どうやら俺の黒歴史を美少女達に握られたらしい   作:as☆know

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夏は海か山かと聞かれたらどっちも好きと答えろ

 猛暑真っ盛りの真夏に、外気温とは完全に分離されたクーラーガンガンの室内で食べる、熱々のおうどん。これもまた乙なものである。最高に人類の英知の無駄遣いをしている気分だね。

 

 

「あっつ……んま」

 

 

 うどんは貧乏な学生の味方だ。金がガチで無い時はスーパーのゆでうどんの格安さに救われる。少しだけ背伸びをして冷凍うどんを買えば、あまりの美味さに昇天する。近代日本の何でも美味い状態で冷凍してやるという意地に特大の感謝だ。 

 

 醤油に鶏がら、味の素、オイスターソース、ごま油にごまネギたまごで超簡単油そば風うどん。コチュジャンとかラー油でピリ辛アレンジしても最高。

 お湯を沸かして醤油、白だし、砂糖、ほんだしであったかいかけうどん。溶き卵を入れてかけうどんにしたり、しょうゆを抜いて関西風にしても最高。

 マジでうどんってずぼらな一人暮らし男子のメインウエポンだろ。

 

 高校に入って人生初のバイトを始めたことで、勿論人生初の収入という物も入るようになったわけではあるんだけど、それでも削れる部分は削った方が良いに決まっている。

 欲しいギターだってベースだって無限にあるんだし、お金は溜めれるうちにためておいた方が良いよね。つまらない男って言うな。

 

 

『どうか!』

「あっぢぃ!?」

 

 

 爆音着信音にビク付いた拍子に、端からうどんが滑り落ち、僕の腕に寄りそう様にぴたりと。あっぢぃ!!!(二回目)

 床に落としたうどんを涙目で睨みながら、負傷した左腕を覚まそうとふーふー息を吹きかける。熱いのを食べてる時に電話かけたらダメでしょ! こうなるんだから! ならない? そっか……

 

 

「知らねぇ番号……いや? なーんか記憶あるな……?」

 

 

 知らない番号からの電話には出てはいけないというのはみんなの常識なんだけど、それは全く知らない人からの番号な場合の話であるわけで。なんか知ってるかも知れない場合はこれが適用されない。

 とりあえず電話に出てみよう。変なのだったら即行で切る。

 非通知の電話って出るのに勇気いるよな。いきなりびっくりサイトの発狂ボイスとか流れてきたらスマホぶん投げるぞ。

 

 

「あい、もしもし」

『ArrowStaindの齋藤です。浅尾さんの携帯で間違いないでしょうか?』

「私です。間違いないです」

 

 素人とは思えない、百戦錬磨の社会人の電話応対。斎藤という何処にでも良そうな名前。というかガッツリ事務所名!

 見覚えのない電話番号の相手は斎藤さんでした。なんでお前電話帳に登録してないんや。忘れてたんです。

 でもね、ちゃんと言い分だってあるんですよ。だって今までLINEで連絡も取ってたし連絡事項も取ってたんですよ。普通にスマホの電話で来るなんて思わないじゃないですか。とはいえ登録だけはしとけよ。

 

 

「珍しいですね。こっちの番号からなんて」

『事務所からお電話させて頂いていまして。今回はちょっと大きいお仕事の話なのでね』

「大きい?」

『簡単に言えば、お泊まり付きのお仕事です』

 

 

 すげぇとんとん拍子で話が進んで行ってるんだけど、何が何やら全く理解できていない。なるほどね。なんもわからん状態だ。

 だって俺、スタジオミュージシャンだし。大きいお仕事と言われたら音楽の話だと思うじゃん、それは。

 

 

「お泊まり? 何処にです?」

『岐阜の下呂です』

「下呂」

『下呂』

 

 

 岐阜の下呂。

 

 

「何しに?」

『旅番組ですね』

「旅番組」

『そう、旅番組』

 

 

 旅番組……旅番組???

