この前の話の第21話と合わせてどうぞ。
……といっても、長くなりすぎたからキリのいいところで切っただけなんですが。
Side.キリト
戦いが終わった後、俺達はそのまま、ボス部屋で小休止……いや、思い切って大休止を取ることにした。
ボスを倒した今、ここはもう安全地帯も同然の場所だし……突発的に、少人数でボス戦に挑んで勝利するなんていう偉業を成し遂げた後なんだ、このくらいしてもバチは当たらないだろう。
残念ながら弁当はさっき食べてしまったので、せいぜい飲み物くらいしかないが。
そうして休む間……やはり話題に上がるのは、さっきの戦いの中でのこと。
当然ながら、両手に剣を1本ずつもってソードスキルを使うなんていう真似をした俺に、多くの視線が集中する。
まあ、わかってはいたけどな、こうなるだろうって。
……いやでも、俺だけじゃないだろ、さっきの戦いで何かこう、変なことしてたの。
行動とか、速さとか、威力とか、明らかにおかしいの何人もいたよな?
……ああそうですか、俺からですか。
「エクストラスキルだよ……『二刀流』」
「っ……! し、出現条件は!?」
「わかってたら公開してるさ……半年くらい前、気が付いたら習得してたんだ」
現状、俺以外にこのスキルを持っている奴はいない。
まあ、隠してるだけかもしれないが……もし、俺だけがこのスキルを持っていて、なおかつ他の誰もコレを会得できないのだとすれば……こいつはいわゆる『ユニークスキル』ってことになる。
ただ1人のためだけの、ゲームバランスを崩壊させかねない性能を持つスキル。
『血盟騎士団』の団長……ヒースクリフが持っている『神聖剣』と同じようなそれ、かも。
こう言っちゃなんだが……ネットゲーマーには嫉妬深い気質を持つ者も多い。決して自分には獲得できない、強力なスキルやアイテムは、持っているだけでねたまれることも珍しくない。
それに加えて……まだスキル熟練度がコンプリートに至っていない、ボス戦とかで使うのに不安が残る部分もあったから、隠してたんだけどな。
こんな大舞台で、大勢の前で使ってしまった以上、もう隠し通すのは無理だろう。
けど、俺はそこまで悲観的にはならないで済んだ。
繰り返すが、『俺だけじゃない』っていうことが、さっきの戦いで明らかになったからな。
アレか、『赤信号、みんなで渡れば怖くない』の理論か。いや実際にやっちゃだめだけど。
俺の話はこれくらいにして……じゃ、次はアスナ行ってみようか?
「えっ、わ……私? あー、うん……知ってる人いるかな? 『神速』って言うんだけど」
……いないみたいだな。恐らくだが、俺のと同様に『ユニーク』だろう。
聞けば、その大層な名前の通り、すさまじい速さで動けるようになる加速スキルらしい。ただのエフェクトかもしれないが……残像できてたもんな。名前負けはしていない、か。
ただ、無制限に加速できるわけでも、デメリットがないわけでもないようだ。
アスナ曰く、HPゲージの下に、別なゲージが……『神速』発動用のそれがあるらしく、発動中はそれを徐々に消費していくんだとか。
発動と解除は任意。発動をやめれば減少は止まるし、ゲージは時間経過で回復するが、ゲージを使い切ってしまうと強制的に加速は解除され、結構長いクールタイムが発生する。その間、能力は使えなくなってしまうとのこと。
加えて、加速中は防御力が下がってしまうらしいので、流れ弾を含めた敵の攻撃に当たらないように最大限気を使うらしい。
また、加速するのは移動速度だけで、攻撃やソードスキルの硬直時間等はそのままだそうだ。
単純だけど、けっこうピーキーなスキルだな……強力だけど、使いこなすのは普通のプレイヤーには難しいだろう。アスナだからこそ最大限に生かせているんだろうな。
「じゃあ次は俺だな! 俺のはな……その名もずばり『武士道』だ! 俺にピッタリだろ?」
「……『野武士』じゃなくて?」
「違げぇよ!? つかお前好きだなそのネタ!?」
ウケ狙いはこの辺にして、クラインのスキルは『武士道』か。
侍を意識した装備や戦闘スタイルに、確かにあっていなくもないかもな。
「つっても、何も複雑な効果みてえなのはなくてな? 『刀』を使った戦闘での攻撃力と攻撃速度が上がるってもんだ。あと、専用の、それなりに強力なソードスキルがいくつかあるくらいだ」
と、簡単な説明。それに加えて、『むしろデメリットの方が大きくて厄介』とのこと。
