オリジナル設定に加え、しばらくご無沙汰だったあのキャラも出ます。どうぞ。
「全員揃っているな? ……よし、それではこれより、作戦会議を始める。各自、手元に配布してあるレジュメを適宜参照しつつ傾聴してほしい」
世界樹のふもとにある町『央都アルン』。
そこにある高級宿の一室にて、ある目的をもってこれから『世界樹』を攻略戦とするメンバーが集い、広いリビングルームを利用して、会議の場を設けていた。
席についているのは、キリト、リーファ、ユイ(ピクシー形態)、ナツメ、エリカ、ストレア(アバター形態)の6人である。
そのうちの1人、リーファが、おずおずと手を挙げ、発言の許可を求めた。
「あ、あのー……会議の前に1ついいですか?」
「? 何かな、リーファ君」
「……あなた、誰?」
その6人全員の視線が集中する先で、唯一立ったままで、いかにも会議の進行役といった雰囲気で先程からきびきびと話している、1人の『サラマンダー』のプレイヤーに、彼女は問いかけた。
ここにいるほぼ全員にとって、初対面の人物であり、同じ疑問を、キリト、ユイ、エリカも抱いていた。が……残る2人は知っている風な雰囲気である。
「おっと、これはいけないな、私としたことが。自己紹介を忘れていたか」
「いきなり出てきて仕切り始めたと思ったら……何肝心な所を抜かしてるんですか」
呆れたような口調で、ため息交じりに苦言を呈するナツメ。
「? ナツメ、知り合いか?」
「そのへんも含めて、自己紹介どうぞ」
「うむ。ここにいるほとんどの面々にとっては『初めまして』だな。私は『デューク』。そこそこ古参のALOプレイヤーで……ここにいる『ナツメ』のリアルの実兄だ」
「「「え!?」」」
プレイヤー名『デューク』……本名・西神龍馬。
VR世界の内外から進めて来た計画も最終局面ということで、自らALOにダイブして現れた彼は、弟とその仲間たちを助けるため、央都アルンに推参していたのだった。
いきなり出て来たナツメの兄の参戦に、『本当なのか』とか『何でいきなり』といった形でひと悶着あったものの、どうにかその場を落ち着かせて、会議は体裁を取り戻していた。
実際、これから始まる作戦は、発案から実行まで、デュークが担うタスクがそれ相応に大きいため、彼を中心に作戦確認を進めていくのは妥当であったりするのだ。
まだ少々戸惑いはあるものの、それが理解できた一同は、聞く姿勢を取り……デュークは咳ばらいを一つして、説明に戻る。
「では会議を再開しよう。今日この後6時間後、シルフ・ケットシー同盟による『グランドクエスト』への挑戦が実施されるわけだが、そこに便乗する形で我々も参戦することになる。このALOのパーティ人数は最大7名であり、それが7つ集まった合計49人が所謂『フルレイド』状態だ。シルフから3パーティ21名、ケットシーからも3パーティ21名参加し、残りの1パーティ7名に我々が名前を連ねることとなる」
「えっと、お兄ちゃ……キリト君、私、ナツメさん、エリカさん、ストレアさん、それにデュークさんと……あと1人、枠が余っちゃいますけど?」
ユイはナビゲーションピクシー扱いになるので、数には含まれないと判断したリーファ。
キリトとしても……仮にユイがストレアのように、アカウントを作って実体化できたとしても、SAOでもALOでも戦闘の経験が全くと言っていいほどない彼女を参加させるのは無理だと考えていた。
「レコンでも誘う? いや、ダメか……あいつ随意飛行できないし」
「レコン……あー、あの、リーファのリアル友達のナヨッとした感じの奴か」
兄妹そろって中々に辛辣な言いようだったが、それを気にせずデュークは言う。
「いや、その心配はない。実を言うと、残る1人はもう決まっているのだ。……少々イレギュラーな過程を経て決まったのだが、その経緯も含めて説明する必要があるな。ナツメ」
「あー、はい。すいません皆さん、ちょっと待っててくださいね」
