原作とかに出てくる笑い担当のアホっぽいキャラにエグイ過去をもたせたらえげつなくなりそうだと思うのは俺だけだろうか…。 作:テクテク
「やっ、ポンチ揚げ食う?」
「………迅悠一…さん。…………えっと、僕に何か用ですか??」
夕焼けに染まる街を眺めていた僕へ、不意に後ろから声がかかった。僕に声をかけてきたのは自分の事を実力派エリートと自称し、それを裏付ける実力を持つS級アタッカー、迅悠一さん。
肩書きだけの僕と違う、本当の強者だ…。
つい自分に何か用があるのかと聞いてしまったが、言ってすぐにそんな訳がないと思い直す…。
彼のような人がわざわざ僕に構う必要性が、
ある訳がないからだ。
彼はよく同じような文句で人に話しかけているらしいので、きっと[本部で見たことのある顔のやつがいたから声をかけた]その程度のことなんだろう。それなのに真っ先に自分に会いに来たんじゃないかと思うだなんで、僕はまだどうにも自分の事が特別な人間だという思いを捨てきれないでいるらしい。
まったくもって愚かでおかしい。
ついつい笑ってしまいそうになる程に。
というか、実際に少し笑ってしまった。でも仕方ないじゃないか。おかしすぎるのが悪いのだ。
……あぁ、どの道僕が悪いのか…。
「んーいや、用っていうかね。少し、話そうかなと思って…さ」
驚いた。偶然なんかではなく本当にあの迅悠一が僕に用があったらしい。…いや、話そうというだけなら偶然僕がいたから話しかけただけだという可能性もなくはない。でも、それだけでも驚きだ。本当に僕に話しかけている事だけでも、特別でもなんでもない、なんの役にも立たない僕にも運というものはあるらしい。
「………君、最近ボーダーに来てないんだろ?」
思考にふけっていたせいで反応が遅れてしまった僕に、迅さんは居心地の悪そうな表情でそう続けて来た。
迅さんが言うように、僕は確かに最近ボーダーに行っていない。もう2週間になるだろうか。その理由について迅さんは聞いてきてはいないが、もしなぜかと問われても返答に困ってしまう…。
僕自身よく分かっていないのが現状なのだ。でも、そんな状況だけれどあえて僕の状態を言葉で表すならばそう、
無気力。
この一言に、尽きると思う…。
何もやる気が起きないのだ。そして、今までに一度もなった事がなかった状態でもある。
僕はいつでも自分に自信とプライドを持っていたし、すごいと思っていたし、それを周りに証明したいとも思っていた。だからこそ評価を上げようとどれだけ無謀なこともやろうとして来た。
こんな事を成功させたい。
こんな風に風になりたい。
そしてみんなの注目を浴びて尊敬されたりしたい。
そんな風に思っていた故に、僕は常に何かをしていた…ということは流石にないが、少なくともこんなに長期間にわたって何もしようと思わないなどと言うことはなかった。
もっとも、
努力が嫌いだった僕はロクに準備もせずに挑んで失敗したり、お金やコネを使って都合のいい状況を作ろうとして失敗したり、周りの力で成功しようと周りを巻き込んで失敗したりとほとんどが散々な結果になっていたので、この状態になっていなかったら何か変わったかと言われればこれと言ってないのだが。……考えたくはないがむしろ周りに迷惑をかけない分周りからすれば良い変化とすら言えるのかもしれない。
…と、それはさておきなぜ最近の僕の事を迅さんが知っているのだろうか。残念な事というか当然な事というか、当初の目的だった英雄的な活躍をしているわけでもない僕は、他のメンバーと違って日頃から目立っているわけではないので気づく人はそういないと思っていたのだが。(ただし、その場にいたらある意味注目は浴びる)
「あぁ、俺は太刀川さんと仲が良くてね。君のことはたまに聞いてたんだけど、この前彼と話しているときにその話が出て来たんだよ」
どうやら不思議そうな表情をしてしまっていたらしい僕に、迅さんが補足の説明を入れる。その話を聞いて僕は迅さんがなぜ話しかけて来たのか合点がいったのだった。
考えてみれば簡単だ。
迅さんは太刀川さんから話を聞いて僕の事を知り、僕が辞めるのではないかと危惧したのだろう。それ自体はありがちな話だ。家庭の事情や個人の問題でボーダーをやめる人は一定数いる。普通なら特段優秀というわけでもない人間がまた1人減るというだけ。
ただ、僕の場合は少し異なる。
僕はコネでここに入った。
出資と引き換えにトップの部隊にいるのだ。
そしてボーダーにはお金がかかり、その技術をお金で売ったりもしていない以上資金源は国からの補助金…というにはかなり多い金額とテレビ出演や雑誌などによる芸能活動などの収入。グッズ販売などの商業収入に、最後に民間企業などからの寄付金と言う名の出資だ。
このうち芸能活動と商業収入は残念な事にそれほど強くない。
取材のオファーがくる隊員たちにも私生活があるし、そもそもそんな為にボーダーに入ったんじゃないとオファーが来ても全く取り合わない人も多い。商業収入は確かに利益はあるが、材料費と人件費の分は当然引かなければならないし、ボーダー隊員や職員の給料、研究開発の予算、様々な補償や建物の修繕費用などを考えるととてもではないが足りない。そもそもボーダーの本分はそこではないのでノウハウがないと言うこともある。
