ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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風邪引きました…鼻水と咳とくしゃみがひどい。
金曜日、職場の上司が39度の熱で出勤してきてたのが多分原因…被害妄想じゃなければ。

更新ですが、さすがに一時ストップ、あるいはペース落ちるかもです…すいません。

そしてそんな時にタイトルからしてアレな話を投稿するっていう…


第23話 GTC グレートティーチャークラディール

Side.キリト

 

 『どうしよう、キリト君……大変なことになっちゃった』

 

 そんな、焦ったような、悲しいような、色々な感情が入り混じった声でアスナが言って来たのが……もう30分ほど前のことだ。

 

 記憶に新しい、第74層ボス攻略戦。『軍』の連中の暴走により、出さなくてもいい犠牲を出したあの戦いで……俺は、これ以上の犠牲を出さないため、隠していた『二刀流』スキルを使った。

 

 他の誰も持っていないエクストラスキル……通称『ユニークスキル』と呼ばれるそれを晒せば、嫉妬やら何やらで注目されることになる、というのは覚悟した上で。

 

 幸いだったのは、俺以外にも『ユニークスキル』を持っていた奴が、あの場には5人もいて……話題が分散してくれたことだろうか。

 アルゴ達情報屋勢が発行しているこの新聞にも、誰か1人に集中しないように書かれてるし。

 

 ……というより、俺ら6人分の情報を過不足なく入れようとしたら、誰か1人に偏らせるだけの余裕がなかっただけかもしれんが。

 いつもなら1枚ピラの新聞が、今日のは2枚見開きになってるし……その上で6人分きっちり情報入れた記事を書くとなると、そりゃ尺もとるってことか。

 

 ご丁寧に全員分のイラストまでついてるし。よくこの短時間でここまで作ったんもんだ。

 

 あと、全員分の異名が一覧で出てるな、細かい。えーと何何……

 

 『黒の剣士』キリト

 『閃光』アスナ

 『武士(もののふ)』クライン

 『戦乙女』グリセルダ

 『剣侠』クラディール

 『青纏』ナツメ

 

 というか……俺やアスナの2つ名はしょっちゅう耳にしてたけど、他の連中のはほとんど初めて見るな……いや、クラインのは時々聞いたような気もする。まさにそんな感じだし。

 

 しかし、『戦乙女』に『剣侠』……ナツメの『青纏』も……初めて聞いたな。前から呼ばれてたのか、はたまた今回の件で呼ばれ始めたのか……誰だ考えたの? アルゴか?

 

 まあ、不思議とどれもわからなくもない感じではあるが……。

 

 とまあ、こんな感じで俺達のユニークスキル、およびその能力みたいなものもこうして広まってしまったため、今日は朝から情報屋やら何やらに追っかけられて大変だった。

 

 思わずエギルの店に逃げ込んでしまって、そのまま1日外に出ずにいようかと思ったくらいなんだが……そこにアスナが飛び込んできて、冒頭のセリフにつながるわけだ。

 

 アスナは元々、この層の探索がひと段落したら、一時『血盟騎士団』を離れて――別に抜けるわけじゃなく、一時的な退団か、あるいは休暇みたいな扱いにするらしい――少しのんびり休もうかと思っていたらしい。それ自体は、以前から聞いていた。

 

 アスナは今まで、『攻略の鬼』と呼ばれるまでに、寝ても覚めてもとにかく攻略のことばかり考え、その為に行動してきた。

 一応、多少は息抜きや趣味の時間を取っていたようだが、それでも十分にワーカホリックと言えるレベルで……自他ともに認める『働きすぎ』だった。

 

 ここ最近は、長期間に及ぶSAO内での生活で、攻略組に限らず、アインクラッド全体の士気の低下が問題になることも多く……その解決のためにアスナはより忙しく奔走していた。

 だが、いい加減に休まないと限界が来る、と、俺と組んで戦う中で思い至ったらしい。

 

 俺もソロで、年がら年中攻略してるけど、気まぐれで色々寄り道したり、趣味に走ったり、天気のいい日は昼寝したり、仲いい奴と喋ったりして適宜リフレッシュしてるしな。

 

