光と闇が沈み、灯火の星が瞬いた後のお話   作:り け ん

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マスターハンドは、いたずらをする。

「…マリオ。今回の件に関しては、本当に……」

 

「やめてくれってマスター。そう何度も謝ることはないって。過ぎたことじゃないか」

 

 

右手だけの姿でありながら、どこか厳粛で慎ましい雰囲気を醸し出している創造神に対し、マリオは対照的に柔らかな物腰で創造神…マスターハンドを制する。

もっとも、マスターハンドが厳粛で慎ましいのはいつものことだ。だが、今回に限っては特にいつもより「硬い」気がする。言葉とか、指の細かな動き方とか。

 

制されたマスターハンドは、「しかし」と中々に折れる気配がない。

 

 

「私と…クレイジーが不覚を取ったせいで、君たちファイターに多大なる心労と損害を与えてしまったと思っている。一度や二度、謝った程度では…」

 

「だー! もう大丈夫だって言ってるだろ! これ以上謝られると逆に心労と損害になり兼ねないって言ってんだ!」

 

「…む」

 

 

謝罪が逆に心労になる、という言葉が効いたのか、マスターハンドは口を閉じた。…閉じる口はないので、厳密には言葉を止めたと表現するのが正しいか。

思わず大声を出してしまったマリオは一旦呼吸を落ち着けると、目の前の創造神に対して諭すための言葉を投げかける。

 

 

「マスター。あんたが一度ファイター全員の前で謝罪した時、みんなどうだったか覚えているか? ブツブツ文句言うやつもいたっちゃいたけど、誰もあんたに対して強く怒ってたファイターなんていなかっただろ? 元々俺たちファイターは戦うためにマスターの誘いに応じて、ここまで来たんだ。戦う相手が同じファイターから『キーラ』っていう大物に変わったくらいで、怒るようなことじゃないのさ」

 

「………」

 

「そりゃあ、今回新しく『スマッシュブラザーズ』に入ってくれたデイジーとか…しずえさん、だっけ? とかはちょっと辛い経験だったかもしれないけどな。でもピーチに後で聞いたら『デイジーなら立ち直り早かったわよ。元々私より元気でお転婆ですもの』って言って笑ってたよ。しずえさんも、むらびと曰くもう元気らしいからさ」

 

 

そういって、ファイター達の住居である「ブラザーズ第二寮」の屋上を、今いる中庭から仰ぎ見る。

屋上から微かに見えるあの姿は、スマッシュブラザーズの中でもマリオと同期の最古参である星の戦士、カービィ。

それと肩を並べて立っているのは赤い服の子供…むらびと。

 

そして、その二人から少し離れた距離で立っているのは…今話題に上がっていた、しずえ。ただし、むらびとが彼女を呼ぶ時の呼称から、一部をのぞいてすっかり「しずえさん」という敬称つきの呼び名がファイターの間で浸透していた。

 

 

そのしずえさんが、一呼吸置いてクラッカーを鳴らすと、むらびととカービィが争って飛び出し、屋上から下る階段に向かって走り去っていった。

 

 

 

むらびととカービィの仲は、光の化身「キーラ」による世界掌握事件を経て、一層深まっていた。

元々魔王だろうと何だろうと(ほぼ一方的に)友達として接するような性格であるカービィであったが、偶然にもカービィが最初に解放に成功したファイターがむらびとであり、そこから二人力を合わせて長い事ファイター解放に奮闘していたとなれば、絆も深まるのも当然の帰結と言える。

 

今屋上で二人が何をやっているかも、おそらく最古参のマリオのみならず、前回までの間にスマッシュブラザーズに加わったファイター達なら皆分かるであろう。「グルメレース」である。

 

 

「グルメレース」は、カービィが行う「遊び」の一種であり、もはやスマッシュブラザーズにおける風物詩ともなっている。

道中に設置されている食べ物をより多く食べつつ、かつゴールに早く到達するのを競うという一風変わった競技であり、建物の中だろうと森だろうと街だろうと、食べ物が設置されている場所は全てがコースとなるというある意味自由すぎるレースである。

ただし、食べながら走るというのは思った以上に簡単なことではなく、これまでグルメレースの参加者といえばカービィ、デデデ、ヨッシー、パックマンしかいなかったが、今回の交流を経てむらびとがグルメレースに参戦したようである。

