どうやら俺の黒歴史を美少女達に握られたらしい   作:as☆know

52 / 138
一途な恋心は誰にも曲げられない

 私が彼に明確な恋心を抱くようになっていたのは何時だったんだろう。

 

 

 

 私が彼と出会ったのは小学校の時だった。

 彼と一番最初に出会ったあの時の事を、正直よく覚えていない。

 微かにあるのは学校の友達と鬼ごっこか何かで、校庭を走り回って遊んでいたような記憶のみ。

 

 

『大丈夫?』

 

 

 転んだか何かに当たったのか、校庭で泣いていた私に手を差し伸べていた。私に対してなんで転んでんだと不思議そうな顔をしていた短髪の少年が彼だった。

 

 

 最初はただ顔を知ってる程度の仲だった。名前も当時は知らなかった覚えがうっすらある。

 学年も違えば年齢もひとつ違う。

 委員会が同じ訳でも何かの行事の時に一緒になることも、私が低学年の時にはあまりなかった。

 誰とでもよく話して仲良くなる私でも、正直そこまで彼との接点はなかった。

 

 何時からだろう。彼と仲良くなって一緒にいるようになったのは。

 

 実家もそこまで近所ではない。精々学校の帰り道の方向が途中まで同じだった程度だった。

 勿論、顔を知ってる程度なので一緒に遊んだりもしなかった。

 仲が悪いというわけでもお互い嫌ってる訳でもない。

 単純にそこまでの接点がなかった。

 

 

 

 

 

 

 昔の薄れている記憶の中を探していると、ふと思い出す。

 

 私が上級生になったばかりの4年生に上がった頃。

 時期は何時だったんだろう……。ポカポカと暖かく、窓からは紅くなった椛の葉が舞っていた気がする。

 

 音楽室で3年生の子達が音楽の授業をしていた。

 私達の学年は移動教室で丁度階段を使う為、学校の端の方の部屋である音楽室の前を通る。

 友達と話しながら音楽室の前を通ると、柔らかいギターの音が聞こえた。

 一緒に話していた友達もそれに気が付き、顔が横をむく。

 音楽室のドアの窓からは短髪の男の子が先生用の椅子に座り、周りを友達と思しき子達から囲まれながらギターを弾いている姿が写った。

 何故だか私はその姿に好奇心以上に興味を惹かれた。

 

 それから私は、学校が終わると彼が不定期に先生に音楽室の鍵を借り、夕方になるまでギターを弾いてる事を知った。

 

 

『……』

 

『わぁ……』

 

 

 最初はバレないように少し覗く程度だった。

 教室のドアの窓からは少し顔を出して彼のギターを弾いてる姿を見つめる。

 今思えは弾いてるんじゃなくて隠れて練習していたんだと思う。

 

 当時、私はそこまで音楽が好きという訳でも無かった。

 だからなんであそこで無性に彼のギターに惹かれたかは未だにわからない。子供の頃の好奇心だったのだろうか。

 その時私は、かっこいいという感情よりもギターを弾けるなんて凄いな。そんな感情で彼を見ていた。

 

 

『……何見てるの?』

 

『ふぇっ!?』

 

 

 けどすぐにバレた。

 後で彼に聞くと、当時は普段からやっていたツインテールの片方がぴょこぴょこ動いててすっごく目に付いたらしい。

 しかもかなり早い段階で気がついてたとか。あの時の私なにやってんのさ……。

 

 

『……ギター見たいの?』

 

『う、うん……』

 

『……とりあえず教室入ったら?』

 

『えっ、いいの?』

 

『いや……そんなドアから顔だけ出されてる状況だとこっちが気になるし……』

 

 

 ここの場面はハッキリと覚えている。

 ずっと見ていたことがバレた恥ずかしさとギターを近くで見せてもらえる嬉しさが色々交じった複雑な感情を抱いていたはずだ。

 今思うと彼はしっかりした子だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

 それから私と彼の関係は非常に近くなって行った。

 学校では女の子の友達と一緒にいる時間よりも多いんじゃないかってほど彼と遊んでいた気がする。

 

 夏場は当時からインドア系で、家で1人で篭もってることが好きな彼を引っ張り出したこともあった。

 私が泳げないから泳ぎを教えて欲しいという名目でプールまで彼を引きずり出して、外に出た途端やる気になった彼に鬼コーチされたことは今でも覚えている。

 そのおかげで2人で泳げるようになったから感謝してるんだけどね。

 