 どうやらアスナも、そうして一度休んで英気を養うというのも大事だと思ったらしく、幹部連中には内々に伝えていたらしい。多分許可も出るし、大丈夫だ、という話だったはずだ。

 

 ……が、どうやら今回のこの一件がそれに待ったをかけたらしい。

 

 それについて、とにかく一緒に来てほしい、という話になったので、アスナと一緒に第55層の主街区『グランザム』にある、『血盟騎士団』の本部に行った。

 

 その奥の一室。俺達が通されたそこでは……『聖騎士』ヒースクリフを筆頭とした『血盟騎士団』の幹部達に加え、このアインクラッドにおける様々な組織の有力者、今回の件の関係者が全員集合し、喧々諤々の議論を繰り広げていた。

 

 ただ、より正確に言えば……議論で火花を散らしてるのは、ほとんど2人である。

 

「これはまたとない好機だろう! 団長の『神聖剣』以外にも6つもユニークスキルが見つかったとなれば、今後の攻略を進める上で絶大な戦力になる! 一刻も早い100層攻略のために一致団結して攻略に臨むべきではないか!」

 

「攻略に注力すること自体に否はない! だがそのために個人の都合……より正確に言えば、個人として持っていて当然の権利を侵害し、滅私奉公を強いることは断じて許容できない! 現状はそこまで切迫した状況になっているわけではない以上、大義は横暴の理由にはならん!」

 

「横暴だと!? 一刻も早く全プレイヤーを開放するための努力をすることのどこが横暴だと言うのだ!? それは全ての攻略組プレイヤーに共通の目標だろう!」

 

「それは否定せんが、それだけ見ていればいいというわけではないと言っているのだ! 仮にも命がかかっている話だ、配慮をして慎重になりすぎるということはないはずだ!」

 

「命がかかっているからこそ、無力な者達に変わり、我々戦える者達が『攻略組』として先頭に立って戦っているのだろう! それは皆、承知して、覚悟の上のことのはずだ!」

 

「だからといって我々がかけている『命』が守っている『命』と違うという話にはならん! 同様に必要な配慮を損なわずすべきであって、軽々しく扱うようなことは言語道断だ!」

 

 片方は、『血盟騎士団』幹部の1人。フォワード隊の隊長であり、熱血というか暑苦しい感じの、体育会系的な印象がある大柄な男……ゴドフリー。

 

 もう片方は、血盟騎士団団員にして、『アインクラッド教育委員会』教育長……クラディール。

 

 この2人が、先程からずっと……真っ向から火花を散らして討論し続けているのである。

 

 他の列席者たち……ヒースクリフ含む、他の『血盟騎士団』幹部や、俺達同様に呼び出されていたらしい、クラインやグリセルダさん、その付き添いと思しき、風林火山のメンバーやグリムロックさんなんかは、静かなものだ。

 ……というか、単に話に入り込む隙間がなくて困っているようにも見える。

 

 この会議室に来てすぐ、話題を振ってきたのはゴドフリーの方だった。

 まずは、『ユニークスキル』がこうして一度に6人も見つかったのはとても喜ばしい、とか、そんな感じの定例句みたいな感じで始まったと思う。

 

 『ユニークスキル』は……ヒースクリフの『神聖剣』を見ればわかる通り、そして今回の第74層ボス攻略戦の結果からもわかる通り、非常に強力だ。

 攻略のために用いれば、必ず絶大な力になる。

 

 実際、俺もそう思う。

 というか、誰でもそう思いつけるだろう。

 

 爆発的な攻撃力を発揮するダメージディーラーになれる、俺の『二刀流』やクラインの『武士道』、クラディールの『斬鉄剣』。

 

 かく乱や防御の面で力を発揮するであろう、アスナの『神速』、ヒースクリフの『神聖剣』。

 

 ユニークスキルを持たない他のプレイヤー全員をも強化する、グリセルダさんの『統率』。

 

