ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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第28話 準決勝・キリトVSナツメ

Side.キリト

 

 武器のメンテナンス……リズに完璧にしてもらった。

 

 スキルスロットの確認……終わってる。

 

 コンディションは万全と言っていい。試合前にアスナから『頑張ってね! 決勝で待ってるから!』との激励も貰った。こりゃ負けるわけにはいかないな。

 

 ……最後のだけちょっと死亡フラグというか、負けフラグ見たくなっちまったけど。

 

 あと、昨日の夜アスナが手料理作ってくれたんだが……そのメニューの1つがパインサラダだった。アスナはそういうネタとかスラングは詳しくないから、本当に偶然だったんだと思うけど……普通に美味かったし。

 

 まあ、そのへんはもう気にしないことにして、俺はコロシアムの通路の中を歩いて行く。

 

 これから戦う相手……ナツメは、アインクラッドで最高クラスのプレイヤースキルを持ち、さらにそれと相性が良すぎるユニークスキルまでも持つ男だ。

 

 1回戦と2回戦で戦った2人が弱かったというつもりはないが……確実にその2試合とは段違いの難易度になるだろう。

 油断なんてしてたら絶対に勝てない……どころか、一瞬で終わりかねない。

 

 おまけに、どんな武器を使ってくるかわからない。

 1回戦はいつもの盾持ち片手剣、しかし2回戦では槍を使っていた。

 

 さて、今回はどう出るか……慣れた手で来るか、それともまた武器を変えてくるのか……

 

 しかし、考え付くよりも先に、俺はコロシアムの入り口のゲートをくぐった。

 そして眼前に広がる、コロシアムの殺風景な……しかし、いかにも戦いのための場所であるという空気を感じる光景。

 

 その中心部を挟んで反対側に……俺の対戦相手も、ちょうど入ってきたところだった。

 

 最早トレードマークにもなっている、青色メインのコートのような装備を身にまとい、細い銀のフレームの眼鏡が知的な印象を与える。

 

 そして、その手にしている武器は、奴が最も使い慣れた、盾持ち片手け…………ん?

 

(盾持ち片手剣、だけど……い、いつもと違うぞ?)

 

 いつもの、俺のと同じ剣『ダークリパルサー』と、青い盾『シュテルンカイト』じゃない。

 俺の記憶が正しければ……初めて見る武器だ。剣も、盾も。あんなの装備してるところはみたことないどころか、どういう武器なのかすら俺の知識の中にはない。

 

(というか、何だあの形……なんか、見た目からしてヤバいような……? ただの剣と盾じゃ、ない……のか?)

 

 観客たちも、ナツメの装備の異質さを感じ取っているんだろう。

 『ざわ……ざわ……』と、ギャンブル漫画か何かのような騒めきがあちこちから聞こえる。

 

 そんな、俺や観客たちの反応は予想の範囲内だったのか、ナツメは手を上げて、レフェリーをやっているノーチラスを呼ぶと、提案をした。

 

 ルール上、武器防具はプレイヤーが自前で自由に選んでいいことになっているが、この2つは少々特殊なので、フェアプレイを遵守するためにも、あらかじめその能力を説明したい、と。

 

 ……そうしないとフェアじゃないくらいのものなのか、それ。

 

 そして、レフェリーはその提案を承諾し……コンソールから武器の説明文を見せてもらったんだが……正直に言おう。やっぱりヤバい武器だった。

 

 

☆☆☆

 

 

 そしてその5分後。

 

 俺とナツメは、コロシアムの中心で切り結んでいた。

 

 俺は『二刀流』スキルをフルに活用し、息つく暇もなくするくらいの気持ちで攻め続けているが、それら全てをナツメはさばいて防御してしまう。

 

 しかも、受け流しやジャストガードを駆使して、ほとんどダメージが通らないように。

 

 ヒースクリフの『神聖剣』みたいに、ベースの防御力に補正がかかってるわけでもあるまいに……それでもなお、ウンザリするぐらいに堅固だ。

 

 しかも、焦って少し踏み込みすぎたり、攻撃に集中しすぎると……すぐさまこちらの体勢ないし流れを崩されてカウンターが飛んでくる。

 試合前からわかってたことだが、一瞬たりとも気を抜けない相手だ。

 

 ……しかし、ここまではむしろ、予想していた、覚悟できていた範囲である。

 

 問題は……ナツメがこの試合で投入した、未知の剣と盾の方だ。

 普段ナツメが使っている2つとは、見た目からして大きく違う。

 

 剣は、深紅の刀身に、うねった金色のナックルガードがついている……どこか不気味で禍々しい印象を与える直剣『サタンサーベル』。

 

