ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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第15話 嫌な予感に限ってよく当たる

 

【2024年6月25日】

 

 なんか微妙に説明の順序が前後している気もするが……『ラフコフ討伐戦』以降、それに参加したメンバーには軒並み休暇が与えられている。

 

 理由は簡単。あれだけのことがあった後だから、精神的な疲労も激しいはず。

 そんな状態で無理に攻略を進めれば、よからぬ事態を引き起こすことも考えられる。

 

 なので、きちんと調子が戻るまで皆一旦休みましょう……というわけだ。

 

 対象となったプレイヤーは、思い思いの時を過ごしている。

 

 レベル的に安全圏のエリアで狩りを楽しんだり、より強力な武装を手に入れるために狩りや採取で素材を集めたり、

 

 ぽかぽか陽気の農村エリアで日向ぼっこして昼寝したり、釣りや料理、農作業といった趣味スキルでのどかな時間を過ごしたり、

 

 ……違うといいつつ、どう見ても恋人同士でイチャイチャしているようにしか見えない日々を過ごしたり、

 

 あるいは、今日の僕のように、いつもと違うメンバーで狩りに出て、新鮮な気分の中で冒険を楽しんだり……とか。

 

 ……まあ、それで遭難なんてしてしまったら本末転倒というか、息抜きもへったくれもないんだけども……。

 

 いや、遭難したのは僕じゃなくて……キリト君なんだけどね? あとリズベットさん。

 

 

 

 事の発端は昨日の昼、第48層にある『リズベット武具店』を訪れた時のこと。

 アスナさんの友人であり、鍛冶系職業の最高峰『マスタースミス』であるリズベットさんが営む工房兼商店であり、アスナさんを含む、一部のトッププレイヤー達がお得意様として利用している隠れた名店であるらしい。

 

 僕としては、彼女とはこないだの『反省会』が初対面だったわけだが、それも何かの縁かと思って、ちょうど暇だったこともあって、来てみたのである。

 

 普段僕は、鍛冶仕事はグリムロックさんに頼んでるから……他のプレイヤー商店とか、NPCメイドの武具を使うってことはほとんどなかったしな。せいぜい、消耗品の投げナイフくらい。

 

 グリムロックさんも『マスタースミス』であり、その腕前は僕やグリセルダさんも信をおくところである。何を隠そう、今僕が使っているメイン武器の大半は彼に作ってもらったものだ。一部、モンスタードロップや迷宮区の宝箱から出た一品物とかもあるけど。

 

 ただ、彼はリズベットさんと違い、他のスキル枠もほとんど全部生産職に回している。なので、農業系、調合系といった幅広い分野で色々なものを作れる、ゲーム内有数の生産者だといえる。

 その代りに戦闘系のスキルに乏しいから、戦闘はからっきしというか、もう捨ててるらしいが。

 

 一方でリズベットさんは、鍛冶系のスキルに偏って修めているため、他の生産系職業は使えないものの、片手棍(メイス)を使って戦う『マスターメイサー』でもあり、戦闘専門ほどじゃないが、割と高い戦闘力を持っている。パワーだけなら一線級だとも聞いた。

 

 ……っと、話がずれたが、挨拶がてら武器の作成でも頼んでみようかと行ったそこで、キリト君とアスナさんにばったり会ったのである。

 

 アスナさんは、研磨に出していたメイン武器『ランベントライト』を受け取りに、キリト君は、いつも使っている武器の他にもう1本、予備の剣が欲しいとかで。

 

 アスナさんの用事はすぐ済んだものの、キリト君が望むスペックの剣は……残念ながら、リズベットさんの店には置いてなかったし、今ある素材じゃ作れる見込みもないそうだ。

 

 ……まあ、キリト君のメイン武器って、50層のボスのLAボーナスで出た奴だもんな。

 いつも彼が背中に背負っている、魔剣『エリュシデータ』。かなり重くて要求される筋力値も高いが、それに見合った強度と攻撃力を発揮する激レア武器。

 

 それと同じくらいの……キリト君好みの重い剣となると、今現在見つかっている素材じゃ難しい、というのがリズベットさんの見立てであり、キリト君も落胆していたが……ここでリズベットさんから情報提供が。何でも、その条件を満たす素材が取れる『かもしれない』場所があるそうで。

 

 で……最終的に、キリト君とリズベットさんに加え、一緒にいたアスナさんと僕、そして途中で偶然出会った、暇そうにしていたクラディールさんとエギルさん。

 以上6人でパーティを組み、第55層の雪山に素材探索に向かうことになったのである。

 

 豪雪地帯でかなり寒い地形であるそこは、防寒具なしではちょっときつい地形だった。普段からその手の備えは怠っていないキリト君や僕はともかく、そういうのを持ってなかったアスナさんとクラディールさん、単に雪山を甘く見ていたリズベットさんは寒そうにしていた。

 そして、それを待っていたとばかりに、エギルさんが余分に用意していた防寒具を貸し出していた……有料で。

 