 そして、使い手自身の技量と合わせてあらゆる状況に対応できる、ナツメの『武芸百般』。

 

 これ以降のボス戦で……いや、それのみならず、探索やクエスト攻略においても、これらの力は絶大だろう。ましてや、組み合わせれば……攻撃・防御・補助と、相互に相性のいい能力がそろっていることもあり、相乗効果でさらに高い効果が期待すらできる。

 

 そんな武器が手に入ったのだから、全員力を合わせて、より一層攻略に力を入れていこう……というのが、ゴドフリーの、敷いては『血盟騎士団』の幹部の大多数の主張だった。

 

 まあ俺もアスナも、それ自体に異議はなかった。

 元々『攻略組』に籍を置いている者として、この力をそのために使うことに何ら疑問はないし、今まで見たいに隠さなくてよくなった分、気楽になったとも言えるし。

 

 しかし、その具体的な方針として提示した内容が、問題ありだったのだ。

 

 ゴドフリー及び他の幹部たちは、巻き起こり始めている『騒動』についても既に察知していた。

 俺達があの時話して心配した、『引き抜き合戦』を始めとした……『ユニークスキル』を巡って起こる諸々の騒動についてだ。

 

 予想できたことではあるが、それによって攻略の足を取られる事態は、しかし避けたい。

 なので、対策を打つために俺達に提案を出してきたのである。

 

 曰く、

 

『ユニークスキル保持者全てを『血盟騎士団』、あるいはその同盟組織の所属とすることで、戦力を一極集中させ、攻略について足並みをそろえると同時に、外部からの横槍を遮断する』

 

 すでに『血盟騎士団』に、ヒースクリフ、アスナ、クラディールの3人が所属していることを鑑みての提案だった。

 

 ソロである俺とナツメを『血盟騎士団』に加入させる。

 他のギルド所属……というかギルマスであるクラインとグリセルダさんは、引き抜きはさすがに難しいため、ギルドごと『血盟』に統合、あるいは同盟組織とする。

 

 自信満々でこう提案してきたのだが……これに猛反発したのが、他でもないクラディールだった。

 

 クラディールが指摘したのは、全員の所属を統一するということはすなわち、全員の攻略その他の行動の決定権もまた『血盟騎士団』に委ねられることになる、というもの。

 今まで通りの立場・活動を、全てとは言わないまでも、強制的に捨てさせられることになりかねない、という点だった。

 

 例を挙げれば……以前から申請していた、アスナの休暇。

 それも『一気に攻略を進める機会だから』とかいって、取り消しになりかねない。そして、ユニークスキル持ちである彼女が攻略を休むなど、今後一切認められなくなる恐れもある。

 

 さっき声を大にして言っていた、『個人の権利』の侵害。それを、『攻略』という大義名分の元に堂々と行われてしまうかもしれないということを、クラディールは危惧していた。

 

 それに対してゴドフリーは、『それの何が悪い』という返答を返してきたのだ。

 この時点で、両者の主義・主張が真っ向から異なるということは明らかになっていた。

 

 ゴドフリー達は、あくまで『攻略』を第一に考え、その足かせになるようなものを一律『邪魔』と定義づけて排除しようと考えている。それが正しいことだと。

 

 そしてそれには、他の組織の横やりや勧誘だけでなく……俺が気分転換のためによくする寄り道や昼寝、ナツメやグリセルダさんが普段やっている中層以下での活動、クラディールの『教育長』としての仕事なんかも含まれる。

 

 攻略組としてやっていく力があるんだから、攻略組に入るべき。

 そして攻略組になったんなら、攻略以外に力を割くのは無駄だからやめるべき。

 

 ゴドフリーたちの考え方の根幹は、簡単に言い表せば、こういう感じにまとめられる。

 ちょっと前までの『攻略の鬼』だったアスナを、さらにとんがらせたような方針だ。

 

 言ってしまえば、俺達『ユニークスキル持ち』を単純な戦力として考え、その最も効率的な運用方法を実現するために、必要な環境を整えようとしている。

 