 盾は、赤色で、円形のバックラーのような見た目だが、やや大きめで……ギザギザの刃がついている。まるで電動ノコギリの刃をそのまま盾にしたような禍々しい盾『ガイストカッター』。

 

 普段のナツメのイメージと大きく違う2つだが……もちろん、違うのは見た目だけじゃあない。

 

 単純な性能としては、いつもの『ダークリパルサー』と『シュテルンカイト』と大きく変わらない……どころか、おそらくはそっちの方が少し上だ。

 

 にも関わらず、この2つをナツメが持ちだしたのは……それだけこの2つの効果が強力だからだ。

 同時に恐らく、俺を相手にするには、こっちの方がいいと思ったからだろう。

 

 どちらも、俺の『エリュシデータ』なんかと同じく、モンスタードロップでありながら、プレイヤーメイドの品と同等かそれ以上の性能を誇る『魔剣』カテゴリーの品である。

 

 『サタンサーベル』は、攻撃力こそそこまで突出したものじゃないが、『パリング』や『ウェポンバッシュ』といった、武器を使った防御系の技に補正があって、成功するとこちらの体勢がより大きく崩され、立て直しにより長い時間がかかる。

 

 そして、ことナツメが使うと……『成功しない』というパターンがほぼない。

 

 なので、相手のその動作を察知して攻撃を中止するか、崩された瞬間に『スキルコネクト』なんかのシステム外スキルを使って強引にでも立て直さないと、終わる。

 

 もっと凶悪なのが、盾……『ガイストカッター』の方だ。

 

 盾としての性能は、むしろ『シュテルンカイト』の方が上だが……この盾にもまた、特殊効果がある。説明文を呼んだ瞬間、思わず目を疑うような……おぉっと!?

 

 ちょっと剣筋が乱れてしまったのを見逃さなかったナツメが即座に切り込んできて、『サタンサーベル』を横凪ぎに振るう。

 

 その刀身はソードスキルの光を纏っていたが……それが振りぬかれた後、本来あるであろう技後硬直はなく、そのままもう1歩踏み込んでくる。

 

 本来ならシステムによるアシストが入り、半自動で発動する『ソードスキル』を、ナツメはその人間離れした精密動作によって、いわば完全マニュアル操作で再現している。

 そして、その苦労の代わりに……硬直なしの連続攻撃が可能になっている。

 

 それがナツメのユニークスキル……『武芸百般』だ。

 

 更に振るわれようとしたナツメの剣。

 さっきのは横一線の『ホリゾンタル』……こんどは斜め斬りのスキル『スラント』だな。

 

 しかし、これはチャンスでもある。ソードスキルの光を纏っているということは、防御系のスキルを発動される心配はほぼない。

 すなわち、こっちが逆に防御スキルで剣をはじくことが可能、ということだ。

 

 ほぼ、といったのは……ナツメなら、こちらの剣が振るわれるのが遅ければ、最悪、即スキルをキャンセルして返す刀で防御スキルを間に合わせる……ぐらいのことはやりそうだからだ。

 

 だが、俺の剣速ならそれも問題ない。

 二刀をクロスするようにして、振るわれる剣を受け止め、そのまま弾き……体勢が戻る前に攻撃しようとして……いや、まずい!

 

 とっさに俺は、振り上げかけた2本の刀を引き戻して振り下ろし……

 

 ――ギャリン!!

 

 殴るように、あるいは斬りつけるように振りぬかれた盾を、どうにか防御する。

 

 あ、危ねっ……ナツメの奴、俺と同じように、スキルコネクトでパリングの硬直時間を潰しやがった……いや、そりゃこいつならそれくらいできて当然か。

 

 しかし、俺の方は完全には防ぎきれず……刃のついた盾の縁が、俺の頬をピッとかすめ……

 

 そこに、ダメージエフェクトの赤い光のラインが走った。

 

 そう……これが、ナツメの盾『ガイストカッター』の特殊能力だ。

 

 現在、確認されている盾系防具の中では、おそらく唯一……盾での攻撃に攻撃判定が付く。

 

 本来、盾は相手を殴っても、怯ませることくらいしかできない。

 システム上、ダメージは入らない。どれだけ強く殴ろうが、相手のHPは減らないのだ。

 

 その例外が、ヒースクリフのユニークスキル『神聖剣』……だけだと思ってたんだが……ここにきてもう1つ、装備自体にそういう効果がある、っていうパターンが出たか。

 

 まあ……見た目からして凶悪というか、そんな感じの効果持っててもおかしくないビジュアルだしな……不思議と納得できる。

 

 ……納得できても大変なことに変わりはないんだがな!?