 

 

おそらくグルメレースのスターターとしての役割を担ったであろうしずえさんは、穏やかに笑いながら走り去っていった二人を眺めている様子が、庭にいるマスターハンドとマリオにもよく分かった。

 

屋上を見上げている様子のマスターハンドに対し、マリオはアドバイスを投げかける。

 

 

「要するに、マスターはちょっとお固く考えすぎるのさ。ほら、クレイジーみたいにもうちょっと肩の力を抜いていこうぜ。…マスター達に肩はないけど」

 

「クレイジーか……私がこう言うのも何だが、彼は少々気にしてなさすぎではないだろうか?」

 

「…や、否定できないけどさ。つまりはさ、そんな性格をちょっと見習ってもいいんじゃないかって…」

 

 

マリオが紡ごうとした言葉は、途中で遮られることになった。

森の方で、激しく鳴り響いた爆発音に。

 

 

「「………!?」」

 

 

マリオのみならず、マスターもつい指を強張らせる形で驚きを明らかにする。

森の方へ視線を向ける二人だが、二人は視界の上方で、一人のファイターの姿を捉えた。

 

 

「…ゲムヲ?」

 

 

ある意味で最も目立つ漆黒の色、平面の体を持つファイター「Mr.ゲーム&ウォッチ」が、体にパラシュートを展開しつつ上空からゆっくりと下降してきているところであった。

 

 

「Mr.ゲーム&ウォッチ、さっき森の方で起きた爆発について、何か知らないか?」

 

 

マスターハンドとマリオの目の前に降りてきたMr.ゲーム&ウォッチに、マスターが問いかける。フルネームが長いため、スマッシュブラザーズの面々はクレイジーが呼ぶ「ゲムヲ」という呼称を使い、本人もそれを受け入れているのだが、マスターハンドだけは未だフルネーム呼びを欠かさない。こういう点もマスターハンドの律儀さが表れている。

 

問われたゲムヲは、特徴的なピコピコ音を鳴らしながらもマスターハンドに一礼しつつ答える。

 

 

「はい、マスターハンド様。あの音はクレイジーハンド様によるものデス」

 

「ク、クレイジーが、か」

 

「はい、マリオさん。ただ、正確には『クレイジーハンド様とファイターの皆様の戦いによるもの』といった方が正しいデス。クッパさん、トゥーンリンクさん、ファルコさんの三名が、クレイジーハンド様の手によって頭に花を咲かされるなどのいたずら行為をされたため、怒ってクレイジーハンド様との戦闘に入ったようデス。…私は巻き込まれる前に逃げてきた次第デス」

 

「………」

 

 

マリオは、無言のまま顔をしかめた。一方マスターハンドはしばらく軽く指を折り曲げした後に、マリオに向き直って問うた。

 

 

「私も、クレイジーを見習っていたずらによるコミュニケーションを図った方が良いか?」

 

「……いや、やっぱりいい。マスターはマスターのままでいてくれ…」

 

「何の話でしょうカ?」

 

 

ゲーム&ウォッチは、ピコリと音を立てて首を傾げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

結局、ゲーム&ウォッチの意見共々「ある意味マスターとクレイジーの極端すぎる性格はある意味バランス取れてるからこのままでもいいんじゃないか」といった感じで結論は纏まった。

 

 

「…そうだ、マスター。俺、聞きたいことがあったんだ」

 

「何だ、マリオ」

 

 

改めてマスターに向き直るマリオ。傍でその話をきくゲーム&ウォッチ。

両者は既に庭にあるベンチに腰を下ろしていた。(マスターはいつも通り空中浮遊していたが)

 

 

ポカポカと日光に暖められた庭。他の客は、芝生の上で仲良く昼寝をしているソニックとピカチュウのみであった。

そんな二人を顧みながら、マリオは本題を切り出す。

 

 

「今回俺たちスマッシュブラザーズが戦った敵…『キーラ』と『ダーズ』だったか…。あいつらは…一体、どういう存在なんだって、思ってな」

 

「…ふむ。どういう……とは?」

 

「あー…いや、その…具体的に、どういうと言われると、言いづらいんだけどな…」

 

