにぶつけないとやってられないというか、この興奮の行き先がなくなってしまうというか。そうなると、自然に足は動いていた。

 

 沢山の人たちの波に流されながら、置いてあるボールペンを手に取り、ノートの空いている欄に筆を当てていく。

 

 

「……よし、書けた。こんな感じでいいかな」

「なんて書いた?」

「わ。み、見ないで~!」

 

「こんにちわ! 今日はライブに来てくれて、ありがとうございます!」

「今日のライブ、どうでしたか?」

 

「「「!!!!!」」」

 

 

 あの衣装……あの声……。それにあっちの人たちも、あのメッシュを入れてる人って……。

 

 

「ポピパにBlack historyじゃん!」

「バンドの人、お客さんのところに来たりするの……!?」

 

 

 凄い……さっきまで近くて遠いあの舞台にいた人たちが、こんなところに……

 緊張で胸のドキドキが外にまで聞こえそうなくらい、激しく高鳴る。

 

 けど、この気持ちを本人さんたちに伝えたくて、その思いだけで必死に声を出して、伝えてみる。

 

 

「えと……た、楽しかったです!! 凄かったです!! かっこよかったです!!」

「やった! 香澄、良かったね」

「わ、私もバンドやってみたいって思いました!」

「バンドはね、すっごく楽しいよ?」

「は、はい……!」

 

 

 名前、なんて言うのかな……すっごく優しい。それに、演奏しているときから思ってたけど、みんなすっごく可愛いし綺麗。あとで名前とか調べなきゃ……

 

 

「あの、すげぇかっこよかったです! ライブ初めてだし、ギターとかよくわかんないけど、ギューンってなってて!」

「マジで? いやー、嬉しいねぇ。女の子から褒められちゃうと照れるべ照れるべ」

「愛斗ー。あとで彩先輩に怒られても、私は知らないからね」

「大丈夫大丈夫」

 

 

 隣では桐ヶ谷さんが青いメッシュをした人に話しかけてる。ちょっと派手な髪型をした人だから、怖い人なのかなって思ってたけど、思ってたよりも凄い優しい喋り方とか声色をしている。

 バンドマンな男の人って、大体チャラいというか、怖いというか。そういうイメージがあったから、なんだか意外だ。

 

 

 

「えーっと……三人は知り合いなのかな」

「は、はい!」

「友達とライブに来るって、楽しいよね~」

「おたえって、友達とライブとか見に行くことあるのか?」

「あんまりないかな」

「えぇ……」

 

 

 な、ないんだ……なんかあんまり会話がかみ合ってないというか……

 この黒髪の長い女の子、案外こういうところがあるのかも……さっきまであんなにかっこよくギター? を弾いてたからギャップが……

 

 

「まぁこいつは特殊だからアレだけどさ。ライブって、案外みんなが思ってるよりも来やすい場所だから。今日は俺たちみたいなお邪魔虫がいたけど、ガールズバンドだけでもやる日があるし、お客さんが女性限定って日もあるんだわ」

「そんなこともやってるんだ……」

「こいつらの音楽って聴いてて元気が出るだろ? それに、ポピパなんてしょっちゅうライブに出てるし」

「香澄は基本的に誘われたら断らないもんね」

「どんだけスケジュールパンパンだと思ってんだよ……」

「だからさ。今日来てよかったって思ってくれたらさ、また来てほしいな。次も後悔はさせないから」

「……は、はい!」

 

 

 凄く優しい……なんか女の子の扱いに慣れてる。そういう人なのかな……この人って。

 

 でも、この人に、この人たちにあこがれている自分がどこかにいる。あの舞台に立って、キラキラと輝いてみたいと思っている自分がいる。

 ……家に帰ったら、メンバー募集のポスターでも作ってみようかな?




白瀬玲×SAKIさんが歌ってみたスロウダウナーにいまだにドはまりしています。今回のちょいアレンジが入っていたのはそれが原因です。超かっけぇが。好きだが。

過去のお話の書き方が地雷なので、展開は変えずに描写とか加筆修正したいんです。

  • 今のが好きなので書き直しておk
  • 昔のが好きなので書き直したらアカン

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