 

(けど、泣き言言ってても楽になるわけじゃない。幸い……防御性能自体は『シュテルンカイト』より下なんだから……ああ、そうか、結局今まで通りやるのが一番ってわけだ)

 

 攻撃は最大の防御。

 殺られる前に殺る。

 弱腰にならずに押し切ること……それが勝利への一番の近道だ。

 

(それに、前向きに考えれば……この後、もし俺が戦う相手がヒースクリフなら……この戦いはちょうどいい事前演習にもなる。『盾で攻撃』と『超精密な攻撃』っていう共通点があるし……なら、この戦いから少しでも学びつつ勝つくらいのつもりで……!)

 

 無理やり自分を納得させ、俺は再び2本の剣を構えなおし……今度は自分からナツメに向かっていく。

 

 盾で俺の2刀を受け止め続けるナツメ。しかし、ヒースクリフのように防御力がぶっ飛んでいるわけではない『ガイストカッター』では、防いでも徐々にHPは減っていく。

 

 しかし……このまま押し切れるほどナツメは甘くなく、絶妙なタイミングで空振りさせて『サタンサーベル』で斬り込んでくる。

 

 俺はそれをかわし……しかしその瞬間、バサッとナツメのコートが翻って、ほんの一瞬俺の視界を塞ぐ。

 

 が、その隙に攻撃が飛んでくるほどの時間でもタイミングでもなかったので、俺はナツメ本人を見失わないようにだけ注意しておき……振り向きざまに振りぬかれる、ナツメの右手の『サタンサーベル』の一撃を防……

 

 ――ギャリン!

 

(……え?)

 

 防いだのは……盾?

 ちょっと待て、何で盾がこっちに……確かに今、俺はナツメの右手の……いやでも、その右手に盾が持たれていたのであって……って、まずい!? こっちに盾ってことは!

 

「う、ぉおおああぁああっ!?」

 

 ガキキキキィン!!

 

「――ちィっ」

 

 俺から見て右側から襲って来た……ナツメが『左手』に持っていた『サタンサーベル』で放たれた、4連撃のソードスキル『ホリゾンタル・スクエア』を、どうにか右手の剣で防ぐ。

 しかし勢いを殺しきれず、大きく後退させられてしまった。HPも削れている。

 

 いや、それよりも、こいつ今……!

 

「ナツメお前、それ……!」

 

「いや~……いけると思ったんですけどね、このタイミングなら。さすがキリト君、とんでもない反応速度だ」

 

「お前の方がとんでもねーだろ……つかお前、利き腕右じゃなかったのかよ?」

 

「? いつそんな風に言いました? 僕は元々『両利き』ですよ」

 

 右手に盾、左手に剣をもって、しれっと言ってのけるナツメ。

 

 だからって、どっちに剣を、盾を持っても、同じように動けるなんてそうそうねーだろ……。

 文字書けるくらいならまだしも、ソードスキルのマニュアル発動だぞ? 個人的には、器用とかそのへん通り越して、もはや大道芸の領域だと思う。

 

 オールラウンダーの上にトリックスターかよ……とんでもねーな。

 

 今のはおそらく、丈長のコートで俺の視界を塞いだ一瞬の隙に、自分の体を陰にして剣と盾を持ち換えたんだろう。剣を左手に、盾を右手に。

 そして、そのまま奇襲をかけて来たと。

 

 奇襲自体はどうにか防いだものの、ナツメは持ち替えずにそのまま戦闘を継続するつもりらしい。

 こけおどしじゃないな……それができる、ってことだろう。

 

(ホントにこいつ何するかわかんねー……けど上等だ、やってやるよ! 予測しようとしても無駄なら、見てから全部対処すりゃいいだけだ!)

 

 予測不可能なのはもうわかった!

 いいよ、いくらでも予想とか裏切って見せろ! 全部見切ってやるよ!

 

 

☆☆☆

 

 

 大変だった。

 超大変だった。

 

 けど何とか勝った。

 

 制限時間内に決着つかなくて、残りHPで判定勝ち、っていう形だったけど。

 

 か、階層ボス戦より疲れた……足も手も止めてらんないから……!

 

 やばい、勝ったのはいいけど、休まないと、少しでも精神力回復しないともうもたん……!

 

 ……あ、でもアスナの試合はきっちり見なきゃな。

 さて……決勝戦、アスナとヒースクリフ、どっちが上がってくるか……?

 

 

 

 




というわけで、キリト君の勝ちです。

次回、決勝戦(多分)
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