2つあるらしいが……どちらも何というか、まさに『武士道精神』を意識したようなものだった。これを作成した茅場、あるいはスタッフの趣味だろうか。
1つは、敵の正面側180度から攻撃した場合、攻撃力がさらに上がるが、逆に後ろ側からの攻撃だとスキルが発動せず、結果的に攻撃力が下がってしまう点。
もう1つは……武士ならば正々堂々勝負しろ、とでも言うんだろうか。武器についている、攻撃時に発動する特殊効果――出血デバフや行動阻害など――が、一切発動しなくなるそうだ。
このデメリットゆえに、クラインは常に敵の正面に立つという危険を冒し、なおかつ特殊効果抜きの、火力最重視の武器を使って戦っているそうだ。
まあ、正面から戦うのは、クラインの元々のスタイルだった気もするが。
「こんなとこだな。まあ、スキル熟練度自体がまだまだ低いんで、もう少し育てたら何か能力が追加されるかもしれねえとは思ってる。もしそうだったら改めて教えるぜ」
「……じゃあ、次は時計回りで私ね」
お次は、グリセルダさんである。
彼女の奴については……戦闘中に自分で軽く言ってたこともあって、ある程度予想は付いてるが。
「エクストラスキル『統率』。効果は……戦闘に参加している全プレイヤーの能力強化、及び、指示通りに行動した全プレイヤーの行動への強化補正です」
「……また、すげえのが出たな」
クラインの言うとおり……これはとんでもないスキルだ。
さらに、詳しくその効果を聞けば聞くほど、俺の『二刀流』やアスナの『神速』なんか霞んでしまうくらいのぶっ壊れレベルだと思えるものだった。
このスキルは指揮官としての役割、および集団戦に特化した支援型スキルだ。
戦闘中に限っての話ではあるが、スキル保有者が参加しているパーティ、あるいはレイドの全員の全能力(STR、VIT、AGI、DEX)が強化される。そしてその強化幅は、スキル熟練度と、戦闘参加者の人数によって増減する。
要するに……戦闘に参加している数が多ければ多いほど、強化幅も大きくなる。
加えて、指揮官として行動を指示するためのコマンドみたいなものがあるらしく……それに従って動いた場合、この行動自体にもボーナスがかかる。
『攻撃せよ!』って指示の通りに攻撃すれば、その際だけ攻撃力がさらに上がり、『退避しろ!』って指示の通りに退避すれば、敏捷性にボーナスが……という感じだ。
ああ、それであの時……グリセルダさんの『後ろに飛べ!』って声に従ったプレイヤー全員が、いつもより早く動けた、っていう感じに思ったわけか。
そして、このスキルには……デメリットらしいデメリットがない。アスナみたいに、発動中防御力が下がるだとか、クラインみたいに特殊効果が無効になるみたいなのがない。
強いて言うなら……このスキルは、多人数での戦闘が大前提になっているため、単独では使えない、という点くらいか。
最低でも、グリセルダさんを含めて4人以上でないと、発動自体しないらしい。
だが、注目したいのは下限より上限だ。さっきも言ったが、このスキルは大人数で使うほどにその効果が高く……さらにはその強化人数に上限がない。システム上、『共闘している』と見なされる状態であれば、それこそ6人だろうが、10人だろうが、20人だろうが全員強化する。
それこそ……階層ボス戦のような、6人×8パーティ、48人のフルレイド状態で使おうものなら、恐ろしいほどの有用性を発揮するだろう。
ただ、実際に試したことはないそうだから、あまり細かいことはまだわからないらしいが。
それもそのはず、実はこのスキル……
「キリト君達と同じように、気が付いたら習得していたの……一昨日」
「お、一昨日!?」
「それは、また……習得したばかりだったんですね」
「ええ。だから……ろくに検証もまだなのよ。さっきのがほぼぶっつけ本番」
とのこと。そりゃ、スキル表示の説明そのままくらいしか話せる内容ないわな。
「私からはこのくらいね。じゃあ、次はクラディールさんかしら」
「ああ、そうか……わかった。結論から言うと……恐らくは、私のこれも、『ユニークスキル』の類だろうと考えている。スキル名は………………」
そこで、なぜかタメを作るクラディール。
……気のせいだろうか? 何か、ちょっと得意げというか、優越感というか、そんな感じのものを滲ませているような……何だ? そんな自慢したい感じのスキルなのか?