 全くわからん。いや、単語の意味は分かるんだけど。

 

 

「俺がですか?」

『そうです』

「旅番組に」

『はい』

「下呂に」

『はい』

「俺が?」

『はい』

 

 

 いや、すんごい淡々と対応して頂いている所悪いんですけど、あんまり状況は飲み込めてないんですよね、実は。聞けば聞くほどわからん。

 

 

「……何しに?」

『いや、だから旅番組です』

「あの、そうじゃなくてですね。なんで俺が旅番組に行くなんてオファーが出てるんですか」

『該当番組の視聴者からの要望が多かったからですね。なんでも、届いた要望の約8割くらいがそれだったらしくて』

「???」

 

 

 いったい何がどうやってどうひっくり返ったらそういう結果になるのか教えてほしい。届いた要望を一つ一つ数えさせてくれ。それで同じ結果が出たら諦めるから。

 そもそもわし、ただの一般スタジオミュージシャンなんだな。ロケに行くとか聞いてないんだな。貴方は実技も出来るタイプなんだね! って、そういう事では無いんだワ。

 頼むから一人旅であってほしいな。いや、元々ある番組に要望来てるんだから、多分ソロじゃねぇよなこれ。いや、ソロか? 俺はソロなのか?

 

 

「聞くだけなんですけど。本当に聞くだけなんですけど。これ、誰と行くロケなんですかね」

『パスパレとですね』

「パスパレと下呂に行くんですか」

『そうですね』

「???」

『補足にはなるんですけど、視聴者から要望が多かったのは、彩ちゃんといつも弾き語りしてる人のコンビを番組で見てみたい……ってのでしたね』

 

 

 そんなニッチにも程がある要素を突いてくるなよ。何で8割の人間がそんなしょうもない所が気になってんだ。アイドルか? アイドルだからか? アイドルだから近くに居そうな男の存在が気になっているのか? それならちょっとだけ納得しちゃうじゃんか。

 

 弾き語り動画自体は、結構好評いただいている様なんですよね。『彩ちゃんと仲良しスタッフくんの弾き語りシリーズ』って言って。

 最初は完全に盗撮だったんだけど、二回目からはもう普通に俺だけ顔を隠して撮影するようになっちゃって。とはいえじゃない?

 

 

「……ちなみにいつからですか?」

『明日からです』

「すいません、お断りします」

 

 

 明日からとか馬鹿じゃねぇの。無理に決まってんだろうが。ド平日だぞ、ド平日。え、夏休み? そんなもんはわかっとんじゃい!

 明日からのロケの話を前日に振って出演許可を取りに来る奴がどこにおるんじゃい! 電話越しにおるわ。僕の知り合いです。バカタレ。

 どうせあれやろ? 反射的に断ったは良いものの、直ぐに引き留めに来る奴じゃろ。じゃなきゃわざわざ電話かけてこないもんね。俺は賢いからわかるんだ。

 

 

『わかりました。ありがとうございます。もし、お気持ちが変わるようなことがありましたら、いつでもお電話くださいね。携帯の方でも大丈夫ですから』

「え。あ、はい。わかりました」

 

 

 あっさりとしていた。思わず拍子抜け。

 もう少し食い下がってくるかと思ったけど、そんなこと全くなかった。そりゃあそうと言えば、そりゃあそうなんだよね。どう考えても、ダメもとで連絡して見ましたわって感じだもんな。前日に連絡って。

 

 うどん、伸びちゃったな。殆ど食い終わってたから、被害は少なかったけど。まぁ、これはこれでうまいから良しって事で。

 ぱっぱと食って……ヨシ、洗い物すんべ。流して洗ってさっさと終わピンポーン

 

 

「あーい」

 

 

 うどんの汁を捨てて、水で流すかってタイミングでチャイムが鳴る。

 この家にお客さんなんて珍しいな。宗教勧誘のおばちゃんか? また外国人の真似しなきゃいけないじゃん。この前は中国人の真似したっけ。お前を細切れにしてやるヨ、みたいなこと言ってた気がする。我ながら馬鹿な撃退方法だけど、意外と効くんですよね、これが。やっぱり、ヤバい奴にはよりヤバい奴で対抗するしかないんですわ。

 

 はてさて、チャイムにはどんなおばちゃんが写っているんだい。くるくるパーマだったらSSRだぞ。

 

 

『ここで合ってる、よね……?』

 

「……は?」

 

 

 くるくるパーマのおばさまを期待して覗いたモニターに映っていたのは、ド派手な謎サングラスを装着している、どっからどう見てもピンク髪のアホ。アホピンク。正式名称、丸山彩。

 

 え、何そのサングラス……趣味? 趣味じゃないよね? 少なくとも、記憶を遡ってもそういうのが趣味だった覚えはないんだが。

 上京して趣味でも変わったのかい、お嬢様。あんた、上京ってほど移動したわけでもないでしょうが。

 変装だとしたらあまりにも下手糞すぎるから信じたくないな。お前の友達は誰か指摘してくれなかったのか。変装だとしたら逆に目立つから無意味だよ、って。サングラスだけ大スター独り歩きだよって。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「うわぁ……ここがマーくんの家かぁ……机、2つあるんだね」

