ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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今回より第2章『フェアリィ・ダンス編』になります。思ったより早く書けたか……

そしていきなり原作ブレイクの予感。
新キャラ、オリキャラも出ます第40話、どうぞ。

あと、感想である質問?が多かったので、あとがきに載っけてみました。


第2章 フェアリィ・ダンス編
第40話 ドクターゲーマー2025


【2025年1月6日】

 

 空前絶後、恐怖のデスゲームと言われた『ソードアート・オンライン』がクリアされてから、およそ2ヶ月が経った。

 

 わけだが、あの世界でほぼ毎日つけつづけていたからだろうか、僕がこうして日記をつける習慣は今も続いている。仮想世界じゃなくて、現実世界で……紙媒体でなく、やりやすいスマートフォンとかの電子機器を使ったデータのものだけど。

 

 目覚めた僕は、恐らくは父さんたちの配慮だろう。皆が務めている(僕含む。まだ籍は残ってたみたいで安心した)病院の特別個室に入れられていた。

 職権乱用の匂いがしたが、得する側としては悪いことはないので、ご厚意に甘んじておいた。

 

 どうやら僕が昏睡状態である間の体調管理は、循環器科医の父さんと整形外科医の奏一郎兄さんの監修の元、普通の患者以上に徹底的というか、細心の注意の基に管理されていたようで……僕が予想していたよりずっと体の状態はよかった。

 

 さすがに2年もの時間が流れているとあって、筋肉量も落ちていたし、しばらく目も耳も上手く機能しなかったし、口から食べ物を取れるようになるにもリハビリが必要だったが、そこは僕自身も医者である。いつまでも『医者の不養生』じゃいられないので、全力でリハビリした。

 

 それこそ、患者である僕自身が積極的にリハビリプランに口を出し、僕の心の余裕とかは無視して理論上最大効率をたたき出すプランを作成、それにそって日々のメニューをこなし、わずか1ヶ月と少々で、日常生活を送るには問題ない所まで回復することに成功した。

 

 リハビリに付き合ってくれた奏一郎兄さんや母さんはもちろん……それ以上に色々と、様々な方面で尽力してくれた龍馬兄さんには頭が上がらないな。

 

 やはりというか龍馬兄さんは、僕がSAOにいる間、あの茅場晶彦とつながりがあった人物ということで、一時期マスコミや警察に詰めかけられたことがあったらしい。

 まあそれも一時的なもので、すぐに収まったようだったが。よかった。

 

 ただ、龍馬兄さん自身が、医者でありながらVR分野や機械工学にも詳しいビッグネームだったということもあり、他よりちょっとだけしつこかったらしいけど。

 

 彼自身はそれを別に何とも思っていなかったようで――そんなか細い神経通ってないからな――そんなことより弟の世話だと言って、奏一郎兄さんと一緒に色々やってくれていたそうだ。

 

 聞けば、ナーヴギアに影響を与えない範囲で、体の筋肉組織に微弱な電気刺激を与えて、疑似的な筋肉組織の破損→超回復を起こすマッサージを施したり、効率よく体に栄養を吸収する栄養剤を特注で作って投与したり、起きた後が楽になるように色々と。

 

 ……半分くらい、まだ日本では無認可にカテゴライズされる医療行為?が含まれていた気がするが……それで事実助かってるわけだし、そもそもあの人はいざとなればそのくらいで二の足を踏むような人物でないのは元々知っていたことだ。気にしても仕方ない。

 

 ともあれそんな感じで、僕は今、どうにか……フルタイムではまださすがにきついため、部分的にではあるが、職場復帰を果たしている。

 

 ……けど、そんな2年も寝たきりだった医者を、職業面でのリハビリもなしに職場復帰させるわけにはいかない。外科医としての本当の意味での職場復帰はまだ先になりそうだ。

 

 何でも今、国の方で、同じような立場の人たちに対する対応措置みたいなのを協議して法整備等を進めているらしいので、それを利用する形になるかな、と見ている。

 僕の所にも、1回、総務省だかの役人が話を聞きに来たっけな。

 

 それまでは、他の分野の仕事を手伝いながら、徐々に医者としての現場復帰を進めていく予定である。患者の体にメスを入れるようなものは避け、比較的簡単――と言っていいものかどうか――な処置や技能を要するだけの、内科とか、検査関係の仕事をこなしていく予定だ。

 

 幸いと言っていいのか、医者としての僕の帰還を喜んでくれる人は、色々な所に多かった。

 

 僕が主治医をやっている患者さんや、僕が手術を執刀した元・患者さん、さらには研究分野で手を組んでいた同僚など。

 