 さて、この雪山だが、あちらこちらに氷、あるいはクリスタル状の構造物やら何やらがあって、中々に絶景なのだが……情報によれば、ここにはドラゴンが出る。そしてそのドラゴンが、宝石だか水晶だかを食べる、っていう設定があるらしい。

 

 なんか、倒したらいかにも貴重な鉱石系素材をドロップしそうな感じだ。

 

 ……と、大半のプレイヤーは考えたものの、どうもそう単純ではないようで。

 

 今まで何度かそのドラゴンは討伐されたらしいが、ドロップするのはゴミみたいな低級アイテムばかり。間違いなくフィールドボス級の強さにも関わらず、全く苦労に見合っていない。

 もちろん、レアな鉱石なんてものもなかった。ガッデム。

 

 しかし、他のNPCの証言というか情報をもうちょっと読み解くと、『マスタースミスが同行していること』が条件である可能性があるらしく、リズベットさんにも素材採取に同行してもらうことになって、こうしているというわけだ。

 

 リズベットさんは『マスターメイサー』とはいえ、本業が鍛冶師だけに、戦闘はそこまで得意ではないらしい。でもこの面子なら、彼女の護衛にも戦力的に十分だろう。

 

 何せ、僕以外の全員が『攻略組』に所属するメンバーなのだ。それに、僕自身、それ相応の実力は……謙遜なしで言わせてもらえば、『攻略組』に匹敵する実力は持っているつもりだ。

 

 こないだ70層の階層ボス倒したって聞いたから……今の最前線は71層だ。そこを渡り歩いてるプレイヤーだし、護衛に十分どころか、55層のモンスター相手じゃ過剰戦力じゃないかな。

 よっぽど油断したりしない限りは、それこそソロでもこの辺出歩ける程度には皆、強い。

 

 実際、途中何度も戦闘があったけど……タンク役の僕とエギルさんの出番はなく、終始リズベットさんの護衛についていた。残り3人があっという間に殲滅するもんだから。

 

 白い体を保護色にして襲ってくる狼みたいなモンスターは、キリト君がすれ違いざまに一刀両断してポリゴン片に変えてしまうし、その彼を迂回して来ようとすれば、待ち構えていたアスナさんが串刺しにする。

 クラディールさんはクラディールさんで、両手剣をフルスイングして、イエティとかいう白い大きな猿人っぽいモンスターを2~3体まとめてなぎ倒すし。

 

 パワーとスピードのバランス型のキリト君、スピード型のアスナさん、パワー型のクラディールさん……成程、何となく誘って組んだメンバーだけど、案外バランスよくそろってたな。

 

 そして僕らは雪山の頂上付近に到着、そこでドラゴンに遭遇した。

 そして5分で討伐した。

 しかし何もレアアイテムなんかは出なかった。ガッデム。違ったというのか。

 

 ……そこで欲目を出さずに帰った方がよかったのかもしれない。

 

 わざわざこんな辺境(って言っていいんだろうか)にまで出向いたんだから何かしら実入りは欲しい、と思った僕らは、ドラゴンのリポップを待って何度か狩った。

 

 訂正。何度『も』狩った。

 

 そりゃもう、しつこいぐらいに狩った。

 

 特に僕とキリト君は、ゲーマー特有のあきらめの悪さとか、収集欲みたいなのを前面に出して……そのせいで、かの有名な物欲センサーが発動したんじゃないか、とも思ったが。

 

 色々試した。キリト君が片手剣でトドメを刺したり、アスナさんが細剣でトドメを刺したり、クラディールさんが両手剣でトドメを刺したり、エギルさんが両手斧でトドメを刺したり、僕が曲刀でトドメを刺したり、僕が刀でトドメを刺したり、僕がメイスでトドメを刺したり、僕が槍でトドメを刺したり、体術でトドメを刺したり、投擲でトドメを刺したり、『毒』とか『出血』のスリップダメージでトドメを刺したり、全員全力攻撃の超速攻で短時間で倒したり……ホントに色々。

 

 武器については……いやほら、僕、使うだけなら全種類扱えるからさ。

 スキル育ててるわけじゃないから、ソードスキルは初期装備の奴しか使えないけど。

 

 ……途中でなんかキリト君が片手剣を2本同時に使ってた気もするが多分気のせいだ。

 

 しかし一向にレアアイテムなど出ず、これは無理を承知でリズベットさんにも参加してもらう――『マスタースミス』にトドメを刺してもらう案――しかないかと思っていたら、痺れを切らした彼女が『ねー、まだ続けんのー!?』と、隠れていた水晶の柱の陰から顔を出し……その瞬間、タゲが一瞬でそっちに移動。

 

 やばい、と思った瞬間にはドラゴンが攻撃を、しかもよりにもよってブレス攻撃をチャージし始め……咄嗟に一番近くにいたキリト君が動いた。

 彼女を抱きしめてかばうようにしつつ、着弾地点から飛び退ったのだが……その爆風でかなり飛ばされてしまった上、そのまま坂を転げ落ちて見えなくなってしまったのである。

 

 追おうにもドラゴンが、今度はこっちにタゲを戻して襲って来たので、速攻で倒し、邪魔者がいなくなってから、2人の捜索を始めた。

 

