どうやら俺の黒歴史を美少女達に握られたらしい   作:as☆know

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ヘタレは絶対無理しない方がいい

 メンバーの中に彩が入り、パスパレが全員集合したことでふわふわ時間のMVの撮影も本格的に進められる。

 1番最後に残された重要な場面であるラスサビの全員集合の場面も1発で撮り終え、お疲れムードが全開になってた頃にはブライダル雑誌の担当の方が来る時間帯になってた。

 MV全部撮れるとは全く思いすらしなかった。正直無理だと思ってたわ。

 やっぱりプロってすげぇんだな。手際が良すぎる。

 それで仕事してるんだもんな。プロフェッショナルってやっぱかっけーわ。

 

 

 そんな訳で早速ブライダル雑誌の撮影に入って行く。

 ここからは主に彩と俺の出番になる。

 

 

「彩ちゃんもう少し右上向いてみようか」

 

「は、はい!」

 

 

 まずは彩一人での撮影。

 彩もだいぶこういう撮影であがらなくなってきたよな。なおあがらないとは言っていない模様。

 頻度は少なくなったけど今だにあがり症なんだよな。

 スイッチさえ入れば滅多に上がらなくなるのに。本人は一生懸命やってるだけだろうしこれは一生物だろうな。

 まぁ直さなくていいよ。あたふたしてる彩はめちゃくちゃ可愛いから(ゲス顔)

 

 

「じゃあ浅尾さん準備お願いしまーす」

 

「アッハイ」

 

 

 彩個人での撮影を終えると遂に俺とペアでの撮影に入る。

 さっき散々彩のことあがり症って馬鹿にしてたけどやっぱ緊張はするんだよな。

 当たり前っちゃあ当たり前なんだけどな。

 俺、ただのスタジオミュージシャンだから。

 普通こんなガチ撮影とかしないから。モデルじゃないんだからな?一般人だからな?異常性に気付いてマジで。

 

 

「それじゃあまずは2人で手を繋いでレッドカーペットを歩いてもらいましょうか」

 

「えへへ……結婚式みたいだね!」

「まぁそういう雑誌の撮影だしな」

 

 

 雑誌専属のカメラマンさんとこの企画の担当の方の指示に従いポーズや行動を取る。

 

 特に迷う素振りもなく彩の手を取り教会での中に繋がる階段にかけられたレッドカーペットを登っていく。今更手を繋ぐ程度なんとも思わなくなってきた。

 麻痺って来たと言うよりかは相手が彩だからってのが大きいんだろう。

 幼馴染ってやっぱ神だわ。そもそも幼馴染って感覚すらあんまりないんだけどな。

 

 にしてもほんとに楽しそうだなお前。さっきまでガチガチだったのに俺が来た途端いつもの調子を戻してこれである。

 まぁ俺も楽しくない訳では無いけど。

 

 階段の上からは麻弥さんとイヴちゃんが一生懸命花びらを撒いている。いやほんとその役目は本来俺なんです。申し訳ねぇ。

 イヴちゃんめっちゃ楽しそうだけど花咲じいさんはちょっと違うからね?あれは花びら撒いてるんじゃなくて確か変な粉巻いてるからね。

 変な粉撒いてるってやばいな。絶対口に出さないでおこう。

 

 あとさっきからスタッフの人がずっとビデオカメラ回してるけどその動画は一体何に使うつもりなのだろうか。大方予想はできるけど。

 まぁ収入になるしいいや!(諦め)

 

 

 

 

「次はお姫様抱っこしてもらいましょうか!」

 

「えっ」

「お、お姫様抱っこ!?」

 

 

 おいそんなん初めて聞いたんですけど。

 俺が聞いてたのはさっきのレッドカーペットの部分と彩と向かい合いながら手を繋いで花束かなんかを見つめ合うよくあるやつだと聞いてたんですけど。

 

 しかも彩も驚いてるってことは事務所側の仕掛けでもねぇな。

 つまりカメラマンと担当さんのシンプルアドリブ。

 やってくれるぜ、そもそも俺らカップルじゃねぇってのに……。

 

 まぁお姫様抱っこだけならお手の物だ。

 お姫様抱っこするだけやし。深い意味も何も無い。

 

 