 2年間も間を開けてしまったわけだから、その間の技術の進歩もあわせて、これは置いて行かれているだろうな、と思っていたんだが、温かく迎え入れてくれた彼らにはどれほど感謝したか。

 

 一刻も早く、本当の意味で職場復帰を果たし、また彼ら・彼女らの役に立てるようになろう、と心に決めた瞬間だった。

 

 しかしながら、そのへんとは別に、今僕には気がかりなことがある。

 

 僕と同じようにSAOに閉じ込められていた人達で、その生存者がおよそ7000人弱いたわけだが……そのうち、まだ目を覚まさない人達がいるのである。

 その数およそ300人。今も、全国各地のどこかの病院で眠り続けているそうだ。

 

 というか、この病院にもいるんだよな、何人か。

 その人達のカルテ等管理も、僕に現在任されている仕事の一つである。

 

 どうしてその人達が未だに目を覚まさないのか……脳波やその他のバイタルは何も異常ないし、どこかにダメージを負っているわけでもない(寝たきりによるもの以外は)。

 

 彼ら未帰還者のバイタルは、過去のデータ等と見比べて、しいて言えば……SAOが未クリアだった頃と同じということくらいしか……しかしそうなると未だに彼ら・彼女らはどこかに精神を捕らわれているということになるんだが……。

 

 龍馬兄さんも言っていたけど、茅場晶彦は……頭のいいバカ特有の性質とでもいうべきか、無駄に潔いところがある人間だ。今更何かごねて、一部のプレイヤーの帰還を妨害して何かやらせるとは考えにくい。

 ……まあ、あんな事件を引き起こした奴の精神なんぞ正確に予測するのは、土台難しいかもしれないが。

 

 

 ☆☆☆

 

 

 都内某所、『聖都大学附属病院』。

 その一室に、ナツメこと、『西神千里』はいた。

 

 未だに『患者』としても『医者』としても、リハビリが完全には終わっていない彼ではあるが、着ている白衣と、胸ポケットにつけているネームプレートは、彼がここに務める医師であることをわかりやすく物語っている。

 

 自分用のデスクのPCでしばらくテキストを打っていたが、それが終わると、PCの電源を落として立ち上がり、ぐぐーっと体全体を伸ばして、硬直していた筋肉を弛緩させる。

 

 メガネを外して目頭を押さえ、疲れ目を癒してふぅ、と一息ついたところで……その部屋の扉が開き、1人の男が中に入ってきた。

 

「おや……何だ、まだいたのか、千里」

 

「あー、龍馬兄さん。お疲れ様です」

 

 入ってきたのは、同じく白衣を着た男で、ナツメと同じく若々しい見た目をしていた。

 男にしては少々長めの髪を横に軽く流し、また頭の後ろで束ねている。

 

 名前は『西神龍馬』。今の千里の言葉の通り、彼の実兄であり……弟同様、童顔というか若く見られがちな容姿をしているが、今年30歳である。

 

 脳外科や神経系を専門分野とする外科医であり、その腕前は日本でも屈指のもの。脳神経系に手を入れる難易度の高い手術であろうとことごとく成功させることから、彼に執刀してもらいたいとこの病院を訪れる患者は各方面に多い。

 

 また、研究分野にも造詣が深く、数々の論文を発表して医学界にその名を知られている。その中には……単なる医療ではなく、昨今発展が著しいVR関係の技術を絡めたものも含まれていた。

 

 過去のことではあるが、研究の段階で、かの天才『茅場晶彦』とも何度か会って意見を交換している人物であり、そのため『SAO事件』発生当初は、マスコミや警察が押しかけて少々騒がしかった時期もあった。

 

 もっとも、彼自身が何かしたわけではないし、あくまで本業が医者である彼はSAOの運営母体である『アーガス』との関わりもなかったため、一過性のものではあったのだが。

 

 そんな龍馬が弟・千里の部屋を訪ねて来たのは、明日以降使う資料を持ってきたからだった。

 

 といっても、今、千里はまだ本調子でないこともあり、通常の就業時間よりも早く帰宅して自宅で静養する日々を送っている。そのため、もう帰っただろうと思い、机に資料を置いていくつもりだったのだが、予想に反してまだ残っていたために、先程の言葉が出たのだった。

 

「ご心配なく、もう帰りますから……っと、それ、明日のカンファレンスの資料ですか?」

 

「そうだが、目を通すのは明日でいいぞ。帰ってゆっくり休め。徐々に仕事のペースも上げてきているようだし、疲労の蓄積もバカにならんだろうからな」

 

