どうやら俺の黒歴史を美少女達に握られたらしい   作:as☆know

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厨二病の経験は無駄な所で生きたり自分にダメージを与える

 それから、あこちゃんは少しずつながら、自分が見たことを説明してくれた。最初は、あこちゃんを止めるような素振りを見せていた白金さんも、自分の言葉で何とか説明しようとするあこちゃんをみて気変わりしたのか。あこちゃんの説明に捕捉などを入れ始めてくれた。

 

 二人の話していた内容を、簡潔にまとめてみよう。

 彼女らは練習に向かう際、スーツを着た見知らぬ女性と話す友希那さんを偶々見かけた。そんな友希那さんの姿に心配をして後を付けてみると、その先のホテルでスーツ姿の女性に友希那さんがスカウトを受けていた。

 

 聞き耳を立てていたところから聞こえる限りでは、その内容は、現状友希那さんが所属しているバンド……つまり、Roseliaを切り捨てて、友希那さんだけがステージに立つ。そんな内容。

 

 んまー、あり得ない話ではないというか。現状、一番目立った存在である友希那さんを単独で引き抜きに来る人もいるのは仕方がないというか。

 だけど、友希那さんがRoseliaから抜けて一人デビューをとなると、元々Roselia全体の目標として掲げていた、コンテストに出るという目標を捨てることになるも同義。あこがあぁ言った言い方をするのも、仕方がない。

 

 俺はRoseliaの詳しい結成経緯は知らない。俺がいた頃には既にこのメンバーだったし、当然。

 だけど、短い付き合いながらも、このバンド……特に友希那さんと紗夜さんにある、異常な向上欲には目を見張るものがあった。それは違和感ではなく、バンドマンとしてそういう人物がいるのは、不思議な話では無かったから。

 

 

「……宇田川さんの言い分は分かったわ。湊さん、認識に相違はないんですか」

「……」

 

 

 友希那さんからの反応は無い。

 首を縦に振ることも、横に振ることもない。声も出ない。ただ、右腕の裾を左手で握りしめたまま、視線を落としたまま。

 そりゃあ、氷川さんなら怒るだろう。

 

「っ! ……私達とコンテストなんかに出場せずに、自分一人本番のステージに立てれば良い。そういう事ですか?」

「……! ……私っ、は……」

「否定はしないのですね……だったら……!」

「氷川さん」

「……っ」

 

 

 落ち着いた声色で、ゆっくりと氷川さんの名前を呼ぶ。

 どうどう。頭に血が上ってしまっては、言わなくてもいいことだって言ってしまう。言葉は、意外と取り返しがつかない。話し合いという場なら、尚更。

 バンドの正規メンバーではない俺が、一々こういうのに手を出すのはどうかとも思うけれども、じゃあ黙って見ているという訳にもいかない。あくまで、俺は公平に。なるべく、良い状態で話が進むようにしたいから。

 

 

「ちょ、ちょっと待ってよ! 友希那自身がそう言った訳じゃあ無いじゃん! ……友希那の言い分も、ね?」

 

 

 友希那さんはまだ、言いよどんだ言葉を最後まで吐き出せていない。

 心配そうに友希那さんを見つめているリサさんがいたたまれないが、こればかりはその場にいた当事者の話を聞くしかない。

 

 ……というか、このバンドはリサさんがいてほんとに良かったな。リサさんがいなかったら、開始3秒で即時解散しているレベルだろ。癖と我が強い二人を抱えているRoseliaにとって、気配りも目配りも効くリサさんという人物は、もしかしたら一番無くてはならない存在なんかな。

 

 

「……友希那?」

 

 

 友希那さんは……口をつぐんだまま……って、おいおいちょっと待て。そりゃあ無いぜ……! というよりも、それはいっちゃん不味いんじゃないのか?

