どうやら俺の黒歴史を美少女達に握られたらしい 作:as☆know
体を洗い、掛け湯をした後に、ゆっくりと体を少し濁った湯船にに沈める。
体中に温泉が染みわたるようなこの瞬間こそ、至福のひと時というにふさわしいのだろう。
「あ゛ぁ゛……染みるぅ゛……」
流石は東海圏では名高い温泉街、下呂温泉。天然温泉という名には嘘偽りないらしい。美肌効果もあるって書いてあったし、こりゃあ明日にはお肌もつやつやの男子高校生爆誕不可避か~?
パスパレメンバーの入浴の絵も撮り終わり、豪華な晩御飯も食べながら撮影は終わり。正真正銘の自由時間に、俺は一人ゆっくりと広い浴槽の露天風呂に浸かる。こんな広い露天風呂で一人、しかも貸切と来た。まさに贅沢の極み、ゲスの極みだね。お金持ちになった気分や。
「ふぃー……綺麗やねぇ……」
それにしても、岐阜の空は綺麗だ。あまりにも綺麗すぎて、夜空を見上げながら独り言はポロリとこぼれてしまうくらいには。こういう一人の空間になると、ノルスタジックな気分になるもんだ。これだけシチュエーションにも恵まれていれば余計にね。
夜も深い、下呂の空には満天の星空が広がる。都会では見られない、山深い岐阜でしか見られない、この煌めき。
この空はずっと見てられるな。今夜は、ロマンチストにでもなれそうだ。
「ほんとに、綺麗だね」
……ほんとに綺麗だよなぁ。
夜空を見上げたまま、空に向かって吸い込まれるみたいな感覚になる。中学の頃、科学館で見たままのプラネタリウムみたいだ。開放度は段違いだけど。星座とかも分かるんじゃねぇかな。もう殆ど星座とか覚えてないんだけど。
小学生の時に謎に覚えた以来だからな。夏の大三角形ってどれだっけ?
……ん? 今、誰が言葉を発した? この温泉って貸し切りだよね。俺しかいないはずだよな。いやー、誰かが間違えて入ってきたんだな。おじさん、困るぜ。貸し切りの看板は見て貰わないと。やけに声が可愛いおじさんだけどさ。俺は信じねぇぞ。
謎に引きつり切った顔のまま、固まり切った首を機械みたいにギシギシ音をたてながら、声が聞こえた方に顔を無理やり向けてみる。
「そ、そんなジロジロ見ないでよ……ちょっと恥ずかしいかも……」
視線の先には、濡れた髪先からお湯を滴らせたピンク髪。風呂に入ってるからか、少し頬を赤くした色っぽい顔で、胸元をタオルを抑えてこちらを見つめるアホピンク。
胸元を抑えるタオルを、クイッと押し上げ、恥ずかしいという体制を取られる。
「……きゃあああああああああああ!!!!!」
「えっ、えぇっ!? なんでマーくんが叫んでるのさー!」
当たり前だろうが何に叫んでるって不法侵入にじゃ! ここ男風呂! お前女! 俺、犯罪者! 終わった。
なーんで彩がタオル1枚でここにいるんだよおおおおおおおおおおお!!!!!!!
「なんでこうなったし……」
「えへへ……新婚旅行みたいだね~」
「だなー(諦め)」
彩を目視してしまった俺は、叫んだその瞬間、頭のそばにあったタオルを掴んで全力で退出を試みる。が、謎の施錠により出入り口のドアの前で屈服。スタッフ、外から鍵を閉めやがったな。テメェの所のアイドルを守るのが筋だろうがバカタレ小僧。
この大胆さ。恐らく、番組スタッフやうちの事務所総出の試みであろう。何してんだほんとに。事務所の可愛いアイドルを何処の馬の骨とも知らない男とタオル1枚で引き合わせるな。一応事務所所属だけど、こちとら男だぞ忘れんな。
その場で絶望してたら、『風邪引くから入りなよ』と言われたし(一敗目)。全力で嫌だと連呼し抵抗するものの、『これ以上わがまま言うと抱きつくから!』と顔真っ赤にしたまま言われてたし(二敗目)。覚悟を決めて大人しくして風呂に入った。ブタ箱に入るか、風呂に入るかの二択になれば選択肢はない。ひでぇ二択だ。珍棒をへし折りたい。
畜生。ラッキースケベが思ってたのとなんか違うぞ。
全然そんなエロいこと考える余裕なんか微塵もない。寧ろ守りの一手のみ。無心だ。無心。無心の極み。
俺は菩薩になるんだ。悟りを開くのだ。浅尾愛斗。
「……ふぁ」
隣には、タオル一枚姿の丸山彩。見ないようにはしつつも、どうしても横目に見てしまう。俺のスケベ心! ひっこめ! ひっこめ!
