ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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第25話 『ソード・オブ・ソード』

【2024年10月16日】

 

 『血盟騎士団』本部で行われた会議から数日が経った今日……あの日、ヒースクリフさんが提案したアイデアが、今日、まさに実行に移された。

 

 なるほど……『祭』ね。

 僕らの希望も、攻略ギルド側の希望も、どちらもかなえられるであろう良案であると言わざるを得ないだろう。……少々、一本取られた的な感じもするけども。

 

 いやしかし、これは流石に予想できなかったな。

 

 『祭』とは……その名の通りの『祭』だった。フェスティバル、カーニバル、何と言ってもいいが……つまりは比喩でも何でもなく、名前の通りの、お祭り騒ぎのイベントだったのだ。

 

 

 イベント名『ソード・オブ・ソード』。略称『SOS』

 

 

 内容は、『全ユニークスキル保有者、及び有志の参加者による決闘(デュエル)大会』と、それに伴う、露店販売や公認賭博の実施など。

 

 SAOが始まった2022年当時をしてなお、不朽の名作として知られていた、某バトルファンタジー漫画の用語で例えれば……『天下一武道会』みたいなもんである。

 

 

 会議の場での、ヒースクリフさんの主張はこうだった。

 

 アインクラッド全体の士気を上げるにあたり、もっとも手っ取り早い方法は、『攻略組』が……もっといえば、ここ最近の話題の中心である『ユニークスキル持ち』が、その力を見せることだ。誰の目にも、わかりやすい形で。

 

 ゴドフリーさんはそれを、攻略に僕らを参加させて、超ハイペースで攻略を進めることで示そうとしていたようだけど、真正面から突っぱねられたわけだ。

 

 しかし、ヒースクリフさんが提案してきたのは、もっと直接的に『力』を見せる方法だった。

 直前に自分で言っていた、『キリト君との『決闘(デュエル)』云々』の方法を、もっとオーバーにした形……決闘(デュエル)大会である。

 

 大勢の観客を招いてそういう大会を開催し、『攻略組』はこんなに強いんだぞ、こんなにすごいことができるんだぞ、っていうのを、直接見せる。

 

 噂話や新聞記事なんかよりも、ずっとわかりやすく……『まさかそんな大げさだろ』なんて否定できないぐらいに、はっきりと見せつける。

 

 それによって、『攻略組』の力をあらためて、中層以下を含む多くのプレイヤーに理解・浸透させ、士気を上げる。『これならクリアできる』『彼らなら俺達を現実に返してくれる』とい希望に火をつけ、停滞気味になっていた100層攻略への流れを加速させる。

 

 同時にこの大会を、単なる娯楽としても楽しんでもらう。

 単純に観戦するもよし、知り合いを応援するもよし、

 

 ビジネスチャンスと見て出店してくる色々な露店を回って、買い物、食べ歩きを楽しむもよし。

 試合結果の予想に金(コル)を賭けるもよし――ただし損しても当然自己責任で。

 

 なお、このイベント運営は主に『血盟騎士団』とその系列団体に加え、中層以下のギルドからもグリセルダさんやグリムロックさん達が斡旋してスタッフを用意している。

 事実上、『攻略組』と『中層以下』合同開催の一大イベントだ。

 

 停滞気味の今のアインクラッドにとって、あらゆる意味でいい刺激になるだろう。

 士気も上がる、クリアへの希望も取り戻す、単純に息抜きにもなる。

 

 あと、副次効果ではあるけども……さっき言ったように、『経済効果』という面でもいい影響を期待できると言える。

 

 ダイゼンさん……だったかな? あの会議室にもいた、『血盟騎士団』の会計担当の、関西弁の人。

 でっかいビジネスチャンスだってことで、大張り切りで準備進めてたそうだし。

 

 もっとも、それは同じような立場にいるグリムロックさんも同様だった。

 

 僕と同じように、仲のいいキリト君やアスナさんを大切に思っていて、何より自分の妻であるグリセルダさんが、攻略のための武器扱いされてしまうかもしれない、っていう、あの交渉の場では、彼には珍しい真剣で剣呑な空気を纏っていたものの……話がこのイベントに飛んでからは、生産職プレイヤー魂全開で、ノリノリでダイゼンさんと打ち合わせ始めてたし。

 

 その企業努力?の結果は、こうして今日、わかりやすい形で表れていた。

 

 先日開通したばかりの、第75層の主街区『コリニア』。

 その中心部に、かの有名な『コロッセオ』を彷彿とさせるつくりのコロシアムがあるんだが……そこを中心にして、大小さまざまな露店が設営され、さながら縁日、夏祭りか何かのごとく賑わっている。

 

 『料理』スキル持ちのプレイヤー達が、焼きとうもろこし(のようなもの)や、焼き鶏(らしきもの)、イカ焼き(に見えなくもない)や、お好み焼き(だといいな)を作って売っていた。

 エールやらビールやら、アルコールを含む飲み物類もあちこちで売られていた。

 