「そこで飯食ってキーボードに零したら大変だからな。適当なところに座ってもろて」

「あっ、はーい」

 

 

 男の部屋に入ってまず最初に気になる部分がそこなんだね……きょろきょろしてたから、何を言われるのかとすげぇ不安だったよ。あまりにも急すぎて部屋の片付けも出来てないんだから。

 

 

「……んで、なんで俺の家知ってるんですかい」

「まりなさんに教えて貰った!」

 

 

 シンプルに頭を抱えた。ちゃんと今手に持っていた麦茶を置いてから頭を抱えたよ。偉いね。零すと拭かないとだからね。

 言ったことねぇだろうが、自分の住んでる住所とか。CiRCLE使う時になんかで住所書いたりしたっけか。そんなのことないもんな。そんなことあったとしても、お手軽簡単に個人情報の漏洩をするな!

 

 

「ほんで。本日はどのような用件で」

「あ、そうそう。そうだった! 明日ね、一泊二日で下呂にロケ行くんだ~」

「ほぉ」

 

 

 よっこいせと座り込む俺に向かって、机越しから嬉しそうに話を切り出し始める。

 ま、知ってるんですけどね。明日から下呂に一泊二日で旅行って言うのは。だってさっき聞いたばっかだからね。断ったばっかだらね。

 いや、待てよ。一泊二日って言うのは聞いてなかったわ。でも、下呂って温泉街なんだもんな、さっき調べただけの付け焼刃知識だけど。温泉街でロケってなると、まぁ泊まり込みにはなるのか。予算あるんだな~。うちの事務所って太いんだ。知らなかった。

 

 

「良かったね。温泉だろ?」

「うん! 楽しみなんだ~」

「じゃ、みんなで楽しんでおいで」

「マーくんも一緒に行こっ!」

 

 

 いや、想像は付いてたよ。わざわざ、俺の家にまで直接来るって事はそういう事だもんね。凄いぞ! 電話で確認取るとガチャ切りされるってわかってるんだな!

 こっちにだって考えはありますよ。要するに断ればいいんですもん。仁王立ちして、両手の前で腕を交差させて、NO! って言えば終わりなんですもん。浅尾愛斗さんに任せなさい。この程度、ちょちょいのちょいでございますよ~!

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「みなさんこんにちは! まん丸お山に彩を。パステルパレットふわふわピンク担当! ボーカルの丸山彩でーす!」

「ベース担当の白鷺千聖です。今回は岐阜県を代表する温泉町、下呂市に来ています」

 

 

 山の周りを固めるような温泉街、風情を感じるホテル。心地よく流れる川。美味すぎる空気。来てしまった。岐阜県、下呂市。最高。

 もう目の前で行われているパスパレのロケとかガン無視して、遠くの山を見つめてるわ。一生見てられるわ。おい、そこ。現実逃避とか言うなボケ。違うから、決して違うから。

 

 

「でも、今日はあたし達だけじゃないんだよね」

「そうです! 今日は、とってもブシドーな殿方にも来ていただきました!」

「とは言っても、ジブン達のTwitterやYou〇ubeを見てくれてるコアな方々であれば、ピンと来る方かもかもしれないですけど……」

 

 

 言い様によれば確かにブシドーだね。絶対に違うけど。

 確かに、パスパレをかなり本格的に推してれば推しているほど、俺の存在がちらつくんだよな。いや、顔出しはしてない。You〇ubeには顔出しはほとんどしてないよ、俺は。ネットにそう簡単に顔を映してたまるかってんだ。

 隠し撮りされてた時、モザイク無しで普通に顔乗ってたのはキレたけどね。普通にカチきれたよ。あんたんとこの個人情報モラルはどうなってんですかってキレたよ。

 

 

「それでは、どうぞ! 私たちのコーチをしてくださっている、マナトさんです!」

「ほんみょおおおおお!!!」

「これはカットね……」

「マーくんそのお面なんなの!? 」

「あっ、これ? 愛と勇気だけが友達だよ」

「完全にアン〇ンマンよね?」

 

 

 はい。アンパ〇マンです。アパマ〇ショップじゃないよ、間違えないでね。爆発と化しないからね。

 頼むから後でさっきの部分編集しておいてくださいね。アレ流すのは流石にダメですからね。ネットで本名とか出してないんですから。本当にダメですからね。イヴさんすんごいんだから。普通に本名言い出しちゃうんだから。びっくりしちゃった。 

 

 

「これって版権的にヤバいですか? あっ、ヤバそう。じゃあ、これに変えますね」

「なんなの? その馬」

「ド〇キで買ってきた」

「それ、前見えるんですかね……?」

「鼻の穴から見えるよ」

 

 

 これなら色々と問題なかろう。前は多少見にくいし、間違いなく髪型は終わるだろうが、仕方がない。顔バレに比べれば些細なもんさ。髪が終わるのだって、風呂入っちまえばどうにかなる。なんてったって、温泉街だからね!