デュークに言われ、ナツメは一旦席を立つと、宿の部屋の外に出て……十数秒後、戻ってきた。
2人の同行者と共に。
その2人のうち、1人は、この場にいる全員が見覚えのあるプレイヤーだった。
緑がかった黒の長髪と、胸元の開いた和装が特徴的な……シルフの領主、サクヤだ。
しかし、もう1人は違う。事前に話を聞いていたナツメとデューク、それにストレアを除けば、この場にいる者のほとんどが、見覚えのないプレイヤーだった。
シルフの、女性のプレイヤーだ。キリトやリーファよりも年上に見えるが、それでもまだ年若く、リアルの年齢で言えば女子大生かそこらといった風に見える。
セミロングの濃緑色の髪が特徴的で、容姿を例えるなら、サクヤを数年若返らせた上で、『キレイ』から『かわいらしい』に顔つきや雰囲気を変えたような感じだろうか。緊張しているのか、やや落ち着きがなく、伏し目がちになっているのもあって、未熟というか初々しい印象を受ける。
サクヤがその背中をばしんと叩いて、『しゃきっとしろ』と言っていた。
そして……ただ1人、彼女の顔に見覚えのあったリーファが……何を深く考えることもなく、思ったままに、その名前を口にした。
「あれ……サクヤに……ヨルコさん! 何でここに?」
「「…………え゛!?」」
☆☆☆
【2025年1月24日】
グランドクエスト攻略に関しての作戦会議は、ほぼ問題なく終わったと言っていい。
……会議と関係ない部分で、何度か紛糾したところがあったけども。
今現在、2種族の同盟軍の到着を待ちながらコレを書いているわけだが……せっかくだしもう一回まとめてみるか。
まず、僕ら7人……キリト君、リーファちゃん、僕、ストレアさん、エリカさん、デューク兄さん、そしてヨルコさんは、最初のうちは同盟軍と一緒に普通に攻略していく。
ナビゲーションピクシーとして、ユイちゃんもついていくけどね。
途中まではそれで行けるだろう。特に問題なく。
しかし、ほぼ確実にシステムからの妨害が入るはずだ。
この場合の『妨害』というのは、出現するガーディアンが多すぎるという仕様そのものではなく……クリアされないために、GMサイドから、POP数や頻度、1体1体の強さといった部分に介入が入るという意味だ。
それはシステム設定のオートかもしれないし、GMが直接やるのかもしれない。
もちろん、そんなものがなければ一番いいんだが……望み薄である。
エリカさんから聞いた話や、デューク兄さんが例の『後輩』から聞き出した情報によると、その須郷とかいう奴、典型的な……それこそあの『シグルド』とかいう奴以上の小悪党らしい。
自分の目的達成のためなら、ズルだろうが卑怯な手だろうが何でもやる系の奴だ。そしてそれをひけらかし、無力な他者をあざ笑って喜ぶ感じである。
……より分かりやすく言うと、対戦ゲームで負けそうになった時に、リセットボタンを押したりコンセントを引っこ抜いたり、相手のコントローラを持つ手を蹴っ飛ばしたりしそうな奴だ。
そんな奴相手に、フェアなシステムを期待するだけ無駄というものである。
そして、連中が、ALOゲーマーを裏切る形で、GM権限による不当な介入を始めたその瞬間……こちらも一切手段を選ばず『グランドクエスト』を強行突破しにかかることになる。
具体的には、キリト君、リーファちゃん、ヨルコさん、エリカさんにはそのまま戦ってもらって……その間に、僕とデューク兄さん、ストレアさんとユイちゃんが、あらかじめ用意しておいた電子戦用のデータ兵器の数々によってサイバーテロを仕掛ける。
DOS攻撃によるデータ処理速度の低下、データ置換型ウィルスによるファイル実行妨害、スパイウェアによるデータ遠隔操作、ガーディアンAIの一部書き換えによるバグ行動の誘発、その他色々用意してある。
使わせてくれるなよ、須郷……こんな、ゲーマーの矜持に反するようなものをよォ~!