 さらには、雑貨屋や薬屋、武器屋の露店まであった。商売できれば何でもいいって感じのノリだな。

 祭っぽく商売をする店もあれば、普通の露店でやるみたいに、普通に素材やら武器を売り買いする、あるいは加工する目的で出店しているところもあった。単純に、人が多く集まって商売に有利だからここにきた、っていう感じなのかもしれない。

 

 というか、買う方のプレイヤー達も、何割かはそういう掘り出し物目当てで来ていたりするようだし。いつもは中層以下の露店しか使わないような人が、いい機会だから上の方の層のレア素材をここで買って、一発強力な武器を作って……とか考えたりしているかもしれない。

 

 そしてそれらの露店は、初心者向けのものから中級者向け、果ては攻略組が第一線で使っていてもおかしくないレベルのものまで、様々用意されていた。

 

 一応、出店スペースというか、エリアごとにそういうランク分けはしているようだけど……こういうレベル幅のある露店も全然受け入れてるってのは珍しいな。何か考えがあるんだろうか?

 

 極めつけは……コロシアムにほど近い場所で行われている、『SOS実行委員会』公認の、というか思い切り胴元になって行っている賭博である。

 

 『コリニア』のあちこちで様々な露店が展開され、縁日みたいなお祭り騒ぎになっているものの、メインイベントはあくまで『大会』――『ソード・オブ・ソード』だ。

 

 このイベントの周知が行われた数日前から、今日の15時まで、大会の『受付』が行われており……我こそはと思うプレイヤーは誰でもエントリーできる。コロシアム入り口に設けられた受付に申し出て、書類を書いてルール説明を聞くだけで。

 

 ただ、全く条件なしに誰でも、ってわけじゃなく……レベルやステータスにおける最低ラインみたいなのは当然決められていて、それに満たないプレイヤーは流石にアウトだ。

 

 極端な話、下層や中層の一般プレイヤーと『攻略組』とでは、勝負にならないから。

 いつだったか、キリト君と『タイタンズハンド』の連中の、あの戦いにもなっていない戦いを思い出せばわかりやすいだろう。

 

 そして今回の試合、目玉になるのは『攻略組』の、それも『ユニークスキル持ち』だ。

 必然、参加自体が『攻略組』レベルの実力を持っていなければ土台無理とすら言える。

 

 万人が参加して楽しめるようなイベントにならないのは残念だけど、そこはもう納得してもらうしかないというか。

 

 で、だ。

 これを書いている今現在、すでに15時を回っている。

 

 午前中のイベント開始から今にかけて、僕は主に1人でこの祭りを回っていたんだが……食べ歩きやら、色々なアトラクションの出店やら、どれもそれなりに楽しめた。

 『投擲』系のスキルを利用したダーツ射的屋みたいなのが特に面白かったな。まさに縁日。

 

 料理スキル持ちの人たちが頑張ったのか、水飴や綿あめ、リンゴ飴にかき氷、フランクフルトやチョコバナナ、焼き芋にアイスキャンデー、ラーメンやおでんまであったし。

 ……季節感が滅茶苦茶だが、まあ、気にしても仕方ないか。

 

 後なぜか『カタ抜き』もあった。料理……? いや、確かにアレ食べられるけども。

 なんであんな変に細かいのが実装されてんだ、SAO……

 

 ああ、話がそれた。

 

 そんな感じで僕は午前中から、仕事をさっさと終わらせて食べ歩きしたりして楽しんでたんだが……今こうして、食休みがてら休憩しつつ、日記を書いている。

 

 この後17時から、コロシアムにて『SOS』の『予選』が始まる予定なのだ。それに集中するために、日記を含めて、他の用事は今のうちに、と思って。

 

 と言っても、僕は出ないんだが。

 

 僕を含め、『ユニークスキル持ち』7名は、予選参加を免除されている……いうなればシード枠なので。

 

 このへんで『SOS』の仕組みをごく簡単に説明しよう。

 

 『SOS』の試合日程は全部で3日。まあ、コレそのまま『祭』そのものの日程なわけだが。

 1日目である今日行われる『予選』と……2日目と3日目、すなわち明日と明後日に行われる『決勝トーナメント』に分かれている。

 

 今日行われる予選は、エントリーした一般参加プレイヤーをランダムに組み合わせて対戦カードを組み、1対1で次々に戦わせて、参加者を9人まで絞る形をとるそうだ。

 

 バトルロイヤル方式にでもできれば早かったのかもしれないが、あいにくそういう『決闘』のルールはないので、1対1をひたすら繰り返す形になる。一応、チャンスは全員に平等にってことで、なるべく戦う機会が均等になるようにするらしいけども。

 

 そしてこの『予選』、単なる『決闘』ではなく、いくつかルールが設定されている。

 

 1.勝負は『初撃決着モード』で行う

 2.制限時間は1試合あたり10分

 3.ソードスキル使用可、アイテム使用不可

 4.装備は自前のものだが、大会側が用意した、特殊なデバフ装備を身に着ける

 

 こんなところだ。

 

 特に特殊というか気になるのは『4』だろう。『KoB』は今大会のために、以前、お抱えの武具職人プレイヤーが作ったという、ある特殊な指輪アイテムを備品として用意した。

