個性:梁山泊 作:ルーニー
|ω`)ノ~【次話】ポイッ
|ミササッ
|バレテナーイバレテナーイ
畳の広い部屋の中。その中に柔道着の中に鎖帷子を着込み、カンフーパンツをはいた全く同じ格好をした男が2人、柔道着を着た男性を挟むように向かい合っていた。
「それでは、これから組手を始める。この組手ではケンジ君は気の開放をするように。大丈夫。万が一の時には我々が止める」
その言葉を聞いたケンジの雰囲気が変わった。先ほどまでの静かな空気は消え、代わりに獰猛さがケンジから発せられているように塗りつぶされていく。
そのあまりの変わりように見学していた切島は驚きで表情を変えた。学校でも独特すぎる雰囲気のせいでほかのクラスメイトからも敬遠されているが、今のケンジはそれ以上に近寄りがたいものがあると感じていた。
その一方で師であるケンイチはケンジとは真逆だった。ケンイチは気配を自然に流しているかのような、まるで川の流れのように穏やかで静かだった。
「……行きます!」
ケンジのその声がスタートとなり、ケンジがコマ送りをしたかと思うほどに素早くケンイチへと近づき、渾身の蹴りをケンイチへ叩き込んだ。
「カァッ!」
拳、足、手刀、足刀、肘、膝。師匠たちに教わったありとあらゆる技をケンイチに叩き込んでいくが、どれも紙一重でいなされ、かわされ、受け止められる。まるで水にでも殴りかかっているかのように手ごたえらしい手ごたえはない。しかし、そんな中であってもケンジにあったのは歓喜だった。
あこがれの人が強い。その事実は師弟となった者、あるいは憧れがある者からすれば喜びに等しいものだと、改めてケンジは感じた。だから、ぶつけていく。自分の出せる全力をもって、目の前の巨大な壁にぶつかっていく。
「ふむ。まだ動の気を完全には開放しきれないとはいえ、まずまずのようだね」
「へっ。まだまだ甘いがな。なんだあの猛羅総拳突きは。全然なってねぇじゃねぇか」
「そんな嬉しそうな表情で言っても説得力ないね逆鬼どん」
「アパ!ティー・ソーク・トロンはもっと鋭くするよ!」
「……いつか剣術も教える……ぞ」
「まだあきらめてなかったのですのね……」
組手の様子に一様に反応を出す師匠たちだったが、組手の様子を見ていた切島はただ茫然として見ていることしかできなかった。
「……すごい」
嵐のような攻防を目の当たりにした切島は、自分があそこに行くことができるのかという不安がよぎる。
「鋭児郎くんや」
その不安も読み取ったのか、長老が切島に声をかける。
「この組手はいつか君も訪れる道じゃ。君には才能がある。しかし、同時に彼にも才能がある。君が進めば彼はもっと先に進んでいる。それが君と彼の打ち込んできた時間の差じゃ。じゃが、これだけは忘れてはならんぞ。君が通る道は彼らが通ってきた道じゃ」
「……はい」
肩を叩かれ、目の前の組手を目に焼き付けるようにじっと見つめる。羨望もあったが、同時に自分もあそこに立ち、自分の憧れの人に近づくんだという決意を改にした。
一方で、ケンジと組手を行っているケンイチは、目の前の少年に対して自分にはない才能を称賛していた。
自分とは違って才能がある。師匠たちからそういわれ続けて、現に自分ではありえなかったほどに凄まじい速度で成長している。……もっとも、自分が妙手だったときから同じ修業をしてきたせいか本人はあまり自覚がないみたいだが。かつて自分が通ってきた道とはいえ、自分の弟弟子であり弟子でもある彼に羨ましいとすら感じる。
「……さすがです、ケンイチさん」
お互いの制空圏から離れた場所でケンジは肩で息をしながら称賛する。しかし、一方のケンイチは息を切らせている様子はなく、むしろ体が温まってきたという程度。才能があろうがなかろうが、弟子級と達人級の差というのはそれほどの差があるというのを、ケンジは改めて感じた。
「君のほうがすごいよ。やっぱり僕とは違って才能があるんだって思う」
「……こうもあっさりとあしらわれてたら皮肉にしか聞こえないですけどね」
ケンイチの言葉は本心からの言葉だろう。確かに今の状況は
「……っ!」
見たことのない、感じたことのない威圧感を受けた切島は息が詰まった。クラスメイトの見たこともない様子に恐れすら感じたが、周りの人たちは慣れているのか特に反応もなく観戦を続けていた。
「イきまス!」
先ほどよりも鈍く、しかし強い音が室内に響いた。
「ガアアアアアアア!」
先ほどよりもさらに激しい、弟子級ではとてもさばききれないほどの猛攻がケンイチを襲う。上から、下から、右から左から正面から後ろから手刀拳足膝肘腰胸投げありとあらゆる方向ありとあらゆる技からの猛攻は、しかし達人級へとなったケンイチにとっては余裕をもって受け流せる程度のものだった。