「はい失礼」

「待っ……ひゃわっ!?」

「軽っ」

 

 

 思わず口にしちまった。

 そんなめちゃくちゃデカいウェディングドレス着てるのに軽いってどういうことだよ。絶対こいつ素の体重50kgもないだろ。

 身長が低いとはいえ心配になる。

 ちゃんと飯は食ってるのだろうか。既に細くてベストなスタイルに見えるのに無駄なダイエットは許さん。断じて。

 

 まぁ50kgを軽く感じられるのは暇な時にやってる軽い筋トレの賜物だろうな。

 蘭のパンチ対策で始めた筋トレだけど、ほんとに色んなところに生きるなぁ。

 心做しかベースの指弾きとかドラムとかもパワフルになった気がするし。

 結果的に蘭には感謝である。

 

 なお本来の目的である蘭の肩パンのダメージ軽減は相手も経験を積むせいでほぼ目的を達成してない模様。

 マジで蘭はそのうちプロボクサーにでも成れると思うんだ。

 何度でも言うけどあの美しい顔を傷つけられるのは死ぬほど嫌だから本人がそんなこと言い出したら絶対に止めるけど。

 

 

「恥ずかしい……」

「普段もっと恥ずかしいことやってるくせに何いってんだこいつ」

 

 

 彩が俺の肩あたりをぐっと掴んでそこに顔を埋めてくる。このスーツ借り物なんだからシワ作んなよ。

 こいつ普段攻めてる時は強い(強いとは言っていない)癖に受けに回るとくそ雑魚と化すよな。

 だからこそこういう時に反撃のしがいがあるというものよ。

 

 

「……で、こっからどうすればいいんだ?」

「取り敢えず回ってみてください。体ごと」

「了解です」

「えっ?マーくんちょっと待って怖……きゃああああああ!!!!!」

「おほほーい!」

 

 

 彩をお姫様抱っこしたまま右足に体重をかけてクルクル回る。

 

 はっはっはっ!くっそ楽しいこれ。肩にめっちゃ爪くい込んでるけどそれ以外は完璧である。

 普段の仕返しじゃ!存分に味わうがいい!ふはははは!!!

 やべ、目ぇ回ってくるわこれ。

 

 

「はいばっちりでーす!」

 

「うえぇ……目ぇ回った……」

「ほえぇ……マーくんどこぉ……」

 

「何やってんだあいつら」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ最後!誓いのキスの場面です!」

「えっそこも撮るんですか」

「結婚式と言えば誓いのキスだよ!なんなら今ここで強引に私の唇を奪ってくr……痛い!」

 

 

 変なことを口走りやがった口をデコピンで強引に止める。

 こいつほんとに変わらねぇ。もっかい回してやろうか。今度は足を持ってジャイアントスイングしてやる。スカートとか知ったことか。

 

 

「本当はいらn……んんっ!仲睦まじい夫婦の様を撮るには必要なんですよ!ほんとにしろと言う訳では無いですから!さぁ!やるのです!」

 

 

 今いらないって言いかけたよね?確実に本当はいらないって言いかけたよね?

 しかも俺ら夫婦じゃないしな。

 なんかブライダル雑誌担当の人が怖くなってる。

 目が血走ってる怖い怖い!

 

 

「てか神父さんとかそこら辺は……」

「残念だけど私がやるのよ?」

 

 

 声が聞こえた方を向くとそこには勝ち誇った顔の千聖さん。

 神父みたいな服を着てたのはそういう事だったのかよ。

 畜生やられた。完全に舞台は整っちまってるじゃねぇか。

 

 いや待て。

 まだ彩本人の意思の確認が取れていない。

 あるぞワンチャン本人が嫌というパターンが。

 嫌って言われたらなんか俺がダメージくらいそうだけど知ったことか。

 

 

「彩は嫌じゃないのか?」

「嫌なわけないじゃん!なんなら今からでもするよ!」

 

 

 軽くほっぺをむにゅって掴んで黙らせてやった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「浅尾愛斗さん。貴殿はこの女性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか?」

 

 

「……誓います」

 

 

 冬の昼間は雲があまりない。

 間違いなく晴天と言われる昼間の時間の教会に俺達はいる。

 季節は冬待っただ中にも関わらず結婚式場と化した教会の大きな窓からは暖かい日差しが俺たちを祝福するかのように優しく包み込んでいる。

 

