ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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第42話 妖精ウォッチ 邪道サイド

「…………ダイブはダイブでもスカイダイブだった件」

 

『冷静だな、千里』

 

「まあ、改造データやスパイウェアなんてインストールしてんだから、何か不具合が起こってもおかしくはない、って半ば覚悟してましたし」

 

『失敬な事を言うな、私のデータ処理は完璧だ、不具合など起ころうはずもない。恐らくただ単に運営側の不具合だろう、全くずさんな仕事をする会社だ』

 

「チート使っといてこんだけ自信満々な人もそういないでしょうねえ……」

 

『というかそろそろ何かしら対策せんと、本当に墜落するぞ?』

 

「はいはい、わかってますよ」

 

 頭の中に直に響く天の声はまずおいといて……ログインした直後、なぜか僕は、『ウンディーネ』の領地―――街中ではなく、どこぞの上空高くに放り出されていた。さっきまで周囲に雲があったから、相当な高度だろうというのはわかるな。落下ダメージで死ぬかもしれない。

 

 死に戻りでウンディーネの領地に行けるんだろうか? ……いや、それはいつでもためせるし、そもそもここがどこかがまだわからない。ただ出現する標高がバグっただけで、下はウンディーネの領地かもしれない。そうじゃなかったらその時はその時だ。

 

 さて、確か飛行するのに補助コントローラーとやらがあるんだったな左手を軽く握るようにして……おお出た。そして、親指に当たってるコレかな? これをこうして……。

 

 上昇。

 停止。

 移動。前後左右。

 下降。

 旋回。

 

 ……よし慣れた。

 

『秒で使いこなすとは見事だな……それもSAOでの経験ゆえか?』

 

「内視鏡よりは簡単でした」

 

『ああ、それ私も思った』

 

 医者にはわかりやすいけど一般人にはまずわからないであろう例えである。

 

 情報サイトで見た感じだと、随意飛行っていうのもあったな……後で試そう。

 

 ただ、しばらく飛ぶと飛行限界というものが来てしまうらしいので、その前に下に降りる。

 

 直下に降りたはずだが、そこはやはり町などではない。

 

 が、ウンディーネの領地には近いかもしれない。

 ウンディーネの領地は湿地帯の中の町だったはずだ。見る限り、この辺はいかにも湿地帯って感じだし……しまったな、飛んでる最中に周囲をよく見ておけばよかった。

 

『聞こえるか、千里……っと、ここからはナツメと呼ぶか』

 

「ああ兄さん、見えてます? とりあえず町には出られなかったみたいで……えっと、MAP機能とかあったかな。てか、兄さんの方でナビゲートとかできませんか?」

 

『そこまでの機能はつけていないから無理だが、案外すぐに解決するかもしれんぞ?』

 

 というと?

 

『とりあえず、まずは現状確認といこう……私の予想通りなら、面白いことになっているはずだ。ステータス画面と、インベントリを見てみろ』

 

「…………?」

 

 言っていることがよくわからなかったものの、そうしてみると……すぐにその理由が分かった。

 

 兄さんから聞いたんだが、どうやらこのALOの世界は、基幹プログラムがSAOのそれとほぼ同じであるらしく、一部のスキルやステータスに互換性がある可能性があったとのこと。

 そして、その予想は的中した。

 

 これを見越してだろう、兄さんが、僕がSAOで使っていたナーヴギアのローカルメモリ内部のデータを移植したため、『片手用直剣』や『刀』といったスキルの熟練度が受け継がれている。

 

 ALOになかったスキル――『武芸百般』を含む――はさすがに消失しているようだが、似たようなスキルに変化しているものは残っているようで……プレイ開始後5分とは思えない、いや、ありえないステータスだ。

 

 加えて、所持金もそのまま残っている。

 通貨単位こそ『コル』から『ユルド』に代わっているものの……とんでもない金額だろう。

 

 ……SAO世界って、結構物価ぶっ飛んでたからな……。特に終盤。

 

