どうやら俺の黒歴史を美少女達に握られたらしい   作:as☆know

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とってもとっても野球回です。


勝利の女神は案外近くにいるもの

 グローブの中でボールの縦の縫い目に2本指をかける。

 そのままストレートと同じ腕の振りで内角を狙って投げ出した球は。右打者の内角膝下に向かって鋭く沈むように落ちていく。

 

 

「よいしょっ!」

 

「チッ!」

 

 

 ガッ!と少し鈍い音が響く。

 窮屈そうなバッティングから放たれた打球は、サード前に力なく転がっていく。

 そのまま新井の流れるようなスローイングでスリーアウト。

 ラストボールは藤浪から教えて貰ったツーシーム。

 取り敢えずなんとか2回はきっちり抑えた。

 

 

「ナイピッチ!頂戴頂戴!クルクル頂戴!」

「まだ三振取ってないけどな」

「結構落ちるやんツーシーム!お前ほんまに素人か?」

「たまたま指先の感覚鍛えてるだけだよ」

 

 

 ギターやベースで鍛えられた指先の押し込みや手首の使い方、指先の感覚がこんな所で使えるとは思わなかった。

 あとは暇な時にYou〇ubeでひたすら動画見てたのが生きたな。

 

 俺が投げれる変化球は教えて貰ったツーシームと根尾に教えて貰ったチェンジアップのみ。

 カーブとかスライダーは曲がらなさすぎて無理だった。

 

 試合前にブルペンで藤浪や中田や根尾達に変化球の握りを教えて貰って投げた瞬間、藤浪と森と中田にあかんわ!却下!って言われたのは地味にショックだったわ。根尾は苦笑いしてた。

 オブラートって言葉知ってんのかなあいつら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2回裏の攻撃。

 

 先頭の5番大松がフルカウントから2球粘って四球で出塁。

 6番の森は3球見逃し、バッティングカウントからファールを打ち、並行カウントから5球目。

 

 

「オルァ!」

 

 

 ッカァァァン!!!

 

 

「うおー抜けたなこれ」

 

 

 ベロンと落ちていくドロップカーブをしっかり待ち、深く沈みこんだ重心の低い独特のフォームから鋭いアッパースイングで一閃。

 木製バットの乾いた打球音と共に打球はぐんぐん伸びていき、全速力で下がっていくライトの頭を悠々越えてライトオーバーのタイムリーツーベースになる。

 てか捕手なのに足はええな。

 何となくキャッチャーって足が遅いイメージあったわ。

 

 ちなみに森が金属バットじゃなくて木製バットにしている理由は芯に当たらないと飛ばないからミート力をあげる練習になる。との理由らしい。

 金髪で背が低くてチャラいのに野球に関しては真面目かよ。

 

 

 

 続く初回にタイムリーエラーをした途中出場の倉本は低めのストレートを逆方向にはじき返してレフト前に痛烈な流し打ちを見せるも、レフトが前に出ていたのと打球が早かったのも相まってセカンドランナーの森は突っ込めず。

 

 

「しゃす」

 

 

 そんな訳で俺の出番。

 監督を兼任している根尾のサインをじっと見つめる。

 

 サインはなし。

 打席を慣らし、クイックモーションに対応する為に早めにバットを構えて気持ちを作る。

 アウトカウントは0。点差は1点差ビハインド。ランナー1.3塁。

 最悪ゲッツーでもサードランナー森の足なら帰って来れる。さっきのベーランを見た限りの話だけどな。

 

 相手の守備位置は定位置より前の前進守備。

 内野の頭は越えやすいが、叩きつけてゴロにしてもホームタッチプレーでアウトにされる。

 かと言って外野フライを狙って打つ技術も筋力も俺にはない。

 

 つまりここでやるべき行動はシンプルイズベスト。

 素人なんだから内野の間を抜くとか考えずにとにかく甘い球を強く振る。

 これだけを徹底する。

 

 右肩の上でバットを軽く回し、タイミングを取る。

 相手がクイックで来るから足は大きく上げない。下半身と腰の回転だけでボールを持っていく。

 

 

 

 初球。

 

 

「っと……」

 

「アアィッ!」

 

 

 クイックモーションから投げられた初球は外角のストレート。

 高さは低めドンピシャって訳では無いが、まぁ低め。ストライク。

 

 フォームは特別球の出処が見ずらいという訳でもないが、ネクストで思ってたよりも体感のクイックが早くて手が出なかった。

 あの速さのクイックじゃ足を上げてたら俺のスイングスピードじゃ間に合わねぇんじゃねぇか。相手に自分のスイングをさせない。これも立派な投球術だ。

 