「…私も気になってましタ」

 

 

口籠るマリオをフォローするような形で、ゲーム&ウォッチもまた呟く。

 

 

「かつてのタブーも、マスターハンド様とクレイジーハンド様を直接倒すことは叶わないと分かっていたからこそ、マスターハンド様を間接的に操るように仕組み、クレイジーハンド様を別の次元へ隔離したと記憶しておりマス。しかしキーラはマスターハンド様を、ダーズはクレイジーハンド様を真っ向から打ち破った上で、ファイター達を相手取って全滅一歩手前まで追い込んだ…タブーとは比べ物にならない強さではないかと思うのデス」

 

「……」

 

「私はこの世界がマスターハンド様によって創造された時から、常にマスターハンド様の強さの片鱗を知ってますユエ…キーラという存在についてマスターハンド様が最後に我々に警告を残した際も、正直私はすぐに信ずることができなかったデス」

 

 

感情の見えにくい漆黒の体ながらも、その言葉の端々に感じるのはマスターハンドへの強い敬愛の念であった。

マスターハンドが創造したこの中央世界。スマッシュブラザーズの面々には、この多様な種族がすむ中央世界出身のファイターも存在する。

 

ファミリーコンピュータ ロボット、Wii Fitトレーナー、パックマンなど。これらの面々の中でも、最古参…それこそ「スマッシュブラザーズ」が生まれるよりも前。文字通りの最年長こそがMr.ゲーム&ウォッチであった。『影虫』という能力で自らの武装を作るその能力は、タブーに真っ先に目をつけられて洗脳された経緯を持つほどであった。

 

 

「それほどの力を持つ『光の化身』とやらは…一体どのようにして生まれた存在なのか…疑問なのデス」

 

「なるほど、な」

 

 

意を得た様子であったマスターハンドは頷くような動作をする。その時を見計らい、マリオも改めて疑問を呈する。

 

 

「マスター。あんたはかつてタブーを『偶発的に生み出してしまった亜空間の神』だと言っていたけど…まさか、キーラとダーズも…?」

 

「いや…あの二つの存在は、私の創造したものではない。……おそらく、あれらの生まれは…私やクレイジーと、同じ」

 

「…創造神である、マスターハンド様と同ジ…?」

 

 

またも電子音を響かせて首を傾けるゲーム&ウォッチに対し、マスターハンドはどこか昔を思い出すように答える。

 

 

「今までは…私を『創造神』と呼び、クレイジーを『破壊神』と呼ぶこの世界の住人を否定したことはなかった。だが、より厳密に呼称するならば、私は『創造欲の化身』。クレイジーは『破壊欲の化身』と呼ぶのが正しい」

 

 

「『化身』…」

 

呟くゲーム&ウォッチに、マスターハンドは肯定の意を示す。

 

 

「…何も、私が全ての世界の始まりではないということだ。私が初めて自らの意識を持ったその時には、既にこの宇宙にはいくつかの小さい次元が存在していた」

 

「私は…既に存在していた次元に住むの知的生命体が持つ『創造欲』…それが偶発的に意志を持った存在に、他ならない。…少なくとも、私はそう自らを認識し、定義している」

 

「マスターを生んだのは…欲望だっていうのか?」

 

 

マリオの声色は、到底信用し難いという感情が微かながらに込められていた。

マスターハンドはそれを知ってかしらずか、話を続ける。

 

 

「世界によっては『思う念力岩をも通す』という言葉もある。また、別の世界では人々の思いによって意志が宿る存在というのも観測されている。人が何かを考え、願うというエネルギーは侮れないほどの力を秘めている。…無論、私にも観測できないような上位の神が知らぬうちに私を創造した、などと考えればキリがないが…」

 

「では…クレイジーハンド様モ…?」

 

 

ゲーム&ウォッチの疑問に、マスターハンドは遠くの森、未だ賑やかな音が鳴り響く方角の方に手のひらを向けて、答えた。

 

 

「そうだな。あいつも私と全く同じ瞬間に生まれたが…あいつに至っては、ひょっとしたら私と同じように全くの偶発性から生まれたのではなく、私の存在に呼応する形で現れたのかもしれない」

 

「どういうことだ?」

 

 

