どうやら俺の黒歴史を美少女達に握られたらしい 作:as☆know
見慣れたライブハウスの様子とは打って変わった落ち着いた雰囲気。客席の前列にファンが詰めかけるいつもとは違い、今日は飲み物片手にジャズバーといった趣。
背の高い椅子に半分向かい合わせで腰掛け、控えめのスポットライトに照らされる。
二本のアコースティックギターが折り重ねるのは、優しくも真の通った音色。
『君と集まって 星座になれたら』
『夜広げて 描こう絵空事』
『暗闇を 照らすような 満月じゃなくても』
眼をつむり、語り掛ける様に、真っすぐと道を照らすような歌声。
らしく笑いかけながら、それを支える、パーカッションとメロディライン。
『だから集まって 星座になりたい』
『色とりどりの光 放つような』
原曲のギターになぞって、意図した甘いカッティング、コード、アルペジオ、下降。そのすべてが二人を支える。
おたえのギターが、香澄の足元を支える。そのうえで、目いっぱい手を伸ばす姿が目に見える。
『繋いだ線 解かないよ』
『君がどんなに眩しくても』
舞台袖からでも、眩しすぎる。選曲があまりにも神がかっている。トップバッターとして最強で最高のセンスかもしれん。
「えっ、俺らこの後なの?」
「不味いですよ……! ジブンたち、このレベルに挑まなきゃダメですもん!」
「三時間クオリティを甘く見てはいけない。麻弥さん、君ならできる」
「ジブンそんなにチョロくないですよ~!」
「何してんの」
そんでもって、それを舞台袖から顔だけひょっこり出しているはん姉弟みたいに見ている僕たちは、文字通り死ぬほど焦っています。ドしょっぱなからこんな高火力で来るなんて聞いていない。温度感エグい。
完全に会場が出来上がり切ってるもんこれ。エモい空気って調べたら多分この画像が一番上に出てくるレベル。
ちゃんと小声でやり取りしているから安心してね。端っこの方で二人でしゃがんでの作戦会議だから。
このクソエモ雰囲気の中で大声で漫才するほど、俺の感性は終わっちゃいない。それはそれとして、袖の奥に控えている蘭ちゃんにはとても冷めた目で見られている。ベリーベリー恥ずかしい。
「なにしてんの。出番、次でしょ。今更本番に緊張するわけでもないし」
「あの……実は今回、三時間しか練習してなくってぇ……」
「は?」
「おお~、チャレンジャーですな~。麻弥先輩もやり手~」
「そんなつもり、全くなかったんです……ただ、形になったのが良かったので、安心したら寝てしまってて……」
「一緒に爆睡しちゃってぇ……」
面白い事やっていますな~という雰囲気でニマニマしているモカとは対照的に、蘭は口を開けたまま閉じる様子はない。
そりゃあそう。だって今、こんなにエモい雰囲気なんだもん。こんなもん絶対中途半端なパフォーマンス出来ないんだから。会場の雰囲気づくりと、それを引き継ぐのってすんごい大事なんだから。
大丈夫、ちゃんと三時間で恥ずかしくないクオリティには仕上げたんです。本当なんです。もうキュー〇ーもびっくりの三時間クッキング。
良い食材を使えば何とかなるもんだね。こっちは素材の味で戦ってるんだから。少しでもひねられたらもう終わりなんだから。頼むから深い所に突っ込まないで欲しい。シンプルイズベストという言葉と一番かけ離れた男だって自負してるけど、今日だけはこの言葉を盾に生きさせて欲しい。
あ、睡眠時間も心配しないで。それはもうすっきり寝てしまいましたから。目覚めすっきりちゃんと遅刻しかけた。本当に終わっている。
「本当にそれで行く気?」
「行くしかねぇだろうがYO。助けてYO」
「無理」
きっちり7時間42分睡眠を取ったおかげで、頭の方は聡明に働いている。働いているんだから、どうにかとんちを利かせてこの舞台を乗り越えなきゃならんのだが、そういう応用は全く利かないらしい。文字通り、ただただぐっすり寝た太郎です。
「死なば諸共です。生きましょう麻弥さん。間違えた逝きましょう。違う、行きましょう」
「愛斗さん、それ完全に死ぬやつです。フラグどころじゃないです」
若干目元が潤みかけている麻弥さんから必死に目をそらし、まっすぐと舞台へ歩みを進める。二人きりでのステージだっつってんのに、始まる前から不味くないか?