 ……そうなりゃストレートは捨てるか、もしくはぶっつけ本番でノーステップで打ってみるかだよなぁ。

 サインを確認してみるが、スクイズはない。

 

 

 

 2球目。

 

 

「うおっ!?」

 

「ボーッ!」

 

 

 胸元へのストレート。

 狙って投げたと言うよりかは、変化球がすっぽ抜けたって感じだ。

 相手投手も少し頭を下げてくる。律儀だな。

 

 ここでエンドランのサインが出る。

 ランナー1.3塁でのエンドランと聞くと少しおかしいと感じるかもしれないが軟式野球では結構あることなのだ。

 叩きという高いバウンドのゴロを打つ軟式特有の戦術と同じがあるように、本来軟式野球は得点が入りにくいので叩きやらエンドランやらで得点を奪うのが主流なのだ。

 

 てなわけでとにかく当てる、ゴロを打つ。

 当てるだけでもいいならぶっつけ本番でノーステップを試してみるか。

 

 

 

 3球目

 

 

「ランナー走った!」

 

 

 相手投手が投球モーションに入ると同時にサードランナー森とファーストランナー倉本が同時にスタートする。

 

 

 バゴッ!

 

「よっしゃ!」

 

「ボールバック!」

 

「セーフ!」

「っしゃあ!ナイスー!」

 

 

 アウトコースボール気味のストレートを強引に泳がされながら片手だけで当てに行く。

 バットの先にボールが当たった鈍い衝突音から放たれた打球はファーストファールライン際に転がり、ファーストは打球を取るが早いかホームに送球。

 だがエンドランをかけていたランナーの森はホームにスライディング。

 送球も少し高く浮き、高い位置から決死のタッチプレーも虚しく同点のホームイン。

 

 ちなみに俺はその後のファースト送球で普通にアウトになった。

 足そんな早くないからね。

 仕方ないね。

 

 

「よっしゃ!浅尾が打ったんだから俺も打たなきゃメンツが立たないでしょう!やってやろうじゃねぇかこの野郎!」

 

 

 にしても杉谷うるさいほんとにうるさい。

 あんなに騒ぎながらよく打席に入れるよな。恥ずかしくないのだろうか。

 相手キャッチャー下向いてるけどあれ絶対笑ってるよな。

 あいつが1番野球を楽しんでる説あるわ。

 

 

 カァン!

 

「よっしゃあ!」

 

「あっ完璧」

「いやセンター正面やん」

「いや倉本お前何飛び出しとんねん!」

「あれはゲッツーやな」

「何してるんですか……」

 

「なんでぇえええええ!!!」

「さぁ肩作るか」

 

 杉谷が初球を振りぬき完璧に捉えた打球はセンター正面へ、セカンドランナーの倉本は何故か飛び出しており、センターからセカンド送球でランナーもアウト。

 ベイス☆ボール。

 

 完璧な打球を放ってもネタになるその芸人根性。

 嫌いじゃないし寧ろ大好きだよ。

 よし、肩作るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後、俺はバックに助けられながら打たせて取る投球でなんと6回までをゼロに抑える大活躍。

 みんな初球や早いカウントから打ってくれるおかげで球数も思ったより少なく済んでる。それにしても意外と俺って体力あるんだな。

 まぁ普段からクソ暑いステージであんだけ暴れて歌ってたらそりゃ体力も多少はつくか。最近疲れが取れるのが遅くなってきた気がするけど。

 

 相手も3回から投手をスイッチして以降、ランナー出してピンチを作りながらもこちらの打線を抑える好投。

 俺もチャンスの場面でセカンドゴロに打ち取られた。

 追い込まれてあの外スラは素人には無理だってばよ。当てただけ褒めて欲しい。

 

 序盤の打撃戦ムードから一転、白熱の投手戦に球場も盛り上がる。

 

 そして6回裏。

 先頭は5番の大松。

 

 

 カキィン!

 

「投手戦ムードの中だけどツーベース打っておくぞ」

 

「ナイバッチー!」

「おー、中々やるやん」

「お前さっきチャンスでまた打ち上げてたよな。そのネックレス引きちぎってやろうか!」

「シバキ倒すぞお前」

「俺もさっきチャンスで打てなかったからその言葉は響くぜ杉谷ァ……」

 

 

 インコース低めのスライダーをすくい上げた打球はライトの頭を軽々越えて、ガシャンと大きな音を上げフェンスにぶち当たる。

 大松は軽々と二塁まで到達。

 二塁に到達した大松は特に騒ぎ立てるわけでもなく淡々とガードを取って一塁コーチに手渡してる。あいつほんとに高校生かよ。オーラがおっさんすぎる。

 ちなみに今杉谷に弄られてる中田だが、現在チャンスだろうがなんだろうが関係なく3タコである。残当。

 

 

「はいフォアボールー!」

 

 

 続く森も四球で出塁。

 これで今日全打席出塁じゃないか?