 ここでの沈黙は、噂話に否定が出来ないという意味。即ち、噂話自体の肯定を意味する。ともすれば、今までの話は全部事実だと、仮定からもう一段化上に跳ね上がる訳で……

 

 氷川さんの目の色が変わる。口元が歪む。

 あぁ、これあかん。俺でもわかる。これあかんやつや。これほんまにあかんパターンや。もう僕じゃ止めようがない奴や。

 

 

「『私達なら、音楽の頂点を目指せる』なんて言って……『自分達の音楽を』なんてメンバーを焚き付けて……『個々のレベルアップに、私達全体を変える為に』。そう言って彼を呼びつけておいて! 結局っ、自分一人がフェスに出られれば、なんでも、誰でもよかった……そういう事じゃないですか!!!」

 

 

 いつもの落ち着いた様子での声色とは全く違う。裏返った、正真正銘の怒りに震える怒号。

 俺からの視点では、友希那さんと氷川さんの二人の向上心は凄まじかった。音楽に何かしらの大きな気持ちを懸けていた。そんなレべル。

 それなのに、友希那さんは私と全く違っていて。だなんて状況にもなれば、なんでという気持ちになるのも当たり前だ。

 いや、めっちゃ怖い。本当に、情の乗り方がとんでもない。音楽に懸けていた人の気持ちは、音楽に懸けていた同じような人にしかわからない。言葉にするなら簡単なんだろうけど、内情は言葉で言い表せないほど、重たいんだろう。

 

 

「……え? それじゃ、あこたちが集められたのって、その為だけに……?」

「あこちゃん……何もそうとは……」

 

 

 そんなヒステリックに近い衝動も、揺れ動いている心境には深く突き刺さり、更に大きく揺れ動かす。

 友希那さんが何も言わない以上、止める物も訂正するものもない。この空気を変えることも出来ず、ただただ悪化の一途をたどる。

 

 ……元々、俺がここにいる理由は単純だ。握られたくないもん握られて、半分脅しみたいな状況でここにいるだけ。今握られてる映像をばら撒かれたところで、こっちは一週間くらいダメージ食らって引きこもれば、過去の笑い話で終わるようなレベルだと気が付いたのは、コーチの話を受けたその日の夜の内。

 

 それでも、今現在に至るまで、俺がこの場でコーチング業を吐きして逃げ出していないっていうのは、それだけの理由があるんだろう。居心地が良かった。人が成長していく過程を、一番近くで見れるのが楽しかった。直接的な理由がわからないからか、他人事のように話してはいるが。

 

 俺自身の話をするなら、俺はそもそもRoseliaを強化するために呼ばれた外部の人間。彼女らとは、立場が全く違う。度を越して意気込んでいた氷川さんからしてみれば、たまったものではないんだろう。

 氷川さんの名前を出したのは、特に影響が大きいからというだけだ。他のメンバーにも、影響は出る。

 

 

「あこ達の実力を認めてくれたのも! Roseliaに全部かけるって言ったのも! みんな……嘘だったの……?」

「……」

「──っ!」

「あこちゃん……待って、どこに……!」

「ちょっ……! 二人ともっ!」

 

 

 目元を見せないようにスタジオを飛び出したあこを追うように、白金さんも走り出す。

 うーん、本当は俺もあこを追いかけた方が良いのかもしれないけど、足が動かない。まぁ、まだここにおれよと言われている気がする。

 

 ま、このバンドがここで崩れたら、それも一つの形。何、不思議な話ではない。バンドなんて方向性の違いとか言うよくわからん理由で解散しまくっているじゃないか。解散なんてよくある話だ。

 

 自分が関わっていたバンドが解散危機だというのに、よくもまぁ落ち着いていられるな、俺。これも日々、ラノベを読みまくって厨二病を極めたせいかという物か。第三者が関わっても、申し訳が無いというのもある。厨二病を高校一年生担って引きずっているのもどうなのだろう。

 こんな大事な時に、こんなしょうもないことを考えてしまっている。寧ろ、こういう状況だから、やけに落ち着いているのが正しいかもしれないけれども。

 

 

「湊さん。私は本当に貴方の信念を尊敬していました。だからこそ、私も……」

「……」

「……とても、失望したわ」

 

 

 そりゃあそうだろう。何にも言わなきゃ、そりゃあ、そう感じる。

 

 