「兄さんはその100倍きっついスケジュール送ってるでしょう。兄さんこそちゃんと休んでます?最近家で兄さんを見ることが少ないんですけど」

 

「そんなもの元々だし、私に限った話ではないだろう? うちは元々、両親と子供全員が医者で、生活リズムが滅茶苦茶だったからな……常に家にいるのは、使用人以外じゃ兄さんの嫁くらいだ」

 

「その義姉さんは半分呆れて半分嘆いてましたね。とんでもない家に嫁いできたって」

 

「重ね重ねいつものことだな。しかし今は、結果的にだがお前は時間に余裕はあるわけだし……正直うらやましくはあるか。ここ最近立て込んでいてゲームの時間もとれん」

 

 龍馬の特徴の1つとして……弟同様ゲーマーであることがあげられる。

 

 機械工学やVR分野への造詣も、彼が元々ゲーマーであり、興味を持っていたことに端を発しており、何を隠そう、20年近く前、まだ小学生の千里をゲームの道に引き込んだのも彼だった。

 

 SAOも本当は彼も一緒にプレイするつもりだった。しかし、どうしても龍馬にしかできない手術が入っていたために、彼だけは1日遅れて、あるいは夜からプレイを始める予定だったのだが……結果的に、それにより彼はデスゲーム参加を免れていた。

 

「論文6つも同時進行で進めるからですよ。共著含むとはいえ……うち2つはVR関連でしたし。あと、何でしたっけ、あの白い箱みたいな……メディ、キューブ?」

 

「『メディキュボイド』だ。実用化にはまだ遠いが、既に安全性はある程度確立されているから、国内数か所で臨床試験も始まっている。その関係で明後日横浜と仙台に行くから留守は頼むぞ」

 

「(1日で出張組むには遠すぎないかその2つ……?)了解。ああ、それなら留守の間、『アミュスフィア』借りていいですか? 『ナーヴギア』使おうとすると母さんが泣くんですよ」

 

「それのせいでお前が2年間も帰ってこなかったんだから当然だろう。というか、何に使うんだ? ゲームでもするなら、お前はいつも自分用の買うだろ」

 

「結構いい値段しますからね。ぽんと買え……なくはないですけど、使ってみて自分に合わなかったらアレですし、ためしにやってみたいんですよ。いい感じだったら自分で買います。あ、なのでソフトも貸してください。適当なの選びますから」

 

「貸すのはいいが、キャラは私のを使うなよ? アカウントは構わんから、ニューゲームで始めろ」

 

「了解。ああそれと、大体のゲームでは基本機能として、ホロキーボードでのテキストの打ち込みとか、内外で映像・画像データの持ち出し、持ち込みもできるんですよね?」

 

「……理解した。お前、ゲームの中で論文書く気だな?」

 

「……仮想空間だと手も目も疲れないから楽なんですよ。2年もあっちにいたから、むしろホロキーボードの方が使いやすくて、こっちで現実のキーボード打つ方が違和感あったくらいで」

 

「理解できんではないが、全く……VRで痛い目にあっていながら平然とそういうアイデアが出てくるあたり、心臓に毛が生えてるなお前も」

 

 呆れたように言いながら、龍馬は『お疲れ』といって部屋を後にし……その扉が閉まる前に、荷物をまとめてコートを羽織った千里もその後に続いた。

 

 

【2025年1月8日】

 

 朝起きて、リハビリの体力づくりを兼ねて軽くジョギング。

 

 家に帰り、シャワーを浴びて汗を流す。

 

 朝食がすでにできているので、食堂で食べる。うちは各自好きな時間に食べるので、食事の時に全員が揃うことは、残念ながら少ない。というか、ほぼない。

 

 支度して、出勤。病院で仕事。昼食は普段は適当に食べるんだが、リハビリの一環として食生活も奏一郎兄さんに監修されているので、業者に依頼した毎日届く健康メニュー弁当を食べる。

 

 終業後、帰宅。まっすぐ帰ることもあれば、寄り道していくこともある。そして、家で休む。

 なお、『休む』の中にはゲームその他も含まれるのでよろしく。

 

 大雑把に言ってしまえば、そういう感じで僕の最近の1日のサイクルは回っている。例外的に入ってくるイベントとかがなければ、だが。

 

 今日はその例外の1つで、都内の大学で行われたシンポジウムに出席し、その後の懇親会に軽く顔を出して帰る……というワンステップが含まれていた。

 