 もちろん、全く休みなしじゃ精神的にもたないから、多少の休みやら、息抜きのための時間は認められるだろう。これまでだってそうしてきたわけだし。

 だが、それはあくまで最小限にまとめられるだろうし……アスナが想定していたような、ある程度長期間の休暇はまず認められないだろう。『怠けるな』って突っぱねられる。

 

 ……偏見かもしれないが、何か……昔の体育会系の部活とか団体、みたいな感じに思える。

 

 目的のためなら何を置いてでもとか、手段は選んでいられないとか、あとは……上下関係が絶対の縦社会で、上が白と言えば黒でも白、みたいな感じ。

 

 が、これにクラディールは反発……というか最早、怒髪天といった感じにすら見える。

 

 曰く、自分も攻略組に所属する身であるから、それがどれだけ大切であるかはわかっている。

 だが、そのために何もかも犠牲にするようなことを容認してはならない。

 

 とりわけ、俺とアスナの2人を意識して守るように言ってくれているように感じた。

 

 実際にアスナの休暇が取り消しの方向で話が進んでいることに言及し、『2人はまだ子供であり、精神を健全に保つために休息は必要である。それを不当に奪い苦しめるようなことは、断じて許容できない』と言い切った。

 

「不当とはまた大げさな物言いですな。まるで我々が権力や立場を盾に横暴を言っているかのようではないか」

 

「先程からそう言っているつもりだったのだがご理解いただけていなかったとは残念だ。何度でも言うが、適切に休息をとるのは安全面からも仕事の効率からも重要なことであり、時代遅れの根性論や縦社会理論で妨げていいことではない。そもそも攻略における個人個人の行動方針というのは組織が1から10まで指示して束縛していいものではない。あくまで自由意志のはずだ」

 

 先程よりは静かに、落ち着いた様子でクラディールはゴドフリーに反論する。

 ……表面上は、だが。

 

「ギルド自体の方針として今までそうしてきたでしょう? 我々『血盟騎士団』は、攻略を主軸において活動するものの、他者への強引な勧誘はご法度、レベル上げのノルマもなし、ボス戦や未探索エリアへの探索参加の義務・強制力もなし。個人の自由意思に任せている。今までそれで問題なく回ってきたはずだ……今更それを逸脱するような方針転換を横暴と言わず何という?」

 

「情勢の変化に対応して柔軟、とでも言うべきではないかね? そもそも我々がその規則で上手くやってこれたのは、『血盟騎士団』自体が、攻略に対して高い志を、積極的に参加する意思を持ったメンバーのみで構成されていたからだ」

 

「そういう言い方をするということは、今は違うとでも?」

 

「状況が、事情が変わったという意味ではそうだ。大前提を確認しておくが、我々『攻略組』は、アインクラッド100層攻略を最優先に考えて行動している。それ以外を全く考えるなとは言わないが、その役に立つものは最大限利用すべきであるし、その妨げになるものは排除すべきだ」

 

「だから、キリト君達にも積極的な攻略参加を強制し、その妨げとなるもの……アスナ君に対する休暇なども排除……却下すべきだと? 未来ある子供に対する大人の態度ではないな」

 

「クラディール……さきほどからお前は、キリト君と副団長を『子供』だと繰り返し言っているが、お前こそ忘れてはいないか? ここにいる2人は、お前や私などよりもよほど上の強さを持っていると言っていい、全プレイヤー中でも5指に入ると言われるトッププレイヤーだぞ? ああ……もっとも、同じくユニークスキル持ちのお前ならば対抗しうるかもしれんが、それでもこの2人は、子供だなどという理由で心配されるような未熟な、弱者などではないのだ」

 

「……今のであなたと私の意見の食い違いがどこからくるのかはっきりわかった。確かに2人は私などよりもよほど強いプレイヤーだとも。よく知っているさ、あなたよりもよほど彼らと組む機会が多かったものでな? 『ユニークスキル』を加味したところで私が彼らに勝てる道理はないさ。だが、私が問題にしているのはそんなところではない。強かろうが弱かろうが関係ない。あくまで私は2人がまだ『子供だ』という点を、未来ある若人だということを問題にしているのであって、その『子供』を勝手に戦闘能力に結びつけたのはあなただ」