そうして、手段は問わずに『グランドクエスト』はまずクリアする。するったらする。
そしてその後、恐らくはその先にあるだろう、須郷達が研究に使っている区画で……僕らのパーティはレイドから離脱し、二手に分かれる。
キリト君とユイちゃんは、アスナさんを助けに行く。
つい先ほど、彼らが世界樹の上に展開されている『飛行禁止区域』ギリギリのところで、アスナさんが上空から投げてよこしたと思しきカードキーを手に入れたのである。
ユイちゃん曰く、これを使えば、たとえシステムで封鎖されている扉でも開けるし、彼女の所までいくこともできるだろう、という見通しだ。
……無理だったら兄さんのウイルスでデータごとぶっ壊すつもりだったが、そうしなくていいならそれに越したことはない。あれ割と危ないし。
そして別チームで、僕とエリカさん、リーファちゃんにヨルコさん、ストレアさんとデューク兄さんの6名は、捕らわれているであろうSAOプレイヤーの救出に動く。
こっちがやたら人数が多いのは、それだけ仕事が多くなる可能性があるからだ。システムのロック解除とか、ちょっかい出してくるであろうGM勢への対応とか。
どっちかっていうと、システム的に複雑な作業が多くなるのは間違いなくこっちなので、そっち方面のスペシャリストであるストレアさんとデューク兄さんの二枚看板で臨む。
キリト君達には、非常時用の防御プログラムを持たせておいて、万が一に備えるつもりだ。
物理的な対処が必要になった場合は――GMがガーディアンをPOPさせて襲ってくるとか――僕やリーファちゃん、ヨルコさんが対応する手はずになっている。その間に、兄さん達にSAOプレイヤーを探し出してもらい、彼らを捕らえているプログラムを無効化して開放する。
なお、エリカさん――結城教授は、娘であるアスナさんの救出に向かわせた方がいいんじゃないかとも思ったのだが、いくつかの理由によりこっちに来ることになっている。ひとまずは。
そこから先の展開、ないし敵の対応によって、何パターンか対応を用意してあるものの……それは流石に細かくなりすぎるので書くのは省く。
以上が、本作戦の概要である。
実行まで2時間を切った。これが成功するかどうかは、神のみぞ知る、ってとこか。
……訂正。この言い方好きじゃないんだよな僕。
成功するかどうかは、僕ら次第。ん、こっちの方がいい。
いもしない、居ても助けも何もしない神に、何を期待したところでしょうがない。
気休め程度に祈るなら止めないが、何かやりたければ、祈るよりも自分の力を磨いて成せ。
おじいちゃんから父さんが、父さんから僕ら兄弟が聞かされて育った……我が家の家訓である。同時に、医者なんぞやってると嫌でも思い知ることだ。
……ああそれと、もう2つほど書いておくか。
1つは、キリト君とリーファちゃんの関係について。
あの後2人は、リアルで顔を突き合わせてきちんと話し合い……どういう結論に達したのかまではわからんけど、無事に和解したらしい。よかったよかった。
……よかったけど、どうやら悪い方の予感もあたってしまったらしい。
リーファちゃんが、キリト君を見る目が……すっげー見覚えある感じの『熱』を帯びている。
……アスナさん、リズベットさん、シリカちゃん、サチさんに続き……5人目か。
これに関してはホント僕もう知らんからな、自力で何とかしろよキリト君。
で、もう1つ。
ここに来ていきなり、何の前触れもなく参戦が決まった、ヨルコさんについてだ。
数時間前、サクヤさんと一緒に僕らを訪ねてきて『手伝わせてください』ってきたんだけど……まずはコレを説明するために、大前提となる1つの事実を先に述べよう。驚愕の事実を。
いや、ホントびっくりしたわ。
まさか、サクヤさんとヨルコさんが……リアルの姉妹だったとは。
