どうやら俺の黒歴史を美少女達に握られたらしい 作:as☆know
「来ちゃった……」
「来たねー」
「るいさんは帰っちゃったけどね……」
「仕方ねーだろ。キョーミないらしいし」
気持ち一つで歩いてきてしまった。ここは、羽沢珈琲店。まりなさんから教えてもらった場所だ。
場所は意外と近く、CiRCLEから歩いて十分くらいの商店街の中に位置する。学校より近いんだなぁ……場所的には真逆だけど。
個人的には途中にあったおいしそうな焼き立てパンを香らせるパン屋さんなんかも気にはなったんだけど、今はちゃんとした用事があるからダメダメ、と気持ちを押し殺してきた。でも、帰り道で中を見物していこうとひっそり計画も立ててあることはみんなには内緒。
こういう商店街に来ることもあまりないので、ちょっとワクワクしてしまってるのも事実だ。だがしかし、今はやっぱり目の前の事。
るいさんを止めるのもやめてここに来たんだから。それ相応のモノを持って帰らないとお釣りが付かない。
「来ちゃったのは良いけど……本当にここにいるの? コーヒーを飲んで終わりなんてオチなんじゃない?」
「それはそれでよさそうだけどねー」
「よくないでしょ! ここまで徒歩よ、徒歩! しかもライブ終わりなのに!」
や、やばいかも……なんか、どうやってお店に入ればいいかわからなくなってきた。
さっきまでは子供の時に夢見たヒーローみたいに勇気100倍だったのに、今ではお水をかけられた時みたいになってる。
足が竦む。出来うるならば、帰りたい。
「どーしたんだよ、シロ。行かねーのか?」
「い、いや。今日のところは辞めておこうかなって……」
「今行かないと、ここに来た意味もないじゃない! ほら、行こ!」
「ふーすけ、お前乗り気なのか乗り気じゃないのかどっちなんだよ……」
「来たからには行くしかない! 道は一つ!」
「いーじゃんいーじゃん! それじゃ、突撃―!」
後ろからはつくしちゃんにずいずいと背中を押され、前からは透子ちゃんにぐいぐいと腕を引っ張られる。
行く! 自分で行くから離して! なんて声を上げる間もない。視界を目の前に移してみれば。まさにななみちゃんがガチャリとオシャレなドアを開ける寸前。
「いらっしゃいませー! 何名様ですか?」
「4人ですー」
チリンチリンと来客を伝えるベルの音の後、元気な店員さんのお出迎えが来る。凄い可愛い看板娘さんだなぁ。
しれっとつくしちゃんと透子ちゃんの手から逃れることに成功したのは良いが、結局お店には入ってしまった。
どうしてだろう……まだお店に入っただけなのに、凄い緊張してきた……
と、とりあえず浅尾さんを探さなきゃだよね! パッとみ、この時間帯はお客さんも多くなさそうだけど……
「シロ見ろ! いたぞ!」
「えっ、なんで私に……って引っ張らないでー!」
「すいませーん!」
疑問を投げかける隙なんて無かった。一瞬のうちの腕を組まされ、後は猪突猛進だ。確かに透子ちゃんの無鉄砲さも見習わなきゃとは思ってたけど、これはやりすぎだよー!
というか、そもそも本当に透子ちゃんが見つけたのって浅尾さんで合ってるの? これで違ったら私色々どうにかなっちゃうんだけど!
「なんでしょう」
「ほら見ろシロ! やっぱり浅尾さんだ!」
「はい、浅尾です」
「あ、ああああっ! あさっ! 浅尾さん!?」
ほ、本物! 青メッシュ! 本物だ!
……あれ? でもなんか同席に赤いメッシュの規制な方……あれ? 美竹蘭!? なんで、同席にAfter growのボーカルが……頭が追い付かない……うえぇ……
「……知り合い?」
「どうだろ、知り合いなのかな。あ、今日ライブすっげぇ良かったよ」
「マジですか!? ありがとうございますっ!」
なんで凄いバンドの凄いボーカルの人たちがここにいるの? どれだけの確率でこの二人が揃うの?
ここってもしかして物凄い場所なの? 凄いバンドの人たちがひっそりと通う隠れ家的な……? 私たちに場違いだよー!