「紗夜。お願い、少し待ってよ。友希那の話を……」

「答えないことが、最大の答えです」

「じゃあこれから先。アタシ達、どうするつもり……?」

 

 

 きっと、紗夜さんからしたら、知った事じゃないんだろう。ほら。

 

 

「貴方と湊さんは幼馴染。何も変わらないでしょうね」

 

 

 先に断っておく。俺は、超絶お節介な人間だ。

 困ってる人には手を差し伸べたくなるし、偽善ごっこ、はたまた善人ごっこだって喜んでしたくなる人間だ。

 

 完全に俺のことから視界なんて外れている間に割って入るように。組んだ足に肘を立てかけ、少し笑いながら言ってみる。

 

 

「そうじゃなくてさ。じゃあ、貴方はこの先、どうするつもりなんですか?」

 

 

 あと、なんか単純にこの人にはちょっとちょっかいかけたくなる。危ない者には触れたくなるというか、そんな感じだろうか。

 元々、人に対してあたりが強い人だなぁという印象は彼女に覚えていたが、今日には関してはこの流れになる前から様子がおかしかった。公私混同という言葉が、まるでそのまま跳ね返ってみるみたいに。あくまで妄想だけど。

 

 

「友希那さんは、元に戻る。貴方は、どうなるんでしょうかね」

 

 

 今にも刺し殺してきそうな冷たい視線が突き刺さる。震える。おー、怖え。

 間違ってたらアレだが、見ていて違和感を感じていたのは紛れもない事実。

 ただ、他人を利用していたという点には、少しばかり違和感がある。それはきっと、友希那さんと氷川さんがとても似ていたと俺が感じたから。別人というには、彼女たちの気迫の方向は、あまりにも同じすぎる。

 

 

「貴方の腹の底に蓄えてる黒いの。まだ、全部見せていないですよね」

 

 

 全ては過程。ただ、ゼロではない。

 もし、この件に限った話以外も交えているなら。もし、彼女自身も友希那さんと同じ内情を抱えていたら。Roseliaを、利用している事実があれば。

 彼女が一方的に友希那さんを罵る権利はあるか。俺の裁量では、NOだ。個人的にそう言うのは嫌いである。厨二病だからね。

 

 見せてくださいよ、それ。良い機会じゃないですか。腹の底割って。一緒にてっぺん目指すんでしょう? それなのに、隠し事はナシですよ。

 俺は目を合わせていますから。ね?

 

 

「……部外者の貴方には、関係ないわ」

「…………はー。そうですか。じゃあ、貴方の好きにした方が良いですよ」

「ちょっ、愛斗……! 紗夜も部外者って……」

 

 

 最後には、あちらから目を逸らして。

 ……なーんだ。挑発には乗らないか。やっぱり、賢いんだな。

 

 部外者、なんて言われたのは流石の高火力。ま、自分からちょっかいかけたんだから、それくらいは受け入れるよ。腹の底、見せてくれないんだったら言われ損だったけど。

 にしても、氷川さんって俺のこと嫌いなんだろうな。何でかは知らんけど、何となくわかる。オーラでわかる。雰囲気でわかる。

 

 

「私は、また時間を無駄にした事で苛立っているの。貴方の言う通り好きにさせてもらうわ」

 

 

 そう言い残して、落ち着いた様子で氷川さんも出ていく。スタジオには、これで友希那さんとリサさんと、それから部外者の俺。計三人。圧迫感の無い隙間の多い室内には、重苦しい雰囲気が漂っている。

 

 

「……友希那。ねぇ、今の話、全部本当なの……?」

 

 口を開いたのは、リサさんだった。こんな状況でも、しっかりと目を合わせて、震えながら問いかける。

 

 

「本当だったら、なに」

「なにって……このままじゃRoseliaは……! ……ほんとにこれでいいの? ねぇ、愛斗だって……!」

「俺はなんとも。俺はRoseliaのメンバーじゃない。何よりも……リーダーは、貴方ですよ」

「……」

 

 