……ちょっとイラっと来るな。一体何なんだろうか。
恐らく、待っている数人は俺と同じような感想を抱いているんじゃないだろうか? そのくらい、クラディールの態度は露骨だ。
というか……そもそもこの人がこんな風な態度になるってのも珍しい気がするが……
しかし次の瞬間、クラディールの告げた単語に、俺達の大部分が衝撃を受けることとなる。彼の自慢気な態度もむべなるかなと、納得できてしまうレベルの衝撃を。
「…………『斬鉄剣』だ」
「「「っっっ!?」」」
衝撃走る。
……斬鉄剣?
……ざ ん て つ け ん!?
『斬鉄剣』ッッッ!?
「何……だと……!?」
呟いたのは誰の言葉だっただろうか。
クラディールの口から飛び出した、世の男性なら、カートゥーンコミックに造詣があるならば一度は聞いたことがあるであろうその名前。『SAO』なんて枠を飛び越えて、刀剣関係の技術の中で最も有名な1つであろうかのスキルが、この世界に実装されていただと!?
「やばい、何か今震えが来た」
「畜生ッ! 何で、何で俺にそのスキルが来なかったんだ……普通刀だろ!? 斬鉄剣なら刀だろ!?」
「……だめだ、うらやましいと思う気持ちを止められない!」
「ぐ、グリセルダさん? 何か、その……男の人たちがすごく過剰に反応してるんですけど……そ、そんなにすごいスキルなんでしょうか?」
「…………なるほど、これがジェネレーションギャップって奴なのかしら」
「はい?」
「いいえ、何でもないわ……でも、そうね、正直私もうらやましいと思うもの」
……どうやらアスナはよくわかっていないらしい。マジか。
「アスナ、これは仕方ないんだ。男の子なら誰でも思ってしまうことだと言っていい」
「え、えええ? き、キリト君まで……ジェネレーション関係ないの?」
「男の子であれば、ある程度後の年代でもその知名度は絶大だと言っていいでしょうね……」
「ナツメ先生まで……」
ちら、と目の端で見れば、ヨルコさんとカインズさんもこくこくと頷いている。
さらに、『風林火山』の連中も、さっきまで死に体だった『軍』の奴らも同様だった。
今、クラディールは俺達の中で、一躍時の人になりつつある。こんな展開を誰が予想できただろうか。
この場にいてそれが理解できていないのは……アスナと、ストレアくらいのようだ。
「ちなみに、このスキルのことは団長にしか話していなかったのだが、こうなった以上は隠す意味もなく……しかし、ならば遠慮せず、堂々と言えるというものだ」
言える……!? ! まさか……
「……また、つまらぬものを斬ってしまった……と」
「「「おおおおおお!!」」」
「何、この……何なんだろうコレ。皆が……キリト君が、遠い……」
ちなみに、名前が衝撃的過ぎて肝心の説明自体がだいぶ後回しになってしまったものの、『斬鉄剣』の効果は相手の防御力や斬撃耐性をある程度無視して攻撃する……いわゆる『防御貫通』だった。
それで『ザ・グリームアイズ』の防御力が高い部分を斬りつけても、むしろダメージが割り増しされて通ってたんだな。
で、最後。
「……! ああ、僕ですか……僕のは『武芸百般』という名前のスキルです。お察しの通り……恐らくですが、ユニークスキルでしょうね」
と、ナツメ。打って変わって、あまり馴染みのない単語というか、スキル名が出て来たな。
そして説明してもらったんだが……実際にややこしい、しかし理解してみれば、グリセルダさんの『統率』と並ぶレベルで滅茶苦茶な性能を持つ、バランスブレイカー的スキルだった。
簡単に言い表せば、スキル『武芸百般』の特徴は……次の3点に集約される。
1.ソードスキル使用時のシステムアシストが最小限になる。というか皆無に近くなる。
2.ソードスキル使用時の硬直時間およびクールタイムがほぼゼロになる。