「へぇ、バンドやってるんだ」
「はい! Morfonicaって言うバンドなんですけど……あたし、桐ヶ谷透子って言います!」
「……美竹蘭」
「知ってますよ! 美竹さん、滅茶苦茶歌上手いですもんね!」
「…………そんなこと、ない。あと、蘭でいいから」
「デレた」
「うるさい」
私が頭の中でプチパニックを起こしている間に、透子ちゃんがものすごい勢いで交友関係を広げている……
あれが本物の陽キャなんだ。もはや私もあぁなりたいなという思考にすらならない。別の生き物だと思ってしまう。
いや、透子ちゃんのことはちゃんと人だと思ってて、他意はないんだけど……陽キャと陰キャって、なんかそもそも生物として根本的に何かが違うよねって言う、そういうお話。自分で悲しくなるなぁ……
「ってそうだ! 思いっきりプライベートなところ邪魔してすいません! でも、どうしても話がしたくて……」
「……こいつに話?」
「はい! それは……」
「「それは?」」
ここに来てやっと透子ちゃんが舵を切り返してくれた。そうそう。本来、私たちがここに来た目的は最初からちゃんと決まってて……
あれ? 透子ちゃん、どうして何も言わないの? なんでそんなカッコいいキメ顔しながらこっちを向いて……
「なんだっけ? シロ」
「えぇ……」
場の空気が一気に緩まるのを感じる。というか、ここに来て私の存在やっと認知された気がする。完全に私、空気だったもんね。
そうだったね……そういえば、まだ透子ちゃんにも他のみんなにも浅尾さんにどうしてほしいのか何も言ってなかったっけ……
というか透子ちゃん、何の目的もなしにあそこまで話せるものなんだね。陽キャって凄い……
「…………そういや、まだシロから何も聞いてなかった」
「テンプレじゃん」
「なんの?」
「なんのかはわからんけど」
「ほらシロいったれ! 決めたれ!」
決めたれ! って言われても困るなぁ……こう、みんなの視点が集まってくると緊張してくるというか、足がガクガクと震えるというか……本当なら今すぐここから後ろを向いて逃げ出したい。
けど、せっかくみんなを振り回してまでここに来たんだ。何の成果もなしに帰るなんてことをしたら色々と怖い。Morfonicaのみんなが怒るような人たちじゃないってのはわかるけど、それでも怖いものは怖い。
……でもでも! そもそも、美竹さんがいるのは想定していないし、本当はもっとひっそりと……あぁっ~! もうどうにでもなっちゃえ~っ!
「浅尾さん! 私たちに、軽音を……バンドを教えてくださいっ!」
「……ふむ。その心は」
「今日の浅尾さんを見て、思ったんです。Morfonicaと浅尾さんには、何か根本的な違いがあるんじゃないかって思って……いてもたってもいられなくて」
それで、みんなを無理やり引っ張ってまでここに連れて来た。
このモヤモヤを晴らすには、モヤモヤを作った直接の原因の人に会うのが一番早いと思ったから。それに、この問題を自分たちで解決するには、あまりにも時間がかかりすぎるだろうと思ったから。先が、あまりにも遠すぎたから。
「言葉では表せないんですけど……今の私たちと浅尾さんは根本的な何かが違うと思うんです」
「うん」
「でも、それを自分で探すには、浅尾さんはあまりにも遠すぎて。だから、知りたいんです。今の私じゃ、それが分からないから……」
「……シロ、お前」
自分たちの思い描き形にしたモノに自信が全くないというわけじゃない。私がダメでも、みんなが何とかしてくれる。それもバンドだと思ってるから。
でも、この人は一人で私たち5人の作ったモノを軽々と飛びぬいている。
そこに歴然とした差があるのは分かる。けど、何がどう違うのか理解が出来ないんだ。それに向かってもがいても無駄だと思う。だから、もがくなら意味を理解して、価値のあるもがきをしたい。
Morfonicaは、私ひとりの物じゃないから。
「浅尾さんは、今日の私たちの演奏、聞いてくれてたんですよね。だから……」
この人なら、きっとわかるはずなんだ。私とあなたの。MorfonicaとBlack storyの。決定的なナニカの違いを。
「変わんないと思うよ」
あっけない一言だった。私が想像していたものとは真反対の、それでいてシンプルな浅尾さんの答え合わせに、思わず口から疑問の息が洩れる。
変わんない。