お湯に肩まで浸かってりながら、なんだかとっても気持ちよさそう。そりゃあ、幸せだろうて。温泉なんだもん。
こっちがブタ箱に入るか否かの攻防をしているのに、当の本人は呑気なやつだ。可愛いのが腹立つ。
さっきも言ったけど、風呂場って言うのもあって髪が濡れてるってだけでいつもと印象が変わってやがる。くっそ可愛いな。いつもとイメージが変わる分余計にそう見える。やけに大人っぽい。生々しい。
「ねぇ、マーくん」
「……はい」
「今日は月が綺麗だね」
いきなりそんなことを言い出した彩が、いつもの可愛い印象とか打って変わってやけに綺麗に見えた。
お湯に濡れた肌とか、あいつを扇情的に見せるライトになる月明かりとかが、余計にそう見せてるんだろう。プール上がりやプールに入ってる時、いつもと違う髪型のせいで印象が変わる女友達に何故かドキッとするあれだ。うん、そうに違いない。
空を見上げると今宵は綺麗な満月。
夜空に輝く無数の星の中でも一際大きく、堂々と輝いている。
「……ほんと、綺麗だよ」
「うん! 来てよかったね」
今の、綺麗という言葉。果たして、対象は月だったのか、それとも。まぁ、どちらでもいいよ。
やっぱり、今日の俺はロマンチストの気分なんだろう。いや、ちょっとのぼせてるのかな? いいか、悪い気分でもない。
たまの温泉でくらい、こんなんになってもいいだろう。通報されなきゃオールオッケーだ。
水を滴らせながらこちらに顔を傾け、月に負けないほど眩しく、そして綺麗な笑みを見せた彩を見て、柄にもなくドキリとしてしまう。
本当、顔は一級品なんだから。男を勘違いさせるような行為をして欲しくないものである。心臓に悪い。童貞にはきついぜ。
「来てよかったよ。久々に温泉にも入れたし。こんな夜空も見れたしな」
こんな彩も見れたし、とは言わないでおく。
そんなこと言ったらブタ箱行きである。セクハラのレベルでなくもはや痴漢だからな。
犯罪、駄目、絶対。いいね?
「今度はさ、プライベートで来ようよ! みんなも誘ってさ!」
「そんな金あるのか?」
「わ、私アイドルだし……マーくんもいるから大丈夫!」
「俺が出すことは確定じゃねーか」
ほんとに、大きくなったのは体だけで、変わったのは見た目だけ。他は何も昔と変わっていない。
人懐っこい性格と笑顔、こちらを男と認識してるのかと心配になる言動と行動。
今も昔も変わらない。ほんとに可愛いやつである。マジで先輩なのか心配になる。
そんな彩と一緒にいることが、何かと心地よかったりするからほんとに厄介だ。
「……マーくんも、無理したらダメだよ」
「んだよ。藪から棒に」
「藪から……棒?」
「急にどうしたって事だよ」
「あー! うん、知ってた! 知ってたよ!」
「それはよかった」
このやり取りもいつもと変わらない。
今日は知ってたよ! のパターンだ。一緒にいなかった約4年間の歳月をなんとも感じさせないことが、少し嬉しい。嬉しいのか? 成長してないって事じゃない?
「でもほんとにダメだよ。マーくんは昔から頑張り屋さんなんだから。お姉ちゃん心配しちゃうよ」
「俺は彩の弟じゃないけどな」
「もー! そういうことじゃないのー!」
「タオルにだけは気をつけろマジで。見たら俺が死ぬ。色んな意味で、主に社会的に死ぬ」
「マーくんなら大丈夫だよ! ちょっと恥ずかしいけど……」
こいつはなんでそんなことをナチュラルに言えるんだよ……本気で頭を抱えてんだぞこっちは。
ひまりと言い、彩と言い、ピンク頭は何故こんなにも男に対する警戒心が薄いのか。色んな意味で胃がキリキリする。将来、マジで変な男に捕まらないで欲しい。
カッと熱くなった体を誤魔化して、少し冷えた肩を温めるように外側に持たれ掛け一気にお湯の中に頭ごと潜り込む。
お湯から頭を思いっきり出して、顔をひと拭い。大きく一つ、息をついて上を見上げると、夜空には相変わらず満点の星空。
歌詞きりの露天風呂には、俺以外に絶世の美女が一人。
他の人が見たらこれ以上にない幸せ空間だろう。俺も最初こそ困惑したが、もう慣れてしまった。慣れって怖い。
「……マーくんってさ。今楽しい?」
これまた藪から棒に。そんなことを急に言い出す彼女に少しだけ疑問を覚え、どんな顔をして言ってるのか覗いていみる。
彼女は外の月を見上げていた。
……なんか月を見つめるかぐや姫みたいだな。なんとなくだけど。きっとこんな美女なんだろうな。
綺麗だ。なんて。そういう言葉をふっと口にしてしまいそうになりのを、なんとか心の中に収める。
「楽しいよ。めちゃくちゃ黒歴史作りまくってるけどさ。それがあっても、有り余るくらい楽しいよ」
正直な感想だよ。
