個性:梁山泊   作:ルーニー

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コソーリ コソーリ バレテナーイ バレテナーイ




さて。わが友が同じ地獄、もとい道場へ弟子入りしてから早くも数か月が経った。いかに体を鍛えているとはいえ、武術に関しては全くの素人であった友人は、畳に寝ころんでいた。

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

「ふぅむ。どうしても個性に頼りがちな行動に出てしまうようだね」

 

苦しそうに眼を閉じ、肩から呼吸をして、しゃべることすらできていないその様子に、しかしそうした張本人である岬越寺師匠は、手を顎に置いて思案するように少し首を傾げている。

 

「体を硬化させることができるということは武術において悪いことではない。しかし、君の場合は全身を力ませることで硬くしているから体が動きにくくなっている。これは武術では致命的だ」

 

体が硬くても許容範囲を超えた、それこそ達人級はおろか妙手の攻撃が直撃すればダメージは受ける。というか達人級からすれば硬さなんてあって無いに等しいものだ。もちろん硬いこと自体に悪いということはないが、武術の世界からすれば受けられる恩恵は少なかったりする。

 

「だから、必要最低限”個性”を使わないように徹底的に体に覚えさせるのがいいようだねぇ」

 

ヒクリと、友人の頬が引きつるのが見えたような気がした。心なしか岬越寺師匠の目が怪光線を発しているようにも見えたのは、気のせいではないのかもしれない。

 

「疲労がたまって力が入らない今だからこそ、君にとってもいい修行になる」

 

だから。さぁ、早く立ちたまえ。

言葉には出していないが、雰囲気がそう語っている。悟ったかのような表情を浮かべ、力の入らない全身を震わせて必死になって立ち上がった。

 

「よろしく、おねがいしますっ!」

 

「ふむ。威勢はよし!」

 

畳に体が叩きつけられる、もはや聞きなれた音が室内に響き渡る。投げ飛ばされた友人は意識はあるのだがもはや起き上がることすら困難なのかフラフラと立ち上がり、また投げられる。

 

「……はたから見たら拷問だなあれ」

 

必死な形相で投げられては立ち上がり、投げられては立ち上がる組手を続ける友人に、自分もあれをやっているんだという事実に頬がひきつる。自分でやられていることに何か思うことがないわけではないのだが、こう客観的に物事をとらえてみると中々来るものがある。

 

「よそ見しているなんて余裕あるね。もっとキツくしてもよかったね?」

 

「ごめんなさいこれ以上は無理です勘弁してください」

 

そういう自分も、馬師父との組手で体力の限界まで搾り取られて倒れているところだ。慣れている分、まだ喋れてるだけあっちよりもマシではあるが、立ち上がることもままならず全身が酸素を欲しているのに呼吸だけでは賄えないと言わんばかりに荒い呼吸をしている。

 

「まったく。試験も近いというのに、このままだと実技試験も落ちてしまうね」

 

「こんな試験だったら誰も受からないと思うんですけど」

 

実際師匠たちとの組手が試験だった場合、ほとんどの人が何もできずに帰っていくのが目に見える。弟子級だったとはいえ、あのケンイチさんと美羽さんがやっとの思いでクリアした長老の0.0002%組手なんてやったら誰も残れないんじゃないんだろうか。

 

「というか、雄英高校の実技はヒーロー科というだけあって救助の方法とかを見るんじゃないんですかね?」

 

「荒事も引き受けている職業を目指す学科なのにそれだけで終わるはずないね」

 

馬師父の言葉に、それもそうかと納得の言葉が出る。そもそもの話職業としてのヒーローとは、救助活動もそうなのだが、大体の子どもがあこがれているのは(ヴィラン)を倒す正義(ヒーロー)の図だ。それをメインにしているヒーローもいることは事実なのだから、戦闘力が高いことは決して悪いことではない。

 

「……馬師父、俺の動の気、どうすればいいんですかね」

 

寝ころんだ状態からやっとのことで座り込むことができた、というだらしない恰好ではあるが、口に出したそれは心の底からの声だった。戦闘、という点では自信がないわけではない。しかし、暴走する動の気という地雷を持っている身としては心の底からどうすればいいものかわからない。馬師父は静の気を扱う達人ではあるが、あらゆる中国拳法の使い手とすら呼ばれている師父に、何度したかわからない質問をする。

 

「どうすればいいか。難しい質問ね。おいちゃんもいろんな人を見てきたけど、ここまで制御ができない動の気の持ち主は久しぶりね」

 

少し後悔するような表情で深く息を吐く師父。その表情からその人がどうなったのか察することはできなかったが、よろしくない方向へと転がっていったという考えは、おそらく間違ってはいないだろう。

 

「まぁ、安心するね。ここにいるのはおいちゃんだけじゃない。逆鬼どんに秋雨どん、アパチャイにしぐれどん、ケンちゃんに美羽、そしてなにより長老もいるね。大船に乗った気分で修行するといいね」

 

こちらを安心させるように強くうなずいた馬師父。確かにここには会おうと思って会えるものではない達人級、果てには超人すらいる梁山泊にいることができているのだから考えるほどの問題ではないのだろう。というより、どうすればいいのか考えられるほど知識がないというのもあるから考えるだけ無駄な気もしなくはない。

 

「さて。休憩もいい具合にできただろうし、組手の続きでも始めるね」

 

帽子を直し、にこやかにそう告げる馬師父。それに俺はあいまいな笑みを浮かべてただこれだけを伝えた。

 

「馬師父、もうちょっと休憩時間ください」

 

「疲れ切っている時だからこそつかめる力というものもあるね。だから早く立ちあがるね」

 

ダメだったちくしょう。

 

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