というわけでボーダーにとって非常に大事な収入源が国からの補助金と民間からの出資になる。
そう、僕の家…というか会社などからの出資だ。そして僕の親の会社はボーダーの出資者の最大手でもある。流石に僕の親の出資がなくなっても回らないなんてことは無いだろうが、常識的に考えて余裕はあればあるほどいい。そとそも研究開発は勿論ベイルアウトの機能をつける事などでもお金がかかるボーダーでは余裕などという言葉があるのかすら怪しい。いや、有事の際のためにある程度はあるのだろうが、それは余裕ではないだろう…。
「迅さん大丈夫ですよ。僕がボーダーを辞めたとしても、それが僕の親の会社からの出資に影響することはありません」
そう、そんなことはありえない。
そもそもの話僕は最大の出資者の御曹司という立場にはあるが、別に僕がボーダーに入りたいから出資を始めたわけではない。元々出資をしていた事を利用して僕が入ったに過ぎないのだ。
もし仮によっぽど理不尽で悪い扱いを受けたのが理由ならばまだしも、そんな事とは関係なく辞めたのならばボーダーへの出資に影響を与えることは無い。
「ん?……あぁなるほど…。参ったなぁ、別にそういう理由で話しかけにきたわけではないんだけど…」
迅さんはなんだか微妙な表情をしてそういった。
その表情から本当に違うのでは無いかと言う思いが浮かぶが、だからと言って他に何か理由があるとは思えなくて信じきることもできなかった。
「……いや、でもそうか…。本当は君にボーダーに残って貰いたかったと言うのが本音だけど、それはあまりにも酷か……。……うん。いきなり話しかけてしまったことも合わせてすまなかった、忘れてくれ…」
「…待ってください。…僕に残って欲しいって……なんでですか?僕がいることで変わることなんてあるとは思いませんけど…」
本心だった。
迅さんが言った言葉は少し前の僕なら確実に舞い上がってしまうほど僕の中の英雄願望を刺激するものだった。けれど、そんな言葉を聞いても僕の心に波風一つ立つことはなくて、その代わりに浮かんだ純粋な疑問、それがそのまま口からこぼれていた。
僕がいると言うことで、一体何が変わるというのか。
明確な答えを求めた質問だったが、結局迅さんは僕の問いにはっきりとは答えてはくれなかった。ただ…少し残念そうな表情をしながら、だけどある種の確信を持った表情で、
ーー君がもしボーダーに残ってくれていたら、1番良い未来になる可能性が高かったんだよ…。
確かそんな事を言っていた…。
そして、その過程である出会いや関係は、きっと僕にとっても悪いものでは無いだろうということも。
はっきり言って、意味がわからないというのが僕の本心だった。
僕の存在がいることで未来がいい方向に進むというのも信じられないし、僕にとって良い出会いや関係とやらも、今の僕からすればとても信じられない。今の僕にとって、良い出会いも、関係も、あるとは思えなかったのだ…。
最初は僕の話を信用していない迅さんが、御曹司である僕のご機嫌とりにでまかせを言っているのではないかとすら疑ったほどだ。
そんな僕の気持ちに気付いたのだろう。迅さんは続ける。理由のわからない、少し残念そうな表情で…。
ーー信じられない?でも、ほんとなんだぜ。俺のサイドエフェクトがそう言ってる。……いや、言っていたんだ…確かに、な……
そう言って迅さんは少し疲れたように笑ってからこちらに背を向け、ゆっくりと歩き始めた。
それをただ見送ることしかできない僕の耳に、少し離れたところで立ち止まり上を向いた迅さんの声が聞こえてくる。
ーー色々考えてるかもしれないけどさ、多分そう簡単に答えなんて出ないと思うぜ…。
人生なんてそんなもんさ……。だから、少しだけアドバイスをするなら……立ち止まるな…って事だ…。
人は何をしてたって時間は流れていくんだ。だから、進むしかない……。
自分は何をしてるのか、
こんな事に意味があるのか、
本当にこれで正しいのか、
色んな悩みや不安が襲いかかってくるけどさ…それでも、人は進んでいくしかないんだよ……。
ーーそれが、
生きてる俺たちの、
するべき事なんだから…。
ーーそれは、
生きてる俺たちにしか、
できない事なんだから……。
そう言って腕を上にあげて軽く振りながらまたゆっくりと歩いて行く。
夕日に照らされるその背中に、色々な言葉が浮かんでは消えていく。
迅さんはもう随分前に見えなくなった。
僕は、夕日に照らされ真っ赤に染まる街を眺めながら考えている。
僕は迅さんの事はあまり知らない。それこそ誰でも知っているようなことしかしらない。
ただ最後の話は、きっと迅さんの生きてきた今までを経て、たどり着いた考えなんだろう。そして、きっととても大事な事なのだろう。
なら僕は今、どうするべきなのだろうか……
夕日に照らされる街の中、
僕はたった1人、
赤く輝く夕日に自身も照らされながら、
そんな事を考え続けていた……。