どうやら俺の黒歴史を美少女達に握られたらしい 作:as☆know
誰もいない。一人っきりのスタジオ。アンプも使わず、マイクも通さず。完全防音室という利点だけ生かすために、お得意様料金で豪華に一室貸し切り。最高である。金銭面も環境的にも最強だね。これ以上の贅沢、練習環境はない。
「キミぃ。噂はかねがね、聞いているよぉ」
「何をですか」
「とぼけちゃってぇ」
唯一の欠点と言えば、俺がいる時は絶対にこのお姉さんが対応してくると言う事くらいかな。こうやって、丁度退店するくらいのタイミングで、ちゃっかり受付にスタンバって捕まえてくる。
別に対応されるくらいなら良いのよ。普通にしていれば雰囲気が柔らかくて接しやすい店員さんだし、ちゃんとお仕事してるだけで害は無いからね。本当か? 脳裏に数秒でバーッと色んな景色が流れてきたんだけれど。
「まぁ、私も君のお姉さんだからね。深くは詮索しないよ。バンドをやってれば、そう言うことだってあるさ」
「いやぁ、まぁ。はい」
「おや、否定はしないんだね」
「何のこと行ってるのかサッパリですからね」
「とぼけちゃってぇ」
再放送か何かかな? 噂になっているって言うのは、ここ最近、バンドでの音沙汰がない事だろうか。最近全然集まってないのは事実だけれども。
余談です。ここからは余談。
事実から申し上げますと、今はそういう気分じゃないので休憩しているだけです。今の僕はアコギにハマってる時期なの。
そもそも、あのバンドってありがたいことに僕の意向で8割方向性が決まっているので、僕が休憩したーい! って言ったら休憩しちゃうんだよね。
僕がいなくても、メンバー的には活動とか問題なくできるからね。馬越がボーカルできるし。なんならみんな他のバンドに顔出したりサポートメンバーとしても行けるくらい実力揃いだし。あいつら上手いんよ。
って言うので、俺がバンドメンバーと活動方針で揉めてるって、ちょっと噂になっているとかなっていないとか。なんでも、バンドメンバーがボーカルの知り合いの女に手を出したとか。事実だけど事実じゃないです。
うちのバンドメンバーの新庄君が、女に手を出そうとしては女の子に弾かれ続けているのは日常茶飯事の為、半分正解。揉めてるのは不正解。でも、別に真実を広める必要は特になさそう故、放置でございます。どーでも良い~!
「そんなキミに、朗報を持ってきたよ。良い話と良い話、どっちが聞きたい?」
「悪い話からで」
「そんなもの無いよ~」
まりなさんの言う良い事って、大体ろくでもないこと無きがするんですよね。急なライブとか急なイベントとか急なライブとか。ガサゴソと足元で何かを準備している時点で、もう大体お察しなんですよ。
「はいこちら! ささ、読んで読んで!」
「『CiRCLE Vocal Night』……明後日のイベントですねぇ。ポスターの奴じゃないですか」
「そうそう! これ、枠取ってあるからさ! あっ、大丈夫。頭でもトリでもないから」
「そういう問題かな」
「そういう問題だよ」
これ、CiRCLEの中で貼られてるポスターの奴じゃん。ちゃんと広告宣伝していて偉いね。僕は出ないけどね。出ることになってたみたいだけど。
日程は明後日。急すぎてびっくりしちゃう。体はピクリともしてないけど、びっくりしているよ。びっくりしすぎてこれだもん。人間あんまりドッキリ慣れしない方が良いね。
「ライブですか」
「ちっちっち。ただのライブイベントと侮ることなかれ! 今回はね、ボーカルにスポットを強めたイベントなのだ」
「というと?」
「参加人数は一組につき二人。使える楽器も、アコースティックギターやカホン、ベースやピアノと限定されているよ! 察しの良い君なら、これで理解できるんじゃない?」
「F〇rst Take的な」
「大体正解!」
「これ、なんで二人組にしたんですか?」
