ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

17 / 81
新年あけましておめでとうございます。
今年もどうぞ本作をよろしくお願いいたします!

新年一発目、元日の更新から新キャラ登場です。どうぞ。
……タイトルに既に書いてありますけどね。


第17話 中途採用録ストレア

【2024年8月2日】

 

 突然だが、最近僕の周りの仲良しメンバーの中に新しく加わった女の子がいる。

 

 元をたどれば、キリト君が連れて来た子だ。

 ひょんなことから町で偶然知り合って、そのまま何やかんやで仲良くなったらしい。

 

 正直最初は『またかよ』と思ったものの、いつか誰かに刺されるかもしれない少年の将来を心配しつつ、紹介された彼女……ストレアさんは、また個性的な感じの娘だった。

 

 ウェーブのかかった灰色の髪に、紫色をベースにした服や装備。大きく開いた胸元に、2つ並んだほくろが特徴的な女の子だった。

 

 煽情的な大人っぽい服装に反して、性格は明るく無邪気で天真爛漫。

 人付き合いに壁を作らないというか、随分フランクで人懐っこい感じに思えた。

 

 おまけに年頃の女の子にしては、スキンシップが少々過激な様子。

 あいさつ代わりとでも言わんばかりに、初対面で抱きつかれそうになったので、とっさにキリト君を盾にしてしまったのだが、そしたら今度は『ん? キリトがぎゅ~ってしたかったの?』と、その豊かな胸元にキリト君の頭を抱えるようにして抱きしめていた。

 

 わたわたと慌てるキリト君。

 白眼視のアスナさんとリズベットさん。

 顔を真っ赤にして慌てるシリカちゃんとサチさん。

 

 まあ、いつも通りということでコレは放置した。

 キリト君のこれはもう、体質とかじゃないかと思うことにしているので。

 

 実際その後、何事もなかったかのように話が再開されたわけだが、どうやらストレアさんがキリト君と知り合ったのはもう数日前のことで、アスナさんを含む他のメンバーとも、割と打ち解けていた様子だ……スキンシップも含めて。

 

 それどころか、一緒に圏外に探索にも出たことがあるらしい。

 

 彼女は両手剣使いで、その実力は攻略組にいてもおかしくないレベルだそうだ。

 一緒に狩りに出た際は、その火力と攻撃範囲を武器に、次々とザコ敵をなぎ倒してみせ、正直半信半疑だったキリト君達を驚かせたとのこと。

 

 加えて、これはキリト君との出会いそのものにも絡んでくる話だが……彼女、キリト君の索敵スキルですら発見できないレベルで隠密が得意なのだそうだ。

 彼、その索敵はコンプリートしたってだいぶ前に言ってた気がするんだが……すごくね?

 

 その時、ストレアさんはキリト君に興味を持ってつけ回していた。

 しかしキリト君はその視線は感じてはいたが、その主を発見することはできなかった。

 

 で、仕方なく『貴様! 見ているなッ!』とカマをかけたら出てきてくれた、ということらしい。(※一部セリフにねつ造が含まれています)

 

 しかしその割に、スイッチやPOTローテなど、この世界で生きていく上で必須とも言える知識をよくわかっていなかったり、連携にやや未熟で粗削りな部分があったりと、どうもちぐはぐな印象を受けることもあったそう。

 

 しかし、今まで表に出てこなかった実力者がどこに隠れているかはわからない、という最大の例が目の前にいるということで、キリト君達も深くは考えなかったとのこと。あっそう。

 

 ちなみに、スイッチとかPOTローテのくだりで、若干アスナさんが昔を思い出すような遠い目になっていたのは……ちょっと気になったが、まあいいかと思って流した。

 

 

 

 そしてそんな彼女だが、昨日からこの『アインクラッド総合病院』で働いている。

 

 そんなに強いんだからてっきり攻略組かと思ったのだが、だったらキリト君達が知らないはずもない、とすぐに思い至った。

 攻略に参加するつもりは今のところなく、さらにはこの仕事に興味があるとのことだった。

 

 幸い人員の雇用枠に空きはあるし……少々下世話な話、彼女は見た目もよく、人あたりもいいので接客には向いているし、お試しでちょっと雇ってみようと思ったわけだ。

 

 それで、雇ってみての所感だが……思わぬ掘り出し物だったと言わざるを得ない。

 率直に言って、言うことなしだ。

 

 仕事を覚えるのも早く、勤務態度も真面目。

 期待していた接客はもちろん、アイテムや素材の整理整頓といった事務仕事もそつなくこなし、初日から即戦力として活躍してくれている。最初にちょっと指導しただけでこれなので、元々要領のいい子なんだろう。

 

 ただ1つ欠点?があるとすれば、同じく仕事で来たサチを見つけた途端、駆け寄っておしゃべりを始めてしまったことくらいか。

 子供みたいに、仲のいい人が来た途端、即座に反応して駆け寄っていった。

 