 良いのか悪いのかは問題じゃない。そもそも、前提として、俺がどうこう言える立場じゃあない。さっきは口を出しちゃったけどね。

 薄情かもしれないが、これが当たり前だと俺は思っている。身内の問題は、周りに迷惑を掛けずに、身内の中で解決するべき。外にまで出てやるべきではないだろ。

 ……リサさんには申し訳ないけど、これは俺の中のモットーみたいなものだ。自分の決は、自分で拭かなきゃ意味がない。

 

 

「友希那……本当はメンバーに何か言いたい事があるんじゃ……」

「……! 知らないっ!」

「……友希那」

 

 

 ……あー、ここで知らないってそういう……確かに、そのパターンもあったのか。

 

 この知らないって言うのは、シラを切っているわけではないだろう。それなら、スーツの女性と会っていたって事実を否定すればいい。じゃあ、一体何? 恐らく、知らないのではなく、わからないに近いんじゃないんだろうか。

 友希那さんの詳しい事情は分からないから何とも言えないけど、やっぱり、答えは自分で見つけるしかないよ。もしくは、信頼できる人や、そうでない人。何かのきっかけをつかむしかない。

 でも、そのきっかけは俺達、外部の人間じゃ多分ダメなんだろう。きっと、貴方の目の前にいる人見たいな……

 

 

「私はっ……お父さんの為にフェスに出るの! 昔から、それだけって言ってきたでしょう!」

 

 

 おっと? あるやん、事情。申し訳なくはある。意図せず盗み聞きになってしまった。

 でも、それをなんでそれをさっき言えんかったんだ……って、俺が一々考えるのも無粋か。そんなことが分かれば、こんなこと起きてないだろうし。なんかもう、各々の事情に、また別で事情を挟んだ地獄のミルフィーユが出来そう。これもなんか前言った気がする。

 

 

「……帰るわ」

「帰ってどうするつもり?」

「フェスに向けた準備をするだけよ」

「友希那……っ!」

 

 

 二度目にはなるが、もう一度だけ言おう。俺はお節介な男だ。こういう時、人にちょっかいをかけるのが好きだ。

 このまま友希那さんを帰してもいいが、とりあえず、個人的にはこれだけは聞きたいことがある。

 

 

「Roseliaのことは、捨てるんですかー?」

 

 

 どうでもいいように。少し間延びした声で聞いてみる。そんなわけないのに。

 

 帰る姿勢を見せて、背中を向けたままの友希那さんと、立ち尽くしたままのリサさんがピクリと反応した。

 俺がこんなことを言うとは思わなかったのだろうか。冷めた人間とは言いつつ、一応そこまで冷め切っては俺もいない。厨二病とは言え人の心はある。中二の心だもん。寧ろ一番人間だ。

 

 それにさっきリサさんが質問したときの返答も、なんだかんだで流れてしまった。

 Roseliaの全てを決めかねない、大事な質問だ。これの返答次第で、全部が変わるだろう。

 

 

「……貴方には関係ないことよ」

「全くないって訳にはいかないでしょうよ。俺を雇っているのは、貴方じゃない。Roseliaです」

 

 

 友希那さんは背を向けたままだが、足は止まる。

 この質問の答えだけは、聞いておきたい。簡単に逃がしてしまっては、意味がない。

 

 

「簡単ですよ。Roseliaが無くなって、俺がクビになるかどうか。それを聞きたいんですよ。リーダー」

 

 

 友希那さんが少しだけ振り向く。目元は見えない。口角は下がったまま。口元は、動かない。

 

 

「……帰るわ」

 

 

 そのまま、こちらを振り返ることは無かった。

 

 ガチャリと、また一つ、ドアが閉まる音がする。いつもは俺を地獄に陥れる恐ろしい音だが、今は別ベクトルに冷たい。

 

 さっきよりも広くなってしまった。スタジオには二人だけ。

 ……いや、このまま帰っても良いんだけど、リサさんだけ放置って言うのは辛い。一番の被害者だろうし。

 あと、リサさんにも聞きたいことはある。俺が聞いて良い立場とはあんまり思えないけど、都合がよく関係者になってもいいだろう。だって、関係者だったもん。

 

 