 

「丸山彩さん。あなたはこの男性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか」

 

「はい、誓います」

 

 

 目の前には純白のウェディングドレスとヴェールに身を包んだ俺のよく知る顔。

 神父の仲介を得て彼女の顔に掛けられたヴェールを優しく捲りあげ、顔を近づける。

 

 この先一生を共に過ごす。彼女と誓いの……。

 

 

 

 キスをできるわけが無ぁい!これはただのブライダル雑誌の撮影なのだ。

 目標の写真ならもう撮れてるだろ。

 早くOKを出してくれとカメラマンさんの横にいる雑誌の担当の人に目で訴えかける。

 

 ……ん?なんか担当の人が口パクで言ってんな。

 なになに……?読心術は心得てないんだよ……。

 けど意外とわかるもんだな。

 

 

『は や く き す し ろ』

 

 

 ふむふむ。早くキスしろ。

 

 口パクでもわかるその言葉の羅列。

 ふざけんなァ!さっきと言ってること違ぇやんけ!キスするふりでもいいって言ってたの聴き逃してなかったぞ俺は!

 

 絶対に助けてはくれないだろうが藁にもすがる思いで神父してる千聖さんにも目で訴えかける。

 

 千聖さんも口パクでなんか言ってきたな。

 今流行ってんのか口パク読心術クイズ。

 なになに……?

 

 

『は や く き す し な さ い』

 

 

 ふむふむ。早くキスしなさい。

 

 知ってた。こいつらなんの役にもたたねぇ!

 てか俺意外とわかるもんだな。読心術のプロにもなれるかもしれねぇ。

 辞めるかやこの仕事。まぁ冗談だけど。

 

 目と鼻の先では撮影前にあんなことを言ってたのにやっぱり受け身に立つと弱くなってるのか、ガチガチに体を凍らせながら彩が唇を突き出してる。

 怖いんだったら辞めとけよな……。

 

 うーむ、やばい。これは非常にやばい。

 史上最大級のピンチかもしれん。

 

 こんな所で俺が彩の唇でも奪ってみろ。

 彩の結婚相手候補のやつが将来その雑誌やら動画やらを見つけて激怒して彩と別れるかもしれない。

 でもその程度で彩を捨てる男だったら先に俺がぶん殴ってるわ。

 いや違うそうじゃない。

 どちらにせよマジでキスはまずい。

 

 

「「「キース! キース!」」」

 

「ちょっ……みなさん!?」

 

 

 傍観席からは完全に悪ノリしてる日菜さんとおそらくなんの悪気もなく楽しそうだからという理由で参加してるであろうイヴちゃんからのキスコールが巻き起こる。

 

 おい担当さんも混ざってるやないか。

 麻弥さんは横であわあわしながら止めに入ってくれてるがありゃダメだ。

 

 

 

 よし。覚悟は決めた。

 ここまで来たら仕方ねぇよな。やるしかねぇ。

 

 

「彩。目、開けて」

「や……恥ずかしい……」

「いいから」

 

 

 いつの間にか煩かったキスコールは止み、現場に謎の緊張感が張り詰める。

 

 彩の頬に右手で優しく触れる。

 目に見えてピクンと跳ね上がりそのままプルプルと身体を震わせる彩の頬と顎下を優しく撫でる。擽ったいのか甘えてるのか、よく分からんが俺の手に顔を擦り寄せてくる。

 そんなことをしてたら緊張が溶けてきたのか、緊張しきってガチガチになってた体もいつの間にか柔らかくなり彩がうっすらと目を開ける。

 

 そんな心配そうな顔すんなよ。お前から言い出したんだろうが。

 

 

「マーくん……んっ……」

 

 

 少し涙目になりながら上目遣いで見つめてくる彩の頭を左手で少し強引に撫でてやる。

 

 はー可愛い。はーマジで可愛い。はーマジでムカつくくらい可愛い。

 

 どうなってんだこいつ。一挙手一投足が尊みに溢れている可愛いモンスターと化してる。

 こいつを襲わないだけまじで褒めて欲しい。誰か俺の事を褒めてくれ。

 

 

「マーくん」

 

 

