個性:梁山泊   作:ルーニー

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修行

「…………」

 

「…………」

 

死体が増えた。いや、死体といえば物騒だけど、朝礼もまだ始まる前だというのにすでに机に伏せている男子が2人いた。今まで1人だったのに、休日が明けたら2人に増えていたんだから驚きもするだろう。

 

「……ちょっと、切島。大丈夫なの?」

 

1人はいつものことだが、もう1人はこうなること自体が珍しい。いつも元気そうにしているというのに、どうして今日はこんなにもぐったりとしているのか、女子生徒は不安そうに肩をたたく。

 

「お、おう。あんま触らないでくれ。筋肉痛が……」

 

「筋肉痛?」

 

妙なこともあるもんだ、と女子生徒は思った。目の前の少年はもう片方の死んでるのより細いが、それでも筋肉は十分についている。日々トレーニングを欠かさずに行っていることも聞いていたが、この状態からさらに筋肉痛が出るなんて、よっぽど鍛えなければ出ないはずだ。

 

「筋肉痛って何したの?」

 

「……修業したらこのザマだよ。鍛え方足んねぇのかなぁ」

 

修業。男らしさを追及しているならそういうことをしていてもおかしくないが、ここまで精魂尽きるほどまでするのが普通なのだろうか。

きっかけ自体は女子生徒には覚えがあった。かつて同級生が大男に絡まれていた時、自分が動かなきゃダメだったと嘆いていたことは知っていた。後日にそれについての謝罪を受けていたからその胸中は少なくとも知ってはいるつもりだった。

おそらくその時から鍛えようと思っていたのだろう。しかし、たった数日でここまでの状態に普通はならないだろう。このままだと体を壊すんじゃないかと心配になる女子生徒だったが、自分の後ろから大きな影が差してきたことに気付いた。

 

「切島、今日は岬越寺師匠のところで検査受けろだとさ。大丈夫だとは思うが、念のため体の状態を確認しておきたいんだと」

 

「おう、わかった」

 

返事を聞いたことで用事は終わったのか、痛い痛いとうめきながら教室を出ていくケンジ。中学生だというのに、すでに180を越した身長に服の上からでもわかるほどに盛り上がった筋肉。顔自体は厳つくはないけど獰猛な雰囲気というか、何がと言われたらわからないけど怖い雰囲気が漂っているせいでほとんどの人が寄り付かない。悪い人ではない。切島と意気投合しているのを見るにもっと気持ちのいい人なのかもしれない。でも、あの雰囲気だけは絶対にない。本当に中学生なのか?あれで『無個性』だなんて絶対に嘘ついているでしょ、と思っているのはこの女子生徒だけではなかったのは蛇足だろう。

 

「……あれ?」

 

驚きで若干の思考停止状態となっていた女子生徒だったが、教室から出ていったことでふとさっきの会話で気になる言葉があったことに気が付いた。

 

「ねぇ、さっきのってどういうこと?」

 

「……何が?」

 

「いや、さっきなんとかって師匠に体を見てもらうようにって言ってたからなんでなのかなぁと思って。もしかしてそれ筋肉痛じゃないとか?」

 

「いや、そういうのじゃない。あいつと同じ場所で体を鍛えてるってだけだよ」

 

あいつと同じ場所で。ということはつまり毎朝見かけるような大量のタイヤにチョビ髭のおじさんと石でできたお地蔵様を乗せて走り回るような場所で体を鍛えているということだろうか。

 

「それ、生きて帰ってこられるの?」

 

「否定しにくい質問するなよ……。いやあいつよりかはマシなんだけどよ……」

 

そうして口から出される修業の数々は、もはや拷問と言っても過言ではない、というか拷問だろと声を大にして言いたい内容ばかりだった。スポ根漫画以上の走り込みから始まり、足をくくって燃え盛る火を避けるように前後に体を振り子のように振ったりハムスターが使うような車輪を電気に当たらないように走り続けたり電気が走ってる木でできた等身大人形を起き上がる前に殴り倒し続けたり師匠たちとの組手で何度も倒されたりと、聞けば聞くほど涙が出そうな修業内容に思わず同情すら覚えるほどだった。

 

「……そりゃ、あぁなるよね。うん」

 

「俺がやってるのはあいつの半分以下なんだが、それでもかなりキチィんだよ。さすが5年もあんな修業してるだけはあるぜ」

 

「うん。それはあの体を見てたらわかる」

 

むしろあそこまで鍛えているのに細いままだったらそれはそれでかわいそうな気もしなくはない。いや、修業とは言え、人権?なにそれおいしいの?と素面で言っているようなことをやっているだけでもおかしいとは思うが。

 

「……まぁ、体壊さないようには気を付けなよ」

 

「おう。まぁ、あの人たちなら大丈夫だとは思うけどな」

 

ギチギチと体を動かす切島の表情は、以前のようにどこか追い詰めているようなものではなかったことにホッとする女子生徒だった。

 

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