「リサさん」

「……っ! ご、ごめん!」

「あー、いや……もしよければ、聞かせてもらえませんか。友希那さんと、お父さんのお話」

 

 

 手をぶんぶん振りながら謝ろうとしていたリサさんの手が、ゆっくりと下がっていく。

 隠すつもりなんかなかったんだろう。いや、隠してはいたんだろうけど、ニュアンスが違う。言う必要が無いと、そう判断していただけなのかもしれない。だって、今のリサさんの目は、少しだけ濁っているから。

 

 

「あ、嫌なら全然大丈夫です! ……ずっと気になっていただけなので、友希那さんと氷川さんが、あんなにモチベーション高くやっていた理由を……」

「あー、そっか。愛斗って、私たちが集まった経緯とか、聞いてきたことも話したことも無かったもんねー……」

「気の利かない男です」

「いやいや! そういう訳じゃないから!」

 

 

 そう言いながら、俺の腰かけていたアンプの空いたスペースに腰掛けた。ちょうど、俺とは背中合わせになる形で。

 

 

「……友希那ってさ」

 

 

 少し長く感じた数秒後、息を吸って、リサさんは話し始めてくれた。

 

 友希那さんとリサさんが、まだ小さかった頃のお話。友希那さんの、お父さんにあった出来事。そこからの、彼女がRoseliaを結成した理由。根幹にある、フェスの話。そして、今の彼女の話。

 俺はただただ、黙って聞いていた。黙っている事しか出来なかった。少しずつ、声が震えて、嗚咽も混じる彼女に対して、なんて声をかけるのかがわからなかった。自分から聞いておいて、本当にどうかと思う。

 

 

「どうしよう……このままじゃRoseliaはバラバラに……私っ、どうすれば……」

 

 

 ……自分でもどうかと思うが、リサさんがそれらを話してくれたことに、ほっとしている自分が何故かいた。あぁ、俺ってそこの信頼はされているのかなって。弱みに付け込んでいるだけにも思えるけど、勝手に都合のいい解釈をして、良いように飲み込んだ。

 

 

「アタシも友希那が幸せなら、見守ってるだけでいいって思ってた……もしかしたら間違ってるかもって……でもっ、友希那のあんな顔みたら……やっぱり、アタシが間違ってたんだって……!」

 

 

 でも、話を聞いていて分かったことがある。

 今井リサという人間は、とてつもなくお人好しで、心の底からの善人。

 湊友希那という人間もまた、とてつもなくお人好しで、ただ口下手で自分の道を見失っているだけなんだろうなと。

 

 こういう時、どうするのが正解か、俺にはわかんなかった。それでも、涙で顔をぐしゃぐしゃにして、化粧が崩れてしまったらいけないとは、何故か最初に頭に浮かんだ。気が利いているのか、今それなのか。

 ポケットに手を突っ込むと、楽器のボディを拭くためのハンカチ。勿論、まだ未使用だ。楽器だって、まだ出しっぱなし。

 

 ハンカチを渡そうと少し振り向くと、リサさんは蹲って泣いている。

 ……とてもじゃないが、とりあえず涙を拭いてとは、俺じゃあ言えない。

 少し、腹を決めよう。身を削って話してくれただから、こっちも誠意は見せるべきじゃないか。

 右手に握るハンカチは、少しだけ形が崩れていた。

 

 

「……俺の口から、無責任な励ましなんかしても、意味は無いです。だから、辛かったよね、分かるよ……なんて言葉は言えないですけど……でも、一つだけわかります」

 

 

 こういうことを言うのは苦手だってわかってる。心の奥がムズムズするし、果たしてこれであっているのかもわからない。行ってみなくちゃわからない。

 けど言わないより、100倍マシだろう。

 

 

「今は、俺がいます。だって、ここにいるのはリサさん一人だけじゃないですから。今は、それじゃ……ダメですか……?」

「っ……!」

 

 

 一瞬、顔を上げた彼女の眼は、涙で真っ赤になっていて。メイクが少し取れた顔は、不安と後悔でぐしゃぐしゃになっていて。

 それで、俺の右肩に縋るように、顔をうずめてまた泣きだした。

 