たしかに、どっちもキャラネーム『夜』に関連してるけども。
サクヤさんは元々、SAO事件終了後のヨルコさんから、思い出話みたいな形で、アインクラッドでのことを多少なり聞いていたらしい。
そしてその中に、『キリト』『ナツメ』『ストレア』といったプレイヤーネームが頻繁に出て来たことから、僕らの名前を聞いて気にかけていたのだという。
加えてヨルコさんは最近、気晴らしのために、サクヤさんの紹介でALOをやるようになっていた。VRに抵抗がないわけじゃなかったけど、それを補って余りある楽しい経験ができるだろう、て、サクヤさんは思ってのことだったらしい。
で、ヨルコさんもおっかなびっくりながら、ALOをプレイし始めたんだそうだ。サクヤさんや、そのお仲間さん直々にレクチャーされながら。
ただまあ、その時点では、サクヤさんどころかヨルコさんも失念していたらしいんだが、彼女もまた、れっきとした『SAO帰り』なのである。
彼女は『攻略組』でこそなかったが、あの世界を剣を手に生き抜いてきた実力は伊達じゃない。終盤では特に、グリセルダさんが直々に『後継者』に指定してたくらいであるし、以前に比べてその実力も高くなっていた。
そりゃ、キリト君やアスナさん、僕のような……自分で言うのもなんだが、アインクラッドでも最強クラスのプレイヤーに匹敵するようなものでこそなけれど……平均的な『攻略組』プレイヤーくらいの強さは持っていたはずだ。
そしてその剣技は、誘ったサクヤさんも予想外の高い水準で……瞬く間に彼女、謎の大型新人として話題になっていた。だからリーファちゃんも知ってたのである。
このまま操作に慣れて、実績を積んでいけば、『シルフ五傑』の一角に名を連ねることになるのではないか、とまで言われていたらしい。
加えて彼女、これもグリセルダさんから修行つけられたおかげで、前線指揮官としての指揮能力や、内政的なとりまとめ能力も高くなってたから、執政部入りとかも期待されてたそうで……
……というか、あのシグルドも一応その『五傑』の1人だったそうで……彼が失脚した今、後釜人事として彼女の登用が多方面から期待されている状態だとか。
もっとも、彼女自身はそんなに乗り気ではなく……ってそれはおいといて。
そのヨルコさんだが、サクヤさんに今回の『蝶の谷』での件を聞き……そこで僕らの名前が出て来たのを聞いて、食いついた。
加えて、彼女もどこからか入手して、あのアスナさんのSSを見ていた。
さらにはなぜか、彼女が目を覚ましていないということも知っていた。
そして、僕らが世界樹を目指しているという点を鑑み……サクヤさん共々感づいた。
よくはわからないが、僕らが『何か』をやろうとしている、と。
そしてそれは、SAOの未帰還者に関わることかもしれない、と。
限られた情報でよくここまでたどり着けたもんだ。
こちらとしても信頼できる協力者はほしいと思っていたので、彼女達に事情を話し――かなり突拍子もない話だったんだが、よく信じてくれたもんだ――協力してもらうことになったのだ。SAO未帰還者の救出ミッションに。
こんな所だな。状況の整理としては。
作戦実行まで残りわずかだ。集中しておこう。
Q.どうしていきなりサクヤとヨルコが姉妹とかいう設定出してきたの?
A. 理由は3つ。
1.ヨルコを登場させる理由・きっかけが欲しかったから。
2.何気にどっちも『夜』を表す名前だな、と思ったから。
3.この後の展開のために領主サイドにも事情を知っている協力者が欲しかったから。
Q.デュークのモデルって某世界樹製薬会社のプロフェッサー?
A.レモンで弓矢でファファファファイなあの人。劇場版では赤くなってたね。
ただし本作では性格は(比較的)まとも(多分)なのでご安心を。