ソードアート・オンライン 青纏の剣医   作:破戒僧

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寝落ちした……

気が付いたら日付変わってました。1日1回投稿が途切れて無念……


第45話 こうして勘違いは形作られる

 

 『ウンディーネ領の執政部内の一派が、レプラコーン領から武器類を密輸入する動きがある』

 

 各地に放っている密偵からの情報により、その情報をつかんだサラマンダーの執政部は、大きな金が動くであろうその裏取引を襲撃し、その為に持ち込まれるユルドと、あわよくば取引される武器類をも奪ってしまおうと考えた。

 

 しかし、大規模に動けば察知されてしまうため、地形を考えて隠密行動可能な限界の数、2パーティ14人を動かすことを決めた。

 

 それを率いるのは、サラマンダー領主・モーティマーの実弟にして、サラマンダーの将軍。

 ALO最強のプレイヤーとまで言われる炎の将・ユージーンだった。

 

 職務ということを抜きにしても好戦的な気質を持つ彼は、隠密行動という少々狭苦しい部分を間に挟みつつも、荒事が前提とあって、多少であるが期待して任務に向かっていた。

 

 とはいえ、ウンディーネとレプラコーンは、どちらも戦闘に向いているとは言えない種族である。それ自体の武力には、残念ながら期待はできないと見ていた。

 であれば、他の種族の用心棒か何か連れていれば、多少は楽しめるかもしれない。

 

 最悪でも、逃げ惑う連中を後ろから斬るような、興ざめな展開にはなってくれるな、弱くても噛み付いてくる維持や度胸のある連中であってくれ。

 そんな願望と共に、一路ユージーンとその部下たちは、密告された取引予定地へ向かう。

 

 

 

 そしてそこで、ユージーンは知る。

 自分が、井の中の蛙であったということを。

 

 

 

 数分前まで、14名いたサラマンダーの部隊は、今や残りはわずかに3名。

 壊滅、と言っていい惨状をさらしていた。

 

 (強い……! だが、なぜ……)

 

 それをやってのけたのは……今、魔剣グラムを構えるユージーンの目の前にいるプレイヤー。

 

 ウンディーネではなかった。

 レプラコーンでもなかった。

 

 (なぜ、スプリガンが……?)

 

 黒いコートに白髪という、やや特徴的な容姿をしているスプリガン。

 

 遭遇時、ついでに始末してしまおうかと襲い掛かったサラマンダー達だったが、すぐにそれが甘い考えだったことを知る。

 

 正面から斬りかかった2人が、瞬く間に斬り伏せられた。

 それに驚いて足を止めた、側面に展開していた2人が、さらに斬り捨てられた。

 

 そのあたりでようやく、只者ではないと悟ったユージーンが檄を飛ばし、陣形を立て直させたのだが……そこからは更に一方的な蹂躙が始まった。

 

 最悪だったのは、今が夜で、しかも森の中という状況は……暗視と幻惑を得意とするスプリガンにとって最高の環境だったことだ。濃霧と幻惑のスペルによってその場の見通しを悪くされ、1人、また1人と闇の中で斬り捨てられていった。抵抗すら許されず。

 

 残る人数が片手の指を割ったところで、ユージーンはこの作戦の失敗を悟り、自らが殿を務めて残る部下を撤退させることを選んだ。

 

 そして、魔法の濃霧が晴れたタイミングで、咆哮と共にスプリガンに斬りかかった。もう逃げる隙は与えない、とでも言うように。

 

 そしてここで、また1つ、彼は誤算に気づかされる。

 

 彼は、自らの非力をカバーするために闇討ち戦術を取っていたわけではない。

 正面から戦ってなお、自分とやりあえるだけの力を持っていたのだと。

 

 ユージーンの愛剣である『魔剣グラム』は、伝説級(レジェンダリー)武器(ウェポン)と称されるカテゴリーの強力な武器であり、数値的能力の高さに加え、武器や盾による防御を透過して攻撃する『エセリアルシフト』という特殊能力を秘めている。