首をひねるマリオに対し、マスターハンドは今までとは違い少し控えめな声質で話す。

 

 

「…つまり、私達両手はお互いに親和性が高すぎるのだ。私が限りなく創造し続けるだけでは、やがてこの多次元宇宙の容量を超えてしまう。私の創造においては、対極の『破壊』を円滑に行い、より高度な創造性を生み出す手助けをしてくれる存在が必要であったからだと、私は推測している。このような推測をクレイジーにいうと、彼は怒ってしまうだろうから、あまり言い触らすような事ではないが…」

 

「あー…」

 

「そうですネ」

 

 

マリオとゲーム&ウォッチは納得したような声を出す。ちょっと気に食わないことがあるとマスターハンドにも突っかかろうとするクレイジーハンドなら、「マスターハンドを手助けするためにクレイジーハンドが生まれた」なんて言おうものなら怒り出す様子が目に浮かぶ。

 

 

「それにしても…マスターやクレイジーと同じ『化身』…にしては、キーラもダーズも色々と違いすぎないか? そりゃキーラとダーズはそれぞれ似てはいるけど、どっちも言葉を喋らないし、何か感じてるのかも分からないまま、ただこっちに攻撃を仕掛けてくるだけだしなあ」

 

「ふむ…おそらく彼らが『何の』化身であったかを考えれば、それもまた推測が可能となる」

 

「…『光』と『闇』」

 

 

ゲーム&ウォッチの指摘に、マスターハンドは頷く。

 

 

「偶発的に生まれた化身という性質以外に目を向ければ、キーラとダーズという存在は我々とは大きく異なる存在だ。我々両手が『欲』という意志から具現化したのに対し、彼らは『光』と『闇』という現象からその身を顕現させた存在だ。かたや人の意志。かたや自然の現象。私がこうして意思疎通を可能とし、かつ理性を持って創造を行えるのも、『人の意志から生まれた』という差異があるからかも知れない。…その代わり、化身としての力は人の意志よりも自然の方が強いのか…私もクレイジーも、手も足も出なかったわけだが……」

 

「だけど。じゃあなぜ…光と闇の化身が、俺たちファイターやマスター達を襲い始めたんだ? …マスター達みたいな意志じゃなくて、単なる自然の現象から生まれた…化身が」

 

「…確かに、『光』と『闇』という成り立ちを考えると、生まれた当初は意志を持っていなかっただろう。だが…この宇宙を漂っているうちに『意志』の方が後から偶発的に生まれたとしたら?」

 

 

マリオの疑問に対する、マスターハンドの答え。それを聞いた二人のファイターは、思わずお互い顔を見合わせた。

 

 

「どうやって意志が生まれたかは…これも推測だが、二つ可能性を考えられる。一つは、私達の生まれと同じく『人の意志』に影響されたか。そしてもう一つは、対となる『化身』の存在による影響」

 

「…一つ目はまだわかるけど、二つ目のはどういうことだ?」

 

「聞くところによると...キーラとダーズは、ファイター達よりもお互いそのものを攻撃し合っていたそうだな」

 

「…ハイ」

 

 

ゲーム&ウォッチの肯定の言葉。それを受けてマリオも思い出した。

あの二つの化身を倒すための最終決戦。確かにあの化身二人は明らかにファイター達よりも対となる化身を執拗につけ狙った攻撃を行なっていた。

その攻撃の威力が凄まじく、両化身を攻撃していたファイター達もその余波を受けて非常に苦戦した。最終的に二つの化身を倒すことを成し遂げたのは、お互いがお互いを攻撃して消耗していたという事実が大きいのは疑う余地もない。

 

もしも…二つの化身が全力でファイター達のみを攻撃しにかかっていたら…果たして、勝てただろうか。

 

 

「『創造』は『破壊』に助けられ、また『破壊』も『創造』で補われるという相互関係とは違い、『光』と『闇』は相入れることはない。『光』に『闇』はなく、『闇』に『光』はない。初めから意志を持って相互的に協力し合った我々両手と違い、お互い『光』と『闇』で対抗し合うために意志が生まれ…その意志を達成するための戦力として、我々が狙われた…そういうことではないだろうか」

 

 

「なるほど、なあ……。つまり…まあ結局は、壮絶な『兄弟喧嘩』ってとこか」

 