 

「勝手に結びつけるも何も、今はそういう話をしているのだろう! 彼らの強さを、そしてそのユニークスキルの有用性を加味すればこそ、共に協力して全力で攻略に臨むべきだと我々は……」

 

「まずその発想をやめろ! 戦闘能力が高いことと、庇護する対象ではないことをイコールで結び付けるな! 何度も言うが私は戦闘能力の話をしているのではなく、比喩でも婉曲でもなく、2人が子供だということを懸念として言っているのだ!」

 

 ばん、と荒々しく机を叩いて怒鳴るように言うクラディール。

 しかし、それで勢いをそがれるようなゴドフリーでもなかった。むしろより前のめりになる勢いでそれに反論する。

 

「私の方こそお前の言っている意味が分からん! 力ある者がその力を、アインクラッド攻略という『攻略組』の至上命題のために使うことの何が問題だと言うのだ!? まさかとは思うが、言葉の通りただこの2人がまだ子供だから、というのがそのまま理由だというつもりか!?」

 

「そのまさかだとも! 貴様こそ自分で言っていることが、そして私が言っている意味を理解していないようだから言うがな……子供というのは、世界の宝だ! 強かろうが弱かろうが、守られるべき存在であって、矢面に立たせることを当然とすべきものでは断じてない!」

 

「現実の世界であればその通りだし美談だろう! だがここでは事情が違う! 一刻も早い100層攻略のために必要な手段は全て講じるべきであり、そのために多少は現実世界における常識や美徳というものを脇に置くのはやむを得ないことだ!」

 

「限度というものがあるだろう! ああ認めよう、確かに彼らの力は攻略を進める上では絶大だ。ボス戦に彼らが1人いるかいないかで難易度が、死者数が、討伐時間が、装備やアイテムの損耗が大きく変わってくるだろうさ! それに力を貸してもらうのも悔しい話だが仕方ないことだろう! だがな、今の貴様の言うように、平時からその時間を、力を、生活の全てを攻略につぎ込むように仕向けるなど、そんな生活に身を置かせるなど、未来ある子供にさせることでは……」

 

「さっきから未来ある未来あると貴様は言うがな!? このSAOをクリアしなければその未来そのものが来んのだとわかっているのか!? そのためにまず最優先でクリアを目指すことこそ……」

 

「貴様こそわかっていないだろうが! 私はそれも分かったうえで、いずれ来る彼ら、彼女らの未来に陰りをもたらす方策を当然のように抱き合わせで提案するなと言っているのだ! 攻略のためと銘打って自分を犠牲にし、他の全てをないがしろにするような生活を彼らに押し付けるな! 心に傷が、歪が残りでもすれば、この世界から解放された後の彼らの未来が危ぶまれるのだ!」

 

「だから何度も言っているように、クリアする前からクリアした後のことなど心配しても……」

 

「いいや、心配すべきだ! 心配せねばならん! もう人生も折り返しを過ぎた私や貴様と違ってな、彼らにとってクリアはゴールではない、スタート、あるいはリスタートだ! そこから再び彼らの人生は始まって続くのだ! そのことを考えもせずに『仕方ない』だのと口にするな!」

 

 あくまで攻略を最優先とし、そのためなら多少非常識な行為でも許されるべきだと、そのために俺達トッププレイヤーやユニークスキル持ちの力を利用すべきだとするゴドフリー。

 

 俺達のユニークスキルを含めた戦力の有用性を肯定しつつも、クリア後の生活への復帰や心の傷のことを考えて、遠回りしてでも負担を最小限にすべきだというクラディール。

 

 両者の意見は真っ向から対立し、一歩も譲らない。

 途中からクラディールはゴドフリーのことを『貴様』呼ばわりしているし、だんだんと口調がまた乱暴な感じになってきてるな……感情が表に出始めているというか。

 