ちょろっと見えた蘭ちゃんの目に不安やら軽蔑やらが混じっていたような気がする。心配しないで。なんとかなるさって超次元サッカーの主人公が言ってたよ。
舞台袖から姿を出すと、いつもとは空気感の違う盛り上がり方。わぁっと歓声が上がるというよりも、手拍子メインのまさに入場と言った頃合い。入りが違うというだけで非常に緊張する。
BPMが跳ね上がる心臓を押さえつけるように、エレアコのボディを抱く。
ここからは手際。シンプルに、手早く。
用意された背もたれのない丸椅子に腰かけ、脇の机に置かれたクロスで指板を軽くなでる。左手でクロスを置きながら、ネイルの施された爪で弦を撫でる。
複数動作を行いながらの、自然なチューニングの確認。ここに合わせて声のチューニングもする。そうすればチューニングのもったり感が目立たない。この一連をあまり意識させないよう、こなれた感じやると格好いい。
襟を直して、ギターを抱える。
カホンに腰かける麻弥さんと目を合わせて、マイクに乗らないように息を吐く。
エモい空気に流されて、少しだけ、心の中の自分語りに思いを馳せてみよう。
『あの日見た空 茜色の空を ねぇ 君は憶えていますか』
カウントすらない、アカペラでの入り。自分の声一つの一本勝負。
自分の呼吸に合わせ、気ままにメトロノームを揺らす。息継ぎもマイクに乗せて、ゆっくり歌詞を紡ぐ。
俺は成り行き程度のボーカルだ。
香澄のようなキラメキと芯の通った声じゃない。
蘭のような底から燃え上がるような声じゃない。
友希那さんのような場を圧倒できる声じゃない。
彩みたいな皆を元気にできるような声じゃない。
こころのような会場明るく照らせる声じゃない。
ましろのような未来を翔けるような声じゃない。
『約束契り 初夏の風が包む』
ほんの少し、ピックを握る手に力を籠める。
『二人寄り添った』
最後の音に合わせて、二人の手が動く。
原曲よりも、少しだけテンポを落として。二人きりで空間をもう一回作り直す。
弾き語りは、ほんのちょっとだけ苦手だ。
技術的な話じゃない。気持ちの問題。自分がギタリストでなくなってしまう気がするから。
『無理な笑顔の裏 伸びた影をかくまう』
失われる疾走感は、節々に挟む手癖交じりのカッティングでカバー。
原曲よりBPMを落としているのに、疾走感を失わなせないというややこしい状況。これを成立させるための麻弥さんだ。寸分の狂いも無く、まさに生きたメトロノームのようにリズムキープしてみせる。それをしながら、カホン自体に強弱を付けて演奏全体にメリハリを与えてくれるんだから、本当に頭が上がらない。
ドラム以上にシンプルな楽器で、恐ろしい量の仕事量。それを可能にする技術と視野の広さ。やっぱり、彼女をパートナーに選んだのは大正解だ。
『だから気づかぬふり 再生を選ぶ』
歌を歌うのは大好きだ。一人でやる分には、いくらでもできる。
でも、ステージに立って、自分をボーカルと名乗るのに抵抗がある。コンプレックスってほどじゃない。
ただ、周りに比べて自分の強みで勝負できていないと感じていたし、そもそもボーカルとしての自分の強みがわからなかった。周りに聞く勇気もない。今でもそれは変わらない。
久しぶりに人前で弾き語りをしたとき、一番に感じたのはアコースティックギターの技術不足。ギターの不安を払いのけるのには、長い時間はかからなかった。
でも、何度やっても、何度人前に出ても。自分の歌にだけは、何かがずっと足りない気がしていた。
何処かで悟っていたし、気にしないふりをしていたんだろう。自分は天性のボーカリストではないって。だから、人前に出て歌うのに苦手意識を持っていたんだと思う。
『テーブルの上の 震えない知らせ 待ち続けて』
少し大げさなくらいのミュートが弾き語りでは際立つ。
音数が少ない故に、単音で響かせるアルペジオが美しさを増す。
麻弥さんのメロディに錯覚しそうなカホンに合わせて、組まれた足先でリズムを打つ。
歌声、ギター、カホン。
シンプルだからこそ、0.1秒単位、数ミリのミスが目立つ。音の数を減らすのはそれだけのリスクであり、ハマれば洗礼された美しさになる。
『空白の夜も』
シンプルなコードに力を籠める。
『来るはずのない朝も』
喉を絞める。
『全部 分かってたんだ』
全部、吐き出す。
『あの日見た空 茜色の空を』
『ねえ 君は忘れたのでしょう』
ちょっとだけ、ほんのちょっとだけ、今更なんだけど、最近自分の中で整理が付いた。
バンドメンバーとじゃない。自分一人で人前に沢山出てみて、やっと納得できた。
ないものねだりをしたって仕方ない。手に入らないものは、仕方がない。じゃあ、自分を一から作ってみてれば良いんじゃないか。
模倣が悪いことじゃない。俺の楽器なんて、全部模倣品だ。オリジナリティとは真逆の代物。いろんなところから少しずつ取って付けて。剥がして捲って。切り貼り、ツギハギ。
そうして、少しずつボーカルの浅尾愛斗として出来上がっていくんだと思う。ギタリストの浅尾愛斗がそうだったみたいに。
それに気付くのに一年近くかかってしまった。馬鹿だね。
『約束 千切り 初夏の風に消えた』
一人に戻って、アコースティックギターを握っていると、なんだかガキの頃を思い出した。
教室に残って、特別感に浸りながらギターを弾いたあの日。ぐちゃぐちゃのリズムで、聞くに堪えないような弾き語りをひたすらに続けたあの日。
周りへの劣等感なんて一切なくて、何かを求めようとなんかしてなくて。ただ、目の前にいつもいてくれる人が笑ってくれる。それだけが嬉しかったあの日。
『二人 戻れない』
嗚呼、戻ればいいんだなって。17になる俺にそれができるかはわかんないけど、その気持ちが大事な気がした。
いつの間にか忘れていた、上手くやりたいってあの時の気持ちを何処かに置いておけば、もう少し大人になれるのかな。
浅尾愛斗
歌うのは大好きだが、人前で歌うのはそこまで好きじゃない。毎回学ばずに練習前突撃されているのはそれのせい。
大和麻弥
愛斗曰く、「プレイングもそれ以外もすべて含めて、俺の人脈の中で一番のドラマー」「音楽に関して、誰よりも理論的に話せるし、誰よりも頼りにできる」「近い世代の音楽人として、一番尊敬している」。練習会の時、急に愛斗に手放しで誉められ嬉しくなった半面、ちょっと彩ちゃんに申し訳ないと思ってた。
過去のお話の書き方が地雷なので、展開は変えずに描写とか加筆修正したいんです。
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今のが好きなので書き直しておk
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昔のが好きなので書き直したらアカン