3.モーションさえ正確なら、ユニークを除くあらゆる武器のソードスキルを使用可能。
こうして箇条書きにしてみると……どうもおかしなことに気づくと思う。
『1』と『3』……この2つが矛盾しているということに。
まずここで、ソードスキルというものについておさらいしておこうと思う。
『ソードスキル』は、初動のモーションによってシステムにスキル発動を認識させることで、後はシステムの補助が入って、半ば自動的に体が動き、スキルが発動するという仕組みだ。
これにより、武術も何もかじったことのない初心者・一般人であっても、見事な剣技を繰り出してモンスターと戦うということが可能になっている。
その代償として、スキル使用後は硬直時間とクールタイムが発生するため、連続でスキルを放つようなことはできないんだが。
この縛りをある程度無効化するための、通称『システム外スキル』というものも存在するんだが、それは今は置いておこう。
そんなわけで、ソードスキルというのは、動き自体の難易度やら派手さに差はあれど、システムの補助を受けることがほぼほぼ前提になっているわけだ。
そしてここからの話は、今言ったソードスキルの概要を念頭に置いた上で聞いてほしい。
ナツメのユニークスキル『武芸百般』は、このシステム補助がほぼゼロになる。
つまり、ソードスキルをシステムに助けてもらって発動することができなくなる。
だが、発動できないわけではない。
あくまで、『システムの補助』がなくなるだけであって、1から10まで自力でモーションを一致させることができれば、きちんと発動はしてくれるのだ。
アシストも、『ほぼ』ゼロであって、完全なゼロじゃない。せいぜい、モーションに沿って推進力が加算されるとかその程度になるそうだが、入ることは入る。
無論、これは言うほど簡単なことじゃない。
『システムの補助が前提となっているスキル』を、システムの補助なしでやるなんてのは、タダ動きをまねするだけだと言っても、難易度は高いなんてもんじゃない。
ましてや、ソードスキルを使うのは基本的に戦闘中だ。つまり、戦闘中に、敵の攻撃をかわしたり、味方と連携しながらそんなことをしなければならないわけだ。
率直に言って、無理だ。似た動きならできるかもしれないが、寸分たがわず――少なくとも、システムが『ソードスキルの動きである』と認識できるほどに――動きをトレースするなんて、超スローで再現できるかどうか、ってところだ。実戦で使える奴なんていないだろう。
人間離れした動きの精密さ・正確さと、戦闘中にそれを実行できるだけの精神力・意志の強さを併せ持ってでもいなければ、そんなことは不可能である。
しかし、それを可能にしてしまえるだけのプレイヤースキルを持つ男が、ここにいた。
『機械以上に正確』とまで言われた動きと、恐ろしいほどに冷に徹することができる精神力を、ナツメは持っている。
そして、それがもし『可能』であるとするならば……システムの補助なしでソードスキルを完璧に再現できるという条件を満たすならば、この『武芸百般』は恐ろしく強力なスキルになる。
さっき挙げた、特徴の『2』と『3』。これらが生きてくるがゆえに。
まず、あらゆるソードスキルに存在する、技後硬直とクールタイム。これがなくなる。
つまり、ソードスキルを繰り出した後、立て続けにまたソードスキルを、さらに間髪入れずにまたソードスキルを……という感じで、間断なくソードスキルを放つことができる。
繋げられるかどうかの、動き的な相性こそあるだろうが……戦いにおいて主軸を担うほどの火力を持ったそれを、使用前後の隙をほぼ考えずに使い放題になる。
全くのゼロではないとはいえ、それこそプレイヤースキルでどうにでもできる程度だ。