 まあ、特に今やってる最中の仕事があったわけでもなく、ホントに空いた時間でのことだったので、別に問題ではないけども。サチさんが『仕事がある』って言ったら、『じゃあね』と分かれて、自分もすぐに仕事に戻ったし。

 

 色々と仕事を任せてみて、その全てで優秀な能力を発揮し、以前からいるスタッフたちにもまたたく間に評判上々となったストレアさんなんだが……中でも特に驚かされたことが1つあった。

 

 なんと彼女、『カウンセリング』の仕事に特に適性があったのである。

 

 この日はサチさんの同僚である『月夜の黒猫団』のメンバーの1人、ダッカー君が来ていた。

 カウンセリング……というほどでもないが、相談のために。

 

 というか、ぶっちゃけ失恋して落ち込んでたので慰めてほしかった感じだった。

 なお、この内容で彼が訪れるのは初めてではなく、僕だけではなくサチさんも『またか』という感じの視線を向けていた。

 

 こういう、比較的深刻でもない悩みのお客様に対しては、カウンセラー志望のスタッフの練習台になってもらうこともあるのだが、試しにストレアさんに任せてみたところ、予想外の結果を見ることとなった。

 

 フランクな彼女であるからして、てっきり明るく元気づけて励まして終わるかと思っていた。

 実際、彼のこの悩みは毎度そのくらいで解決する。

 

 しかしストレアさんは、最初に彼の話を1から10までよく聞いて理解するのに専念し――その間も笑顔は絶やさなかったが――その上で彼に共感するように、彼のことを1つ1つ肯定しながら、決して粗雑には言わず、かつフランクさも保った上で、探るように励ましていた。

 

 そして、彼の悩みがそれほど深刻ではないということを看破した段階で、励ますような言い方にシフトし、彼が気持ち的に前を向いた瞬間にそれを猛プッシュ。持ち前の明るさ、元気さ、人懐っこさを最大限生かして一気に解決まで持って行った。

 

 カウンセリング終了時のダッカー君は、誰がどう見ても元気溌剌、生きる希望に満ち溢れたかのような顔をして、その目は前へ、未来へ向けられていた。

 未来だけじゃなくてストレアさんの胸元にも向いていたけども。サチさんの白眼視という珍しいものを一緒に見ることができた。

 

 傍から注意して見ているとよくわかるんだが、明るく元気に励ましただけのようで、その実きちんと計算されている――いや、天然でやった可能性もゼロじゃないが――そのカウンセリングは、正直今僕が抱えているどのスタッフよりも優秀であると言えた。

 

 文句なしの大成功。ダッカー君も完治ということで、カウンセリングは終了。

 

 本当に驚かされたな……もうしばらく様子は見るが、これは本気で、カウンセリング部門の逸材を手に入れてしまったかもしれない。何者だろうね、ホント、彼女。

 

 

 

 ところでこの後、ダッカー君は再度の失恋を経験することとなった。

 

 誰にって? ストレアさんだよ。

 帰り際にその勢いのまま告白して、『え、ごめん無理』の一言でバッサリいかれていた。

 

 治ったその瞬間に、治してくれた本人に叩き落された彼は、縦線効果を背負って帰っていった。

 

 

 

【2024年8月4日】

 

 今日は、なじみのメンバープラスアルファで狩りに行った。

 

 メンバーは、僕、クラディールさん、グリセルダさん、グリムロックさん、エギルさん、そしてストレアさんの6人。

 ストレアさん(年齢不詳)以外、全体的に平均年齢高めのメンバーである。

 

 本来非戦闘員であるグリムロックさんが入っているが、それをカバーできる程度には皆腕は立つので、さして問題ではない。

 

 ダメージディーラーのクラディールさんとストレアさん、タンク役の僕とエギルさん、司令塔のグリセルダさんと、それなりにバランスの取れたメンバーだし。

 いざとなれば僕はどのポジションにでもシフトできる。武器を交換する時間さえあれば。

 

 そもそも今回の目的は武器の試し切りだ。グリムロックさんは技師としてそれを見に来たわけで、最前線みたいな危険な狩場は選んでいない。

 それに彼のことは、奥さんであるグリセルダさんが付きっきりで守っているので心配いらん。

 

 なお、彼は女性に、しかも妻に守られる夫という立場については、もう吹っ切っている。

 

 最近では開き直って(?)『専業主夫』を名乗りすらしている、と、この間、『黄金林檎』メンバーのヨルコさんから聞かされた。

 彼女、臨時ではあるが、僕の病院のスタッフもしてくれているので。

 

 で、そのグリムロックさんがまたしても関わってくるんだが……こないだキリト君達と一緒に行った、第55層の雪山のアレを覚えているだろうか。

 キリト君が希少金属収集のイベントとリズベットさんを同時に攻略したアレである。

 

 7月上旬だったかな。あの後、僕らはグリムロックさんを誘い、今回のメンバーの内、ストレアさんの代わりに『黄金林檎』メンバーのカインズさんを入れた6人で、アレに再度挑んだ。