 食材とかは比較的安価で、1コルから買えたけど、戦闘に関わるものは、ポーションしかり結晶しかり、性能が上がるにつれて加速度的に値段が上がっていって、4桁5桁は当たり前だった。

 

 特に武器防具と言った装備品は、店売りでも『おかしいんじゃないか』ってくらいの値段のものも多くて……数十万や数百万は当たり前だった。

 75層にもなると、数千万単位とかのものまで出てきてたっけ。億は……僕が知る限りなかったと思う。

 

 とはいえ、その性能が生死に直結する世界だったから、買うにも稼ぐにも妥協するプレイヤーなんていなかったと思うし、稼ぐにも効率的な方法は常に研究されていた。

 

 そんな世界で生きていただけあり、僕の財布は結構なものだった。

 最前線を突っ走っていた攻略組の面々ほどではなかったかもだが、少なくともこの金額が、この世界でははした金ってことはないだろう。

 

 そして、インベントリの中身は……ほとんどが文字化けしてしまっていた。

 流石にアイテムは無理だったか……まあ、これは仕方ないだろうな。

 

 けど、いくつか名称が無事なものもあるぞ?

 

「……『初心者用ポーション』とか、『スキル熟練度虎の巻』とか……何だろうこれ? ALOで互換性のあるアイテムに置き換わったのかな……?」

 

『いや、それは私からのプレゼントだ。以前、『初心者歓迎フェア』というのをやっている時に新しく作ったアバターのデータがあったのでな、その一部を移植しておいた』

 

 ああ、それで何かそれっぽい名前のアイテムなんだ。

 まあ、役に立たないってことはなさそうだし、ありがたく受け取っておくことにしよう。

 

 しかしそうなると、やっぱアイテムはSAO産のものは全滅ってことか…………ん?

 

『どうした?』

 

「いや、このアイテムもその『初心者用』ですかね? 名前が……いや、これは……!」

 

 それに気づいた瞬間、僕は迷わずそのアイテムを選択してオブジェクト化した。

 何で『アイテム』になってるのかはわからない。わからないけど……これは多分……

 

 僕の目の前で、空気中に光の粒子が収束していき……それは次第に大きくなり、人の形をとっていく。高めの身長や、ゆるふわちっくな髪型まで、僕の予想の通りに形作っていく。

 

 そして、発していた光が消えた時……そこには、2か月振りに見る、ずっと安否を気にかけていた少女がいた。そこにいるとはわかっていても、ずっと会えなかった少女が。

 

「やっぱり……ストレアさんだったか……!」

 

「……? ナツ……メ……?」

 

 

 

 いきなり変なところに出てきて『わけが分からないよ』状態のストレアさんと、いきなり出て来た美少女を見て『何がどうなっている!?』と珍しく驚きを露わにしていた龍馬兄さんをどうにか落ち着かせ、状況を整理。 

 

 ストレアさんが、僕のナーヴギアのローカルメモリ内部に格納されていたのは知っていた。

 しかし、それを解凍する方法がわからなかったため、今まで会えなかったんだが……アイテム内に紛れ込んでいた『MHCP-002』というアイテムをオブジェクト化することで再起動するようになっていたらしい。セットアップ用ソフトみたいなもんか。

 

 なるほど、SAOでは、アイテムのオブジェクト化は、データを形にするという意味では一番身近かつ手っ取り早いアクションだったから、それを利用したんだな。

 

 そしてストレアさんは、僕らを第75層のボス戦に送り出した後までしっかり記憶が残っており、恐らくゲームクリアと同時に機能を停止、休眠状態で再起動の時を待っていた、ということのようだ。今さっき状況を把握したストレアさん自身の考察である。

 

 その後はやはりというか『また会えて嬉しい!』と、彼女お決まりの愛情表現であるハグが来た。相変わらず、体全体でぶつかってくる感じで。うれし涙を浮かべながら。

 