加えて……モーションを再現できるなら、武器を取り換えるだけで、個々のスキルがなくても武器ごとのソードスキルを使える点も大きい。
ナツメは、移動の補助にするために細剣の『リニアー』を、スタンさせて隙を作るために、メイスのソードスキルもいくつか使っていた。
俺が知る限り、ナツメが育てている武器スキルは片手剣と刀だけだ。この2つは育てておらず……しかし、『武芸百般』の力により、ソードスキルをアナログで再現できた。
火力は、純粋にスキルを育てた場合よりやや劣るようだが、それでも効果は破格だろう。
さらに言えば、これは、ナツメとある程度親しい者であれば知っていることだが、奴は全種類の武器を実践レベルで使えるほどに習熟しており……それがこのスキルの有用性に拍車をかけている。
ナツメは、このスキルを使う上で、唯一にして最大の障害である『システム補助なし』を自力で克服し、結果として『全武器種のソードスキル使用可能』『硬直時間・クールタイム極小化』という鬼のような手札を手に入れたというわけだ。
おそらく、ナツメ以外には使いこなせないであろうスキル。
だが、ナツメが手に入れたことで日の目を見た、と言える。
……いや、もしかしたらそういう取得条件であり、ナツメが手にしたことこそ必然なのかもしれないが……やめよう、これは考えても意味ない。
俺のを含めて、ここにいる全員が手に入れた『ユニークスキル』は……1つとして、その詳しい取得条件なんかは明らかになってないんだからな。
さて……これで一通り、ユニークスキル紹介は終わった。
大休止としても十分なくらいに休めたので、そろそろ上の層のアクティベートに行ってもいいくらいの時間なわけだが……。
「けど……これから大変だな、こりゃ」
「……やっぱそう思うか、クライン?」
「当たりめーだ、冷静に考えてみろ……今まで表に出てこなかった、『血盟騎士団』の団長さん以外にいなかった『ユニークスキル』持ちが、ここに来て他にも出て来たんだぜ?」
「しかも、一度に6人も……だ。これは、荒れるぞ」
クラインとクラディールが、今からすでにうんざりしたような表情でそう言った。
だよなあ……俺も、形だけクラインに聞き返しはしたものの、実際そう思う。
『ユニークスキル』は、その特性は十人十色なれど(まだ10個もないが)、血盟騎士団団長・ヒースクリフの『神聖剣』が知られているように、このSAOというゲーム内におけるバランスブレイカーと言っていいほどに強力なスキルだ。
当然、その所有者を擁するギルドは圧倒的な戦力を保持していることになり……血盟騎士団がアインクラッド最強のギルドと言われているのも、それによるところが大きい。
無論、ヒースクリフ以外の団員も精鋭なわけだが、それだって『聖騎士』ヒースクリフのネームバリューとカリスマにひかれて集まってきた奴らも多いわけだし。
しかも、だ。今回新たに出て来たユニークスキル持ちのうち、さらに2人が『血盟騎士団』所属なんだよな……偏りがひっどいことになってやがる。
そしてそれは、俺に限った懸念じゃなかったようだ。
「『神聖剣』『神速』『斬鉄剣』……ユニークスキルが『血盟騎士団』に3つも集中していますね」
「これで、『血盟騎士団』=最強ギルドの地位はもう不動だな」
「そんな風に言われても、素直に喜べないわ。いや、喜ばしいことだし、私達自身はこの力を攻略のために最大限活用するつもりだけど……絶対、よそのギルドから色々言われる……」
「特に『聖龍』と『軍』あたりが騒ぎそうだよな……最悪、勧誘合戦とか始まるんじゃねーか?」
「そうなると、まずいのはむしろギルド無所属の2人だな。ギルドマスターである団長やクライン君、グリセルダ君を勧誘など、いくら何でも非常識・論外だ……私や副団長にしても、引き抜くのが難しいことは考えなくてもわかるだろうが……ソロのキリト君とナツメ君は……」