 それ自体は別に何も問題はなかったんだが……その帰り際のことだった。

 

 さて、僕がSAO事件の被害者の1人であるということは、そこそこ多くの人に知られている。

 僕ももともと、業界ではそれなりに有名人の枠に入っていたこともあり、そりゃ2年も表舞台に出てこなければ、何かあったと想像するのは簡単だろうしね。

 

 もっとも、今日のシンポジウムでは僕は、ただ単に有識者として呼ばれただけだったため、そのことに触れられることはなかった。

 

 そもそも、SAO事件の被害者の中には、その中での出来事を、さして気にせず割り切っている者もいれば(僕もここに含まれるだろう)、強烈なトラウマになっている者もいる。

 それくらいは当たり前だろう、死が身近にあるデスゲームの中に2年もいたんだから。

 

 なので普通、SAOの被害者に対し、その中でのことを聞くのはマナー違反とされている。

 

 それだけに、意外だったし印象に残っているのだ。今日の出来事は。

 

 懇親会終了後、タクシー呼んでもらおうと思って、会場であるホテルのフロントに来たところで……どうやら会場から僕を追いかけてきたらしい、1人の女性に呼び止められた。

 

 妙齢の、しかしまだ若々しいと言える見た目の美人である。スーツをびしっと着こなしており、いかにも出来るキャリアウーマンといった感じだ。釣り上がった感じの目つきと、きびきびとした話し方が、気の強そうな、ともすれば怖い、とっつきにくい印象を与えるかもしれないが。

 

 が、そういう一面がなくもないものの、必ずしもそればかりではないことを僕は知っている。

 

 なぜって、知り合いだからだ。それも、SAO以前から。

 僕の直接の知人というよりは、父さんと母さんの仕事経由で知り合った人、って感じだが。

 

 シンポジウム会場になった大学で教鞭をとる大学教授であり……さっきの懇親会場でも、長い時間ではないが、世間話程度に雑談した相手だ。

 

 その彼女……結城京子教授は、少し話したいことがある、といって、僕をホテルのロビーに連れていき……そこで、彼女にSAOの中のことについて聞かれたのである。

 

 大変失礼で無作法なことを聞きますが、と前置きしたうえで。

 それでも、どうしても聞かずにはいられないといった……神妙かつ真剣な様子で。

 

 聞けば、彼女の娘さんもSAO事件の被害者であり、しかも、未だに目を覚まさない『未帰還者』の1人だという。

 

 大部分のSAOの被害者が続々と目覚める中、どうして娘は目覚めないのか、このまま目覚めないのではないか、本当に大丈夫なのだろうか……そんな風に、日々不安になるのだそうだ。

 

 入院している病院の先生たちが力を尽くしてくれているのは知っているが、それでも、何か解決の糸口はないのか、自分に少しでも何かできることはないのか。

 愛する娘を助けるために、何かしてやれることはないのか、どうしても考えてしまうそうだ。……専門家でも何でもない自分に、出来ることなどないと、頭ではわかっていても。

 

 その話を聞きながら、ほとんど無意識に、あの世界でやっていた『カウンセリング』の真似事をしていたのは……何だろう、職業病みたいなものなんだろうか。

 あの世界でそうしていた人たちと同じように、目の前の彼女が本当に辛そうにしていたから。

 

 SAO事件の被害者の1人である僕に、失礼と知りながら声をかけて来たのも、もう我慢できなかったからだったみたいだ。少しでも、娘が置かれている状況についての情報が欲しい、と。

 

 聞いてどうにかなる問題でもないし、聞けば僕を傷つけてしまうかもしれない。

 そうわかっていても、他にできることがない。

 

 SAOの中の状況を知ろうにも、総務省の対策チームは、個人情報に少しでも絡むような突っ込んだことは教えてくれない。今開示されている情報では不足だと言うのに。

 かといって、ネットに上がっている情報は、真偽もあやふやなものばかり。それを確かめることもできないし、中には不安を増すばかりの、目に優しくない情報まで含まれていた。

 

 助けてくれ。

 安心させてくれ。

 鉄面皮の奥に隠された、そんな心の声が聞こえるようだった。

 

 気持ちを吐露する自分の声が、微妙に震えていたことに……飲み物のカップを持っている手に力がこもっていたことに、はたして彼女は気づいていたのだろうか。

 

 そんな彼女を、言うだけ言わせてひとまず落ち着かせてから、あらためて詳しい話を聞いて……僕が教えられるのも、同じように、他のプレイヤーの個人情報に抵触しない範囲だと納得してもらった上で、彼女からの質問に答えることにしたんだが……まず最初の質問でこっちが驚かされた。

