この後の第22話と合わせてどうぞ。
……といっても、ながくなりすぎたからキリのいいところで切っただけなんですが。
咆哮と共に剣を振り上げ、切りかかってくる『ザ・グリームアイズ』。
視線の先にいる3人、クライン、クラディール、ナツメの3人を薙ぎ払わんとするその刃を、一歩前に進み出たナツメがその盾で受け止める。
2度、3度と振り下ろされるそれを、無駄のない動きで受け止め、衝撃をいなすように弾いて防御する。
その間に両隣から接敵する2人。
「……っ……今!」
振り下ろされた剣を、タイミングを完璧に合わせてナツメが『パリング』で弾き、先程と同じように体勢を崩す。
そこにクラインとクラディールが踏み込み、手にした両手剣と刀で斬りつける。
ソードスキルの光を纏った2つの刃が、それぞれ足と脇腹を深く斬りつけ、赤い剣筋の傷をその身に刻む。
「クラディール、クラインさん、スイッチ!」
その直後、鈴の音のような軽やかな声が響き、それを聞いた2人はそれぞれ『おう!』『了解!』と声をかけて飛び退り……
その横を、すさまじい速さで、いや凄まじすぎる速さでアスナが駆け抜けていった。
「「「は!?」」」
後退しながらも、そのあまりの速さに驚く2人。いや、ナツメも入れて3人。
その目の前で、アスナは体勢を立て直しつつある『ザ・グリームアイズ』の両足を、一瞬のうちに何度も突き刺し、斬りつける。
ソードスキルの光は纏っていない。純粋な彼女の技術によるものだ。
そのまま、『ザ・グリームアイズ』の視線が自分の方を向く前に、またしてもその異常な速さで後ろに回り、再度斬りつける。
そこで振り向いた悪魔の目は、今度こそアスナを捕らえ、剣を振り下ろすが……
「アスナ、スイッチ!」
「うん!」
背後から掛けられた声のままに、今度は反対側にいたキリトと入れ替わる。
そして……入れ替わって前に出て来たキリトにもまた、同様に異変が起こっていた。
他のメンバーよりも遅れて登場するまでの間に、何かしたのだろうか……その手には、2本の剣が握られている。
それを交差させ、アスナをかばうようにして、振り下ろされた斬馬刀を受け止め……力任せに弾き返す。
そしてそのまま懐に入り込むと、両手に持った2本の剣、『エリュシデータ』と『ダークリパルサー』の両方に、ソードスキルの光を灯した。
「おぉおおおっ!!」
裂帛の気合と共に、怒涛の勢いで繰り出される連続攻撃。
『ザ・グリームアイズ』の体に、赤い光の傷跡が次々と刻まれ、単独でのラッシュとは思えない速さでそのHPが削れていく。
その光景に、驚きを隠せないアスナ達。
それも当然……ゲームシステム上、本来、両手に武器を持って戦うことはできない。
いや、両手持ちで戦うこと自体はできるが……ソードスキルを使おうとすると、エラーが発生し、上手く発動しないのだ。このゲームにの戦闘おいては、致命的な事態であると言える。
それゆえに……今のキリトの状態は異常そのものだ。
両手に持った剣、その両方にソードスキルの光が灯っているばかりか、誰も見たことのない連続攻撃のソードスキルを放っている。明らかに、単なる片手剣のそれではない。
そしてそれは、今しがた尋常ならざる加速を見せたアスナも同様だった。
皆、薄々その正体に気づいてはいたが……今はそれを言及している時ではない。
「……くっ、やば……」
キリトのソードスキルがまだ終わらぬうちに、『ザ・グリームアイズ』は三たび斬馬刀を振り上げ……キリトめがけて振り下ろす。
全てのソードスキルに共通の弱点……技の発動中は動きが制限される上、発動後には硬直時間が襲ってくるため、その最中に攻撃されると回避・防御するのが非常に難しいのだ。
しかし、そのキリトの横を、風のように駆けぬける影が1つあった。
いや、駆け抜けたというよりは……そのソードスキルの光を纏ったその姿は、ソードスキルの勢いを利用して切り込んだ、という方が正確だっただろう。
問題は……その発動しているソードスキルが、アスナやキリトもよく知る、『細剣』のソードスキル『リニアー』であること。