ケンジが攻めてケンイチが受け流すしばらくそれが続いていた中、ケンジの目が倒す、という意思がいつしか殺す、という危険な光へと変化していき、ケンイチを見た。
「っ!」
それを見たケンイチは即座にケンジの腕をつかみ床にたたきつける。ケンジもすぐに体制を整えようと動くが、即座に動けないように抑え込まれて動くことができない。
獣の唸るような声がしばらく室内に響いたが、しばらくすると唸り声も収まっていき、荒かった呼吸が整いつつあった。
「……すいません。またやってしまいました」
「大丈夫だよ。けど、まだ動の気は暴走するみたいだね」
ケンイチの言葉にケンジの表情が落ちる。修業で使って慣らしていく必要があるが、ケンジの場合は動の気を使うと暴走してしまうことが多々ある。
ケンジとて努力をしていないわけではない。むしろ動の気を扱う逆鬼やアパチャイに熱心に指導してもらっているほどに克服しようと必死に努力している。しかし、そうであってもマシになりつつあるという状況になっていくだけで、完全に制御ができると言えるようになるのがいつになるのか、本人にはわからなかった。
畳の上で少し呆然としながら寝そべっていると、組手を終えたことで審判をしていた岬越寺が少し渋いような表情をしていた。
「君は動の気が常人よりも濃く出る人間だ。はっきり言ってこれは才能だ。完全に動の気を開放し、掌握すれば妙手の中でも達人に近い能力にはなるだろう。しかし、あくまで能力だけであり技術や心は今のままだから妙手が相手でも負けるだろう。なにより、動の気を使いこなせないのなら宝の持ち腐れだ」
言い聞かせるように言った言葉はケンジも分かっていることだ。師匠全員から何度も言われているが、わかっていることなのだがどうしても改善することができない。自分でもどうすればいいのかわからないというのがケンジの正直な思いだった。
同時に、ケンイチの脳裏に浮かぶのはまだ弟子となって1年も経っていない時に出会った、緒方の弟子育成プログラムの1つであったラグナレクにいたバーサーカーと呼ばれていた男。彼は動の気がありすぎて開放してしまうと理性がほとんど働かなくなってしまうほどだった。ケンジはまさにそれに近い状態にあるのだが、決定的な違いは彼の在り方と動の気の量にあった。
「確かに動の気は扱いが難しい。扱いを間違えると理性を失い、ただ破壊を求めるだけの獣になってしまう。そんなことを我々が見逃すはずもなく、君もそれをわかっているのは承知の上だ。しかし、これだけは耳にタコができようとも言い続けなければならない。君のそれは、容易に人を捨て去ることのできる危険な爆弾であると」
バーサーカーとは違い、ケンジは活人拳。倒すことはしても殺人拳のように人を殺すことを是としない一派だ。そうでなければ梁山泊にいることはできない。
しかし、それをすべて台無しにしてしまうのがケンジの持つバーサーカーすら超える動の気の量だ。完全開放をしなくても、ある一定のところまで動の気を開放してしまえばあとは総崩れ。かつて梁山泊に弟子入りしようとし、一影九拳に所属している緒方一神斎のように修羅道に落ちるわけではないが、理性を失った獣になってしまう。
今でこそ梁山泊の特A級の達人たち、そして達人の上に存在する超人に修行を見てもらっている。こんな人たちに見てもらえること自体すべての運を使い切ったといっても過言ではないほどの幸運、修業内容のことはさておき、であるのは間違いない。このまま出会うことがなければそうなっていた可能性が大いにあった。
「しかし、同時に君の動の気の制御は妙手へと至るための必要なことだ。それができない今、どう頑張っても弟子級から脱することはまず不可能だ」
ケンジはまだ妙手に入るほどの技術はない。弟子級としては上位にいることは間違いないが、それでも妙手に行くまでまだ数歩足りていない。しかし、妙手へと歩むための一歩をまだ出せていないこともあって現状から抜け出せていない。
「なに。動の気をコントロールできる精神力を鍛え上げればいいだけの話さ。ケンイチくんは静の気だったからこういったことはなかったが、なに、問題はないさ。弟子は実験体ともいうからね」
「ちょっと待ってください師匠。待って。今不吉な言葉が聞こえたんですけど?」
「まずは暴走するかしないかのギリギリまで動の気を解放させて組手を続けようか。なに。暴走したらすぐに戻してあげるさ」
「俺朝日拝めるのかなーはっはっは」
修行の方針が決まったからか逆鬼たちが修業をつける順番をやいのやいのと嬉々として決めている中ケンジの声はむなしく騒ぎの中に消えていった。聞こえていたケンイチは苦笑紛れにがんばれ、とだけ肩をたたき、それがケンジの肩をさらに落とすこととなったことを、切島は頬をひくつかせてみていた。