 すげーなほんとに。ちっちゃいのに。

 パンチ力もあるミート力もある足もあるってほんとに打てる捕手の完成系じゃねぇのかな。

 

 

「浅尾」

「……ん?どうした?」

 

 

 ネクストで待機してると急に根尾に呼ばれる。

 バットを持ったまま根尾の元へ向かうと打者の倉本にサインを出しながら耳打ちしてくる。

 

 

「あの投手、さっきからスライダー全くゾーンに入ってないし曲がってもない。あれならお前でも打てる。次の打席、スライダー狙ってけ」

「……マジかよ。素人に変化球打てってか」

「大丈夫。お前ならできるさ」

 

 

 続くには倉本には送りバントのサイン。

 初球から一塁線に絶妙な送りバントを一球で決める。

 

 

「そういう事だ。行ってこい」

 

「中々無茶言いやがる……」

 

「浅尾ー!後ろには俺がいるからな!気楽に打ってけよー!」

「アホか杉谷、お前が後ろやから余計力むやん」

「3タコのお前の後ろを打つ大松の気持ち考えてやれよ」

 

 

 ネクストではまた中田と杉谷が喧嘩してる。

 あいつら仲いいよな。

 クラスは違うけどいつも隣のクラスで怒鳴りあいしてるからな。

 仲良しさんかよ。

 

 1塁側スタンドからはトランペットと太鼓の大きな音色と共に、既に敗戦した工業科の生徒が声をはりあげてスキンヘッドランニングを歌う。

 

 

「……決める」

 

 

 軸足をしっかり固定しつつ、相手の守備体型を見る。

 内外野共に前進。

 外野の頭を抜かれれば終わり、それぐらいの攻めの意志を感じる。

 

 念の為根尾をじっと見つめるがサインはなし。

 その代わりバットを振るジェスチャーをして、ニッと笑いかけられる。

 なるほど、さっき言った通りスライダーを狙ってけと。

 この打席に集中しててめーで決めろと。

 

 完全に腹を括った監督の考えに追い詰められておかしくなったのか。笑みがこぼれる。

 

 バットを持つ手を体の腰の前辺りで脱力させ、投手をじっと見つめる。

 サインが決まったのを確認して、バットを肩の上で回してタイミングを取る、いつものフォームに戻す。

 力むな。お前のバッティングをすればいい。

 

 狙うはスライダー。

 ほぼ曲がらないとは言うが、俺は前の打席でそのスライダーにやられている。

 あれは外に制球されてたから経験者でもヒットコースに運ぶのは至難の業だろうが。

 

 

 

 初球。

 

 

「……」

 

 

 初球はコースを大きく外す高めのボール。

 おそらくスクイズを警戒したのだろう。

 こっちは根尾があんなわかりやすいジェスチャーしてるのに、無駄に勘繰ったか?

 しかも俺は素人だぞ。バントなんか出来るわけねぇ。

 どちらにせよ俺がやることは変わらん。

 意識を投手に向けたまま、集中する。

 

 

 

 2球目。

 

 

「っラァ!」

 

「うぎぃ!」

 

 

 高めのストレート、豪快な空振り。

 駄目だ。完全に力んでやがる。

 見逃せばボールかもしれないコースだった。

 相手投手のリリースの瞬間の気合いの篭もった声が、打席まで聞こえてくる。

 相手も状況は同じ。

 胸の鼓動がどくどく煩い。

 こちとら今集中してんだ。邪魔すんな!

 

 

 

 三球目。

 

 

「ッアァッ!」

 

「アアィッ!」

 

「……マジかよ」

 

 

 アウトコースいっぱいのスライダー。

 ミットの乾いた捕球音と主審の甲高いストライクコールが響く。完璧に制球されたスライダーについマジかよと独り言を呟いてしまう。

 俺が前の打席で打ち取られたコースと全く同じところにボールが来た。

 カウントはワンツー。追い込まれた。

 

 確かに根尾の言う通り、2打席目よりもスライダーのキレも曲がり幅も落ちてきている。

 素人だが打てなくもなさそうだ。

 けどここまで半分以上はストレート。

 ほんとにキレの落ちてきたスライダーをキャッチャーはサイン出せるのか?