 こんな俺でも、肩や胸くらいは貸せる。それだけでも、もしかしたら何か一つは救えるかもしれない。手を出さない方が良いってわかってたって、俺の本心は解散して欲しくない一択なんだ。ポリシーに嘘ついたって、許してほしい。

 

 

「俺なんかじゃ、Roseliaの仲間にはなれないですけど」

「ううん……ううん……! みんな、みんな一緒だから……! みんなで、Roseliaだから……!」

 

 

 ハンカチを持ったままの右手と、空いたままの左手が居場所を探している。

 困ったのに、何か懐かしい気がするな。

 ……あぁ、そうか。小学校の時、先輩が全く同じように俺の方で泣いてたんだっけ。綺麗なピンク色の髪の毛を押し付けてきて、その時も俺は確か全く同じで。

 

 こうやって、右肩は動かさないようにしながら、空いた手で落ち着いてもらえるように背中をトントン叩いたり、撫でて見たりしたっけ。

 今更ながら、セクハラになりませんように。なんて願いを空にかけていると、しがみついていた右手から力が少し抜け、その代わりに重心がこちらに寄りかかってきた。

 アンプの上に座っているから危ないんだよな、とはわかっているけど、これくらい支えるのが役目。安心してくれたのかな。それなら、良かった。

 一人の女の子が抱えるには重すぎる物を背負ってきたんだろう。俺には、到底考えられもしない。それを、やっと誰かに話せたのなら、気持ちも緩むのかな。

 

 綺麗な女の人が自分の肩をキュッと握りしめながら、自分に体を預けて泣いてるなんて、そんなシチュエーションとかラノベでしか読んだこと無かった。

 現実で鉢合わせてみると、こちら側に余裕なんて一切ないもんだ。恥ずかしくて頭が爆発しそうだし、木っ端図かしくて顔が熱くなる。

 ……とりあえずリサさんが落ち着くまで。満足してくれるまでは、頑張って耐えよう。

 どうか、後で怒られませんように。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 12分38秒経った。目のやり場に困った結果、時計をガン見していた為、秒単位でわかる。あっ、もうすぐ13分な。

 

 肩にしがみついたままのリサさんは傷心の様子だが、少し落ち着いてきている。

 外面では何とも無さそうに背中を撫でているが、内心ではもうドキがムネムネの状態にある故、本心では俺的には直ぐにでも離れて頂くと、とっても助かるんだけど……自分の手でリサさんを引っぺがす勇気が俺にはない。ヘタレって言うな。根性なしって言うな。

 

 とはいえ、これ以上動かないままだとスタジオの貸し出し時間も過ぎてしまう。申し訳ねぇなとは思いつつ、リサさんの背中にあった手を肩に寄せ、トントンと軽く叩く。

 

 

「俺、間違いなんて、期限さえ守ればいつでも正せると思うんです……例えば、そう。もう何年も何年も間違え続けた事実があっても、今ならまだ間に合うって期限は、絶対に存在するんですよ。結果、それで丸く収まるのか落胆で終わるのかは、その事によると思うんですけどね」

 

 

 少しだけ顔を上げ、目線を向けてくれるリサさんに対して、ちょっとドヤ顔で人差し指をたてながら、それっぽく言ってみる。

 

 ソースはアニメやラノベやドラマ頼りの売り言葉なんだけどね。

 ……ただ、現実は小説より奇なりって言う言葉がこの世にはある。だからこそ、この世には奇跡という言葉が存在している。

 二次元の言葉や出来事が、三次元で何の役にも立たない訳では無い。現実での経験が全て無駄になることなんて、探さないと無いくらいだ。どんな経験も多少はどこかで役立つものです。15年間しか生きてないから、深い所はわからないけど。

 

 

「リサさんの言う間違いも、友希那さんの間違いも、まだ直せるはずですよ。まだ……というより、今って言った方が正しいんですかね」

「でも……Roseliaは……みんなは……」

「あー、大丈夫だと思いますよ。そこんとこ」

「え……だって……」

「だって、俺聞きましたもん、本人に。でも、言わなかったじゃないですか。クビだって。Roseliaなんてどうでもいい……なんて、微塵でも思ってたら、おまけみたいな俺に対して即刻クビ宣告するはずですよ」