 

 使用して放った一撃は威力が下がる、また連続で透過できないといった制約はあるものの、ALO最強とまで言われるプレイヤースキルを持つユージーンが振るうそれは、その通り名にふさわしい力を振るい続けて来た。

 

 自分からひけらかすように、過剰に自慢したことなどはないが、ユージーン自身もまた、それだけの力を持っているという自負を持っていた。

 

 だからこそ、それが全く通じない相手がいるなどとは……流石に思い至らなかったのだろう。

 

(こいつ、明らかに……俺のグラムの能力を知っている。いや、それ自体はおかしくはない……隠してきたわけでもないからな。だが、こんなやり方で力を封じられるとは……)

 

 心の中で舌打ちしながらも、ユージーンは突っ込んでくるそのスプリガンの男……クリード目掛けて剣を振り下ろす。

 

 それをクリードは、手に持っている刀で受け止めるようにして防御する。

 当然、魔剣グラムの『エセリアルシフト』が発動し、防御をすり抜けてクリードを攻撃――

 

 ――キィンッ!

 

 ――攻撃は、届かなかった。

 クリードが構える刀『虎徹』に防がれ、当然のように止められてしまっていたのだ。

 

 そのまま、力を受け流されて体勢を崩したユージーンは、すれ違いざまに深々と脇腹を斬りつけられ……HPを大きく削られる。

 

 剣を横に薙ぎ払いながら、ユージーンは大きく飛び退って距離をとる。

 余裕のつもりなのか、クリードは追ってくる様子はない。

 

 今の打ち合いで何が起こったのか、ユージーンはわかっていた。彼とて古豪プレイヤー、何もわからないままに振り回されていたわけではないのだ。

 既に、クリードが自分のグラムの能力を無効化したからくりは見破っていた。

 

 ただ、見破ってもどうしようもないだけなのだ。

 今まで自分が戦ってきた相手が、能力を知っていたところで、グラムの前に何もできずに敗れ去ってきたのと……同じように。

 

 ユージーンが振り下ろした剣は、確かにクリードの刀をすり抜けていた。

 

 ただし……『一度は』だが。

 

 クリードは、グラムの『エセリアルシフト』が発動して自分の刀をすり抜け始めた瞬間、それに反応し……すり抜けきる前に、その幅1本分、刀を自分の体側に引き戻していたのである。

 

 結果、一撃につき一度きりの『透過』はそこで終了してしまい、その直後に再び刀にぶつかった際は、今度はすり抜けられずに止まってしまった、ということだった。

 

 種がわかれば単純なもの。

 

 とはいえ……言うは易しだが、この技はそれほど簡単ではない。

 人並外れた反射神経と動体視力、そして何より、針の孔を通すような精密極まる操作技能があって初めて可能になる技だ。

 

 普通のプレイヤーが再現するのはまず不可能だろう。

 いや、そもそもそんなことが、人間に可能なのかすら定かではない。

 

 ……目の前にいて、平然とそれを可能にしているこの男を除けば、だが。

 

 フェイントを織り交ぜても引っかかることはなく、当然のように対応し、反撃すらしてくる。

 

 ならばと魔法で攻撃しようとすれば、その前に距離を詰められて斬りつけられる。

 

 距離を離して魔法を使おうとすれば、向こうも魔法で姿を隠し、先程と同じように夜の闇と濃霧に紛れて見失い、確実に先手を許すこととなる。加えて、単体を対象とした追尾性能のある魔法を使っても、スプリガンの幻惑魔法は、ジャミングのようにそれを振り切るのだ。

 

 この場面において、何もかもがユージーンには不利だった。時間すら、環境すら敵だった。

 

「貴様のような男が、なぜ今まで名を知られていなかった……?」

 

「存外傲慢だな、サラマンダーの将軍。自分の知らないところで誰かが努力して、強さを手に入れているのが気に入らない、とでも?」

 

