ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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第30話 ちょっと一休み(女子会)

Side.アスナ

 

 アインクラッド全体を巻き込んだお祭り騒ぎ『SOS』から数日。

 

 私は今、一時的に『血盟騎士団』副団長の職務……というより、攻略そのものから離れ、ここ、第22層の湖畔のログハウスにて、キリト君との新婚生活を満喫しています。

 

 あの表彰式での、キリト君からのプロポーズは……その瞬間、もう嬉しくて何も考えられなくなって、そのままOKしてしまったけど……よく考えたらとんでもないことしたなあ、と、今更ながら思う。

 

 自分で言うのもなんだけど、『黒の剣士』と『閃光』といえば、攻略組の中でもトッププレイヤーとして名を知られているし、ファンも多い。

 

 公に人気があるのは私、ってことになってるけど、実のところキリト君もかなり人気があるのを私は知っている。今じゃ『ビーター』の悪名なんてあってないようなものだし、確かな実力と彼が今までに打ち立てた実績は、そんな悪名を吹き飛ばすには十分なものだった。

 

 そもそも、βテストの時の知識なんかもう役に立たなくなって久しい今、βだのビーターだの言ってても何が変わるわけでもないんだし。気にする方がバカってものよね。

 

 で、そうすると何が残るか。悪名や偏見を取っ払ってみて、キリト君がどう見えるといえば……その優しさや面倒見の良さ、誠実で仲間思いな性格、女の子みたいにかわいいルックス(かっこいい、とも言えなくもない)、そして何より、毎度ボス戦で猛威を振るうその戦闘能力。

 

 こと最後のに関して言えば、今回の『SOS』で、正真正銘『アインクラッド最強』の称号を手にしてしまったわけだ。それまで最強と言われていたうちの団長すら下して。

 

 そんなキリト君がどう評価されるかなんてわかりきっている。

 

 彼は今や、アインクラッドの全プレイヤーにとっての希望であり、攻略組の先頭を走る英雄だ。

 ファンの数も一気に増え、ファンクラブまでできたって聞いた。一躍『時の人』である。

 

 そんなキリト君と、それ以前から有名だった私が、あんな劇的に結婚発表をしたわけで……現実世界でいえば、超がつく有名人同士が電撃結婚した、みたいなものかしら。

 当然、平穏に暮らせるはずがなかった…………本来なら。

 

 その翌日こそ、私とキリト君のプレイヤーホーム(まだ引っ越し前だったから)には、情報屋やらファンやら、あと、あんまり思い出したくないけど悪質なファンとかも詰めかけて大騒ぎだったんだけど……2、3日もしないうちにそれはほぼ収まった。

 

 どうやら、うちの団長を含め、私やキリト君を知る攻略組ギルドの有力者達――の、中でも交渉事が得意だったり外交関係で顔が広い人達――や、ナツメ先生を始め、中層以下のギルドの有力者達が全力で手を回してくれたみたい。

 2人の迷惑になることをするんなら……的に、各方面に一睨み効かせてくれたそうだ。

 

 おかげで、迷惑になるような訪問者はすっぱりいなくなり、私達は心置きなく、2人きりでの新婚生活を満喫することができている。皆さんには感謝しかないわ。今度お礼しなきゃ。

 

 75層、最後のクォーターポイントを前に、こんな風に長期休暇をもらえて、愛しい人と穏やかな時間を過ごせる。そんな幸福を、私は噛みしめている。

 

 朝ゆっくり起きて、戦闘用の装備じゃなく、ゆったりと過ごせる部屋着とかにそでを通す。

 隣で眠っている、まだ起きない寝ぼすけさんの寝顔をしばらく眺めて……その後、台所に立ち、彼のために腕を振るって朝ご飯を作る。

 

 キリト君が起きてきたら、一緒にご飯を食べて……その後も、ゆっくり1日時間を使う。

 2人で寄り添ってぼーっとするもよし、散歩に出るもよし、のんびり釣りしたり、本を読んだり……ああ、友達が遊びに来てくれることもあるから、おしゃべりして過ごすのもいい。

 

 お昼と夕方、私が作ることもあれば、気分転換にお店に食べに行ったりすることもある。

 攻略、ないし戦いの場から離れて、1日体をゆっくり休めて……夜になれば、お風呂に入って、ゆっくり寝る。そんな、安らぎと共にある1日。

 

 ……え? 寝床に入ってそのまま寝るのかって?

