どうやら俺の黒歴史を美少女達に握られたらしい   作:as☆know

121 / 142
本物は最初の世界観から違う

 最初の一文字目から、何かが違った。

 ギターの音色も止まり、一瞬の静寂が出来たその瞬間。私たちは、腕を掴まれて引きずり込まれた。この人の世界に。

 

 手に握っている楽器がギターではないかのよう、まるで手足のように踊っている。遊んでいる。歌っている。語っている。

 当の本人も、体は勝手に動いているみたいに、手元も何も見ないで。ただただ、うつむきながら目を瞑って、楽しそうに微笑んでいる。

 

 目の前でみる偉大な先人の姿は、近すぎて、あまりにも遠すぎた。

 物理的な距離と精神的な距離の差が、こんなにあるものなのか。

 

 

『夕立の止んだ街が 近づけた』

『ただ陽が落ちた下北は地下のライブハウス』

 

 

 格が違う。

 

 全てにおいて、レベルどころではなく、立っている土俵自体が違ったんだ。なんて、そう思わざるを得なかった。

 目の前にいる人は、ただギターを持っただけで、私と変わらない人なのに。違う生き物みたいで。

 

 

『いつもは冷たくするくせに 二人の時は優しくするんだね』

『君は言う「あなた犬みたいでいい」って』

 

 

 精一杯のことはやってきた。みんなで努力をして、這い上がって、今日ここにいた。初心者のためのライブとはいえ、きっかけの場所でライブもできた。

 

 ちゃんと成長も自分自身、実感している。その成果も今日出せたと思う。

 それなのに、なんでこんなにも差が開いているのだろう。私が一歩進んでも、光は遠くに見えるだけで、姿は捉えられないほどに遠い。

 

 

『三番線に悲しい 音が流れた』

『曖昧な誓い 会いたいが痛い』

『バイバイが聞こえなくなるように』

 

 

 あの時、ステージを見上げていた景色とは違う。ガラス越しに見つめていた景色とも違う。同じ高さで、何物にもさえぎられることもなく、袖から覗く。

 目が離せない。スタジオの時と同じだけど、熱が違う。

 

 一本のギターから出ているとは思えない音色の分厚さ。そこを貫く力強く、どこか繊細な歌声。

 この人は私たちが5人でやったことを全く違う角度から、それも物凄く高いレベルで見せてくれてるんだ。

 

 

『春 恋に落ちて 耳を澄まして』

『君を探して 僕は誰かを』

 

 

 かき鳴らされるアコーステックギターの若干乾いた音色。一瞬の静寂。

 楽しそうに、踊るように、笑って。それで、一段と大きく襲う音響の渦。

 

 ギターと歌だけではない。浅尾さんの息遣い。細やかな一瞬の間。曲に乗りながらせわしなく無く動く体。

 それ以外にも何か、この世界観を作り出している何かがあるのだろう。

 私にはわからない色んな要素が組み合わさって、今この曲が出来ているんだ。

 

 

『ついに失って それでもいいって』

『君を待とうって 決めてた』

 

 

 なんでだろう。ついさっきまで私たちはこの人と同じ舞台に立っていたはずなのに。全然、違う場所に見える。場所どころか、全くの別世界みたい。

 

 私たちはステージに立っていた。でも、この人は違う。ステージに立っているんじゃなくて、まるで、この人が今立っている場所がステージになっているようで。

 二つとも意味は同じかもしれないけど、何か違う。その違いは私にもよくわからないし、何を言いたいのか私にもよくわからない……けど、はっきりと言える。

 

 

「………………凄い」

 

 

 この感情をこの言葉でしか表せない自分を恨みたくなる。自然と作られていた握りこぶしも、スッと溶ける。

 

 ポピパも、Roseliaも、黒歴史も、観客席から見ていた時は近くに見えたけど。実際はもっともっと遠いんだ。

 バンドを始めただけでは手も届かない。一つ壁を越えただけではまだ見えない。

 走って、上って、走り続けて、上り続けて。最後の最後に手を伸ばした、そのはるか先にいる。

 

 

『夏の匂いがした──────』

 

 

 少しだけ。ほんの少しだけ思ってしまった。

 

 私も、私たちも、そこに立ってみたい。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

『ありがとうございました! スペシャルゲスト浅尾さんでした! それでは皆様、本日はありがとうございました!』

 

 

 割れんばかりの大歓声。観客席からだけではない、私たちのいるステージ袖からもだ。ここに来て、一番の熱気。

 すごいな。この人は、ここにあるものを全部を一人で燃やして見せたんだ。たった数分で。たった一曲で。たったギター一本で。

 

 

「すげぇ……すげぇよ! アコギ一本であんな……あれどうやってんだ? あたしもやってみたい!」

「なんか、プロって感じがした……」

 

 

 興奮しきった様子でステージを見つめる透子ちゃんの目は輝いていた。私だって、同じ気持ちだ。

 視線の先には、客席に向けて手を振ながら、颯爽と引き上げる浅尾さん。涼しい顔をしながらこちらに向かってくる。

 

 さっきまでステージ上でこの場をくぎ付けにしていた人とは思えない。

 今もかっこいいけど、歌ってた時と違う気がする。何か纏っている覇気というか……尖ってたものから、急に雰囲気が柔らかくなったというか……

 今の浅尾さんは、初めて楽器屋さんで会った時の爽やかな好青年のイメージそのものだ。

 