「マリオさん、結局そんな結論で締めちゃうんですカ…?」

 

 

ゲーム&ウォッチがマリオを顧りみると、マリオの瞳の焦点が少々ぼやけてきている、と思った瞬間マリオがあくびをした。

どうやら、ちょっと難しい話をされて眠気が襲ってきたようだ。

 

 

「いや、なんていうか…マスターに色々教わって、考えてみたのはいいんだけど…やっぱり俺って、頭良くないからさ。人の意志とかってすげーなって感じるのが精一杯でさ」

 

「………」

 

「いや、その程度の認識でいい」

 

 

呆れ気味のゲーム&ウォッチに対して、マスターは至極真面目にマリオに応えた。

 

 

「深く考える必要もあるまい。所詮は全て私の推測に過ぎん。この推測について議論するのは、暇つぶしにこそなれ、さほど真剣になるほどの事でもない」

 

「そうだなー。あ、でもさ。俺は今の話を聞いて、一つ言いたいことができたよ」

 

「…ふむ?」

 

 

よいしょっとベンチから降りたマリオは、少し芝居かかった動作でビシリとマスターハンドを指差した。

 

 

「やっぱ、兄弟喧嘩は周りにも迷惑だってことだ! だからさ、マスターも今後兄弟喧嘩なんてして、俺たちスマッシュブラザーズに迷惑かけるような事しちゃダメだぞ」

 

「マリオさん。マスターハンド様とクレイジーハンド様は、兄弟で喧嘩なんてしませんヨ…」

 

 

長年二人を見続けてきたゲーム&ウォッチは呆れたようにマリオを制すが、マスターハンドはあくまで真面目であった。

 

 

「ふむ…兄弟喧嘩を起こさないために、か…何をするのがいいだろうか」

 

「そうだなあ…やっぱり、クレイジーハンドのことをもっとよく理解する事じゃないか? 例えば、クレイジーのいたずらを真似してみるとか!」

 

「あれマリオさん、さっきと言ってる事逆じゃないですカ」

 

「いやもちろん、クレイジーみたいにあんまりみんなを怒らせるようなやつじゃなくてだな…。もうちょっとみんなで笑えるような、さ」

 

「……」

 

 

マリオのアドバイスに、マスターハンドは一分ほど、沈思黙考する。

 

 

「そういえば…そろそろ昼食の時間か」

 

「「?」」

 

 

突如、いたずらとは無縁そうな言葉を呟いたマスターハンドに、揃って首をかしげるマリオとゲーム&ウォッチ。

だがその瞬間、マスターの手の平の上に創造されたのは…大量の『キノコ』であった。

 

 

「…キノコ?」

 

「では…いたずらとやらを、してくるとしよう」

 

 

手元の大量のキノコを握り潰さないよう優しく包みながら、瞬間移動してこの場から消えたマスターハンド。

未だ意味が分からなかったゲーム&ウォッチだったが…キノコ王国出身であるマリオだけは、全てを理解して固まった。

 

 

「一体…なんなのでしょうカ」

 

「…あの、キノコ……」

 

「…エ?」

 

「あれ…『ワライダケ』だ。しかも…色合いを見る限り、成熟して…相当効果が高いやつだぞ…」

 

「………」

 

「………」

 

「物理的に、笑わせるという事ですカ……マスターハンド様ハ…」

 

 

マリオとゲーム&ウォッチは、暫し無言になった後。互いに顔を見合わせた。

 

 

「…マリオさん」

 

「なんだ、ゲムヲ」

 

「街の西に、最近のファイター達の文化を取り入れたという、新しい料理屋ができたそうデス…一緒に食べに行きませんカ?」

 

「奇遇だな。俺も今日だけはなんだかとてつもなく、外食したい気分だったんだ」

 

 

マリオとMr.ゲーム&ウォッチという、奇妙な二人組は揃って下町へと繰り出す事になった。

後に、素で忘れていたためにルイージやピーチなどの面々に、過呼吸で息苦しい表情のまま睨まれる事になったマリオであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マスターハンドは、最後まで言い出すことができなかった。

 

今回の騒動…その根本的な原因は、『クレイジーハンドとの兄弟喧嘩』であったこと。

 

 