 

 いや、そ、それはその……し、新婚さんなんだし……ね? ええと……黙秘します。察して。

 それが原因で翌朝2人そろって寝坊したり、もう一回お風呂に入ることになることも確かに、確かにあるけど! 言わないでください! そういうのアルゴさんだけで十分!

 

 ああちなみに、アルゴさんだけは情報屋じゃなくて友達枠としてカウントされているので、団長やナツメ先生達による取材規制の対象外です。

 だから私達へのインタビュー記事とかは、彼女の独占状態である。

 

 ……まあ、押さえつけて隠してばっかりじゃ不満が出る、ある程度情報は公開した方がいい、っていう意見ももらったし、それも一理あるから、信頼できる彼女の存在はありがたいんだけど。

 ……それにかこつけて、根掘り葉掘り聞いてくるのはどうしたものでしょうかホントに……。

 

 そんなわけで、私達は思う存分、このリフレッシュ休暇を満喫しています。

 

 いつだったかもキリト君には教えられたんだけど、力を抜いてゆっくり休むことが大事なんだって、いつの間にかまた忘れちゃってたのかもなあ……。

 

 そして、そんなある日のこと。

 

 

 

「ごめんなさいね、アスナちゃん。夫婦水入らずのところにお邪魔しちゃって」

 

「とんでもないです、グリセルダさん。こんなお祝いまでいただいて……大したものも出せませんけど、ゆっくりしていってくださいね」

 

「そうですよ、四六時中いちゃいちゃしてるんだから、遠慮なくお邪魔しちゃってくださいって」

 

「あなたはちょっと遠慮しなさいよリズ。昨日も来たじゃない」

 

 トレーの上に6つ乗せていた紅茶のカップを配りながら、私は軽い感じでそう返しておく。

 

 ごめんごめん、とこちらも軽く返すリズと、その両隣で苦笑しているシリカちゃんとサチさん。

 

 反対側のソファには、グリセルダさんとヨルコさん、そして『軍』のトップであるシンカーさんの副官で、グリセルダさん繋がりで仲良くなった、ユリエールさんがいる。

 

 皆、私の結婚を、遅ればせながら祝いに来てくれたメンバーである。リズとシリカちゃんは、もう何度も来てるっていうか、軽い感じで毎度遊びに来るんだけど。

 

 紅茶を渡すと、グリセルダさんはありがとう、と言って、

 

「ナツメ先生たちが上手くやってるみたいだから、大丈夫だとは思っていたけど、ちゃんと2人で静かにゆったり暮らせているのね、安心したわ」

 

「ありがとうございます。ええ、おかげさまでのんびりと……でも、グリセルダさん達こそ、お仕事の方は大丈夫なんですか? すごく忙しい、って聞いてましたけど」

 

「ひと段落ついたところだから、大丈夫ですよ。1から10まで指示せずに、自主性というか、個々の判断力を育てる、みたいなところもありますし」

 

「軍の方も同様です。ちょっと、攻略への士気が高まりすぎて、シンカーとキバオウが意見調整に四苦八苦してましたけどね」

 

 ヨルコさんとユリエールさんもそう返してくれる。

 

 よかった、一息ついてお茶しながら、のんびり雑談できるくらいの余裕はあるみたい。

 

 今、別に予定してたわけでもなんでもないんだけど、知り合いの女性メンバーがこうして集まったので、せっかくだからみんなで話そうってことで、女子会みたいな感じになっているのだ。

 

 ちなみにキリト君は、最近できた釣り仲間の人たちと遊びに出ている。

 一緒に行ってもよかったんだけど、あえてそうして送り出して、夕方帰ってきた彼を『おかえり』って言って出迎えるのも、何ていうか……妻、って感じで楽しいのよね。きゃっ♪

 

「ほらね、もう絵にかいたような色ボケ状態なんだから、ちょっと水差してあげるくらいでちょうどいいんですよ。そのうち剣の振り方忘れちゃうんじゃないのかって」

 