 

「人気なのね、彼」

「ルイ、知らね―の?」

「名前くらいは」

「ガールズバンド全盛期なんて言われてる中でも、凄い有名だよね~。カバーしかしないバンドって少ないらしいし」

「『Black history』……知名度だけなら、Roseliaにだって負けないんじゃない? バンド活動には精力的じゃないのに、話題に引っ張られて知名度はうなぎのぼりだし」

「実際に実力もずば抜けてるしな……本来あたしらがひょいひょい会えるような人じゃないんだよなー……二回くらい話したけど」

 

 

 聞けば聞くほど、凄い人なんだよね。

 Roseliaだってプロ注目のバンドだし、パスパレに至っては普通に事務所所属のプロのアイドルバンド。

 そんな人たちにあこがれるなんて、よくよく考えれば無謀過ぎたんだろうか。バンドを組めたからってテンションが上がっちゃってたのかもしれない。

 

 

「Twitterでも滅茶苦茶有名だしな。彩さんとかとのツイートは絶対にバズるし」

「You〇ubeの弾いてみたとか一人で全部やってみたとかも有名だよね~。本当に全部プロみたいだし」

「すっげぇ多忙って聞くし、なんでほんとに今日ここにいたんだろうなー」

「それだけCiRCLEが凄いんでしょ。ガールズバンドパーティとかもできるくらいだし……」

 

 

 ……でも、少しだけでいいから、話してみたいな。今なら、何か掴めそうな気がする。そんな予感がしている。

 でも、そんな機会なんてもうないよね……浅尾さんも、他のバンドの人に囲まれているし。あそこに突っ込む勇気は私には……

 

 

「そんな貴方に耳寄りな情報があります☆」

「ふぃやぁっ!?」

「うわっ!? シロ! 急に大きい声出すなよ! びっくりした……」

「まりなさんじゃないですか、お疲れ様です」

 

 

 き、急に後ろからから声をかけられたら誰だってびっくりするじゃん! ……って、反論する暇もなかった。はぁ、びっくりしたぁ……

 まだ胸がどきどきしてるよ……それに凄い声出しちゃったし。うぅ、恥ずかしい……

 

 

「それで、耳寄りな情報って何なんですか~?」

「実はだね。あそこで囲まれてる人気者な男の子と落ち着いて話せる場所があるの!」

「その情報、正しいものなのですか?」

「任せなさいって! 彼周りの情報に関しては、信憑性ほぼ100%と自負してるから!」

「逆になんか心配なんですけど……」

 

 

 皆はまりなさんのこと疑ってるけど、私はどうしても疑いきれないんだよね……初めてまりなさんに会った時の前例があるから……

 それに、今日私たちがこのライブに出るきっかけを作ってくれたのも、まりなさんだったりする。

 こういうイベントがあるんだけど、どうかな? って透子ちゃんに言ってくれたんだよね。透子ちゃん何の相談もなしにその場でOK出しちゃったらしいけど……

 

 あの時も、私が困ってる時に道を示してくれたのは浅尾さんで、その手助けをしてくれたのはまりなさんだった。思い出してみれば、結構あの時から怪しかったといえば怪しかったんだけど……例によって頼る人なんて選んでられない。

 

 

「教えてもらっても、いいですか……?」

「えっ!?」

 

 

 意を決して、伝える。驚くつくしちゃんとは対照的に、まりなさんは待ってましたと言わんばかりに笑いかけてくる。

 

 昔読んだちょっと怖い昔話みたいに、掴める物はなんだって掴まないといけない、昔なら怖くてできなかったことも、今なら少しの勇気がある。

 

 

「ましろちゃん、本気? なんか凄くうさん臭いけど、大丈夫?」

「本人を目の前にして言われると、流石にちょっと傷付くねー……」

「いーじゃんいーじゃん! 行ってみなけりゃわかんねーって!」

 

 

 いつもはちょっと不安になる透子ちゃんの無鉄砲さが、今は凄く頼りがいのあるものに感じる。こういう時の透子ちゃんは凄く頼もしいんだよね……失敗したときの瑠唯さんがちょっと怖いけど……

 失敗したときのことは考えない。これが透子ちゃんの考え方だ。いつもは絶対にありえないけど、浅尾さんの熱にやられている今だったら、私にも少しできる気がする。

 

 

「彼にはね、行きつけの喫茶店があるんだよ。特にこういう事が在ったときには、家に直行かそこに行くかの二択。確率は二分の一!」

「二分の一……」

「その確率に、賭ける勇気があるかい?」

「勿論!」

「ちょっと! 勝手に話を……」

 

 

 二分の一なら、当たる確率は十分にある。文字通り、まさに半分半分。

 確実とは口が裂けても言えない確率だけど、ゼロじゃなければ確率は無限大。これも透子ちゃんイズム。こうやって思うと、透子ちゃんって凄い思考してるな……やっぱり、私には考えられないかも……

 いやいやいや! 今日はダメ! 今日はこのまま頑張るって、さっき決めたんだから!

 

 

「賭けます!」

「よし、わかった! それじゃあ君たちには特別にその場所を教えてあげよう! その場所はね────」

過去のお話の書き方が地雷なので、展開は変えずに描写とか加筆修正したいんです。

  • 今のが好きなので書き直しておk
  • 昔のが好きなので書き直したらアカン
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。