 

 その指輪は、装備すると防御力がぐーんと上がり、しかし攻撃力ががくっと下がる……まあ、RPGではよくある、極端なメリットとデメリットが同居しているものなんだそうだ。

 

 コレを、『決闘』するプレイヤー同士が装着した上で戦えば、ちょっとやそっとの攻撃じゃHPが削られないような試合運びになるだろう。ぶっちゃけ、長く楽しめる。

 それでも、強攻撃をきれいにクリーンヒットさせれば、『初撃決着モード』ならきちんと決着がつくくらいのダメージは通るだろうが。

 

 コレを装備して試合させる最大の目的は、長く試合を楽しめることではなく……安全面だ。

 『初撃決着』は、強攻撃以上の一撃を最初に叩き込んだ方が勝ちというルールだが、極端な話、その判定に抵触しないくらいの弱い攻撃を積み重ねてHPが減っていく場合もある。

 その場合でも、もう1つの決着条件である『HPが半分を割る』を満たせばそこで終わるのだが……例えば、HPが半分ちょっと残っている状態で、HPを半分以上吹き飛ばすような大火力の一撃を食らってしまえば、どうなるか。

 

 『決闘』システムは、そういう場合にHPを1残すなんて気の利いたことはしてくれない。そのままHP全損……死亡である。

 

 しかし、この指輪を装備すれば、不慮の事故でHPが全損するということはまずなくなる。

 

 最大の火力を誇る武器である両手斧の、最大火力のソードスキル『ダイナミック・ヴァイオレンス』を、頭などの急所にクリティカルで食らったとしても、削れるHPは半分を確実に割る。

 

 もちろん、この大会で決闘に乗じてPKをしようなんて不届き者がいるとは思えないし、思いたくないが……万が一を考えてのことだ。

 大会期間中の警備や、エントリー時の要注意プレイヤーであるか否かの確認は、『KoB』と『軍』が合同で行っている。そのあたりの心配は、ほぼ要らないだろう。

 

 なお、『軍』はこの大会に手を貸すことで、こないだの失態による汚名を少しでも返上したい、という狙いもあるようだが。

 まあ、役に立ってくれるんならそれでいい。

 

 ……そろそろ『予選』が始まる時間だ。

 キリト君達と一緒に観戦する約束をしてるから、遅れるわけにはいかないな。手土産をいくつか露店で買って、さっさと向かうとしよう。

 

 

 

【同日 予選終了後】

 

 

 

 うん、よかった。

 見ごたえのある、いい試合だったと思う。どれもこれも。

 

 何人か知り合いもエントリーしていた。その全員が明日の『決勝トーナメント』に進めたわけじゃないけど……それでも皆、実に見事な試合を見せてくれたと思う。

 

 もともと『攻略組』、あるいはそれに匹敵するレベルのプレイヤーを集めて開催されているんだとわかっていても、それぞれが今まで鍛え上げて来た剣の腕を感じ取ることができた。

 

 しかし……シード組を除いた、9名の決勝トーナメント参加者が決まったわけだが……ちょっとこれは予想外だな。

 ほぼというか、全員顔見知りだよ。まあ、程度に差はあるけど。

 

 攻略組でよく会う人だったり、中層、ないし『黄金林檎』や『月夜の黒猫団』に籍を置くプレイヤーだったり……元中層で、『攻略組』に移っていった人もいる。

 けど、皆大なり小なり知っている人だった。

 

 予選全ての試合と、その後の抽選も終わり……本日最後に発表された、明日の『決勝トーナメント』の組み合わせは……以下の通り。

 

 

 第1試合 キリトVSココア

 第2試合 ストレアVSキバオウ

 第3試合 グリセルダVSセバ

 第4試合 ゴドフリーVSナツメ

 第5試合 アスナVSシグレ

 第6試合 クラインVSモグラ

 第7試合 クラディールVSシュミット

 第8試合 ケイタVSヒースクリフ

 

 

 うん、どれも見ごたえありそうで結構。

 上手い具合にユニークスキル持ちがばらけたもんだな、しかし。

 

 

 

――追記――

 

 

 

 書くの忘れてたけど、この大会、MCが何と……あのユナさんだった。以前狩場で助けたり、彼氏(多分)のノーチラス君共々カウンセリングしたりしたことがある、あの子だ。

 

 『アインクラッドの歌姫』として結構な人気を博している子で、彼女の歌のファンは多い。

 

 今日も、コロシアムで試合前にサプライズで一曲披露して会場あっためてたけど、うん、見事な歌声だったと思う。個人的な感想でよければ……スカウトされてもおかしくないレベルかも。

 

 そして、そのMCのユナさんの隣、解説者席にはアルゴさんが座ってて……いやまあ、適切かもだけど何気に濃いキャスティングだな。

 

 




トーナメントの中には、ゲーム版のSAOから引っ張ってきたキャラが何人か含まれてます。知ってる人は知ってるかも。
……意外と個性的でかわいい子多いんですよね。

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