「あらあら……ふふっ、そうみたいね」

 

「ちょ、ちょっとリズぅ!? グリセルダさんも!」

 

 あははは……と、私をダシにして笑うというか、盛り上がる皆。

 ちょっと恥ずかしかったけど、やっぱりいいなあ、こういう、何でもない平和な時間。

 

 ……早くゲームをクリアして、本当に平和な時間を取り戻したい、と思う反面、ずっとこうして穏やかな時間を過ごしたい、と思ったりもして……ままならないなあ。

 

 でもまあ、いつかは攻略に戻らなきゃいけないのは仕方ないことだよね。

 それまでのお休みの時間を、思いっきり楽しめばいいんだし。

 

「ところで、今、グリセルダさんとユリエールさん達が忙しい、っていうのはどういうことなんですか? むしろ、今は……普段攻略に出ているような人たちも、のんびりしてる人が多い、って聞いたんですけど……」

 

 と、シリカちゃんが不思議そうに聞いてきた。

 ああ、なるほど、シリカちゃんはまだよく知らないのね。まあ、前線とか、中層の上の方の話題だし、それも無理ないか。

 

 次いでリズも、

 

「あー、それ私も気になってた。なんか、上の方の人たちはのんびりしてる、みたいな話結構聞くのに、うちも含めて今、あっちこっちの鍛冶師仲間が忙しくててんてこまいだって言うしさ。どうなってんのか未だによくわかんないのよね……」

 

「そっか……直接攻略に関わるか、関わろうとしてる人以外には知らない人も多いんだ」

 

「ん? サチ、何か知ってんの?」

 

「うん。簡単に言うと……こないだの『SOS』の影響もあって、アインクラッド全体がすごくやる気だしてる……って感じかな」

 

 どうやら、サチちゃんは知ってるようだ。

 まあ彼女、病院スタッフの最古参として、ナツメ先生の副官みたいな位置づけにいるし、ギルドの仲間である『月夜の黒猫団』の皆が、まさにその最中にいる状態だからね。そりゃ知ってるか。

 

 しかし、ちょっと説明が言葉足らずだったので、私やグリセルダさん他、知ってるメンバーで補足を行う。

 

 今、アインクラッド全体が、かつてないほど『攻略』に向けて意欲的に動き出している。

 それと同時に、というかそれゆえに、『攻略』自体は大部分がお休みしている状態なのよね。

 

 これだけ説明しても、目の前のシリカちゃんやリズみたいに『?』になっちゃうわけだけど、順序良く説明すればよくわかる仕組みになっている。

 

「今までいた『攻略組』はさ、言ってみれば『もともと攻略にやる気があった集団』なわけじゃない? だからこそ、レベリングも積極的に行ってるし、相応の実力者がそろってる」

 

「けど問題になってるのは、今回『新しく攻略に加わろうとしてる』立場の人たちなの」

 

 今まで中層にいたプレイヤーやギルド、もしくは、レベリングすら満足に行っていなかった、下層の人たちが、今回の『SOS』でキリト君達が見せた雄姿に感銘を受け、我も我もみたいな感じでやる気になっている。

 

 しかし同時に、今までの下積みを十分行っておらず、実力が足りない。

 そして仮に実力が足りたとしても、連携とかそういう、圏外や迷宮区で戦っていくための経験や知識が足りない。

 

 ゆえに、今回新しくやる気を出した人たちは、強くなるためにレベリングや修行を行ったり、必要な知識を勉強するための時間が必要であり、今まさにその最中なのだ。

 

 同時に、その指導を行っている『攻略組』や、中層の有力ギルド、さらに、ユリエールさんが所属する軍の上層部なんかも、対応で忙しくなっている。

 なので、攻略とかを積極的にやる暇がない状態なのだ。

 

 しかし、ここでしっかり対応しておくことで……今後の大幅な戦力増強につながるのも事実。

 さらに、我流で無茶な修行なんかされて、死者が出てしまうようになったら目も当てられない、ということもある。そんなのは、SAOが始まってからの1ヶ月……二千人余りが死んだあの時で皆、懲りている。

 

 だから、ゆっくりのペースであろうとも、どれだけやる気があろうとも、堅実に1つ1つ積み上げる形で、今は力を蓄えている最中なのだ。

 