「一人にしちゃったら弾き語りしか出来なくなるからね。多様性は大事じゃない?」
うーん、正解。要するに、流行りに乗っかったイベントって事ですね。
でも一人じゃ参加を認めないって言うのはあまりにもどうかしてない? 俺を殺しに来てるじゃん。最近ずっとソロでギターの練習をしているって言ってるじゃん。嫌がらせか? 強行突破して一人で弾き語りでもすればいいのか。やるならやってやんぞこんにゃろう。
「それに、バンドは一人じゃできないんだよ。メンバーと息を合わせて初めてバンド。でしょ? いまさら言われなくったって、君ならわかってると思うけど?」
すんげぇ正論。ぐうの音も出んかったわ。この人なんなん。
ずっと勘違いしたまま話が進んでいるんだけど、なんかグサッと胸に刺さった。そうだよな。バンドはメンバーがいてこそだもんな。俺一人が上手くったって、結局合わせすらできなきゃ曲としては台無しだもんな。
俺が一人で修行だなんだと殻に籠るのも良いけど、ちゃんと元鞘の方も手入れしないとダメだもん。なんだかんだ一年くらい続いてるんだもんな。俺達のバンドって。いや喧嘩してないんだけど。
「それはそうなんですけど、俺は誰と出れば良いんですかこれ」
「そこのところは、浅尾愛斗さんの人脈の活かしどころですよ」
「ノープランなのに俺の事ぶちこんだの?」
「なるようにはなるさ」
目の前にいるこの綺麗なお姉さんが全く使い物にならない。横暴の魔人だと言う事を再確認させて頂きました。起源は明後日まで? かぁ~っ! 終わってんね。
今こうやって頭を抱えている時間すら惜しい。律儀にイベントに出てやるいわれなどどこにもないんだけど、参加しなかったらしなかったでドタキャンの処理を周りにさせてしまうわけで。
要するにこうやってこのお姉さんに仕込まれた時点でプラン通りって訳ですねぇ~! 世の中は限りなくゴミ。
「帰る!」
「明後日、頼んだよ~」
「今から準備すんの!」
のんびり退店ムードから一変、ドタバタ走りでバイクにまたがり、自宅から目的地を変更。
チッキショー!ぶっ飛ばすぜBabyってか? 気は乗らないけど、急がなきゃいけない。コレ、俺の辛い所ね?
扉を開け、両足キッチリ揃えて膝から室内に滑り込む。基調の揃い切ったメロディが崩れていくのを感じながら、重心を前に倒す。これはそうです。
「麻弥さんお願いしまあああああす!!!」
「ふぃへぇぇっ!?」
ジャパニーズDO☆GE☆ZAの正統進化系こと、ジャパニーズスライディングDO☆GE☆ZAでございますね。こうすることで今までにDO☆GE☆ZAと比べて、相手に向かって直接的かつ真っすぐと誠意を伝えることができるんですね。
日本人の心ですよ、DO☆GE☆ZAって言うのは。
「チサトさん! これってジャパニーズDO☆GE☆ZAですよね? 初めて見ました!」
「こんなもの見なくて良いのよ」
「藪から棒に変なことをするのはいつものことだけど、今日はどうしたの? こんな時間に突発とまた珍しいね」
イヴさんが差別意識ゼロの目でこっちを見ている。これが一番つらいかもしれん。他二人は知らん。この人たちがひどいこと言ってくるのはいつものことだし、もう良いもん。拗ねちゃうもん。悪いのは絶対にこっちなんだよな。締め出さないだけ優しいまである。
「お願いします。どうしても麻弥さんに頼みたいことがあるんです」
「……へ?聞き間違えじゃなくて、本当にジブンですか?」
DO☆GE☆ZAから顔を上げ、真剣な表情で真っすぐと麻弥さんの目を見詰める。その先で当の本人は、ドラムスティックを握ったまま、いつものTシャツにサスペンダーとラフな姿で面を喰らったように自分に指を刺してるけど。
そうです、貴方です。マジで貴方に頼みごとがあって伝家の宝刀のスライディングDO☆GE☆ZAを開放したんです。お前もうこれが言いたいだけだろ。はい!