 そして、10回ぐらい周回して大量の『クリスタライトインゴット』を獲得し、色々武具を作った。余ったものは、彼自身の取り分と一緒にエギルさんに渡し、売却を任せた。

 

 STR重視の武器が作れるインゴットだったため、身軽さと手数重視のグリセルダさんや、そもそも筋力値的に重い武具を装備できないグリムロックさんは遠慮していたが、残る4人は、その際に性能のいい武器を手に入れることができてホクホクだったな。

 

 ちなみに僕は、キリト君と同じ片手剣『ダークリパルサー』と、もう1つ、やや大きめの盾である『シュテルンカイト』というカイトシールドを作ってもらった。

 ちょっと重いけどすぐ慣れたし、性能はばっちり文句なし。いいのが手に入った。

 

 で、今日の狩りは、その時に作った武器を、さらに強化する素材が先日手に入り、その強化を昨日終えたところ……ということで来ている。

 

 使い心地、問題なし。文句なし。

 最前線に行っても十分に通用するだろう……っていうかクラディールさんは実際に今通用させているんだが。攻略の際に。

 

 そして、その際にストレアさんの戦闘技能についても目にすることとなったんだが……なるほど確かに、キリト君達『攻略組』に勝るとも劣らない立ち回りを見せていた。

 

 両手剣から繰り出される攻撃の火力はもちろん、戦況をきちんと判断して攻める、退くの切り替えがきちんとできるようだったし。スキルの熟練度も高く、『ソードスキル』の発動や、即席ながら仲間との連携も軽やかで無駄がない。

 これで今まで攻略組じゃなかったとは驚いた、とエギルさんは言っていた。

 

 『あんたみたいなのが他にもいたとはな』とも、僕を見ながら。おいこら。

 

 しかしホント、ストレアさんって今までどこで何をしてた人なのかね……?

 プライベートの詮索はマナー違反だとは知りつつ、やっぱちょっと気になる。

 

 そしてそのストレアさんだが、やはりというか、今回狩りに一緒に出たメンバーともすぐに仲良くなった。

 

 エギルさんはもともとキリト君達を通じて知り合いだったようだが、グリセルダさんとグリムロックさんとは、初対面にも関わらずすぐに打ち解けた。

 

 グリムロックさんは、元気いっぱいで押しの強い感じのストレアさんに若干たじろいでいた気配もあったが、グリセルダさんは大人の余裕みたいな奴でふんわり受け止めて、そのまま仲良くおしゃべりしていた。ストレアさんが子供っぽいところがあるせいか、妙に噛み合ってたな。

 

 初対面だけどすぐに仲良くなったのはクラディールさんも同じだが、彼が『風紀の乱れが云々』『ファッションは個人の自由だが露出過多なのはどうこう』と、生活指導の先生みたいに言い始めたのは、ストレアさんはあんまりよくわかってない雰囲気だったな。

 

 クラディールさん、ストレアさんの精神年齢が若干低めなのに気づいて、あんまり服装が釣り合ってないんじゃないか、無防備なんじゃないかと思えて気にかけたらしい。細かいけど人のいいおじさんである。

 

 なお僕は、油断してる隙に後ろからぎゅっとハグされた。何の前触れもなく。

 聞けば、こないだできなかったからリベンジ、だそうな。

 

 ホントにこの子は……クラディールさんのいう通り、無防備って言った方がいいくらいな感じがあるな。今日び小学生でもここまで人懐っこくないと思うんだが。

 

 

 

 ところでそのストレアさんについてもう1つ。

 

 カウンセリングの際に見てたから、人の心の機微に敏感なのは知ってたし、観察力もあるんだろうなとは思ってたけど……なんか鋭すぎないか?

 

 しばらく狩りをした後、僕らを見回しながら『んー……』って何やら考えるようにしたかと思うと、

 

 『ナツメとクラディール、それにグリセルダ、何かまだ隠してるというか、試してないことがあるんじゃない?』って指摘されたんだが。

 

 ……他の2人はどうだか知らないが、実際僕は隠している、というか『試していない』『見せていない』ことがあったので、ちょっとびっくりした。

 

 ……しかし言われてみれば、最近クラディールさんやグリセルダさんは、ソロか、ごく少人数のパーティで狩りに出ることが多いみたいだな…………僕と同じで。

 

 

 

 ……ひょっとして、2人も…………いや、やめよう。

 

 仮にそうだとしても、親しき中にも礼儀あり。ステータスの……スキルの詮索はマナー違反だ。

 

 

 

 

 




今回登場した『ストレア』は、PSP版のゲーム『インフィニティ・モーメント』に出てくるキャラです。
ネタバレになるので多くは語りませんが、設定的にちょうどよかったので、ナツメ陣営に参加してもらいました。

……『ホロウ』の方の彼女は……今まさにやってますけど、間に合わんかも……

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。