「ふ、言ってくれる……! だが俺もサラマンダーの将の名を背負う身だ……舐められたままでは引き下がれん! 食らいつかせてもらうぞ……スプリガンの剣豪!」

 

 羽も使って加速して斬りかかるユージーンを、クリードは微笑を浮かべたまま、表情1つ変えずに……少し片足を引き、剣を構え直しただけで迎え撃った。

 

「……あまり強い言葉を遣うなよ……弱く見えるぞ?」

 

 

 

 1分後、ALO最強と呼ばれた将軍は、その身をリメインライト――プレイヤーが死亡時にその場に残る、炎のようなエフェクト――に変えていた。

 

 その場に意識だけが残った状態で。、ユージーンは2つのものを見た。

 

 1つは、今まで1人だと思っていたスプリガンに駆け寄る……1人の、ウンディーネの少女。

 

 もう1つは、視界の端に移っている、パーティメンバーの部下達のHP表示……その全てが、HP全損で死亡している状態になっている。

 

 彼は悟った。あのスプリガンは、1人で戦っているわけではなかった。

 霧に紛れての攻撃時や、自分が部下たちを逃がした後……夜の闇の中で、あのウンディーネが暗躍し、いくつもの命を刈り取っていたのだと。

 

 あのスプリガンと組むくらいなのだ、あのウンディーネも只者ではないのだろう。

 

 そう予想するユージーンの耳に、2人の会話が届く。

 

『面倒に巻き込んでしまってごめんなさい、これからが本番なのに』

 

『構いませんよ。これから色々とお互いお世話になるわけですし……それにともすると、この連中も無関係ではないのかもしれませんしね』

 

『確かにそうね。急ぎましょう……恥知らず共に、一刻も早く償いをさせたいわ』

 

『おっと、そこまでで……いらぬことを聞かれます』

 

 死亡から1分が経過したことで、リメインライトが消失。自領に転送される感覚を味わいながら……ユージーンは、今聞いたことを脳内で反芻し、思考していた。

 

(これからが本番……互いに世話……無関係ではない……恥知らず、償い……まさか!)

 

 そこでユージーンは、1つの可能性に思い至った。

 点と点が1つの線につながったような感覚を、彼は覚えていた。

 

(そうか……あの少女は、ウンディーネ領の執政部の一員か何かだな! そして、あのスプリガンに協力を要請していた……目的は、俺達の撃退ではない。先程の戦いは、互いにとって予定外の、言わば不幸な遭遇戦。本来の目的は、『恥知らず』に『償い』をさせること……自領の金を横領してレプラコーンから武器を密輸しようと企んだ、裏切り者の粛清か! それが『本番』だろう……だが、それを察知して横取りしようとした俺達も『無関係』ではなかった。だが、なぜそれにスプリガンの、しかもあれほどの実力者が……待て……『互いに世話に』とも確か……ま、まさか!)

 

 体がない状態で、ユージーンは息をのんだ。

 

(まさか、スプリガンとウンディーネが同盟を……!? しかも、その同盟にはあの、幻惑を操る剣豪が主戦力として加わることになる……だとすればまずいぞ、兄者に報告せねば……!)

 

 行き着いた真実に、激動の時代が来る予感を禁じ得なかったユージーンは、自領に足をついて立つと同時に、羽を使って飛翔した。兄であり、領主である男に、報告するために。

 

 

 

 ……そして、

 

 

『面倒に巻き込んでしまってごめんなさい、これからが本番(ALOの捜査)なのに』

 

『構いませんよ。これから色々とお互いお世話(ALOの捜査で)になるわけですし……それにともすると、この連中も無関係ではないのかもしれませんしね(こないだの大暴れと)』

 

『確かにそうね。急ぎましょう……恥知らず共(SAO未帰還者監禁の容疑者共)に、一刻も早く償いをさせたいわ』

 

 

 彼が盛大に勘違いした内容の真実を、彼が知る機会は……多分、来ない。

 

 

☆☆☆

 

 

【2025年1月14日】

 