「うげ……何それ、考えたくねえ……」
「面倒事は不可避、か……どうしたものか」
俺とナツメは、名目上ソロだからな……いや、ナツメには『アインクラッド総合病院』院長っていう肩書があるけど、俺にはそういうのは何もない分、より的にされやすいかも……
『血盟騎士団』をライバル視してる『聖龍連合』、今回のことで『攻略組』復帰を熱望しているのが確定になった『アインクラッド解放軍』、その他諸々……いくらでもその差を縮めるために、現在フリーのユニークスキル持ちをしつこく勧誘してくることは十分に考えられる。
それこそ、多少強引にでも。俺個人的には……さっきはクラディールは可能性として除外してたが、『所詮は中小ギルド』と侮って、グリセルダさんを勧誘の対象にする可能性も十分あると思う。『黄金林檎』ごと取り込んでしまえとばかりに。
もっとも、んなことになったら、中層以下の三大勢力が本腰を上げるだろうが。
「……いっそ、どこかギルドにでも入っちまえばいいんじゃねえか? そうすりゃ、そこが看板で守ってやれるとも言えるしよ。キリトよぉ、正味な話、お前のことを『ビーター』だの何だの言って毛嫌いしてるような奴なんざ、もうほとんどどこにもいないだろ? 特に攻略組には」
「加入云々についてはともかく、それについては私も同感だ。キリト君が誰よりも攻略の、クリアのためにその身を粉にしているのは、攻略に携わるものなら誰でも知っているし……あの時の君の言葉が、βテスターとビギナーの間の軋轢が深刻化するのを回避するための詭弁だったというのは、半ば公然の秘密となっている。君が1人で気にして抱え込む必要は、もうない」
「クライン……クラディール……」
ふいにかけられたそんな言葉に……突然だったこともあってか、嬉しくなってしまった自分がいた。もう2年近くも前のことだけど……こうして今、自分を理解してくれてる人はいるんだと思うと。
そして、その中でも一番であろう人が……隣に座って、俺の手をぎゅっと握ってきてくれた。
「アスナ……」
こちらに微笑みかけてくれるアスナは、何も言わなかったが……その優しい笑みは、言葉を必要としないくらいに雄弁で……俺は……
「あー……ちょっといいですか?」
しかしそこで、ナツメが少々言いづらそうに口を開いた。
……正直、もうちょっとでいいから静かに待っていてほしかったんだが、ナツメ自身も何やら不本意そうではある様子だったので、話をとりあえず聞くことに。
「いい雰囲気の所大変申し訳ないのですが……それらの対応を含めて一旦後回しにして、まずは上の層のアクティベートを済ませて、早く帰りましょう。そもそもこれほどの問題、各ギルドに相談もなしにこの場で決めていいものでもないし……消耗した3割頭で考えてもいい案は出ませんよ」
……それもそうか。
どっちみち大騒ぎになるのは確定だしな。考えるのは帰ってからに……いやもう、明日からってことにして、今日はもう休んじまおう。
ボス部屋のクリスタル無効化空間のこととか、色々と周知・共有しなきゃいけない情報もある。アルゴにメッセージ送って働いてもらわねーとな。
……明日から、大変だ。
最悪、しばらくろくに出歩けなくなるのも覚悟すべきか……?
Q:何でクラディールやグリセルダがユニークスキル持ってるの?
A:せっかく原作ブレイクして生き残ったので活躍させたかったから。
Q:何でアスナやクラインまでユニークスキル持ってるの?
A:出世キャラに持たせるなら主要キャラにも持ってる人増やした方がいいかなと思った。
Q:建前でもいいから理由とかある?
A:原作より精神的に余裕出て一緒に組むことが多くなったキリトに引っ張られて攻略頑張って条件満たしたとかそんな感じ