 珍しく彩が撫でている手を止め、頭に乗せられた俺の左手を掴んで自らの胸の前に持っていき、小さな両手でぎゅっと掴む。

 真剣な眼差しで俺を見つめると、今度は逆に俺を安心させるような声色で名前を呼んでくる。

 

 こいつ俺が結構追い詰められてんの分かってんかよ。

 マジで掴みどころがないというか、俺が手網掴んでるはずが逆に手綱掴まれてたというか。

 

 相変わらずすげぇよ。やっぱり適わねぇわ。

 

 

 

「…………いいよ?」

 

 

 

 上目遣い。

 

 俺にだけ聞こえるような囁くような了承の言葉。

 

 それでも俺の手を握る力は緩めない。

 

 

 俺の理性がプッツンと切れる音が聞こえた。

 やばいやばいやばいやばいやばい。

 マジでこのままだと止まれなくなる。俺の中の男としての本能が暴れ出す。唇を奪わせろと本能が狂喜乱舞する。

 

 

「……彩」

「うん……!」

 

 

 そんな心とは裏腹に体は勝手に行動を起こしていく。

 この体言う事を聞かねぇ!

 

 彩の名前を呼び、彼女の返事を聞くや否や少しずつ顔を近づけていく。

 

 

 近い近い近い!

 本当なら顔から湯気が出て爆発しそうなほど熱くなってるはずなのに全くそんなに感じがしない。

 おいこれほんとに俺の体か!?限界突破してねぇかよ大丈夫かオイ!?

 

 ああああああああああああああああああああああああ!!!!!待って待って近い近い近ああああああああい!!!!!

 てかもう目の前やんけえええええ!!!

 

 うおあああああああああああああああああああ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふぇ?」

 

 

 ギリッギリの所で微かに残った理性を無理やり行使して顔を思いっきり左に逸らす。

 空いた右手の人差し指を彩の唇にピトッと当てる。

 

 想定してたものとは違う感覚のものが唇に当たったのを即座に感じた彩が素っ頓狂な声を上げる。

 

 ただこれで終わりではあまりにも彩が報われない。

 違う、ブライダル雑誌の撮影がこんなんではさすがに不味い。

 

 妥協案だがこれをやるしかあるまい。

 

 

 

「悪ぃ、今はまだこれで勘弁な」

 

「……ぁっ……」

 

 

 

 唇に当ててた右手の人差し指1本の形を変えて右手全体で彩の顔の顎あたりをそっと支える。

 

 

 そしてそのまま勢いに任せて彩の綺麗な左頬に軽く自分のそれを触れさせる。

 

 

 ヘタレにはこれしか出来ないんだ。

 唇じゃなけりゃ将来の旦那も文句言わねぇだろうし雑誌的にも形ではキスしてるし十分だろう。

 

 いやほんとにこれが俺には限界。てかやっちまった頬とは言えやっちまったああああああああああああああああ!!!!!

 

 先程まで何故かなんともなかった顔がやっと真っ赤に染まっていく。それと同時に俺は今やった事の重大さに顔を抑えながら。

 隣にいる彩をチラッと見ると、俺にキスされた体制からピクリとも動かずにただただ顔を真っ赤にして頭から湯気を出している。

 

 あああああああああああああああああああああああ!!!!やっちまったよどうしよう畜生があああああああああああああああ!!!!

 俺の馬鹿ああああああああぁ!!!

 キスを回避してそれで終わったのに何やってんだよォ!

 

 

 

 

 この後お互い顔を真っ赤にして頭から湯気を出し使い物にならなくなった俺と彩は無事回収され、ブライダル雑誌とふわふわ時間のMVは無事投稿。

 特にバッチリあの場面を撮りガッツリ乗せやがったブライダル雑誌は普段売れない客層からバカ売れし、Twitterやネットでは遂に夫婦への第一歩を踏み出したとか散々なことを書かれていた。

 

 俺と彩はあれから1週間もの間、顔を合わせただけでお互い顔を真っ赤にして使い物にならなくなる不治の病にかかった。

 

 ヘタレは絶対無理するもんじゃない。はっきりわかんだね。

過去のお話の書き方が地雷なので、展開は変えずに描写とか加筆修正したいんです。

  • 今のが好きなので書き直しておk
  • 昔のが好きなので書き直したらアカン

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