 感想。悪役芝居って結構楽しいな。

 

 サラマンダーから逃れるためにアバター変えたのに、またサラマンダーに絡まれたから、腹いせ込みでそいつら全滅させたわけだが……こないだ戦った連中より数も多かった上、1人やたら強いのが混じってて苦労した。

 

 事前に色々調べてたおかげで、そいつが何者かはすぐに割れたし、ストレアさんと兄さんからも通信で教えられたけど。

 

 サラマンダーの将軍『ユージーン』。ALOの全妖精アバター中で最強と言われるプレイヤーで、『魔剣グラム』なる伝説級武器の使い手。相手の防御をすり抜けて攻撃してくる、と。

 

 しかし、事前に情報を知れてさえいれば、対策が打てる。ゆえに、過剰に怖がる必要はない。

 実際、『こうすればいいんじゃないかな』と思ってた、『2段受け』は有効だったわけだし。

 

 特殊能力さえ封じてしまえば、あとは普通の戦いだ。

 ALO特有の戦闘技能である『空中戦』や『魔法』も、今まで散々襲われたおかげで大方把握して慣れている。

 

 ……ええ、特にサラマンダーからは散ッッ々襲われたからな! あんたらが使う炎系の魔法とかへの対処はばっちりだよ! 予習の機会をどうも!

 

 このユージーンとかいう男、確かに強かった。

 だが、言っちゃ悪いが……SAOを生き抜いた僕からすれば、対応可能なレベルだ。

 

 クラディールさんよりも剣の威力はなく、

 

 グリセルダさんよりも技量は巧みとは言えず、

 

 アスナさんよりもスピードはなく、

 

 ヒースクリフよりも堅牢さに欠け、

 

 キリト君よりも反応は遅く、

 

 攻撃の鋭さも、苛烈さも気迫も……このへんにしとくか。

 

 おおよそ、攻略組最前線レベルではあるものの……このレベルなら、純粋な剣技であれば、渡り合えるであろう人を数人はすぐに上げられる。

 

 まあ、あんな特殊すぎる環境下で生きて来た僕らと比べるのも、正しいとは言えないだろうが。

 

 とりあえず斬り捨てた後で……逃げた残りのサラマンダーも、エリカさん……じゃなくてレイさんが全滅させたようだし、さっさと目的地に行くことにした。

 

 しかしなんだ……鎧姿に強面のごついおっさんが妖精の羽を羽ばたかせて飛んでくるという光景は、何だろう、戦闘とは別の、説明しがたい威圧感や違和感を抱かずにはいられなかったな。

 まあ、すぐ気にしなくなったけども。

 

 

 

 ちなみに、逃げたサラマンダーの1人から、レイさんがこいつらの目的を聞き出していた。

 

 何か、ウンディーネ領で行われるはずだった密輸を横殴りして横取りしようとしてたらしい。

 つまり、ホントにコレ偶然襲われただけだったのか……運が悪かったわけだ。どっちも。

 

 幸か不幸か、レイさんの見解では、この件が原因でまた騒ぎになるようなことはないだろう、とのことだった。

 

 ウンディーネとレプラコーンの裏取引が極秘のものである以上、それ自体表に出ることはない。であれば、それを狙ったこの極秘の作戦行動もまた、自分達から明らかにすることはないだろうとのこと。大義名分を証明することができない以上、恥の上塗りになるだけだから。

 

 サラマンダーの上層部とかくらいは警戒するかもしれないが、それで大きく部隊を動かすことはできないだろうし、そもそも今すでにある『ウンディーネとノームのコンビ』の噂が邪魔をして、噂レベルで広げることすら不可能だろうとのことだ。

 

 ホントに不幸中の幸いだったな……これ以後の調査には支障はなさそうだ。

 

 じゃ、気を取り直して……あ、その前に、あいつらから巻き上げたアイテムの確認しないと。

 結構な上位プレイヤー達だったようだし、迷惑料にいいの出てるといいんだけど。

 

 

 

 


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