度重なるクレイジーハンドのいたずらに対し、マスターハンドは根気強い注意を行なっていたものの、ファイターが自分のいたずらに構ってくれるのが余程嬉しいのか、改善する兆しがなかった。

 

そこでマスターハンドが思わず呟いてしまった一言が、クレイジーハンドが出奔する原因となった。

 

 

『これ以上のいたずらでファイター達を刺激するようであれば、大乱闘の運営にも支障が出かねない。円滑な運営のために、一度お前にはこの世界を出ていってもらう必要があるかもしれない』

 

 

マスターハンドとしては可能性を示唆しただけであったが、頭に血が上ったクレイジーハンドはそのまま世界の壁を破壊し、どこかへ去って行ってしまったのだ。

 

その時、すぐさまクレイジーハンドが破壊した後を追うのではなく、世界の維持に支障が出ないように穴を塞ぐことを優先したマスターハンドは、後にその行為を悔いた。なぜなら、出奔したクレイジーハンドが何者か_つまりは闇の化身『ダーズ』にスピリットとして囚われ、コピーを生むための土台と化してしまっていたからだ。

 

 

「化身としての力は人の意志よりも自然の方が強い」とマスターハンドは述べたが、彼ら両手は、自らのホームグラウンドであるこの中央世界を離れただけで、総合的な戦闘力は半分以下に凋落する。万全な状態で戦えるこの世界に立て籠もっているうちは、キーラもダーズも手出しはできなかったはずなのだ。

 

何者かにクレイジーハンドが囚われたことを察したマスターハンドは、焦りから単独でその正体を探りにいくも…ダーズに遅れを取るまいと機会を伺っていた真逆の存在…光の化身『キーラ』によって、マスターハンドもまた、囚われていたのだ。

 

囚われる直前にスマッシュブラザーズの面々に警告を飛ばすシステムを創造しておいたことで、ファイター達は来たる戦いを察知し、キーラが生み出したマスターハンドのコピー体に対して勇敢に戦い続けていた。一度は全滅近くまで追い込まれるものの、星の戦士_カービィ一人が生き残っていたおかげで、最終的にマスターハンドとクレイジーハンドは解放され、キーラとダーズも倒すことができた。

 

 

 

だが…両手の過失によって、ファイター達が苦難する事になった事実は変わらない。

だから、何度も何度もマスターハンドは皆に謝罪をして回っていた。

 

喧嘩別れした詳細について説明しなかったのは…言い出すのが憚られたという人間らしい感情に起因する他、クレイジーハンドの精神の安定のため、という理由もあった。

 

 

「マスター…ごめんな。本当に」

 

 

解放されたクレイジーハンドがマスターハンドに放った言葉は、気の遠くなるような長い年月共にいたマスターハンドでさえも聞いたことのない言葉で…同時に、強くしょぼくれていた。

クレイジーハンドは、普段人を積極的にいじるドSな代わりに、打たれ弱い部分が多々あった。殆どのファイターは、そんなことを言っても信じないであろうが、クレイジーハンドが心から悔いるような状態になると…非常に脆くなる。様々な意味で。

 

そんな彼の状態が皆から責められることがあれば、クレイジーハンドはその名前の通り『狂って』しまうこともあり得る。だからこそクレイジーハンドが責められることのないように、マスターハンドは詳細を伏せて自身がひたすらに謝罪するようにした。

 

正直、今暴れるような元気がある状態になった事には、マスターハンドは心底ホッとしていた。昔であれば速攻で止めにかかって注意していたはずだが、今暴れているのが一般の住人に損害の及ばない森である事を考慮に入れて、止めるようなことはしない事にした。

 

 

そして今、マリオから提案された「クレイジーハンドのことをもっとよく理解すること」について、マスターハンドが真面目に考えたのも、この出来事がきっかけであった。

 

 

今までは、『創造』と『破壊』の行為を通じて、互いに助け合う関係であったが。

これからは、『マスターハンド』と『クレイジーハンド』同士で、歩み寄るために。

 

 

マスターハンドは、いたずらをする。

クレイジーハンドが何をするかは…まだ、誰も知らない。




基本的にこの一話で完結です。
スマブラの小話が書きたくなったらまたお目にかかることがあるかもしれません。
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