 するとゴドフリーは、クラディールと言い合っていた目つきのまま、視線をこっちに向けて来た。

 

「副団長、キリト君、君たちはいかがですかな? クラディールはこのように言っていますが……この場において何を優先したいか、何を優先すべきかご意見をうかがいたいものだ」

 

「えっ……?」

 

 突然話を振られ、俺もアスナも言葉に詰まる。

 

「おい、いきなり彼らを話に巻き込むのはやめろ、今は私と貴様が話をしていただろうが」

 

「お前こそ何を言う。私は別に全く関係ないところに話をそらしたわけではない、この件の当事者に意見を聞こうとしただけだ」

 

 ゴドフリーの言う通り、話題になっているのが俺達の今後についてである以上、俺達の意見を聞くのはおかしなことじゃない。いやむしろ、聞いておくべきことではあるだろう。

 

 けど……この状況下で自分の意見を言うのって、難しい気がするよな。

 

 要するに、攻略に全力を注いで集中するか、適度に余暇を挟んで精神的なゆとりを保ちたいか……って聞かれてるわけだ。

 

 個人の心情的には、俺も、アスナも後者を選びたいところだけど……

 

「ちなみに私としては、先程までの私の意見は、今まで攻略に全力を注いでこられた副団長であればどうするか……というのを、多少なりとも参考にさせていただいた部分がありますぞ。多少強引な方策であれ、我々の最終的な目的を見据えて最も効率的な方法をとるというのが、あなたが常に私達の先頭に立って歩む上で信条にしていたことだったはずですからな」

 

「…………っ!」

 

「貴様……いい加減にしろよ……」

 

「何を唸っているクラディール、私は何も事実と異なることは言っていないぞ?」

 

 さっきまでただでさえ雰囲気的に言いづらかったのに、ゴドフリーの言葉が原因で余計に……特に、アスナが正直に自分の本音を言い出しづらくなったな。

 

 働くのが正義、休むのは悪徳……っていうのが日本人的な価値観だって、昔何かのテレビで見た気がする。今自分にできることがあるのにそれをしないのは、怠け者だ、とか何とか。

 

 確かにそんな感性が多少なり日本人にはあると思うし……そうでなくても、今のゴドフリーの、恐らくわざといったのであろう『ちなみに~』の言葉のおかげで、アスナがくぎを刺された。

 

 奴の言う通り、アスナは『攻略の鬼』呼ばわりされるほど、時に強引に、時に苛烈に攻略を推し進めて来た。そして、それに団員達を付き合わせてきた。

 だから、まさか自分の番になって楽な方に逃げたりはしないだろう? と……ゴドフリーの言葉は、彼女にはそんな風に聞こえただろうし、ゴドフリー自身狙って言っただろう。

 

 それがわかっているからこそ、アスナはうつむいて黙ってしまったし……クラディールは親の仇でも見るかのような目つきでゴドフリーを睨んでいる。

 俺も正直、今の言い方はちょっと好きになれないし、アスナを困らせるようなことをした時点で、ゴドフリーの奴に味方するつもりはなくなった。

 

 幸いというか、俺は割と図太い方であるので、こういう形で前フリされようが『適度に休める方がいい』ときちんと言うことはできる。何なら、アスナの分も言ってしまってもいい。

 

 と、思っていたんだが……どうやら、今のやりとりに憤りを覚えていたのは……俺達、というか、ここにいるメンバーだけではなかったようで。

 

 ――バァン!

 

「「「!?」」」

 

「遅れて申し訳ありません、カウンセリングの急患が入って対応していたもので……しかし、扉が閉め切っていなかったせいか、外の廊下まで聞こえていましたよ。喧々諤々の元気な討論や……反吐が出るような独善的で卑劣な誘導尋問もね」

 

 勢いよく会議室のドアを両開きに開け放って、呼び出されていた最後の1人……ナツメが現れた。

 

 

 

 




作者は別にゴドフリーさんが嫌いなわけではないです。ないんですが……敵役として体育会系はちょうどよかった……
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