そして、それを目の前で使ったのが……先程までとは違う、『細剣』と思しき武器を装備してはいるものの、そのスキルを育てていないはずの、ナツメだったことだ。
『ザ・グリームアイズ』に命中こそしなかったものの、その踏み込みでキリトと斬馬刀のちょうど間に入り込んだナツメは、すぐさま左手に構えている盾をかざし、振り下ろされる一撃からキリトを守る。
その一連の動作は、手慣れたものであることを思わせる、滑らかなものだった。
……否、滑らかすぎた。
『リニアー』の……『ソードスキル』の発動後に発生するはずの硬直時間が全くない状態で、すぐにその体を翻して防御に移ったのだから。
だが、立て続けに起こった不自然な事態に驚く間もなく、
「チェ・ス・トォォオオォッ!!」
背後から襲い掛かったクラディールが、大上段に振りかぶった両手剣――『ダークリパルサー』と同じ素材で作られた『ファシスラヴィーネ』を振り下ろし……その背中を深々と斬り裂いた。
先程、アスナが攻撃したのと同じ個所だが……アスナの『ランベントライト』が、AGI重視でそこまで火力に優れていない武器であることを考慮しても、入ったダメージは少なかった。
ゆえに、それを見ていた面々は、背中は防御力が高い、と見たのだが……今のクラディールの一撃で、ボスのHPは……先程のキリトの連撃にも迫る勢いで、ごっそりと削れていた。
隙だらけの所に、大火力のソードスキルを使ったとはいえ、目の錯覚を疑いたくなるほどのダメージだ。しかも今の一撃で、ボスのHPはイエローに突入した。
それに反応して振り向いたところで、クラディールはスイッチで後ろに下がり、代わりにクラインが前に出る。同時に、またしてもナツメが『リニアー』の速さで回り込んできた。
「おう、こっち来たのか先生。よく動くタンクだな?」
「斬新で面白いでしょ? クラインさんこそ、今クラディールさんと一緒に切り込めば、手っ取り早いし安全だったんじゃないですか?」
「それはまあ、しゃーねーのよ……こうしないと条件満たせねえし」
そう、含みを持たせたように言いつつ、クラインは刀を構え……ソードスキルのタメに入る。
それを隙と見たのか、はたまた単純に怒りに任せてか、『ザ・グリームアイズ』は斬馬刀を振り下ろす。今度は、ソードスキルの光もまとわせて。
しかし、クラインは防御することもなく突っ込み……代わりにナツメが、自分の役目だとばかりにその刃をガィン! と豪快に上に弾き飛ばした。
強烈な攻撃が一転、完璧なタイミングで繰り出されたナツメのパリングにより、隙に変わる。
その隙を逃さず懐に飛び込んだクラインは、ちょうどよく曲がった膝を足場に駆け上がり、その首元――急所を狙って3連撃のソードスキルを繰り出す。
悪魔の首を刎ねんばかりに、深々と、赤々と刻まれる太刀傷。
こちらも、通常のソードスキルよりもかなり増したダメージが入ったように見えた。
しかし、ちょうどそのタイミングで体勢を立て直した『ザ・グリームアイズ』は、ソードスキルではないものの、まだ空中にいるクラインを狙い、剣を水平に振りぬこうとする……が、
「私のこと、忘れてないっ!?」
突如として横から襲って来た巨大な衝撃―――ストレアの放った大火力のソードスキルが横っ腹に突き刺さったことにより、攻撃は中断する。
「ふふん、油断大敵「ダメよ、ストレアさん! その位置はダメ!」――え?」
その時、後方から鋭く響いたグリセルダの声に、攻撃直後のストレアがきょとんとする。
直後、キリトやアスナといった、その状況に経験と見覚えのあるメンバーがはっとした。
「キリト君、これ……」
「ああ、まずい! 両手剣や刀系の武器を持ってるボスは、包囲すると……」
――全方位攻撃が来る。そうキリトが言い切る前に、青眼を怒りに燃やすボスの斬馬刀に、ソードスキルの光が灯った。同時に、今までに見たことのない構えに移行する。
まるで、水平に、目の前の全てを薙ぎ払わんとするかのような……
そう、今ストレアが攻撃した位置に切り込んだことで、その条件を満たしてしまったのだ。
