ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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第2話 白くはない巨塔(っていうか城)

【2022年11月8日】

 

 幸い、と言っていいのか……戦闘自体は初日のプレイですでに経験していたので、体を動かして戦う、ということ自体は問題なくできた。

 デスゲームを意識した分、やや動きが硬くなったかもしれないが。

 

 最弱のモンスターとはいえ、デスゲームであることを考えれば、油断していい道理などないのは言うまでもない。

 

 初日ということで、あくまで無理はしないで戦闘のノウハウを少しずつ積み上げていくことを最優先し……今日は、ひたすら『フレンジーボア』を狩り続けた。

 

 まず、使っている片手剣に慣れるため、スキルも何も使わずに100匹くらい。

 

 次に、戦闘の幅を広げ、かつ効率化させるため、『ソードスキル』を使いながら100匹。

 

 この辺で正午回ったので、休憩してNPCの店で買っておいた黒パンを食べる。

 なんというか、金取って売るにはギリギリ及第点、って感じの味だった。まずくはないけど、美味い、という感想を述べるのはためらわれるというかね?

 

 腹が膨れたら、通常攻撃から『ソードスキル』につなげるコンボ的な動きを練習するために、また100匹。

 けどちょっと足りない気がしたので、さらにもう100匹。

 

 狩ってる途中で何度か武器の耐久値が底をついた。まあ、ぶっ続けで狩ってればな。

 壊れる前に予備に取り換える、というのを何度か繰り返し、続けていた。

 

 今日1日はそんな感じで、このVR世界における戦闘に徹底的に慣れること、そのついでに各種スキルを上げることを目的として動いていた。

 

 夕暮れ時、バーチャルとは思えないくらいに鮮やかな夕日が、地平線の向こうに沈む頃、今日の狩りを終了し、僕は帰路についた。

 ……純粋にこのグラフィックの美しさを堪能したかったなあ……畜生、デスゲームさえなければ。

 

 狩ったフレンジーボアの数は、途中から数えてないが、所持金から逆算すると、3ケタ台後半には突入していただろう。

 

 適当に宿を取り、店売りで食事を済ませ、さっさと寝た。

 この体は汗をかくことはあってもすぐに消えてしまい、服が汗臭くなったりもしないので、気にしなければ何も問題はない。部屋に鍵をかけ、ベッドにダイブしてさっさと寝た。

 

 ……気にしなければいいとはいえ、日本人としては風呂に入りたいところだ。

 風呂ある宿って、あるのかな? 今度探してみるか。

 

 

【2022年11月9日】

 

 ちょっとこの先、日記に書くことに苦労するというか、代わり映えがなくなるかもしれない。

 しばらく、昨日と同じようなことを続けるつもりだからだ。

 

 この世界はデスゲームだ。死なないために最大限の努力をしなければいけない。

 死なないためにできる全てのことを行わなければならない。後から『ああしておけばよかった』では遅いんだから、いくら面倒に思うような事柄でも、やるべきだ。

 

 というわけで、戦闘の修行も大事だけど……僕はとりあえず、この先生き抜いていくために必要な『武器』選びを行うことにした。

 

 平たく言うと……昨日やったのと同じことを、店売りで買える全種類の武器でやる。

 そうして、最も手に馴染む武器を探す。

 

 ソードスキルを使わずに武器に慣れる。

 その武器ごとのソードスキルを習得し、使って慣れていく。

 通常攻撃とソードスキルを組み合わせた立ち回りを勉強し、考える。

 以上をやりつつ、スキルレベルも上げながらひたすら戦う。

 

 今日は、片手剣と似たような特性を持つ武器である『曲刀』でやったが、明日以降も武器の種類を変えて実施していくつもりだ。武器によっては、2日、3日かけることもあるかもしれない。

 なので、日記に書くことがなくて退屈になるんじゃないかなー、と。内容的に。

 

 ……ま、いいか。別に誰に見せる意図で書いてるわけでもないし。

 

 ちなみに今日使った『曲刀』は、片手剣よりも切断よりの武器で、ダイナミックに振り回して範囲まとめて切りつけるソードスキルが多かったな。シンプルな分、扱いやすかった。

 

 

【2022年11月10日】

 

 今日は、同じ片手で使う剣でも、だいぶ使い心地が違う武器を使った。

 『細剣』……レイピアである。

 

 『曲刀』とは正反対で、突き攻撃主体の立ち回りで動くことになる。フェンシングの動きに近いんだろうけど、経験ないので、前に使った2つの武器の時より苦労した。

 