 一緒にお互いの家にお泊まりしたりお風呂に入ったりもした。

 それでも多くは、音楽室や彼の家にお邪魔させてもらって彼が練習しているところを見たり、ギターを聞いたり、彼と話したりすることがほとんどだった。

 まぁ大体私の話を彼が聞いてただけなんだけどね。

 

 だから高学年になって彼と別れるまでの思い出はほとんどが彼の家か音楽室の中で、二人っきりで歌を歌って彼のギターを聞いてた記憶ばかりだ。

 逆にそれ以外の大した思い出は特にない。

 家族ぐるみで出かけた記憶も、二人揃ってどこか遠くに遊びに行った記憶もない。

 

 いつも私が彼を引っ張り回して。

 彼が泣いた時には優しく背中を叩いて頭を撫でて。

 私が逆に泣いた時は彼が同じように背中を叩いて頭を撫でてくれた。私が泣いてた時の方がなんか圧倒的に多かった気がする。

 

 そしてまた、彼の部屋でギターを聞いてた。

 

 私と一緒にいる時は恥ずかしがって滅多に聴かせてくれない彼の弾き語り。

 それを彼のお母さんと一緒に部屋のドアから覗いたり聞いたりするのが大好きだった。

 今も昔も変わらない。語りかけるような、そんな歌い方をする彼の歌声が大好きだった。

 自覚はないけど、恋愛的な意味で彼を好きになってたのはその時かもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私が彼に明確な恋心を抱くようになったのは一体いつだったんだろう。

 

 

 

 けど私が彼に明確な恋心を抱いていると知ったのが何時かは覚えている。

 

 

 

 小学校から中学校に上がると同時に私はお父さんの転勤で違う県に引っ越すことになった。

 違う県と言ってもお隣の県。

 そこで彼と初めて彼と別れることになった。

 地元の友達と別れの挨拶をした時も彼との別れの挨拶をした時のこともよく覚えている。

 

 

『嫌だよぉ……マーくんと別れたくない……』

『元々学年違ったから距離が離れるのは確定路線じゃん……またそのうち会えるって』

 

 

 私が凄く泣いていたのを、一個下の彼が黙って抱きしめながら宥めてくれたのは今でも覚えている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 引っ越してから数ヶ月。私の心の中には謎の大きな穴がぽっかり空いていた。

 

 地元の友達と会えない寂しさだけではない。もっと大きなポッカリと空いた穴。

 

 

『彩、浅尾さんから写真が沢山届いてるわよ』

『マーくんから?』

 

 そんな中で彼の家から大量の写真が送られてきた。

 写真に写っていたのはマーくんと一緒にいる私の姿。

 

 

 胡座をかいてギターを弾くマーくんの背中に持たれながら楽しそうに歌を歌ってる私。

 

 入浴剤の入った風呂の中でお湯の掛け合いっ子をしてるところ。

 ひとつの布団で2人で寝ているところ。

 

 泣き疲れた私を苦笑いしながら彼がそのまま抱きしめてくれてる所。

 

 

 特別なことを沢山したわけじゃない。

 それでも私の大切な思い出が、数十枚の写真にはしっかりと刻まれていた。

 泣きそうになりながら写真を見てるとポロリとメモのような紙が写真の間からこぼれ落ちる。

 間違って入っちゃったのかと思い。メモを拾い上げてみる。

 

 

《元気か? 無理すんなよ》

 

『……!』

 

 

 何度も鉛筆で書いて消しゴムで消したらしき跡の付いたメモには、走り書きでそう書いてあった。

 

 それを見た途端私の中に閉じこめられてた感情が涙になって思い出と一緒に溢れ出す。

 あまりかっこいいことの言えない彼が精一杯出した答えは、私を心配するものだった。

 

 そこで初めて気がついた。

 友達と会えない以上に彼と会えないことの喪失感の方が大きかった。

 

 彼の歌声を聞きたい。

 彼と一緒にいたい。

 彼の傍に、そっと寄り添っていたい。

 

 失って初めて気がついた。

 彼の存在の大きさ。

 そして彼に抱いていた大切な感情を初めて理解する。

 その時、私は彼に恋心を抱いていたことに気がついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして私はアイドルを目指すようになった。