 その後は、さっきから聞こえてくる『天の声』への自己紹介だった。

 

「じゃあ、さっきから聞こえるこの声、現実世界のナツメのお兄さんなんだ? どーも初めまして、ストレアです。アインクラッド……あ、SAOの世界のことね? そこでは、ナツメの病院でナースをやってました。チームを組んで一緒に戦ったこともあるよ?」

 

『これはご丁寧にどうも、ストレア君。私は西神龍馬……そこにいるナツメの2番目の兄だ。君のことは聞いていたよ……すまなかったね、今まで出してやれなくて』

 

「いいよ、今もうこうして会えたんだし。その……こっちこそごめんなさい。私の生みの親が作った世界に、2年間もナツメを閉じ込めちゃって……」

 

「気にすることはない。私も今はもう、ナツメとこうして話せるようになったしな。それに、子は生まれる親を選べない、親の責任を子に負わせるのは酷というものだろう」

 

 お互いにちょっとシリアスな空気があったり、気を使ったりする場面もあったものの、すぐに打ち解けて仲良くなれたようだった。

 

 ストレアさんはもちろん、龍馬兄さんも基本的にフランクで、気さくな性格の人だからな。

 

 ただ、若干自分の欲望に正直というか、暴走の危険があるマッドサイエンティストの気があるから、彼女がAIだって聞いた時は、ちょっと引くぐらい興奮してたけど。

 けど根はやさしい人だから、物騒なことはしないはずだ。多分。考えないかどうかは怪しいが。

 

 さて、雑談は済んだところで、ストレアさんにさらに今の状況を話して教える。

 

 ここは、『ALO』という、『SAO』とは別なVRMMOの世界であること。

 

 この世界に、アスナさん達約300人の『未帰還者』が捕らわれている可能性があること。

 

 僕はこのアバターに『SAO』の時の『ナツメ』のデータを移植しているため、ステータスや所持金、所持アイテム等をまるっと受け継いだ状態でここにいること。しかし、金はともかくアイテム等は、文字化けしてしまって使えなくなっていること。

 

 それを聞いたストレアさんは、うーん、としばらく考え込むようにして、

 

「……なら、バグになってるアイテムに関しては、もったいないけど捨てちゃった方がいいと思う。GMや、劣化版とはいえ『カーディナル』に見つかったら面倒だろうし」

 

「それしかないか……やれやれ」

 

『待てナツメ、それはさすがにもったいない……データはコピーして保存しておこう、凍結状態にしてローカル、いや拡張メモリに入れておけば感知されないだろう』

 

「あー、うん、そうだね。それなら多分大丈夫……かも」

 

『それと、せっかくだから試してみたいことがある……少し待ってくれ』

 

 そう言われて、少しの間待つことになったんだが、待っている間にストレアさんから、彼女の今の立ち位置みたいなものを聞いた。

 

 どうやら彼女は今、2つの異なる立場?を使い分けることができる立ち位置にいるらしい。

 

 1つは、アインクラッドと同様、プレイヤーである『ストレア』としての姿。

 

 もう1つは、このALO特有の『ナビゲーションピクシー』という、小さな妖精のような姿。

 『ナビゲーションピクシー』とは、細かいことは省くが、色々な場面でプレイヤーを助けてくれる小さな妖精、といった感じの存在だ。ただ、テイムモンスターとは違うので、戦わせたりすることはできないようだが。

 

 とはいえ、どちらのストレアさんも機能的には変わらないようだ。

 もともとストレアさんは、AIとしてある程度システムにアクセスする力を持っており、その力は普通にナビゲーションピクシーよりも上である。

 

 そして、『ナビゲーションピクシー』は、主人である(ということになっているらしい)僕のアバターから離れることはできず、単独行動は不可能である。戦闘もできない。

 

 なので、どっちかと言えばプレイヤーモードの方が色々と動きやすい。一緒に戦うこともできるし、GM権限(一部しか残っていないようだが)を振るうにも問題ない。

 なのでこれ以降は、基本的にこっちで行くことにしたようだ。

 

 しかし、SAOと同じ人間の姿ではさすがにまずいということで……ストレアさんは一度ログインし直して、『ノーム』のアバターを作成して戻ってきた。

 元の姿とほぼ変わらないけど、髪色が若干黄色みがかったかな?