 横凪ぎの動きで斬りつけると、しなる感じがして……切れ味もそれほどじゃないし。

 まあ、序盤も序盤で手に入る程度の武器だからかもしれないが。

 

 代わりに、前の2つよりもだいぶ軽かったので、それに慣れた扱いができるようになれば、動きの鈍い相手に連続攻撃で一気に攻め立てる、的な戦い方もできるかもしれない。

 

 ソードスキル使ってみた感じ、手首の動かし方が肝要と見た。

 知識がなさ過ぎて、思い付きの動きを1つ1つ検証しながらだったから、大変だった……。

 

 これは明日も引き続き、この武器について研鑽する必要があるだろう。

 

 買ったレイピアはどれももう耐久値が限界なので、NPCの鍛冶屋に頼んで修理してもらった。狩りばっかしてるから金――コルはたまっているので、痛手にはならない。

 

 慎重にやってるからポーション類の消費も少ないし。

 

 それと今日は、昨日までと違うことが1つあったので記録しておく。

 

 どうやら、デスゲームによるストレスは、僕が想像していた以上に、プレイヤー達への精神的な負担を大きくしていたようで、恐らくはそれが限界に達したのであろうプレイヤーの行き着く先の1つを、今日実際に目にすることができた。

 

 ……いや、何か、騒がしいなと思って近づいて行ったらさ……町の端っこ、というか、アインクラッドの外縁部から身投げしようとしてる人がいんのよ。

 『俺はこの世界から出ていくんだ!』とか何とか言って。

 

 多分、心労が限界に達したんだろうな。

 デスゲームに閉じ込められ、いつ救出されるかわからない。そもそも助けが来るのかすらもわからないというこの状況下で、精神を病んでいくプレイヤーは少なくないだろう。

 

 単純に命の危機にさらされ続ける不安もあれば、早く現実に戻らないと、現実の肉体が保たないだとか、仕事に差し障りがあるだとか……色々とリアルの事情ってもんがあるだろうし。

 

 それが限界に達した結果の1つが、自暴自棄になって、あるいは、根拠もなく『これで助かる』という思い込みによるこの狂行なんだろうな。

 

 周囲の人たちが必死で止めようとする中、当たり散らしながらもゆっくりと外縁に歩いていくそのプレイヤーを、僕はどこか冷めた気持ちで眺めていた。

 これから狩りに行くところで、朝っぱらからえらい場面にでくわしたな、という驚きと呆れが脳の大部分を占めてた気がするが……みすみす見逃すのも何かアレな気がしたので、声をかけた。

 

 半分は善意、もう半分は憐れみ、って感じだったんだが……ヒステリックになっているそのプレイヤーは、逆切れ気味にこっちにまで怒鳴り散らしてきた。支離滅裂な感じで、色々と暴言を。

 

 半ば以上予想できたことではあるので、最初は受け流してたんだけども……

 

『あんたには関係ないだろ!』

『俺にはリアルの生活があるんだ、あんたみたいにのんびりしてられないんだ!』

『どうせあんた、自堕落にゲームしてるフリーターか何かだろ!』

『あんたみたいなのと違って俺はリアルを真面目に生きてるんだ、立場があるんだよ!』

 

 こんな感じのセリフが飛んできたあたりで……カチンときた。

 朝、まだ寝起きだったこともあって、ちょっとイラついてムキになっちゃったんだっけ。

 

 この野郎……どうしようもないから人が意図的に考えないようにしてたことをずけずけと。

 立場? リアル? あるわ、僕にだって。やり残したことも、やらなきゃいけなかったことも。

 

 日記にゃいちいち書いてないけど……夜寝る前にどうしても思い出してるわ。

 おかげで、睡眠時間は足りてるけど睡眠の質が悪くて、ここんとこ寝起き最悪だよボケ。

 

 で、そんな感じでイラついた僕だが……その後何を話したか、正直よく覚えていない。

 

 ただ、何と言うか……割と雑と言うか、乱暴な感じの言葉、口調で色々言ったような気がする。

 

 で、気が付いたら……その自殺未遂のプレイヤーが、泣き崩れてその場にうずくまっていた。

 それに駆け寄り、安全な場所にまで引っ張り戻す、周囲のプレイヤー達。

 自殺を止められたことを、尊い命が1つ救われたことを、純粋に喜んでいるようだった。

 

 そして彼ら彼女らはその後、口々に僕を褒め称えていた。

 正直何言ったか覚えてなくて、褒められる心当たりというか、自覚があんまりない僕を。

 