 

 

 メンバーどころか、そんなおまけですらちゃんとRoseliaに関わってる人として認識していてくれたんだなぁ。なんというか、安心感。

 

 ……まぁでも、あの場で友希那さんにちゃんとクビ宣告されちゃったら、悲しくてその場で魂抜けてぶっ倒れてた自信あるわ。そのあとひと月の間、家に引きこもるまでが確定演出ね。

 

 

「ついでに氷川さんは黙ってるってことは認めるって事……ってのも、あんなもん黙秘って言えばいいですからね。あの時はまだ、整理がつかなくて言えなかった。なんて、立派な理由ですよ。ド正論で砕いちまいましょうぜ? 感情論!」

 

 

 段々とぽかんとした表情に変わっていくのを見て、ニシシと笑いかける。

 そうです。まだまだこっからです。一個だけでも隙があれば、どこからどれだけでも切り崩せる。色んな事に応用できる。鉄則なんです。

 

 

「友希那は、Roseliaを解散させたくない……」

「…………さぁ。ただ、俺が思うより、リサさんが感じてるソレの方がよっぽど正しい感覚ってのは、間違いないんじゃないですか?」

 

 

 リサさんの目の色が変わっていく。

 結局、俺がやったこととしては友希那さんと氷川さん煽って、マッチポンプでリサさん慰めるって言う、まさに中途半端な意味の分からない結果になってしまったけど。

 

 ……ちゃんと伝えたいこと伝わったかな。いやマジ、こういうのどうすればいいかわからなくて、色んな所に散らばってしまったけど。本当に慣れないことはやめた方が良いんだな。めちゃくちゃ余計な事とか言ったりやった気がするし……

 

 これは彼女達の問題だ。随分とお節介を焼いてしまったけど、結局は正規メンバーの彼女たち自身で解決してもらわないと、この先またどこかでぶつかってしまうんだろう。バンドなんて、揉めてなんぼだとは思うけどね。

 

 

「あのさ! 愛斗く……!」

「Roseliaさーん、お時間でーす……あれ? 今日はコーチさんとリサちゃんしかいないんですね?」

 

 

 飛び上がって、俺の方をがっちりと掴んだタイミングで、お時間が来たようでして。スタッフさん、良いタイミングやね。

 

 

「すいません、ギリギリまで使っちゃって。今日はみんなそれぞれバタバタしちゃってて、個別に解散してたんですよ……それじゃ! リサさん! 今日は俺はこの辺で!」

「あっ! ま、待って!」

「またなんかわかんなくなったら、話くらい聞きますから! また会える日までー!」

 

 

 このなんかエモい雰囲気はもう無理。本当にマッチポンプだから。屑通り越してド屑になってしまうから! もう僕の良心がボロボロになって再起不能になってしまうから!

 

 アンプから爆速スタートダッシュを無事成功させ、リサさんに手を振ってスタジオを飛び出す。もういや、恥ずかしい。ほんま、今まででいっちばん恥ずかしいことをしてしまった。また一つ、俺の人生が終わってしまった。

 あーあ、解散しないで欲しいなぁ。俺が変にかき乱したせいで、解散が加速したりしないよね。無いよね。変なことしてたけど、一応やれることはやったよね……?

 

 頭を抱えながら家に帰り、お風呂から上がった後でベースをスタジオに忘れたことに気が付いた。

 本当に何やっても上手くいかん……明日取りに行かなきゃなぁ。




 浅尾愛斗
 メンタルがそこそこ弱いので、帰り道死ぬほど凹んでた。

 今井リサ
 出来る女なのでバイトには無事間に合わせたけど、青葉モカには少し看破されかけた。

過去のお話の書き方が地雷なので、展開は変えずに描写とか加筆修正したいんです。

  • 今のが好きなので書き直しておk
  • 昔のが好きなので書き直したらアカン
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