 

 当然と言えば当然のことだが、彼女の娘さんが無事かどうかについて聞かれたのだ。

 

 と言っても、1万人のプレイヤーがいた中で、僕が彼女の娘さんを知っている確率は低いだろうと、彼女自身もわかってはいただろう。

 

 あのゲームでは、茅場晶彦の計らい?で、皆、現実の姿でプレイしていたから、写真でもあれば見た目である程度わかるかもだが……その見た目にしたって、髪型はカスタマイズできるし、メーキャップアイテムを使えば目や髪の色も変えられるんだから。

 

 しかし、ダメもとで娘さんの写真を見せてもらった時、度肝を抜かれた。

 

 僕は、その娘さんを知っていた。

 というか、ほとんどのプレイヤーが知っているであろう有名人だったのだ。

 

 

 その名は……結城明日奈。

 

 

 あすな。

 

 

 ……そう、かの『血盟騎士団』副団長……『閃光』のアスナさんである。

 間違いない。写真の中の女の子は……ゲームの中で見た容姿、あのまんまだった。

 

 結城教授も、僕が知っている……というか、かなり付き合いのある知り合いだと知って驚いていた。そして、その話をするたびに……普段の彼女からは想像しづらい百面相を見せてくれた。

 

 剣を手に持って、最前線で戦っていたと聞いて驚き、

 何度か危機的状況に陥ったこともあると聞いて不安そうな表情をし、

 リーダーシップを発揮してプレイヤー達を率いていたと聞いて感心し、

 最後まで元気に明るくやっていたと知って安心していた。

 

 どれも、SAOというデスゲームの中の出来事である……いわば、被害者として監禁されている状況下でのことだったために、素直に喜んでいいのか微妙そうではあったものの、ひとまずは安心していたようだ。

 

 不安に押しつぶされて精神を病んでいたりしないか、っていう部分も、少なからず不安だったんだろう。SAO事件の後、精神に異常をきたして日常生活を送るにも苦労するようになった、っていう話は、細かい例を挙げれば枚挙にいとまがないからな。

 

 ……ちなみに、親密にしていた男の子がいた、という点については隠しておいた。

 個人情報だからね。彼……キリト君にも関係あることだからね。

 

 そして同時に、SAO内部の環境や出来事についても聞かれた。

 

 相当気合入れて調べたんだろう。真偽織り交ざってはいたものの、ネットとかから拾ったらしい情報量はかなり膨大で、それだけ彼女が真剣だったんだということがわかるようだった。

 

 こちらからは確認できない、現実世界の出来事との因果関係についてはともかくとして、あの世界の仕組みとか、問題点とか、事件とか……色々と。

 

 僕やクラディールさんが立ち上げた『病院』や『教育委員会』のことを話した時は、気が緩んだのかほほえみを見せて、同時に感心してたっけな。ゲームクリアの後のことを考えて動けるのは素晴らしい、って。

 

 逆に、あのデスゲームの中で、あろうことか『PK』……すなわち殺人に興じる連中が出て来たっていう事実については、冷汗を流して表情を凍り付かせていた。

 どうやら、デマ情報の1つだと思っていたようだ。いくらなんでも、そんな状況下でそんなふざけたことする連中がいるはずがない、いてほしくない、って。……少し刺激が強かったかな。

 

 概ねそんな感じで話を終えると、結城教授は一応は満足してくれた様子で――現状は何も解決はしていないとはいえ、心情的には多少楽になったんだろう――頭を下げてお礼を言ってくれた。

 

 ちょうどタクシーが来たので、そのまま別れたけど……最後にちらっと振り向いた時に、彼女がロビーの椅子に腰かけたまま、うつむいているのが見えた。

 表情は、そんな悲しそうでもなく、かといって嬉しそうにしている様子でもなかったから……ただ単に、考え事をしていたのかもしれない。今の僕の話を聞いて、色々と思うところが会った、とかかも。

 

 ただ、目の端にきらりと光るものが見えたことについては……僕は、見なかったことにしておいた。

 

 

 

 




アスナママ、フライング登場。どうなる原作。

あ、ナツメが勤務してる病院名は適当に持ってきました。1発ネタという認識でいいです。某ゲームのお医者さんたちや神は出ません。多分。

……某プロフェッサーっぽいのは出たけど。


【おまけ】

・ナツメの名前の由来(超適当です)

西神千里
→ 千里
→ 千
→ 千円札
→ 夏目漱石(前の千円札の人)
→ ナツメ
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