『やるじゃねえか兄ちゃん!』

『す、すっごくかっこよかったです!』

『熱血先生みたいだったよ!』

『でも説得自体はすごく的確で丁寧だったわよね!』

『田舎のおじいちゃん思い出したわ…悪いことした時、いつも叱ってくれた……』

『専門家? リアルは教師とか? それかカウンセラーとかですか?』

 

 どうやら僕が何か言ったおかげで、自殺未遂のプレイヤーは自殺を思いとどまった、ということのようだが……いきなりヒーロー扱いされて軽くパニクってた僕は、同じように口八丁でそれらの人たちをかわしてその場から退散した。

 

 そして、いつもよりちょっと遠くで、本日のメニュー消化を行ったのであった。

 

 

【2022年11月11日】

 

 1年で1度、ぜひともデジタル時計で見たい時間である『11月11日11時11分11秒』は見逃しました。ちくせう。

 

 昨日と同じなので書くことはない。

 しいて言えば、『細剣』の訓練はこれで十分かな、って程度には練習できたと思う。

 

 あと……ここんとこ結構なペースで狩りを続けてたせいで、戦利品のアイテムがストレージを圧迫する……。こまめに、時には途中で一度町に戻ってNPCの商店とかに売らないといけない。

 

 その分コルに変わってくれて、懐を潤すばかりなのでいいが。

 おかげで、この所、品物の値段を気にせずにショッピングができている。……買うものなんて、食べ物とポーション、後は換えの武器くらいだが。

 

 それにしても、ゲーム開始から1週間と経っておらず、戦ってるのは最底辺のモンスターだけなのに、そろそろ所持金が6桁に届きそうなんだが……まあ、1匹倒すごとに30コル前後の青猪でも、1日数百匹単位で狩ってるからな。素材とかは売却してるし。

 

 丸一日をゲームに費やして育成を進めると、こんな風になるんだな。

 

【2022年11月12日】

 

 今日は『短剣』を使ってみた……んだが、それはそれとしてちょっと厄介なことになった。

 

 いや、何か実害が出てるとかいうわけじゃないんだが……いや、出てはいるな、時間的制約、的な意味で。

 拘束されて身動きが取れなくなり、最早日課となりつつある『武器訓練』に差し障る。

 

 しかし、物理的に拘束されたわけじゃなく……あー、何というかな。

 

 

 ……なんか、行く先々で、見ず知らずのプレイヤーから度々『相談に乗ってほしい』って声かけられるようになったんだが。

 

 

 それも、ゲーム攻略に関係することとかじゃなく、日常の悩みとか、デスゲームに閉じ込められて不安だとか、そんな感じの相談が寄せられる。なぜか僕に。

 

 何で僕にそんな相談を寄せるのかと思えば……どうも一昨日、僕が自殺未遂のプレイヤーを思いとどまらせたことが、結構な話題になっていたらしい。

 

 その場にいたプレイヤー達の証言に色々尾ひれがついて、そのエピソードが過剰なまでに美化&誇張された結果……なぜか僕は、リアルでもそういう経験がある(と思われる)カウンセリングの専門家、ということになっていて、それが『はじまりの町』全体に広まっていたのだ。

 

 『早まった真似をする前に、専門家であるナツメ先生に相談しろ』とまで言われているらしい。

 

 結果、デスゲームの世界に絶望したり、不安を募らせているプレイヤーが、僕を探し出して押しかけて来た、と……。

 

 ……ちょっと、コレどこからどう訂正したらいいんだ。

 何だ専門家って? 何そんな勝手に言ってんだ? 誰だこんなこと言いだしたの!?

 

 おかげで僕、身動き取れなくて午前中ごっそり時間削られちゃったんですけど!?

 僕の攻略に差し障りが生じてるんですけど!?

 

 いや、そりゃ藁にも縋る思いで訪ねて来たんであろう、ギリギリの精神状態のプレイヤーの皆さんを放置したり突っ返すほど僕も鬼じゃないから、ごく簡単にとはいえ全部、出来る限り丁寧に対応したけどね?

 

 そういうの、リアルの職場では必要なスキルだったから。

 素早く話を聞いて、対処して……1人1人を素早くさばいて、次を対応するのは。

 

 それに実際、リアルでそういう経験……あるし。

 研修の時に、ちょっとだけそういう部署に配属された期間があるってだけだけど。

 

 にしたって訂正を要求する! 攻略の邪魔もそうだけど……今言った通り、僕別に心のケアの専門家とかじゃないから!

 仕事にそういう場面・側面がないとはいわないけど、専門分野は心療科じゃないんだって!

 

 

 

 他の人には言わないけど……僕、外科医だからあくまで! しかも、研究寄りの!

 

 

 

 


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