いや、そんなはずはない。だってあの時、私は確かに感じたんだ。Morfonicaと浅尾愛斗の正体不明の違いについて。
「根本的なものは、俺も君も、それに蘭も透子ちゃんもみんな変わらないと思うよ」
「で、でも……!」
「まー、強いて言うなら練習量じゃない? これでもそこそこ練習はしてるから」
違う、そうじゃないの。
確かに、楽器や歌の面での実力差だって賄いきれるほどの差ではないと思うけど、でも違うのはそこじゃない。
私が言いたい、伝えたい事象をうまく言葉で伝えられないのがもどかしい。答えはもうすぐそこまで来ているはずなのに、惜しい。あと少しなんだ。手を伸ばしても、届かない。
「あとは……そうさなぁ……」
そう言って唸り声をあげながら浅尾さんが下を向く。ほんの数秒。この時間がいつもよりも長く感じる。
どれだけ気持ちが焦っても、時間がたつ早さは変わらない。自然と体に力が入り、いつもは相手の顔から逸らしがちな目も、今は浅尾さんをじっと見つめている。
時間にしてみれば2秒もなかったかもしれない。少しすっきりした表情で浅尾さんが顔を上げた。
「これはもう少し先の話なんだけどね。君はまだ、あまり外を見れていないんじゃないかな」
「外……?」
「うん、外」
悩み抜かれた先に出てきた言葉は、これもまた思いもよらないものだった。
自分自身ではなく、外。今まで自分自身との闘いばかりしてきた私にとっては、見ようとすらできていなかった場所。
「バンドで一番大事なのは周りと合わせること。周りの空気を読むこと。それがコンマ数秒でもズレると、耳には気持ち悪く残る」
「コンマ、数秒……」
「これ、マジな話だで?」
ニシシと口角をあげて笑う浅尾さんとは裏腹に、あまりにもシビアすぎる言の葉。
正直なところ、今の話が本当だとは思えない。浅尾さんもなんかイタズラ気な顔をしてるし……でも、何か強い説得力がある。
「始めたばかりのうちは自分のパートに夢中になるもんだよね。けど、少し外に意識を向けるだけで、メンバーの姿を見るだけで、意外と一人で抱えてた色んな事が上手く行き出すんだよ」
「一人で抱えてた事……ですか?」
「そう。例えば、ちゃんとサビで音を外さないかな。ギター間違えないかな。そういうことを気にしてるとさ、人間本当にミスするんだよ」
「浅尾さんも、そういうこと考えることが……」
「人間だもん。けどそこで周りを見るとさ。力が抜けるんだよ。あー、一人じゃねぇなって感じで。不思議だよね」
思わず隣にいた透子ちゃんの方に首が傾く。少し呆気にとられた様子の透子ちゃんと、バッチリ目が合った。
どうやら透子ちゃんも同じことを考えていたらしい。多分だけど、私も今同じような顔をしているのかな。
「周りが見れるようになれば、その波長に合わせていける。波長が合えば、後は上がるだけだから。なにをしてもうまくいく、信じられないかもしれないけど、本当にそうだから」
「波長……」
「バンドメンバーだけじゃない。観客の盛り上がり方。その場の空気。全部に波長がある。それに合わせて、出来るなら自分のものにすれば、そこからはもう君たちの世界になる」
「私たちの、世界」
その言葉に、ステージの上の浅尾さんの姿がフラッシュバックする。
静寂に包まれていたのに熱い空気。
まるで曲と一体化したような観客。
統一してもなお燦然と輝く指揮者。
その光景はまるで神と信者の様に。
他者を押しのけても導く主人公で。
「興味ないかい? 目の前にいる数百人近い人物が自分たちだけに釘付けになる景色」
私もまた、魅せられる側だった。
姿に。歌に。振る舞いに。
「あります」
私だって立ちたい。
そっちのステージに、行きたい。
「私たちを、立たせてくれませんか」
あの輝くステージに。
私を見つめる浅尾さんの瞳は、私の中身を見透かすように、柔らかいのに真っすぐ通っている。
数秒見つめ合う。どくんどくんと刻む心臓の音が聞こえる。
やがて、答えが決まったのか。一つ息を吐いて、浅尾さんが口を開いた。
「うん。断る☆」
「…………えっ」
過去のお話の書き方が地雷なので、展開は変えずに描写とか加筆修正したいんです。
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今のが好きなので書き直しておk
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昔のが好きなので書き直したらアカン