 なので結果的に『攻略はしないけど忙しい』という今の状況が出来上がっている。

 

「なるほどねー……そりゃ、バックアップ側の鍛冶師が忙しくなるわけだわ。いい武器持ってガンガン強くなってやる! っていう連中がいっぱいいるんだから」

 

「私の方も、ポーション作成の発注依頼が、一時期パンク寸前にまでなっちゃって……あわててグリムロックさんに言って、ストップかけてもらったの。頼ってくれる人たちには申し訳ない、ってちょっと思ったけど……」

 

「でも、それでサチさんの方が回らなくなっちゃったらダメですもんね」

 

「そうね。うちの夫も四苦八苦してる状態で……でも、楽しそうにもしてるから……嬉しい悲鳴、っていうのかしら。最近では、SAOが始まった当時の、不安でたまらない、っていう感じの姿を見ることもなくなって、正直安心しているところなの」

 

「もし何かお力になれるようなことがあったら言ってください。グリムロックさんの仕切っている流通網は、中層以下だけでなく、攻略組や、我々ALFにとっても生命線ですからね……いつもお世話になりっぱなしですから、たまには恩返ししたい、とシンカーも言っていました」

 

「ありがとう。ヨルコ、貴方の方はどう? 確か、薬品や武器類以外の消耗品は、貴方が今はメインで取り仕切っていたわよね?」

 

「はい。最近、グリムロックさんから任せてもらえるようになりましたけど……今のところ、問題ないです。ちょっと大変ですけど……皆一緒に、一生懸命頑張ってくれますから」

 

 まさにグリセルダさんが言ってた通り……どこも嬉しい悲鳴を上げてる、っていう状態ね。

 

「あの……ALF、って何ですか?」

 

 すると、またも聞き覚えのない単語だったのだろう、シリカちゃんがそう尋ねて来た。

 それに答えたのは、さっきの発言の当人であるユリエールさん。

 

「『アインクラッド解放軍』の略称です。我々の中には、その正式名称がちょっと……苦手な者もいまして、主にそういう面々は、こちらの名前を使っているんです」

 

 と、ユリエールさんは、少し困ったような、残念そうな感じで言う。

 彼女が『苦手』と言う理由。それを考えれば……ある程度仕方のない反応かもしれないけど。

 

 『軍』は、第25層で大打撃を受けてしまって以降、攻略から手を引き、治安維持を主目的にして動いてきた。しかし、一部は未だに『攻略』への返り咲きを狙っていて、そのせいで軍内部で派閥ができており、2分されている状態なのだそうだ。

 

 治安維持を始め、中層以下の、特に『はじまりの町』にいるような無力なプレイヤーを支えることを目的とする『シンカー派』と、攻略組への復帰を主目的とし、下層への支援を最小限に抑えて軍自体の強化を唱える『キバオウ派』があり、日々激しく火花を散らしている……

 

 ……と言われてはいるものの、その派閥のトップである2人は、実際はそこまで仲が悪いわけじゃない。どちらの主張も正しく、重要なことだとわかっているから、互いにいつもある程度のところで妥協しつつ、大きな問題には発展しないようにしているらしい。

 

 ただ、『キバオウ派』のさらに一部に問題児が集まっている部分があるらしく、『はじまりの町』の市民に対し、『徴税』と称して横暴なことを行ったりしていたこともあったそう。

 この間の第74層のボス部屋にいきなり殴りこんだあの部隊も、その人たちが独断で送り込んだものだそうだ。今はもう、全員処分されているが。

 

 いつだったか、ナツメ先生が言ってたらしいんだけど……あくまで一部だけど、人は、行き場のない怒りや苛立ちを、自分より立場の弱い者を痛めつけることで発散しようとする習性があるって……ホントにそうなんだと知って、気分が悪くなったっけ。

 

 ユリエールさんの言う、『軍』の呼称が苦手な人というのは、『軍』の名のもとにこういう行為が行われていることを恥じている、良識ある人がメインである。

 

 もっとも、そういうのは『アインクラッド教育委員会』ができて以降、すっかり下火になったそうだけど。

 