 

 思考が渦巻き、体が固くなる。

 応援歌やヤジなどは耳に入らず、もはや俺の鼓動しか聞こえない。

 視線には俺を追い込んだ相手Pしか目に入らない。

 どうする?俺は何を狙えばいい。

 いっその事セーフティスクイズなんかも……。

 

 

「マーくん!」

 

 

 閉ざされた思考の中に一筋の光が差し込む。

 俺を宥め、支えるような暖かい声。

 追い込まれて、どうしようもなくなった時にいつも聞かせてくれる優しい声。

 ガチガチに固まり切った身体を一気に溶かしてくる。

 そこでやっと打席を一旦外して落ち着くという選択肢が頭に出てくる。

 

 

「タイム」

 

「タイッ!」

 

 

 主審にタイムを掛け、呼吸を整える。

 視線を向けずに、握り拳だけを声の聞こえた一塁側スタンドに向ける。

 

 

 打席に入り直して、相手投手を見つめ直す。

 視界が広い。周りがよく見える。

 頭と耳の中で鳴り響いていた鼓動は、いつの間にか落ち着いていた。

 

 

 

 4球目。

 

 相手Pが足を上げ、腕を振り下げる。

 その瞬間、リリースされたボールの縫い目、回転、M球のハートの模様までもがハッキリと見える。

 

 腰よりちょっとしたのど真ん中。

 ボールはここに来る。

 

 ほんの数秒間の間がとてつもなく長く、余裕を持って感じられる。

 足を上げ、ここに来ると定められたボールに向けバットを振り抜く。

 

 

 

 カッキィィィィィン!!!

 

 

 

 乾いた金属バットの衝突音と共に放たれた打球は低いラインドライブの鋭い軌道を描いたまま、前進守備で前に出ていたレフトとセンターの間の奥深くを切り裂いて行った。

 

 スイングの流れのままバットを高く投げ出し、打球が左中間を破ったのを確認するとそのままセカンドまで走り抜ける。

 

 

「ッシャアアアアアッ!!!!!」

 

 

 ドワアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!

 

 

 滑り込むことなくセカンドベースを踏み抜いた俺は、自然と地面に向けて拳を握りしめ雄叫びを上げていた。

 それと同時に球場全体から大きな歓声と悲鳴が一気に音量をあげる。

 ガッツポーズを決めた左手の握り拳は、何も考えてないのに自然と一塁側スタンドの声が聞こえた方向に向かう。

 

 両手にはまだ完璧に打球を捉えた爽快な感覚が未だに残っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 あの後、杉谷のタイムリーでホームまで帰ってきて体も流石に疲れてきているはずなのに、何故だか全く疲労感がない。

 むしろ体は軽い。

 理由はずっと背中から聞こえる、あいつの声援のおかげだろうな。

 普通なら相手の応援歌に掻き消されてるはずのに、何故だか俺の耳にはしっかり届いている。

 多分俺以外のヤツらには聞こえてないんだろうけどな。

 

 7回表、2死ランナーはなし。

 カウントはツーツー、並行カウント。

 相手左打者に対してキャッチャー森のサインは、内角ストレート。

 

 今度は投げ損じない。今は俺一人じゃないしな。

 セットポジションから足を上げ、脱力した右手をムチのようにしならせ、体の前に来た時に一気に力を入れる。

 

 鈍い打球音と左後ろから聞こえる大きな掛け声とファースト塁審のアウトコールで俺は右腕を高く空に掲げる。

 

 

 試合は6対3。

 たかが体育祭とは思えぬ熱い試合は、俺らのチームが勝ちをもぎ取り、体育祭は幕を閉じた。

 

 

 翌日、全身の疲れが一気に身体中を襲い、土日の間マジで一歩も動けなくなった。

 珍しくヒーローになった弊害は辛いよ。




この日の打撃成績です。お納めください。

8 上田 左二 空三 中安 左飛
9 根尾 右安(1) 四球 四球 中安
5 新井 遊併 三併 一併 四球
3 中田 一飛 空三 遊飛 空三
9 大松 四球 右飛 右二
2 森友 右二(1) 四球 四球
6 倉本 左安 三邪 一犠
1 浅尾 一ゴ(1) 二ゴ 左二(2)
4 杉谷 中併 投安 中二(1)

藤浪 0回3分の0 1球 三振0 四死球1 被安打0
浅尾 7回74球 失点3 三振0 四死球1 被安打2

浅尾愛斗くん! 野球部に入らないか?

過去のお話の書き方が地雷なので、展開は変えずに描写とか加筆修正したいんです。

  • 今のが好きなので書き直しておk
  • 昔のが好きなので書き直したらアカン
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