 私は彼みたいにギターが弾けない。だから彼みたいにギターで誰かを笑顔を、勇気を与えられない。

 

 だからアイドルという形で『私はみんなに勇気を与えられる存在になりたい』

 そう思った。

 私にとっての彼のように。

 

 アイドルを目指す中で『どんな人でも努力をすれば夢は叶うと伝えたい』

 こう思うようになった。

 彼が毎日毎日ギターの練習を欠かさずやっていたように。

 

 アイドルになってテレビなどに出ることで、彼に私は元気でやっているよ。

 そう伝えたかった。

 彼に沢山のものを貰ってばかりだった私なりに、彼に恩返しがしたかった。

 

 

 きっと彼がいなかったら、今私はここにいないんだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから高校生にもなり、やっと夢が叶って念願のアイドルになれた。

 それでも最初は辛いことだらけだった。

 pastel*palettesのメンバーと衝突したりすることだってあったし、大きな壁は沢山あった。

 

 けど、それでも頑張れたのは彼の存在があったからだった。

 そして努力をすれば夢は叶うということをみんなに伝えたかったから。私もそう信じているから。

 

 

 

 

 そんな中で、私は彼と再会した。

 久しく見た彼は、背も高くて体つきも変わっていて、横顔が見にくかったこともあって最初は誰か気がつけなかったけど。

 不思議とあの時、彼が使っていたギターと全く違う弾き方をしてるのに、ギターを弾きながら歌うその姿と歌い方には見覚えと聞き覚えがあった。

 

 忘れられないあの感覚。そして、歌い方。一致する下の名前。

 

 そして、目の前にいたのが紛れもないあのマーくんだと気がついた時は物凄く嬉しかった。

 

 やっと会えたと思った。

 ずっと隣にいたいと思った。

 ずっと彼の腕を離したくないと思った。

 

 

『そうだよ!やってよコーチ!』

 

 

 だからコーチの話が出た時、絶対にマーくんを逃がしたくないと思った。

 もう一緒にいれないのは嫌だったから。

 ずっと隣にいて欲しいから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それから私がやるべき事は凄く簡単だった。

 最初は私が彼のことを好きだと言うのに抵抗があったけど、彼にその気がないと分かるとちょっとムカッとしていて、言うのにも抵抗がなくなった。マーくんと再会したばっかりの時に日菜ちゃんが思いっきり暴露したのはヒヤッとしたけどね……。その時はまだみんなにも私がマーくんのこと好きって話してなかったし……。

 

 

 

 それから色んなことをした。

 パスパレのみんなにも話して、事務所にもちゃんと言ったらまさかの全面協力して貰えることになった。

 

 正直一番最初に一緒に温泉に入った時点で襲われたとしてもばっちこいだったんだけど、完全に不発に終わった。

 それでもマーくんと一緒にお風呂に入れたから良かったなー!

 私も単純に楽しんでたし。とってもいい思い出になった。

 でも正直マーくんの理性を甘く見てたよ……。

 よくよく考えれば。昔から一緒に寝泊まりとかしててもなんともなかったんだもんなぁ……。

 ちょっと自信なくしちゃうよ……。

 

 そういう意味ではお互い、昔とあまり変わってなくてほっとした。

 逆に変わって無さすぎるせいで発展しないんだけど。

 

 でもマーくんと一緒にいて、沢山の思い出が作れている。

 一緒にロケしたりラジオしたり、私がいる花咲川に来てくれたこともあったし。

 文化祭ではなんと一緒のステージで歌うことが出来た。

 嬉しかったなぁ……。

 

 

 千聖ちゃんが言うにはあのままガンガン押してやればマーくんは確実に落ちるって言ってたし。

 

 この世の中にマーくんより好きな男の子なんて誰もいないし、私にとって一番好きな男の人は浅尾愛斗くん、ただ1人なんだよ?

 

 

 

 もう絶対に逃がさないんだから!

 

 

 




愛斗を久しぶりに見た時に、彩ちゃんが弾き方が違うと言ったのはアコギとエレキの弾き方が違うからどす。

過去のお話の書き方が地雷なので、展開は変えずに描写とか加筆修正したいんです。

  • 今のが好きなので書き直しておk
  • 昔のが好きなので書き直したらアカン

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。