 無力な子供たちへのいじめとか、完全にクラディールの出動案件だから。同じ志を持つ人たちと一緒に、バカなことをやってる軍の兵士たちをフルボッコにしてたのを何回か見たことある。

 もちろん、それをキバオウさんもシンカーさんも庇うことはしない。場合によってはその後追加で処分を下すことすらある。

 

 そんな風にして徹底的に綱紀粛正を進めたおかげで、今は随分軍もマシになったと聞いた。

 

「一時期は、それで我々と『教育委員会』や『血盟騎士団』の間に亀裂が入るんじゃないか、って危惧されてた時期もありましたが……あれでよかったと思っています。中途半端にすませていたら、過激派が勢いづくばかりだったと思いますし。うちのシンカーも、そう言っていました」

 

 そう、ユリエールさんが苦笑交じりに言った瞬間……リズの目が『きゅぴーん』と光った。

 

 目ざといもので……今の何気ない会話の中に、聞き逃せないツッコミどころを見つけたらしい。

 私も見つけたけどね。そして興味津々だけどね。

 

「ほう、ほうほう……」

 

「……? な、何ですか、リズベットさん……?」

 

 何やら普段と違う、ねっとりとした感じのリズの視線に気づいたユリエールさんが訪ねる。

 

「いやあ、別に大したことじゃないんですけどぉ~……今ユリエールさん、『うちの』シンカー、って言いませんでしたぁ?」

 

 その言葉に、一瞬『きょとん』とし……すぐさま真っ赤になるユリエールさん。

 

 その反応だけで、私とリズの予想が……さっきの『うちの』発言の意味は明らかになったも同然だった。

 

 あるいは、別に他意とかはなくて、ホントにとっさにそういう言い方になってしまっただけなのかもしれないけど……どっちみちそういうユリエールさんに、シンカーさんへの『そういう』感情があることは割れた。

 

「い、いやいやいや、ええと、あの……べ、別に変な意味では!?」

 

「え、じゃあユリエールさんって……」

 

「そうなんですか! シンカーさんのこと……知らなかったです!」

 

「ちょちょちょ、シリカさん、サチさん!? い、いや、違っ、私は……」

 

「あら、違うの?」

 

「…………えっと…………」

 

 うんうん、ここで言い淀んじゃうあたり、もう確定よね。

 

 赤くなって縮こまるユリエールさん。年上なのはわかってるんだけど、ちょっとコレは可愛いわね……いじりたくなる。

 ……なるほど、ちょっと前まで私もこうだったのか。そりゃリズにいじられるわけだわ。

 

 もっとも……そのリズも同様にというか、同じ人を好きになっているということを、私は知っている。いや、リズどころか、シリカちゃんやサチちゃんもまたそうであると知っている。

 ……当のキリト君は気付いてないかもだけど。

 

 彼女たちのことは大切な友達と思っているけど、譲るつもりは一切ないんだからね……キリト君は私の旦那様です!

 

 ……それはそれとして、今は結託してユリエールさんをかわいがるのがよさそうだ……と思ったけど、ふと思いだしたことがあった。

 

(そういえば、ここにいるメンバーって……皆、誰かしら好きな人がいるのね)

 

 女子会やガールズトークでは定番の『恋バナ』。そのネタを、ここにいる全員が持っているということに気づく。

 

 内、2人――私とグリセルダさん――は既婚者だけど。

 そして3人ほど、それを狙う泥棒ネコ予備軍もいるけど。

 

 そこに当てはまらないうちの1人であるユリエールさんは、今、現在進行形でシンカーさんへの恋愛感情が発覚していじられているところ。

 

 そして、残る最後の1人ですけども……

 

「ねえ、ヨルコさん、突然ですけどちょっといいですか?」

 

「? はい、何ですか、アスナさん」

 

 『大変そうだなー』って感じの目でユリエールさんを見ていた彼女……ヨルコさんに話しかける。

 ふふふ……今から大変なのはあなたデスヨ?

 

「前から聞いてみたかったんですけど……」

 

「はい」

 

 

 

「ヨルコさんって、何がきっかけでナツメ先生のこと、好きになったんですか?」

 

 

 

「……………………は!!?」

 

 

 

 


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