「明後日まで、俺に麻弥さんの全てを貸してください!」
「えぇえええっ!?」
「なんてこと言うのマーくん」
「彩ちゃんがいなくて本当に良かったわね」
あ、そういえば彩がいないや。楽器だけで集まって練習してたんだね。ほんまに邪魔して申し訳なかったとです。どうしても麻弥さんが欲しかった。許してほしい。
聞かれても別に問題は無いよ。変なことは言ってない。全部事実なんです。もう明後日が本番なの。全部を貸してもらわないと間に合いようがないの。二日で仕上げられそうな人がこの人しかいないの!
「とりあえず、落ち着きなさい。まず理由を聞かせて貰わないと、麻耶ちゃんだって困るし、私たちも困るわ」
「かくかくしかじかで明後日までに一曲を二人で仕上げきゃ死ぬ。俺の知り合い全員考えた結果、麻耶さんしか適任がおらん」
「あたしじゃダメなの?」
「日菜さんもめちゃんこ上手いけど、今回はダメ。日菜さんとやるなら俺が頑張りたいから一週間欲しい」
「あたしなら10分で合わせるよ?」
「俺もそっちに合わせなきゃダメだから! 俺が追っつかないんですよ!」
自分の才能に人が付いてこれると仮定しやがって。なまじっか、俺が相手だからついてこられると仮定している節があって発言しているのが質が悪い。これが別の人物なら、そもそもこの人は手を上げてこないし。
俺は今までの積み重ねと貯金分で頑張っているだけで、純粋なフィーリングとかでタイマン張られると絶対に勝てないの! 天然物と養殖物の違いみたいな奴ね。
「今回は俺に合わせてサポート役に徹することができる仕事人。それも職人ばりの精密度と問題点を即座に、かつ明確に言及化できる人じゃないとダメ。時間が無さ過ぎる。よって麻弥さんしかおらん」
「な、なんか正面から褒められるとくすぐったいですね……」
「それは納得なんだけど、なんか癪~」
「そもそもギター二本でやったってどうしようもないでしょう! 二日でアコギのソロマスターするつもりですか!」
「頑張るけど確約は出来ないかな~」
「ワンチャン本当に出来そうだから勘弁してほしい。俺泣いちゃう」
スラム奏法とかスラップとか諸々含めて脱線テクニックマスターするのに一週間くらいかかったのに、2~3日で出来たなんて言われたから本当に泣いてしまう自信がある。やってきそうなのでやめてほしい。
大体、絶対日菜さんはこっち系の方が適任でしょ。バンドに合わせることも容易にできるだろうけど、一人でバチボコにギターをシバいているのが似合う気がするよ。本人にその気があるかどうかはわからないけど。
この手のタイプの人は、縛られていない方が力を発揮しやすいように見えて、結局は本人のモチベーションに全部左右されているだけだからなぁ。日菜さんが今が良いって言うんだから、今が一番良いんでしょうね。天賦の才め。
「理由は以上です。麻弥さん」
「ふぃえっ!?」
「俺と一緒に付き合ってください。頼みます。死ぬんです」
「いやいやいやいや! ちょちょ、ちょっと待ってください!」
彼女の手を取り、真っすぐに見つめる。なんか面白いな。なんも面白くないが。こちとら本気の本気だが。
「わかりましたっ! わかりました! 手伝わせて頂きますから!」
「やったー!!!!」
「ねーねー、千聖ちゃん。最近、マーくんってどう思う?」
「なんでそのメンタルをあっちに行かせないのか、甚だ疑問ね。追い込まれたからヤケクソなだけでしょうけど」
「?」
「イヴちゃんは大丈夫だよ~」
浅尾愛斗
バンドメンバーと初めて喧嘩したのは、一番好きなラーメン論争。最後に喧嘩をしたのは、好きなバストサイズ論争。
氷川日菜
実際やろうと思えば愛斗の二倍くらいの速度で技術を身に着ける怪物。ギャロップ奏法できたよ~! って愛斗くんに見せたら彼は泣いてた。
若宮イヴ
次はセップクですか!?
過去のお話の書き方が地雷なので、展開は変えずに描写とか加筆修正したいんです。
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今のが好きなので書き直しておk
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昔のが好きなので書き直したらアカン