 

 

「と、というわけで。改めまして、私たちの技術コーチをしてくれてます。浅尾さんです」

「どうも、浅尾って言います。よろしくお願いします」

「今日はゲスト付きだね!」

「俺がゲストで本当に良いのか? この番組は」

「まぁ、結構こういう感じの番組ですから……」

 

 

 まずそこだよね? 圧倒的一般人の素人をゲストに迎えて旅番組を進めていくって、物凄い心配なんだけどね、僕ね。

 攻めてるどころの騒ぎじゃないからね。攻めすぎてシンプルにデッドボールだからね。

 マリカで言うところの、インコースキノピオで攻めてたら横からクッパ突っ込んできてコースアウトして一気に順位落とすやつだからね。

 あれめちゃくちゃ殺意沸くよな。そんな亀には赤甲羅をGOシュートして差し上げようね。追い抜いた時には全力で煽ろうな。

 

 

「てかさー。これってまだオープニングでしょ? こんなに尺取ってていーの?」

「「「「「あっ」」」」」

 

 

 まだオープニング取ってるんだったわ。これ、一時間の癪に収まるのかな。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 旅ロケは意外と円滑に進んで行った。

 下呂市を一旦飛び出して、白川郷に行ったり、飛騨牛を食ったりなんやかんやで岐阜県を満喫。山しかないと思ってたけど、中に入ってる見ると結構魅力がたっぷり詰まっている。岐阜県、良い場所です。何よりも空気が美味しいね。

 

 

「で、ついに本命の温泉と」

「マーくんも一緒に入るよね!」

「馬鹿言うな」

「なんでさー!」

 

 

 頬をぷくっと膨らませて俺の服の袖を掴み抗議してくる。可愛いなこいつ。自分の顔面の良さを分かっていないと許されない行為。ただし、こいつはそこら辺を恐らく理解していない。ソースは昔の記憶。

 いやー、流石はアイドルである。顔だけはマジで一級品。……まぁ俺の周りにいる人みんな美人だし可愛いんだけどな。ほんとなんちゅー空間にいるねん俺は。頭がバグってしまうわ。

 

 

「お前の性別は」

「女の子」

「俺の性別は?」

「男の子」

「Q.E.D」

「なんでさー!」

 

 

 お前は一体何がしたいんだ。多様性がどうのこうのなこの時代でも、流石にその前提はひっくり返らねぇぞ。俺は性別男性で自認も男性じゃ。一緒に風呂入ったとして俺の息子がマウンテンでもしてみろ。てか確実にするからな。それを全国で流されてたまるか。単純に死ぬわ。社会的に抹殺される。

 そもそも、お前が良くてもお前以外のメンバーはダメだろうが! 見て見ろ、隣。ニコニコしてる日菜さんとイヴちゃん以外、見て見ぬ振りが一名と、ニコニコしてるだけでなんも読み取れないが一名だぞ。どうしろっちゅうねん。

 

 

「そもそもテレビ的にもお前ら的のマーケティング的にもアウトじゃ。3アウトチェンジじゃ」

「ファンの人達は、マーくんと私のイチャラブ? が見たいんだって。だからおっけーだってPさん言ってた!」

「みんな仲良く頭沸いてんのか」

 

 

 滅茶苦茶ひっぺ剥がして阻止しました。強行突破されてたまるか案件にも程がある。

 彩だけならともかく、千聖さんとか日菜さんとか麻弥とかイヴちゃんもいるからな。駄目に決まっている。彩だけでも許されんわ、別に。

 俺は後でゆっくり入ろう。一人で風呂に入って黄昏れる。これすなわち男のロマンである。別空間に一人飛ばされた孤独な者的な感じがして好きだ。

 

 だから厨二病って言われるんだろうな。自分で納得したわ。

過去のお話の書き方が地雷なので、展開は変えずに描写とか加筆修正したいんです。

  • 今のが好きなので書き直しておk
  • 昔のが好きなので書き直したらアカン

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