こっちに越してきてから、激動の連続だよ。CiRCLEに通い、afterglowやRoseliaと出会い、色々あったが今もこうしてコーチと言う形で彼女らと関われている。
バイトを始めてみたら、4年振りに彩と再開出来て、Pastel*Palettesのメンバーと出会えた。この街に来てから出会いの日々だ。
みんな顔は良いし、俺はほんとに幸せものだな。つくづくそう思うよ。
「そっか、良かった」
俺の答えを聞いた彩は、今までにないほど可愛く、綺麗な、愛おしい満面の笑顔を見せてくれた。年上の顔だな。こりゃ、ドキッとしちまう。
髪に濡れた女の顔がここまで男の心を揺れ動かすなんて、神様はとんでもない装備を女性に授けたらしい。男にも少し分けて欲しいものだ。
ほんとに俺じゃなかったら、今この場で告白してると思う。
なんか小っ恥ずかしくなったのもあり、くるりと彩に背を向けて、肘ほどの位置にある置き石に右腕をかける。これ、黄昏スタイルな。夜空を見渡すには丁度良い。
ほんとに飽きねぇな、この夜空は。もう何回この言葉を言ったか忘れたわ。
「ねぇねぇ、そっち行ってもいい?」
「ダメ」
「ありがと!」
ん? 今、ありがとって聞こえたけど。気の所為だよね。俺はダメって言ったはずなんだが。
バシャバシャと水を掻く音が聞こえる。まるで誰か水の張ったところで歩いてるみたいな音だな。
おかしいなー? この風呂には俺と彩しかいないから、風呂で歩く人なんか居ないはずなのになー。彩が移動する必要性なんかないし、そろそろ風呂から出るのかなー?
あるぇ? なんかその音がこっちに近づいてくるぞー。おかしいなー。風呂の出口はこっちじゃないんだけどなー???
「マーくん、背中借りるね」
「えっ嘘でしょ?」
よっこらしょ、という可愛い掛け声とともに背中に確かな重みと温かみ。
てかこいつ背中ちっせぇ、軽い。細い。ちゃんと飯食ってるのか心配になる。
……ってこのハゲ! 違うだろー! 違うだろおおおおおおおおおおお!!!!!
素肌! お前、素肌ァ!!!
こいつほんとに俺の性別を理解してないのかな。保健の授業を全部寝てたのかもしれない。心配になる。シンプル心配。マジで俺が守らねぇと。
そんなことを俺の事なんか知ったこっちゃないないであろう。背中越しに、俺の方に頭を預けてくる。身長差があるから乗っては来ないけど、コテンと寄りかかられる。それだけ。何を言うわけでもなく、耳を済ませれば軽い息遣いだけ。
肩に眼をやると、艶やかなピンク髪。
……こっちに出てきてアイドルなんて大変だろうに。こいつも頑張ったんだろうな。昔から出来なくてもどっからその根性が出てくるんだってくらいには負けず嫌いで、根性座ってたし。そんなことの連続だったのかも。
「お疲れ様」
「ふぇっ!?」
もうブタ箱行きになってもいいや。
理性が一段階壊れた俺は濡れた手で彩の頭に手を伸ばす。
いきなり触れられた彩は声を出して一瞬体が跳ね上がるも、直ぐに力が抜けて、背中にもたれかかってきた。
「えへへ……もっと褒めてくれてもいいんだよぉ……」
「へいへい、お前はいつも頑張ってるよ」
今日はなんだか夜空と満月のおかげで機嫌がいい。
息子も空気を読んでくれている。
俺の手に頭を擦り寄せ上機嫌そうな彩の頭を撫でながら少し目を瞑って物思いに耽ける。
あの街に来てもう半年が経とうとしてる。多分今までの人生で一番濃い半年なんじゃないか?
「レッスンとかも頑張ってるんだからね~。年上をいたわらなきゃダメだぞぉ~」
「酔ってんのかお前」
肩越しにえへへとだらしない笑みを見せる。これじゃ先輩ってより妹って言った方が合ってんじゃねぇのかな。いつもならくすぐったくて苦手な甘ったるい空間も今日はロマンチスト補正で心地よくなる。
けど少しのぼせてきたなぁ……体が熱い。
決して今置かれている状況を理解してきて恥ずかしくなったとかではない。とりあえず彩を先に上げたら俺も風呂から出て寝よう。背中の感触を忘れないうちに。
で、後日OAされた時に、ガッツリ隠し撮りされてた俺と彩の様子は、Twitterで新婚夫婦とタグ付きでトレンド1位を獲得。
バズりにバズり散らかし、俺のLI〇Eには蘭や香澄、ひまりや紗夜さんと言ったメンバーからとんでもない数の通知が来るハメになった。
割とマジでよく殺害予告が来なかったと思うわ。この事務所マジで無能なのか有能なのかわからん。知らんぞ、ほんまに。
過去のお話の書き方が地雷なので、展開は変えずに描写とか加筆修正したいんです。
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今のが好きなので書き直しておk
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昔のが好きなので書き直したらアカン