 

 火力と耐久力に優れたアタッカーになったようだ。これは僕の『ウンディーネ』と相性いいな。

 

 するとそこで、

 

『……よし、終了だ。ナツメ、ストレア君、インベントリの中身をもう一度チェックしてみろ』

 

 と、龍馬兄さんから声が届き、その通りにすると……何だこれは?

 

 文字化けしていたアイテムのうち、半分くらいの表示が正常に戻っていた。

 が……内容は正常じゃない。名前も、効果も……見たこともないようなものばかりになっていた。まとまりがなくて、適当にアイテム突っ込んだだけって感じに見えるぞ。何だコレ?

 

「兄さん、これは?」

 

『別プログラムの『ケアレスミス修正用ソフト』を使ってみた。ALOとSAOとの互換性とか、アイテムのとしての機能云々でなく、データ構成そのものが似ているものに半自動変換して置き換えてみたんだ』

 

 ……もうちょっと詳しく。わかりやすく。

 

「んーとね……たとえば、数字というか暗号で『0010000』で表せるアイテムがあるとするじゃない? 開発者がGM用コンソールからそのコードを入力するとアクティベートできる、みたいな。ここまではわかる?」

 

「ええ、何とか」

 

「じゃあさ、そこに間違って『0001000』と打ち込んだとして、でもそんなコードのアイテムはないからエラーになっちゃうわけ。けど、『0001000』と『0010000』って似てるでしょ? それをシステムに判別させて、『ああ、このコードの打ち込みミスじゃないか』っていうのがないか検索させて判別させた、ってことじゃないかな? つまり、勝手に勘違いを修正させたわけ」

 

 ああ、なるほど……それでこんな、とりとめもない内容のアイテムの羅列になってるのか。

 

 そして、それでもなお文字化け表示のアイテムは……それも無理だったもの、ってことか。

 

「それは削除するしかないよ。エラー検出でGMに見つかっちゃったら危ないしね」

 

「もったいないけどそうしますか。『勝手に修正』させたアイテムは、持っていて大丈夫ですかね?」

 

『GMが直接確認でもしない限りは大丈夫だろう。ありがたく使っておけ』

 

「誰にありがたがったものかはわかりませんけど、そうしますか。他は、削除して……っと。お、運がいいな、武器がいくつか有効化されてる……持ってた覚えのない武器種もあるけど」

 

『似たデータコードの武器をアクティベートしただけだからな、仕方ないだろう』

 

「初期装備のこの剣よりは強いんじゃない? そっち使おうよ」

 

「そうですね。まあ、呪われた武器とかでもなければ」

 

「縁起でもない……両手剣ある?」

 

「えーと……あ、ありますね丁度よく。名前は……聞いたことない奴だけど。まあ、SAOになかった剣でしょうし、当たり前か。はいどうぞ」

 

『ありがとー♪』と喜ぶストレアさんに両手剣をトレードで渡し、僕の武器を探すが……丁度いいのがないな……。一番得意だった盾持ち片手剣スタイルで行こうと思ったんだけど、盾はおろか片手剣すらなしか……運がない。

 

 く……仕方ないとはいえ、『武芸百般』があれば、とつい思ってしまう。

 あれさえあれば、どの武器でも不自由なく扱えたものを。

 

 ……しかし、天は我を見放していなかった。

 

 刀発見。よしコレ使おう。

 

 

 

 




チート強化しすぎでしょうか? 容赦ないにしても……

…………この章のボスがそんだけムカつく奴だってのも理由の一つかもですが。
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