 どういうわけかメッセージが通じないが、幸いパーティを組んでいたために、視界の左上にゲージが出ているので、2人のHPの状態なんかはわかる。

 

 いなくなった直後に、一回キリト君のHPがいきなり半分くらい一気に削れたのはさすがにびっくりしたが……恐らく、落下ダメージか何かだろう。リズベットさんの方はそれがなかったのは、キリト君だけ落ちたのか、あるいは……キリト君が彼女をかばったか。

 

 いずれにせよ、それ以降はHPの減少は全くなかったため、多少は安心しつつ2人が飛んでいった先を探してみると……バカでかい大穴、というか縦穴が開いているのを発見。

 そして底が見えないくらい深くて暗いその中から、キリト君とリズベットさんの声がした。

 どうやら、転がった挙句にここに落ちたらしい。よっぽど運が悪いのか、それとも……

 

 救出を試みたものの、持っているロープでは長さが足りない。

 

 しょうがないので、2手に分かれる。

 エギルさんとアスナさんに、一旦町に戻ってもらってロープその他を調達してきてもらい、その間、僕とクラディールさんがここで何かあった時に備えて野宿することに。

 最悪……2人とも生きてるようだし、落ちても死にはしなそうだから、飛び降りて助けに行けないこともない。戻れなくなるけど。

 

 だが、どうやら穴の底には何もモンスターはポップしないらしく、気温も割とマシのようだ。不幸中の幸い、といっていいものか……むしろ寒さは地表にいる僕らの方が辛いな。

 

 クラディールさんは、年頃の男女が2人でいる、ってところに教育上不安なものを感じていなくもなかったようだが……この人、前にも思ったけど、割と価値観お堅いとこあるよな。

 リアルでも教師だって前に言ってたし、こんな感じままの指導方針なんだろうか?

 

 まあ、今回は完全に不可抗力だし、気にしても仕方ないと納得していたが……この懸念というか、嫌な予感がある意味正しかったと知ることになるのは、もうちょっとだけ先の話である……

 

 

 

 ……具体的には翌日早朝。

 

 

 

【2024年6月26日】

 

 交代で睡眠をとっていた僕とクラディールさんだが……朝こっ早く、突如として縦穴にドラゴンが襲来。なんとここ、あいつの巣だったらしい。

 

 しかも、僕らを無視して穴に飛び込んでいくもんだから、さすがにヤバいと、飛び込むべきかと思ったんだが……十数秒後、キリト君とリズベットさんがその背中に乗って飛び出してきた。

 特に戦闘した形跡はなく、まるで……

 

 ……ひょっとしてこれ、ドラゴンに襲われて穴に落ちて、その背中に乗っかって出てきて……ってところまでワンセットのイベントだったんじゃないかと、その時気づいた。

 恐らく、戦闘にマスタースミスが参加することがキーになっていたんだろう。

 

 その証拠に、キリト君達は、ドラゴンの巣の中で『クリスタライトインゴット』とという、お目当ての新金属を見事ゲットしていたし。

 

 何はともあれ無事だったことを喜び、アスナさん達にもメッセージを飛ばしてそれを知らせ、帰り道でと合流しつつ……リズベット武具店へ帰還。

 そこでそのまま、インゴットを使ってキリト君の武器を作ってもらった。

 

 出来たのは、お望み通りの性能を持つ剣だった。

 『ダークリパルサー』……キリト君好みの、STR重視パラメータにちょうどいい重い剣だ。キリト君もリズベットさんも、満足して喜んでいた。

 

 残念ながら僕らの分は作れなかったが……あの素材からは、STR型の武器が作れることが明らかになったし……イベントの発生条件もおそらく割れた。十分な収穫だったと言える。

 今度、グリムロックさん誘ってまた行こう。イベント周回していっぱい獲る。

 

 クラディールさんも新しい武器欲しがってたし、エギルさんは金の匂いがするなら一緒に来るだろうから、パーティメンバーは心配しなくていいだろう。

 

 

 

 …………しかしそのへんはいいんだが、一点だけ気になる点がある。

 

 朝、ドラゴンの背に乗って2人が飛び出してきた後、そのまま空中に放り出されて……その後ちゃんと無事に着地したんだが……その、2人がスカイダイビングよろしく空中にいるわずかな間に……風に乗ってこんな声が聞こえた気がした。

 

 

『キリト―――!』

 

『何―――?』

 

『好き―――!』

 

 

 …………クラディールさんと2人して唖然とした。

 

 いやまあ、青春で結構なんですけどもね? 穴の中で昨晩一体何があったのか、何を話したりしたのかはわかんないけども、若さってのは勢いな部分もあるからね?

 変な声が聞こえてくることはなかったから、『変なこと』にはなってなかったと思うし。

 

 案の定、戻ってきたリズベットさんは……なんか熱のこもった視線をキリト君に向けている。

 具体的には、アスナさんやサチさん、シリカちゃんと同じような感じのを。

 

 ……またか。またなのかキリト君……君って男は……。

 

 

 

 

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