「まずっ……コレ多分、キャンセルできない系……」
『全員、後ろに飛びなさい!』
その時、グリセルダの声が……全員の耳に、やけに力強く聞こえ……次の瞬間、ソードスキル後の硬直からギリギリで間に合ったストレアを含む全員が、間一髪その効果範囲から飛びのいた。
振り回された斬馬刀による一撃を、誰一人その身に食らうことなく。
しかし……うまく回避できたにも関わらず、その内の何人かは、何やら不思議そうにしていた。
「……今、何か……いつもより速く動けたような……?」
「え、クラインも? 実は私もなんだけど……」
「私もだ。これは、まさか……」
クラディールが、とっさに、直前に聞こえた声の主……グリセルダを見やる。
グリセルダはそれに対して、『後でお話しします』と簡潔に返すと、また声を張った。
「皆さん……色々と言いたいこと、不思議なこと等ありますが、まずはこのままボスを倒しましょう! もう戦いも折り返し地点ですし……話はその後ということで、よろしいですね?」
「……ああ、わかってる!」
「はい!」
「応よっ!」
「……了解!」
「うん!」
「ああ!」
「……それから、今からしばらく全員、ステータスが多少ですが上がって、早く動けたり攻撃の威力が上がったりするかと思いますが、戸惑って手や足を止めないように注意してください」
「「「は?」」」
その数分後、決着はついた。
2本の剣から繰り出される怒涛の連続攻撃で、短時間に大量のHPを削り取るキリト、
尋常ならざる速さで動き回り、他のメンバーの攻撃のわずかな合間をぬって切り付け、すぐに離脱して敵をかく乱しつつダメージを蓄積させるアスナ、
『リニアー』を利用して高速で動き、さらに硬直時間が全くない軽やかで滑らかな動きで、どこにでもすぐに駆け付けてあらゆる攻撃を受け止め、弾き、守りぬくナツメ。
堅牢なはずのボスの防御をいともたやすく抜いて大ダメージを与えるクラディール、
真正面からボスの攻撃を紙一重で交わし、あるいはナツメが防いでいる間に的確に急所、あるいは防御力の弱い個所に一撃を叩き込むクライン、
時には攻撃に加わることもあったが、基本的に後方から指示を出すことに徹したグリセルダ。その指示に従うたびに、なぜか体が軽くなり、連携が上手くいく感覚を皆が感じていた。
そしてストレアと、『軍』への応急処置を終えて途中から戦線に参加したヨルコとカインズ、さらに『風林火山』の面々も加わり、少人数ながら着々とそのHPを削っていくことに成功。
ボスのHPが黄色から赤に変わり、さらに苛烈な攻撃と強力なスキルを放ってくるようになったものの……ナツメに加え、カインズや風林火山の面々が参加して防御に専念してそれを防ぎ、残りのメンバーはこちらも負けじと攻撃を集中させる。
そして、HPが残り僅かになったところで、隙を見てナツメが放った『メイス』によるソードスキルにより――またしても武器を素早く持ち替えていた――ダウンと、同時にスタンが入る。
「……好機! 『総員、
グリセルダの号令に従い、殺到するメンバー。
ダウンして膝を、さらには片腕を床について頭を垂れ、無防備な姿をさらす『ザ・グリームアイズ』に、次々と強力な一撃が叩き込まれた。
クラディールが大上段から脳天に剣を振り下ろし、クラインが首元を薙ぎ払い、アスナが胸をハチの巣にする勢いで連撃を突き立て、ストレアと、グリセルダも加わって左右から切り付ける。またしてもいつの間にか武器を持ち換えていたナツメは、片手剣のソードスキルを何発も連続で叩き込んでいた。
そして、トドメとばかりにキリトが切り込む。
「――滅びのバースt……あ、間違った。スターバースト・ストリーム!!」
16連撃のソードスキルが『ザ・グリームアイズ』を滅多斬りにし、残っていたHPの全てを消し飛ばし……その身を大量のポリゴン片に変えて爆散した。
「―――終わった……!」
誰が言ったのかもわからない、そんな小さくてか細い声が……やけによく通った。
キリト君のあの技名、
アニメのあの話のタイトル、
某社長の嫁を想像したのは作者だけではないはず……